歴オタミリオタ介護福祉士が異世界転生して外道鬼畜と言われようと手段選ばず天下と美少女の眼差しを受け続ける退屈じゃない毎日を目指す様です。 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
介護福祉士綾瀬昌幸は200人長綾瀬昌幸になった。だがその青年の顔に生気は無い…。というのも…なんとこの男転生する先日の昼以降から何も口にしていないのだ。原因こそ昌幸のズボラが原因だが、その状態で介護勤務→剣戟の中で殺し合い→エネルギー切れ こうなるのは火を見るよりも明らかである。
そしてそんなもはや気力だけで馬に跨る(乗れないのでヤートンに引いてもらっている)青年を見たアルトヘイムの民達は見慣れない騎士の格好をした若い男の姿に驚愕するばかりである。彫りが殆ど無い平たい顔付きに黒髪、一重の瞼。年不相応な古風な顔つき、そのくせ肉体は若い青年らしく引き締まっている。
そして目から生気が無く腹からは…乾いた音が聴こえてくる…。
アルトヘイム人
((((食い詰めた冒険者を雇ったのか?))))
王城についた昌幸は近衛兵に両脇を掴まれズルズル引き摺られた。勿論、未だ信用されてない…と言うことはソフィア姫やアリス、オーラン両将軍のお陰で既になく、只々単純に飢え死に一歩手前だった為体力温存目的である。もはやその姿は無様の二文字でしかなく、突如現れた英雄はあっという間にズボラによって食い詰めたダメ人間に転落した。
アルトヘイム王フレデリックの前に連れられた昌幸は未だ引き摺られたままの状態になっていた。流石に業を煮やしたアリスは起こすように衛兵に指図した。衛兵が起こそうとしたが、その手は止まった。
フレデリック王
『どうしたのだ衛兵。早く異世界者殿を起こしたまえ。』
衛兵
『恐れながら陛下。ご客人は…』
衛兵達は息を合わせ昌幸の体を上げ、首をあげると既に魂が抜けた顔をしていたのだ。
衛兵
『御臨終です。』
大広間は大騒ぎになった。ありとあらゆる所から衛生兵を呼ぶ声や厨房からありったけの食い物を持ってこいだの。薬湯に放り込めだのともう王族も貴族も騎士も兵士も関係無く右往左往、丁々発止である。
事態が落ち着いた頃には満足な表情を浮かべ爪楊枝を弄る昌幸と空っぽになった大鍋が3、4個転がっていた。
貴族・騎士・兵士
(10人以上の量はまるっと平らげやがった…)
昌幸
『いや〜人心地ついた。アザッス、ごっそさん‼︎‼︎』
アリス
『幾ら何でも食い過ぎだろ、貴様。どうなってるんだ貴様の胃袋は。』
王妃エスメラルダ
『あんなに食べるから私も数年ぶりに厨房に立ちました。最近の若い子は沢山食べるのね〜。私達の間には男の子居ないからなんか新鮮だわ。』
フレデリック王の妃にしてソフィアの母である王妃エスメラルダはニコニコと答えたが、厨房の料理人は堪ったもんじゃないと思ったのは言うまでも無いだろう…。昌幸は糸ようじをそこの暖炉に放り込むと恭しくひざまづいた。さっきの抜け殻っぷりは既になく。まさしくその姿は一人前の戦士だった。
昌幸
『一宿一飯の恩義を返せぬは日の本の男児としてあってはならぬ事。これよりこの身は王に捧げる事を誓約致します。』
フレデリック王
『嬉しいが、そこまで早まらなくとも良いぞ?まだ若いし、元々戦う為に生きてきた訳では無いのならそう言った役職に就いても…』
昌幸
『男児たるもの戦功を挙げるべし!泣くよか飛っとべ、目指すは首ただ一つにございます。それに某はもう…戦の狂気に取り憑かれました。戦場が某の居場所にございます。』
昌幸の覇気にフレデリックは感嘆したが、傍で聞くソフィアは複雑な気持ちを抱いた。その戦の狂気の中に引きずり込んだのは自分で有ると思っていたのだ。だがソフィアもフレデリックも知る由が無いが昌幸は元々狂気に取り憑かれているので特に罪悪感を抱く必要は無いのである。
