歴オタミリオタ介護福祉士が異世界転生して外道鬼畜と言われようと手段選ばず天下と美少女の眼差しを受け続ける退屈じゃない毎日を目指す様です。   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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5話 アマル奪還 2

偵察に出た次の日廃屋で一夜を過ごした一行は、敵の追撃隊が来る可能性に備え、出発の準備をしていた。廃屋のベットにはアリスが寝かされていた。そしてそのアリスは目を覚まし、体を起こした。まだ左胸に痛みが残っているのを感じたが少なくとも毒はもう無いようだった。隣には椅子を反対向きにして矛を抱きながら居眠りをしている昌幸が居た。

アリスは処置されている胸を傷を見た。そしてどうしてこうなったかの経緯を思い出した。そして自身から毒を吸い出してくれた人物も。その瞬間アリスは顔が真っ赤になった。騎士の名家の出で二十歳こそ過ぎているものの中身は初心な年頃の娘のまんまであるからこうなるのも無理も無い。一人で顔を覆っていると、昌幸がうめき声をあげ体を伸ばし起き出した。

 

昌幸

『う~ん…。おお、アリス起きたか。調子はどう…だ?』

 

さて昌幸が見たアリスの姿はブラウスを胸元を大きく開け、胸を形が分かるくらいにはだけさせ、顔を赤面させてる姿であった。昌幸はさっと手を目に当て覆い隠した。

 

昌幸

『ああっと⁉︎申し訳ない!毒を体から吸い出さなきゃいかんからその格好になって貰った!あとマシュの話では傷は残らんそうだ良かったな‼︎んじゃあ失礼!』

 

アリス

『待て昌幸!』

 

昌幸

『はいぃ‼︎』

 

アリス

『その…貴殿が…私から毒を抜いてくれたのだな…?』

 

昌幸

『はい。』

 

アリス

『二度も命を救ってもらったのだな…感謝する。』

 

昌幸

『その1度目がゴブリンの平原戦だと言うのならカウントしないほうがいい。アレは俺抜きでも充分勝てたし、別段特別な事はしてないよ?ただ矛と剣振り回して暴れまわってただけの戦餓鬼だよ。』

 

アリスが申し訳なさそうな顔をしていたので昌幸は口元をニッとあげると更に続けた。

 

昌幸

『もし、恩義に感じて何かお返ししないと気が済まないのなら戦終わりに大将軍閣下に美味い酒でも奢ってもらおうかな?』

 

アリスもそれを聞くとフッと笑ったので、昌幸もそれを返し、外に出るとアマルのある方角を見つめた。

 

昌幸

(あの猛将に加え、小柄で身軽なゴブリンを相手に城壁戦は危険過ぎる。やはり野戦を持って彼の連中を引きつけて、その上で別働隊を持ってアマルを奪還するしかない。土竜攻めか…それとも別の城壁から登ってこっそり中に侵入して開門させるか…どちらも危険だが、やるしか無い!)

 

暫くして一行はヘドンの村へ戻り、小休止とアリスの治療を行うと黒襷隊にその場の守備を指示すると、そのまま全軍結集地であるエルフの街へ向かった。そこで開かれる軍議に参加する為であった。

 

しかしアマル奪還軍は前途多難であった。何より総大将の負傷。新兵ばかりのアルトヘイム軍に対し相手はノーロット帝国の猛将。そして何より兵たちの頭をよぎるのはかつてアマルを陥落させられた際に帝国が使用した魔導兵器の存在であった。昌幸は話だけは聞いていたが城壁を穿つ程の魔導兵器の想像が出来なかった。少なくとも彼の中でそれが出来るのは大砲のみである。彼は火薬がないこの世界なら十分魔法に見えるだろうと思っていたが、後にその威力を痛感する事になる。

 

昌幸の案を早速オーランは諸将に提案したが、皆懐疑的でその案に賛成する者は一人として居なかった。(アリスは治療の為不参加)土竜攻めは穴を掘って城壁内に侵入する作戦だが、これには時間と労力が掛かるのが欠点であり、何より掘り始める場所と目的地の距離が分からないと意味が無いので間違えてとんでもない場所に出る危険もあった。そして何より居並ぶ諸将達は貴族や騎士出身者であり、得体の知れない上に急速に成り上がる昌幸を忌み嫌っていた。そういった私怨をもあり案は却下され、櫓は弓騎兵と弓兵、そして投石機によって排除し、その後城壁に対して仕寄せ(大楯等を用いながら身を守りつつ城壁に迫る戦法)にて攻める方針で決まった。