フレデリック王
『では君の処遇は200人長で良いのだな?綾瀬昌幸よ。では王の名に於いて卿を200人長に任命する。近接の歩兵100人とクロスボウ・ロングボウを持たせた兵50人ずつの指揮権を与えよう。近接歩兵の武器は一任する。後、邸宅と従者、使用人も必要だな。宰相全て差配せよ。良いな。』
宰相
『御意。綾瀬200人長よ。邸宅はアリス将軍に案内してもらえ。従者と使用人は追って派遣する。兵200もな。それと今夜ゴブリン撃退を祝い晩餐会を開くので遅れぬようにな。卿が戦いの後勲功授与を抜け出し死者を埋葬していた事は聞いている。立派ではあるが、軍律やルールがある事は理解してくれたまえ。良いな?』
昌幸は大臣が自分の職場に居た先輩のような雰囲気を感じ親近感が湧き、素直に答えた。
昌幸
『承知致しました宰相閣下。』
王城から出て、馬車に昌幸が乗り込もうとした時自身を見送るべくバルコニーに立つソフィアが見えたので昌幸は軽く会釈した。そして直ぐにアリスが乗り込んできた。鎧を脱ぎ、軽装の騎士制服に身を包んだ姿は豊満な乳房が服の上からでも線が浮き出て、そこから滑らかな線を描きながら発育した体つきを強調していた。昌幸は咳込みながら目線を逸らした。馬車に乗った昌幸はアリスに道中を案内してもらい屋敷についた。
アリス
『既に城から派遣された使用人は居るはずだ。貴様も鎧を脱ぎ、身を清め、中にある軍服に着替えて夕刻にまた王城に来い。馬車は使えんから歩いて来るのだ。城はこの王都なら何処からでも見えるからどうにか着けるはずだ。帰りは貴様の乗る馬を用意し、使用人に取りに来させるからそれに跨って帰るといい。』
昌幸
『承知致しました将軍。道中の案内ありがとうございました。』
アリス
『礼を言うのが遅くなったな。かたじけない。貴様、いや貴殿のお陰で姫様も無事で戦に勝てた。どうか引き続きこの国の為、姫様の為に尽くしてくれ。』
アリスは少しこっぱずかしい表情を浮かべると自身の頬を描きながら礼を述べた。
昌幸は口元に微笑を浮かべると手を伸ばした。そしてアリスもそれを握り返してきた。
昌幸
『また何処かの戦場でご一緒出来る日をお待ちしております大将軍。』
アリス
『宜しく頼む昌幸200人長。』
アリスが馬車に乗り込み去るのを見送ると屋敷の中に入っていった。中は思った程ボロくは無く管理が行き届いていた。そしてアリスの言葉通り何人かの使用人が王城より派遣されていた。使用人から屋敷の説明を受け、薬湯に浸かった昌幸は200人長の制服と儀礼用軽装胸甲を付けると剣を下げた。それが済むと昌幸はそのまま椅子に座り、自身の指揮する200人隊の編成を吟味し始めた。
そうしているうちに予定時刻に近づいてきたので屋敷を出て、王城に向かって歩いていった…。物珍しい異世界人にアルトヘイムの民は物珍しそうにジロジロと見ていたが昌幸は気にしなかった。すると暫くしてから自身がつけられていることに昌幸は気がついた。どう見てもゴロツキであった。
(路地裏に入って剣で刺し殺すか…いやそもそも拳での殴り合いに勝てた試しが無いし、腐ってもアルトヘイムの民だ。それに剣を振るうなんて軍人失格だ。)
(ここは巻くとしよう)
だが地の利の無い昌幸がこのゴロツキを巻くのは困難であった。昌幸は少しずつ歩くスピードを上げ、人混みの中に入り、曲がり角を上手く回り、人混みから人混みへと交わしたがやはり確実に追いかけてきている。次の手を考えているうちに昌幸は腕を引っ張られ路地裏に引きずり込まれた。昌幸は咄嗟に剣を引き抜こうとしたが、引っ張った主は静かにする様に合図すると、
?
『付いてきて…。』
声の主にハッとした昌幸は大人しくこのロープに身を包んだ人物の後を追い、やがて二人は王城の近くの公園に着いた。衛兵も多く居るこの公園まではゴロツキはついてこなかった。声の主は息を吐くと、フードを脱いだ。
正体はソフィアだった。お忍びで城を抜け出してきたのだ。
昌幸
『ソフィア…じゃなくて、ソフィア姫様⁉︎城を抜け出してきたのですが?』
ソフィア
『心配になって見に来ましたらやっぱり、追われていましたね。あの辺りは見た目とは裏腹に悪漢が多く居る場所なのです。衛兵が何度も巡回しているのですがあんまり効果が無く…絡まれでもしたらと思って飛び出てきました。』
昌幸
『ご好意感謝致します、姫様。臣深く痛み入りまする。』
ソフィア
『なんか…その喋り方やめて頂けますか?さっきみたいにソフィアと呼んでください。姫としての命令です。』
昌幸
『ハハッ!』
こうしている間に鐘が鳴り、予定の時間の1時間前を報せる鐘の音が王都に鳴り響いた。
ソフィア
『いけない!戻らなくては。お着替えの時間が無くなっちゃうわ。』
昌幸
『俺も行かないと、他の200人隊長に顔を合わせさせるってオーラン将軍が言ってたから急がなきゃ。』
二人は其々の方向に走っていった。昌幸は足を止め、振り返りソフィアを呼び止めた。
昌幸
『ソフィア!ありがとう、お陰で助かった!』
ソフィア
『さっきのお礼です!今度は貴方が私の事を助けて下さいね!』
昌幸はソフィアと別れると王城への道を走りながら呼び止めた時に見えた黄昏時に輝くソフィアの美しい顔を思い出してはクスリと笑っていた。
(どんな身分にあろうと可愛い女の子ってのは変わらないね。)
昌幸は城門で待つオーラン将軍と合流すると他の200人隊達に紹介して貰った。みな屈強な男や女達であったが新しい仲間に、オマケに出世頭として期待される事になった昌幸はそれなりに歓迎してもらった。そしてオーラン始め何かあればいつでも訪ねて来るといいと言ってもらい、昌幸は当面の支援を取り付けた。そこで早速自身が屋敷を出て直ぐに悪漢につけられた事をオーランと他の200人隊長達に報告し(ソフィアに会ったのは伏せた)、治安維持の方法を教えてもらう事にした。そこで何人からの口から出た武装した兵の巡回強化と屋敷周りの地区を発展させて雇用を増やすなり(王都内に居住する歩兵隊長及び騎士は屋敷のある地区を個人または共同で発展させるのが義務付けられている)をするのが良かろうというので昌幸はその通りにする事にした。
晩餐会が始まり、フレデリック王の乾杯で皆が一斉に盃を交わした。そして犠牲になった者達に黙祷を捧げた。昌幸はこの晩餐会でアリス、オーラン、宰相と親しくなった。最初は棘のある態度で接したアリスは共にソフィアの為に戦う事を再確認し、オーランは当面の上司になる為、胡麻擂りも含めた関係を築き、宰相は前職が国王付き大魔導士兼考古・異世界研究者という肩書きが持っていたことから昌幸に対してありとあらゆる質問をしてきた。昌幸も可能な限り答え、自分以外にも飛ばされた人間がいる事を知った。そして宰相の知る限りでは自分が一番先の時代に来たことも。昌幸は宰相と別れると話疲れてバルコニーに寄っ掛かった。
(自分以外にも異世界者が居たとはな…そして悉くここで天寿を全うしたり、消息を絶っている。帰ることは不可能と見るのが正しいな。最も俺の場合は間違い無くあの時は死んだと思って差し支えが無いしな…)
ソフィア
『楽しんでます?』
そうソフィアに話し掛けられた昌幸は顔を上げると、ソフィアは薄ピンクのドレスに身を包んでいた。
昌幸
『食べ疲れ、話疲れた。満喫してるよ。』
ソフィア
『それは良かった。不思議、さっきまで国が滅びるか否かの大戦だったのに今じゃみんなそんな事忘れているみたい。』
昌幸