 

この時昌幸はオーラン麾下の同じ千人隊長の同僚と控室にいた。オーランより方針が決まったと聞くと同僚達は士気高揚とばかりに声を上げたが、同僚が昌幸に声を掛けようとしたらその表情に同僚達は皆黙り込んでしまった。

 

鬼、邪鬼、悪鬼と言った兎に角怨嗟マシマシな顔をしていた。同僚がもう一度勇気を出して昌幸殿‼︎と声を掛けると昌幸は我に返って何時もの好青年の表情に戻った。

 

昌幸

『お、おお!共に武勲を立てましょうぞ皆様‼︎我らの槍働を陛下は期待していらっしゃ居ますからな‼︎』

 

同僚達は昌幸が提案した策が採用されなかった事に怒りを覚えていると一目でわかったがあまり刺激しない方が良いと何となく察したので黙っておいた。

 

かくしてアルトヘイム軍八万はアマルへ向けて進軍した。途中ヘドンの村で黒襷隊を回収し、投石機の組み立てと設置場所になる地点の木々を伐採しながら布陣を整え、布陣が完了したのはエルフの街を出撃して二日後であった。

 

後年のアマル奪還戦の記録は様々だが、アルトヘイム軍八万に対して、ゴブリン軍は7万五千。物量においてはゴブリン軍を超えるアルトヘイム軍の攻勢は歩兵軍団による仕寄から始まった。当然各所に配置された櫓とその周囲に布陣したゴブリン弓兵達は一斉に矢を放った。一歩ずつだが確実に大楯を構えながら前進するアルトヘイム軍歩兵軍団に敵勢は釘付けになった。そしてその後方からアルトヘイム軍弓兵隊が報復射撃を開始した。火矢による攻撃がゴブリン軍を襲い、櫓や化け物共の身体は燃え上がった。更に両翼より弓騎兵隊が飛び出し、同様に火矢を放った。かくして全ての櫓が焼け落ち、その周囲にいたゴブリン軍は敗走した。初戦の勝利で湧くアルトヘイム軍は突撃を敢行した。この一連の動きを昌幸はアルトヘイム軍左翼、オーラン将軍麾下の前衛にて見ていた。そして麾下の黒襷隊に前進を下令しゆっくり進んでいた。突撃の主力は中央軍が務めていたので両翼は城壁目指して進撃していた。

 

昌幸はシャムシュをゆっくり進めていた。優勢、まさしく優勢であったが返って湧き上がることなく冷静を保つ昌幸にアッシュは疑問を感じ隣に馬を立てた。

 

アッシュ

『昌幸様、もう少し進軍速度を上げては?ゴブリン前衛は瓦解。中央軍は怒涛の勢いで進撃しております。手柄を全て取られてしまいますよ?』

 

昌幸

『この程度で落ちるのなら良い、だが攻城戦とは勢いでやるものではない。偵察の時に見た将が動きを見せない。ここは慎重にやるのが定石だろう、下手をすればこちらが痛手を受けるし場合によっては中の人々を盾に使いかねないしな。だから進軍速度はこの程度で良い。あくまで様子見さ。』

 

昌幸がそう答えるとアマルの城門が空いた。蹂躙される同胞を助ける為か…いや違った。中から出て来たのは完全装備のゴブリンの歩兵と騎兵隊であった。そしてその後ろから人間騎兵が四千ほど出て来た。皆、黒馬に跨り、その出で立ちも黒く、そして一際目立つ例の大男がその先頭に馬を立てた。他の騎兵と同じ出で立ちだが強大な戟を持ち、その覇気で何倍も大きく見えた。他の騎兵達が子供のように、そしてゴブリンは人形のように見えた。ノーロット帝国の将は逃げ惑うゴブリンを片っ端から斬り伏せた。

 

救援ではなかった…。無様に敗走した敗残兵の処刑だったのだ。

 

その光景にアルトヘイム軍中央は足を止め、ゴブリン軍は恐れおののき、四千人の騎馬隊はただ無表情にそれを眺めている。そして将は振り返ると大声で全軍に叫んだ。

 

?