『忘れようとしているのさ。まだ国境の街アマルを取り返してないし、他のゴブリンの軍勢が合流する可能性もあるからな。心配事だらけ…。だから、こういう時こそ騒いどかないとやって行けないのさ。次はこちらから攻める番だ。何時になるかは分からないけど。』
ソフィアは心配そうな表情を浮かべたが、それを見た昌幸はバルコニーの柵に立つと仁王立ちしてこう答えた。
昌幸
『勝ってみせるさ。もう我々は奴らの首に手を掛けた。後は斧を振り下ろすだけだ。それで奴らは悉く首になる。そして…』
昌幸はソフィアを引っ張り上げると空を指差した。そして力強く言った。
昌幸
『そしてそれ以上も求める事が出来る。遥かな地平線、そして水平線をその手にする事だって出来るさ。即ち、天下も!』
天下…。誰もが魅了され、夢見るであろうその光景と言葉は何時の時代も何処の世界であろうと、存在した。天下を志す者は多く居るがそれを成した者はごく僅かである。だからこそ人は戦い続けるのだろう。その眩い光を求めて。
そしてその眩い光はソフィアを魅了した。そして天下を嘯く青年に問いた。
ソフィア
『じゃあ昌幸は天下を取る頃には何者になってるのかしら?天下を目指すならそれなりの立ち位置に居ると思うけど?』
昌幸
『そんときの俺は…アルトヘイムの…天下の大将軍になる!ありとあらゆる土地、海を越え、山を越え、ありとあらゆる国にこのアルトヘイムの旗を掲げよう‼︎』
昌幸が唱えた天下は、天下布武。武を持って天下を制すると言うことだ。小国のアルトヘイムには夢のまた夢の話であった。だがその夢のまた夢と言われ、同じ様な弱小国を率いて天下を制した者は居る。かの織田信長もそうであり、ローマ帝国も生まれた時は単なる都市国家でしかなかった。だがそれらは次から次へと現れる障害を突破し、国を大きくし、そして天下を制する迄になった。そう、それを為すための努力や根気が有ればこのアルトヘイムだって出来るのだ。明治維新を迎えた日本人がある一定の努力と根気さえあればどう言う身分の家の子でも博士にも、官吏にも、軍人にも、教師にでもなり得た様に。
ソフィアはそれを聞くと笑い出した。
ソフィア
『アハハハハハハハ!天下の‼︎天下の大将軍‼︎アハハハハハハハ‼︎』
昌幸
『なんか変な事言った?』
ソフィア
『いいえ、ごめんなさい。そんな途方もないところを高らかに目指すって言う人初めてだから。昌幸さん、天下の大将軍になって下さい。私の夢のためにも。』
昌幸
『先程のように昌幸で結構。ソフィアの夢は一体何だい?』
ソフィア
『全ての文明を持つ種族との融和。即ち世界融和を実現させる!』
ソフィアの夢は、凶暴なオークやゴブリンといった非文明種族を除く全ての種族の融和であった。ある意味天下布武より難度の高い事業である。だが昌幸はそれを笑う事は出来ないし、何よりソフィアの眼にはそれを為すだけの意志が宿っていたのだ。
昌幸
『じゃあ、言ってしまえば目指す所は一緒な訳だ。共に頑張ろうソフィア!俺達の夢の為に!』
ソフィア
『私達の理想の為に!』
二人は握手を固く交わしたが、長い事握り合う事は出来ず、直ぐに二人して顔を真っ赤にして離して後ろを向いてしまった。
昌幸
『こんなゴツい手でごめん。痛かったよね(汗)』
ソフィア
『私こそごめんなさい。痛くありませんでしたか?(汗)』
御開きを報せる鐘が鳴り、ソフィアは昌幸に別れを告げ城の中に戻ると、昌幸も城門まで歩いていった。道中同僚の200人隊長達が飲み直すのでどうかと誘われたが、明日から色々整理する事があるからまたの機会と埋め合わせをすると約束して丁重に断った。
正門に着くと使用人が馬を引いて待っていた。馬は競馬中継とかで見る奴よりも遥かに大きく、黒毛でがっしりとした体をしていた。昌幸は一瞬とんでもないくらい気性の荒いのを貰ってしまったのではないかと思ったが、使用人の話曰く『とても従順で大人になったばかりの大人しい子ですよ。』と言う
(本当かな?)
昌幸はなんとか跨ると馬は大人しく引かれていった。試しに昌幸が首を撫でてやると嬉しそうに鼻息を出した。この人懐こい馬を昌幸は気に入り、必ず乗りこなすと心の中で誓った。これが昌幸の愛馬シャムシュとの出会いである。
使用人にシャムシュを引いてもらいながら屋敷に帰った昌幸は紅茶を所望すると制服のままベットに座り、紅茶が来ると飲みながら自分の住む地区の特性や、派遣される200人の部下癖を掴むべく出された資料を読んだ。
夜が更け、新たな太陽が昇りアルトヘイムの王都を照らし始めた。昌幸は結局あのまま寝てしまったのだ。小鳥の囀りを聴いた昌幸は夢の世界から帰還した。だが自分の部屋なのに気配がする。間違い無く誰かいる。困った事に武器はベットから離れたところに置いてしまったので引き抜けない。そしてその影は自分を覗き込む形になった。
(首を絞めに来るかな。ならば来い、もっとだ。手を伸ばした瞬間眼を開け頭突きを食らわして絞め殺し返してやる)
そう昌幸は考えているとその影は近づいてきた。今だ‼︎昌幸は眼を開けた。開けた先の光景は白と黒のメイドドレスでは隠しきれない巨大な乳房出会った。まさに風が吹けばしたたかに揺れるであろう立派なものが昌幸の鼻先に当たるか当たらないの距離にあった。
昌幸
『うわっ!?』
これには昌幸も堪らず声をあげると、影の主もまぁ!と声を上げ後ろに下がった。
?
『これは失礼いたしました。ご主人様。』
影の主は昌幸より少し年上の女性であった。見るからに包容力のある大人の女性であった。ブロンドの髪の毛を纏め上げ、肌は白く、口元は潤み薄いピンク色をしていた。
昌幸
『貴女は何方ですか?』
マリア
『私はマリアと申します。このお屋敷の使用人の長をやっております。どうぞ宜しくお願い致します。』
昌幸
『あっこれはどうも。どうぞ宜しくお願い致します。(朝から眼福眼福…』
マリア
『朝餉の用意は出来ております。どうぞこちらへ。』
昌幸は用意された朝食を済ませ、紅茶を飲むとマリアに命令書を持って従者が来ていないかと聞いた。
マリア
『先程若い男性の方がそれらしいものを持って訪ねてまいりました。別室にお待ちして頂いております。』
昌幸
『直ぐに会いましょう。執務室でね。』
昌幸はそう言って執務室に入ると制服を正し、剣を腰に差し、髪の毛を直した。そうしている間にドアがノックされたので昌幸は応えた。すると扉が開き、中から若い男が入ってきた。その姿は肌は浅黒く、髪の毛は茶髪だが、黒いメッシュが入っており、眼は金色に輝いており、耳が普通の人間より少し長く、細身の体を執事が着るような服で包んでおり、腰には短剣を下げていた。
昌幸
『貴方が私の従者になってくれる方ですね?名はなんと言うのですか?』
アッシュ
『アッシュと申します昌幸様。これより全身全霊をもって主人の火急をお救い致しますので何なりとお申し付けを。』
昌幸
『私は貴方のことをあまり知らないし、貴方も私のことを良くは知るまい。それでも忠誠を誓うのは何故だ。』
アッシュ
『昌幸様にはそのつもりはないかも知れませんが、村を救って頂きました。先日のゴブリンとの大戦。あの戦場を抜けた先には我らエルフとハーフエルフの村があるのです。あの場で負けていれば真っ先に狙われたのは我らの村でした。ですが昌幸様は奇策を用いてゴブリンに快勝なさいました。結果我らにとって貴方は命の恩人なのです。』