『以後、このように敵に背を見せ逃げ惑った者はこのように俺が斬りふせる‼︎覚悟しておけ‼︎良いな小鬼共‼︎‼︎』

 

ゴブリン

『オオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎』

 

ゴブリンの恐怖と鼓舞に駆られた鬨の声が上がるとアルトヘイム軍中央はいよいよ怯み出した。そして昌幸の不安は的中する。この将を先頭にしたノーロット帝国四千人の騎馬隊を始め、ゴブリン軍主力が総突撃を敢行して来たのだ。中央軍はすかさず防衛陣形を整えるも、その先頭を走る恐将に恐れおののいてしまい、前列を形成する槍兵達の穂先は全て上を向いてしまい、一騎たりとも突き殺す事なく突き崩されてしまったのである。そこからまさしく蹂躙である。戦場には老若男女問わずの悲鳴が響き渡った。そう戦の怒号ではない悲鳴である…。

 

中央軍崩壊の危機に流石に両翼軍を悠長に構えていられなくなり、直ぐに突撃し、包囲する形をとった。そして昌幸達黒襷隊にも突撃の令が下った。

 

伝令

『伝令ー‼︎黒襷隊は直ちに敵軍に突撃を敢行し、中央軍の崩壊を防ぐべし‼︎』

 

昌幸

『自ら墓穴を掘った連中の尻拭いまでやらなければならん理由が見つからんが…仕方がない!…黒襷隊‼︎‼︎』

 

昌幸の檄に黒襷隊将兵達に電流が走り、そして静かに耳を傾けた。

 

昌幸

『今宵の戦は、手柄を欲する事は避けよ‼︎今明日を生きる事のみを考え戦え、少なくともこの一戦でこの戦は終わりではないがこの一戦は負けだ‼︎負け戦だ‼︎だがタダでは負けん。よって我らは味方を救う為に敵に突撃するのではなく、退却戦を行うと心得ろ!この乱戦だ。もはや弓矢や弩は無用だ。総員抜刀‼︎』

 

昌幸の令に剣や槍、ハルバードを持ってない弓兵やクロスボウ兵が剣を抜いた。

 

昌幸

『俺の後を騎馬隊がついて来い‼︎そしてその後ろを歩兵がついて来い。アッシュ、ヤートン、ガストン、マシュ、トマス‼︎俺に力を貸してくれ‼︎』

 

一同

『ははっ‼︎』

 

昌幸は矛を上に掲げ叫んだ

 

昌幸

『黒襷隊突撃だぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎』

 

黒襷隊

『ルォォォォォォォォォ‼︎‼︎』

 

一千人の黒づくめの突撃を皮切りに左翼軍が一斉に突撃する。昌幸は騎馬隊と共にゴブリン軍の左翼方面を横から強襲。騎馬隊の突進力を活かしてドンドン中に突っ込んでいった。そしてその中で昌幸はガムシャラに矛を振り回した。振り回すほどゴブリンの肉体が肉片に変わった。黒襷隊の他の面々もそれぞれの場所で暴れまわり同じようにゴブリンの死骸を作り上げていた。だがそもそも既に中央が瓦解している上、ゴブリン軍の対応が早かった為左翼右翼共に挟撃による損害が低かったのだ。昌幸は乱戦の最中例のノーロット帝国の将を見つけた。昌幸は自然とその将に向かっていき、敵将もまた同じく昌幸の元に向かった。それは武人同士の好敵手を見つけたが故の反応だった。二人は矛と戟を合わした。実力差は歴然としていた。圧倒的な敵将に対して退かぬ昌幸。大したことない、と思いつつもなぜか惹かれる敵将。二人の運命の出会いである。

 

?

『若造、名はなんという?』

 

昌幸

『綾瀬、綾瀬昌幸と申す。』

 

ジィール・ガブドシア・ノーロット

『覚えておこう。我が名はジィール・ガブドシア・ノーロット。ノーロット帝国第一の将だ。綾瀬昌幸よ、今日のところは引いてやるが次はこうは行かぬぞ。』

 

ジィールは、そういうと角笛を吹き、全軍に撤収の合図を出した。ゴブリン軍は撤退し、後には死骸と追撃もままならない右翼軍と左翼軍が残された。初日の戦いはアルトヘイム軍に死傷者一万七千人と中央軍半壊という途方も無い損害で幕を閉じた。

 

1日目の戦いはこうして終了した。昌幸は軍議に参加し、敵将の名を明かした。名を聞いた瞬間、ある者は泣き出し、ある者は震えだし、ある者は失神してしまった。

 

昌幸

『な、なんだよ?そんなに凄い奴なのか?』

 

マシュ

『あんたジィール・ガブドシア・ノーロットを知らないの⁉︎』

 

ヤートン

『ノーロット帝国の第一皇子で、帝国の大将軍‼︎齢12で戦に出てから負け知らずだぞ‼︎』

 

厭戦気分が軍議に参加した者達を包み込んだ。昌幸以外は…。この時の昌幸は幸せであったと言える。知らないという事でジィールの恐怖を感じずに済むという意味では。

 

昌幸

『恐れながら申し上げるが…』

 

昌幸の声に皆が顔を上げた。昌幸は続けた。確かに類稀なる剛の者であることは分かる。されど奴は所詮匹夫の勇に頼る事しか知らんのでは無いかと。敵は敢えて打って出てきた確かに包囲下で打って出るのも手だが、数の差の劣勢や、不完全ながら三方包囲されている。もし完全な包囲であれば大損害を被るのは寧ろジィール側であったであろう。更に奴らは防衛戦で重要になる投射能力のある戦力を浪費し、挙句全滅させてしまっている。これでもはや籠る事は叶わなくなった。もっとも敵はアマルの守備になんの魅力も感じて居ないからこそなのかも知れんが、何にしても突っ込む事しか考えてない相手に恐れる必要は無いと言った。

 

然しそれはアルトヘイム軍諸将を刺激する。

 

将官

『貴様、千人隊長風情がましてや異世界人の分際で‼︎』

 

将官

『貴様こそ匹夫の勇ではないか‼︎無謀なのはその方であろう!』

 

昌幸

『その無謀な異邦人に命を救われた挙句情けなく背を見せ逃げた者の言う事ではありませんなぁ?』

 

昌幸は更に続けおまけに罵倒した。

 

怒り狂った将官達は一斉に剣を抜き払った。昌幸も剣を抜き払い、五人の仲間も武器を構えた。正しく天幕の中で殺し合いを始めんとしていた。

オーランは必死で止めるが互いは睨み合うだけであった。

 

アリス

『皆の者、もう止めないか‼︎』

 

別の天幕で静養していたアリスが現れた。

流石に従わない訳には行かず皆剣を鞘に収めた。

 

アリス

『アマル奪還は国の生命線である。如何なる相手だろうと臆して戦う事は許されぬ、そして和を乱す言論も控えよ!』

 

アリスは双方を諌めた。そして更に続けた。

 

アリス

『皆頭を垂れよ。ソフィア・ド・アルトヘイム王女殿下のお出ましである。』

 

そう言ってアリスは天幕の入り口を広げると本当にソフィアが現れたので皆驚愕し、跪き、頭を垂れた。

 

ソフィアは戦装束に身を包んでいた。白のドレスに胸甲や籠手をつけていた。腰にはコイルをつけ、レイピアを下げていた。足は黒タイツに鉄のブーツであった。ソフィアは皆を見て放った第一声は労いの言葉であった。

 

ソフィア

『皆、ご苦労でした。彼の敵将を相手によく軍勢を保ってくれました。』

 

将官

『ありがたきお言葉を賜り、臣は感無量でございます!』

 

将官

『これからも王家に忠誠を誓うことをお約束します‼︎』

 

ソフィアは微笑すると、昌幸の方を見た。昌幸もまた、それと同じくらいに顔を上げた。

 

ソフィア

『綾瀬千人長。黒襷隊の武名は王都でも噂になっています。左翼軍先鋒として勇壮に戦ってくれたそうですね。』

 

昌幸

『不惜身命…我らの旗印に刻んだ事を実行したまでにございます。…恐れながらお聞きしたい。何故姫殿下がかような戦場にいらっしゃるのですか?』

 