昌幸
『そんな大層な事をした覚えなんて微塵もないけど、分かったそう言う事なら受け入れよう。これよりは君や君の村だけでなく、アルトヘイム中の民を救う仕事が待っている。ついて来い、共に天下を取ろう!』
アッシュ
『ハハッ‼︎』
昌幸
『して、従者は何をするのが仕事なの?』
アッシュ
『我々従者は二人体制で、主に主人の身の回りのお世話ですが、兵站や雑務、戦場では主人の副官や軍師を務めます。あと剣技、馬術指南ですね。』
昌幸
『二人?もう一人来るのかい?』
アッシュ
『その者は後日到着するとの事です。まだ時間が必要かと…。』
この時昌幸はアッシュの言葉の意味が分からなかったが一応納得した。昌幸は席を立つと剣を下げ、アッシュの方に振り向いた。
昌幸
『では早速だが、兵たちを見に行こう。すぐ近くの兵舎に集まってるんだっけ?』
アッシュ
『はい、兵達は隊長の命あれば一目散に馳せ参じる様に義務付けられております。故に己の隊長が住まう場所に近い兵舎に寝泊まり致します。』
昌幸
『ずっとかい?いろんな村や町から徴兵されると聞いたんだが?』
アッシュ
『恐れながら、200人隊となると交代が難しく、ましてや王都所属の200人隊となると故郷に帰れるのは年に二、三度かと。安定して交代勤務が出来るのは500人隊になりませんと。ですから昌幸様の一つ上の階級となります。』
昌幸
『では、皆の為に軍功を立てるとしよう。』
そう話していると二人は兵舎に着いた。
兵舎の広場では200人が整列していた。その中の伍長達の中に先の戦いで伍を組んだヤートン、マシュ、ガストン、トマスがいた。
昌幸の考えた編成はハルバード兵50、剣と長槍を持った一般兵25ずつ。弓兵、クロスボウ兵50ずつの編成であった。白兵戦にも耐え、射撃戦にも耐える、遠近両用の戦いを好む昌幸らしい編成であった。昌幸は高台に上がると200人を見下ろした。全員の顔が見える位置に立った。
昌幸
『私は諸君の事を全く良く知らん。そして君らも私の事を知らんだろう。だからこれだけは言っておく、生きる為に戦え。諸君らは祖国の危機に立ち上がった者達であるのは承知の上だ。時来たらば死ぬ覚悟もある事も。然し、突き詰めた所掛かっているのは国家という道具の存亡だ。個人の権利と自由に比べれば大して価値があるとは思えない。寧ろ戦い抜いて生き延びてこそ御国の為なる。それだけは忘れない様に頑張って戦い抜こうか。』
皆この若者の言葉にただ静かに聞く事しか出来なかった。王国の王都のど真ん中で国なんかより民が大事と言う人間は初めてであった。民を思う者達はいれども国を守る事を大前提で話しているのにも関わらずこの若者は民さえ無事なら国なんかどうでも良いと言ったのだ。だが堂々と言いのけた昌幸の人間性に惹かれた事は確かである事や、何より自分達と苦楽を共にする覚悟がある事が見て取れたそれだけでも兵達にとっては士気を上げる要因になるのだ。
兵の士気、天を衝く。正しくその通りに雄叫びを上げた。この時、地区の住民は何事と思い右往左往したらしい。昌幸は昨日のうちに用意した200人分の黒襷を一人一人手渡ししていった。これが後のアルトヘイム王国先鋒精鋭軍団黒襷隊の誕生である。昌幸は一家の主人と200人の長の両方になったのだ。