アリス

『それは私から話そう千人長よ。あの偵察の帰り、へドンの村に立ち寄った時に私が手紙をしたため早馬で王都に送ったのだ。元より姫殿下は何か変事が起きれば戦さ場に出るつもりであらせられた。これは勿論王陛下も了承済みであったのだ。姫殿下は敵将にジィール・ガブドシア・ノーロット有りと聞き、王都直衛八千の兵を伴って御出馬なされたのだ。』

 

昌幸

『成る程、身の程を弁えずかような無礼をお許しください。』

 

ソフィア

『構いません。それより、昌幸千人長。貴方はこの大敗を予測していましたね?何故予測できたか、お聞かせくださるかしら?』

 

居並ぶ諸将は驚きの顔を浮かべた。たかだか一介の千人長が…ましてや卑しき異世界人が、自国の王女より贔屓にされている事が不思議かつ、憎らしかったのだ。

 

昌幸

『僭越ながら、先ず敵将は知っての通り剛の者である。この様な将は籠城戦よりも打って出て包囲軍を蹴散らしたくなる性分とそれに見合った力を持ちます。よってこの時の我らの最善は前線に出ていた櫓と弓兵部隊を粗方片付けたら、ある程度前進し、陣形と足並みを揃える事でした。当然敵はこの時の我らに対し野戦を仕掛けるでしょう。然れど…今日の我らとこの場合の我らと根本的な違いがあります。今日の我らは勢いのまま軍を推し進めていました。結果陣形もバラバラになっていました。この勢いで敵にぶつかる事が出来れば良かった…良かったのですが、我らは顔の敵将に恐れおののきその不規則な陣形のまま突進を許し、無用な損害を出し挙句敗走しました。これは正直仕方のない事で、我が軍は将兵問わず戦慣れしているものが少なく、勢いでやるしかない状態だったのです。そんな連中が自分たちの前にとんでもない化け物が現れたらどうなるか、勢いが全てなら結果は自ずと見えてくる。だから予測出来たのです。ですが私の話の通りの我らで戦を進めた場合、我が軍は戦場いっぱいに広がり、中央、両翼共に槍兵で槍衾を作り出し、歩兵騎兵共に突撃を許さぬ形を作り出す事が出来ます。心を一つにこの戦線を守り敵の出血を強い、その傍ら別働隊に側面移動、敵軍を叩くも良し、城壁に取り付き、支配するも良し、又は私の献策した土竜攻めを敢行するも良しと様々な方法に分岐させる事ができたのです。』

 

ソフィア

『成る程、理由だけでなく、正答まで示してくれるとはありがとうございます。では引き続き問います。明日の戦はどの様にすれば勝てますか?』

 

昌幸

『先ずは全軍の再編。その後、戦列を敷き、足並みを揃え陣形を整える事。その上で出てくるであろう。敵軍を迎え撃ち、その隙に遊軍による城壁内侵入を図り、内側より城壁を奪取してもらい、そこから防衛用兵器で敵を叩いてもらい挟み撃ちにする。…ですがいくつか問題がありまして…。』

 

ソフィア

『…聞きましょう。』

 

昌幸

『一つ、城壁を登るのは困難極まるという事です。別働隊である以上、攻城塔のような物は使えませんし、長大な梯子を抱えて登るのもこれまた目立ちます。では鉤爪を使って這い上がるか…あの巨大な城壁を登るだけでも骨が折れそうです。やはりそうなると土竜攻めになりますが、時間がありませんので、最短距離でトンネルを掘り進めなければなりませんが、二つ目の問題は如何に別働隊から目を逸らせるかです。ついでに言えば、如何に敵に野戦を強いるかです。敵は投射能力を失っているとはいえ、我らを城壁、または都市部で迎え撃つ事はできるので、打って出て来ない可能性もあるからです。そうなれば別働隊の意味が為さなくなりますし、力づくで取ろうとすれば、何は物量の面を見れば我らが勝つでしょうが、その時には数える程度しか生き残っていないでしょう。』

 

ソフィア

『要は如何に犠牲を少なく、アマルに取り付き、敵に野戦を強いるか、ですね?』

 

昌幸

『策は考えてありますが、やる方はたまったもんじゃ無いしそもそもどうなのか?って言われても仕方ない代物ですが。』

 

昌幸は策を伝えた。先ず翌日は手加減しつつ城壁へ攻めよせる。しかしあくまでそれは土竜攻めを行う別働隊が城壁内に辿り着くまでの間である。その為、本格的な攻勢は避け、別働隊が到着次第、本隊は猛攻撃、更にもはや、色欲、性欲、金銭欲、食欲しか持たないゴブリンを引き出すにはやはり財宝と見目麗しい女性しか無い…。そこで昌幸は軍資金の一部とエルフの村の娼館、劇場、酒場などで働く踊り子などを徴用、彼らの前で妖艶な、悪く言えば破廉恥極まる格好(元々エルフの踊り子衣装はかなり際どい作りなので踊るだけでもそれらを実に刺激する代物である)で踊らせ、我慢しきれなくなったゴブリンは突っ込んでくるだろう。手に入れたい!犯したい‼︎と…そこに陣形を整えたアルトヘイム軍が迎撃に出る。

ゴブリン軍に損害を与え、乱戦になっている最中に別働隊は、土竜攻めを敢行。城壁内に侵入するのはアルトヘイム軍精鋭、それらが城壁を制圧するその時まで本隊は頑張る。別働隊が城壁を支配したと同時にそこから挟み撃ちにして蹂躙する。以上が昌幸の策であった。

 

もはや奇策以外の何物でもない代物である。それでもアマル奪還の策はもはやこれしか無いと言えた。だが必要な要素がいくつか存在する。先ず、土竜攻めを行うためのトンネルを掘る工作部隊であるが、これはアリスがソフィアに手紙を送った時に既に必要である事を手紙に認めていた。アリスは毒に侵されながらも昌幸とオーランの会話に耳を傾けていたのだ。そこでソフィアは王都駐留軍の一隊である精鋭ドワーフ工兵隊を伴ってきた。彼らドワーフ族は冶金技術と掘削技術に特に長けており、小柄な肉体ながらその怪力から戦士、鍛治職人、発掘士などの分野で活躍している。そんな彼らのみで編成された精鋭工兵ならものの数時間でトンネルを掘る事など朝飯前であった。

 

次にゴブリンを引きつけるための色気であった。先ず我が軍内の将兵の志願者は居ないし、近くの町や村の娼館や劇場で働いている踊り子達の強力を得ようにも、生命又は貞操の安全を保障出来かねるという点で、やはり集まらないだろう…。勿論それは昌幸も分かっていたし、その為の安全策を必死に練っており、ソフィアはきっとそんな事だろうと思い、王室近衛防御魔導師部隊(魔導障壁などの防御魔法に特化した魔導師達で編成した近衛部隊)を連れてきていたが、首を縦に振るかは怪しい所であった。

 

昌幸

『やはり我が軍の女性騎士か女性兵に強力を仰ぐしかないか…』

 

すると外で言い争っている声が聞こえるのに一同は気づいた。

 

衛兵

『何者か!此処は部外者は立ち入り禁止だ‼︎』

 

?

『力になれるかも知れないから参上しただけさ、御姫様(おひい)に会わせてくれないかしら?』

 

衛兵

『素性の知らぬ者を軍議に入れることはならん!即刻立ち去れ‼︎』

 

昌幸は天幕から顔を出すと見張りに問い詰めた。

 

昌幸

『衛兵!さっきからうるさいぞ‼︎何事か?』

 

衛兵は昌幸を見ると直ぐに姿勢を正して答えた。

 

衛兵

『ハッ!殿下が道すがら出会った旅芸人と言うのですが、その女芸人が軍議に出せと、急に言い出し始めまして‼︎』

 

昌幸はその女芸人を見た。その容姿は、踊り子なのだろうか布地の少ない踊り子衣装に手足や首にアクセサリーをつけ、肌は褐色、眼は妖しい紫と言った具合であった。

 

昌幸

(誰(だい)?この某龍のクエストに出てそうな踊り子さんは?)

 

女芸人

『ふーん、あんたが御姫様が言ってた異世界人か…うーん。』

 

女芸人は昌幸をジロジロ見ると急に抱きつきその豊満な胸に昌幸の顔を押し付けた。

 

女芸人

『うんうん!まだ少年の面影に童貞臭い顔。弄りがいと可愛がりありそうでお姉さんは大好き♡』

 

昌幸

(し、死と幸福が隣り合わせ…あと童貞ちゃう…)

 

女芸人は実りまくった胸に昌幸を押さえつけたが当の昌幸は完全に窒息寸前であった。

 

ソフィア

『昌幸?どうなさい…ってなんですかコレェェェェェ⁉︎』

 

昌幸

『ソ…ソフィア…た、たす、助けて…(死)』

 

女芸人

『あっ御姫様!丁度良かった貴女に話があるんだよ〜。』

 

ソフィア

『ミシェエラさん!先ず昌幸千人長を話してからにして下さい‼︎』

 

ミシェエラ

『うん?ああ、この坊やのことね。アレ?ソフィアちゃん妬いちゃった?』

 

ソフィア

『妬いてません‼︎』

 

ミシェエラの我が道を行くと言わんばかりの立ち振る舞いに翻弄される昌幸達であったなら天幕の中から事の顛末を見守っていた諸将達はもう何がなんだが分からなかったであろう。

 

ミシェエラ

『まぁ、それは良いとして御姫様、その小鬼どもを魅了して引きつける役目。私にやらせてくれない?』

 

ソフィア

『そんな!会ったばかりだし、それなのにこんな危険な役目任せられませんよ‼︎普通に都で踊るのと訳が違うんですよ⁉︎』

 

ミシェエラ

『そんな事は百も承知だよ?それにお姉さんこう見えて強いし…ゴブリン共に手篭めにされる程柔なステージ歩んでない。』

 

ミシェエラはそう言いながら扇を出したがそれは扇ではなく鉄扇であった。それなりの鍛冶屋が打ったのであろう。それなりの上物であった。

 

ソフィアもこれ以上は言えんと分かったのかミシェエラに頼る事にした。そして二人はミシェエラの肉圧ならぬ乳圧にやられ気絶した昌幸を医療班の天幕に運んだ。もう一度言うが一連の流れを見守っていた諸将達はもう何がなんだが分からなくなっていた。

 

しばらくして昌幸は目を覚ますと辺りは薄暗くなっていた。医療魔導師に顛末を聞くと、ミシェエラがゴブリン達の前で踊ってくれることが決まり、そのミシェエラに昌幸が気絶させられた事も知った。

 

昌幸

『ふーん…あのボインのネェちゃんが手伝ってくれるのか…しかも一人で護衛も要らんときたか。まぁ…匂いで分かったけど。』

 

決して色香や香水の匂いでは無い。熟練の戦士特有の匂い…それを昌幸は抱きつかれた時に感じ取っていた。

 

昌幸は医療魔導師を外させると、アッシュを呼んだ。アッシュが来ると彼は蝋燭を消し、近くに寄らせ一つの奇策をアッシュに伝えたアッシュは頷くとまた闇の中に消えた。そして昌幸も何かを取り出すと同じ様に闇に消えていった…

 

闇に紛れ、黒襷隊は出発した、本陣にはリリィだけを残して向かった。そして翌日、アルトヘイム軍の再攻撃が始まった…。

 

アルトヘイム軍全軍

『ウラァァァァァァァァァァ‼︎‼︎ウラァァァァァァァァァァ‼︎‼︎(鬨の声)』

 

アルトヘイム軍は先日の潰走と打って変わり鬨の声を挙げ士気旺盛である所を敵に見せつけた…勿論実際は恐れおののいている兵の方が多かった。ある意味ヤケクソである。だがこの鬨の声は夜のうちに移動した黒襷隊及びドワーフ精鋭工兵隊の作業を悟られない様にする為でもあった。暫く鬨の声を挙げ続けたアルトヘイム軍は暫くして鬨の声を出すのをやめた。急に静かになった為、流石のジィールも城壁に登り様子を伺いに行った。

 

ジィール

『なんだ?急に奴ら静かになりやがった。おい!ゴブリン共が何かしたのか?』

 

ジィールは側近の騎士に聞いたが誰も分からずましてやゴブリン達にそんな芸当が出来るわけも無かったのだ。

 

するとアルトヘイム軍の戦列中央から鈴の音が聞こえて来た。チリン、チリンと音を鳴らしながら褐色の美女が此方に歩いてくる。その後ろをアルトヘイムの大将軍を務める美女とアルトヘイムの王女が出てきた。三人の美女が出てきたゴブリン達は大興奮。取り分け中央を歩くミシェエラはその格好から刺激が強く、敵も味方も釘付けにしてしまった。

 

ミシェエラ

『ここが良いかな。御姫様と騎士様は此処で待っててくれる?あっ矢弾が飛んできたらこればっかりはお姉さん何もできないから障壁魔導だけ掛けてくれる?』

 

ソフィア

『分かりました。では掛けますがゴブリンや敵兵は通してしまいますので気をつけて!』

 

ミシェエラ

『お姉さんは強いから安心して。』

 

アリス

『作戦通り敵が大挙として打って出てきたら直ぐに我が軍は貴女を囲むように布陣する。敵将ジィールは好色で知られる男。貴女の姿や踊りを見れば間違いなく手に入れようとするだろう。』

 

ミシェエラ

『ジィール・ガブドシア・ノーロット。確か後宮に二十人近く愛人が居るんですってね。私確かにああいう荒々しくて欲に忠実な男キライじゃ無いけど…私歳下が好みなの。』

 

アリスがそれを聞いて微笑するとソフィアは詠唱を終え、ミシェエラの、周りに透明な魔法障壁が現れた。ミシェエラは踊る為アマルの方に向くと二人は離れた。

 

ミシェエラ

『神々よ、我が舞、我が美貌。これら全てに込められた祈りを聞き入れ、我らに福音と吉兆を与え給えかし。』

 

ミシェエラは身体中につけた鈴のアクセサリーを鳴らしながら舞った。その舞は美しくも力強く。その舞は妖艶な物であった。その肢体を活かす為の踊り子装束、揺れる乳房、靡く髪の毛。まるでハープのような綺麗な歌声は、敵も味方も魅了した。

 

ジィール

『おお…なんと美しい…今まで気に入った女はみんな手に入れた…だがそれらの比ではない…。我が武で手に入れる‼︎皆の者ついて参れ‼︎行くぞ‼︎』

 

側近の騎士は敵の陽動の可能性を指摘したがジィールは答えた。

 

ジィール

『どうせゴブリン共は止まらん。それに我等はこのアマル維持の詔を賜ってない。それに…一箇所に固まるなど我等らしくもあるまい。我等は己の力で血路を開く戦が好ましいそうではないか皆の者。』

 

黒騎士達はその通りと口々に良い、笑いあった。そして彼等はそれぞれの馬に乗り武器を構えた。ジィールも城壁から飛び降りると下に控えていた愛馬にまたがり戟を地面より引き抜き城門を開けさせた。

 

ジィール

『皆我に、帝国帝位継承者ジィール・ガブドシア・ノーロットに続け‼︎勝ち戦だ、勝った勝った‼︎』

 

黒騎士達

『ジーク・ライヒ‼︎』

黒騎士達

『勝った勝った‼︎‼︎』

 

ノーロット帝国騎士の突撃に合わせ、ゴブリン達も悍ましい雄叫びをあげて突撃を開始した。そして奥に控えていたゴブリンロードも出てきて、正しく全軍であった。

 

オーラン

『なんと…みんな出てきてしもうた。色仕掛けも捨てたもんじゃないのう…』

 

オーランはその時そういった。だが踊ったミシェエラはこう言った。

 

ミシェエラ

『色仕掛けなんてチンケなもんじゃない。踊りの力、祈りの力、音楽の力、何より私の美しさ、それらが全て、全てが揃って起こした奇跡よ。』

 

ミシェエラに矢や石の礫が落ちてきたがそれらは全て魔導障壁に遮られ弾かれていった。だがやがてゴブリン達の先鋒がミシェエラに近づいてきた。アリス達もすかさず援軍を出すが敵の動きの方が速かったのだ。

 

アリス

『ミシェエラ殿!』

 

アリスが叫んだ時ミシェエラに向かって十体ばかりのゴブリンが飛びかかってきた。中には生殖器剥き出しの個体もいた。だがミシェエラは動じない。そして鉄扇を両手に持ち舞い始めた。するとどうだ、ゴブリン達は舞っているミシェエラに細切れにされたのだ。側から見ればミシェエラは舞っているだけだ。

だがその鉄扇と舞は明らかに自分の敵を切り刻む為のものであった。更に驚くべきことにミシェエラの身体にも、そして鉄扇にも彼等の返り血はついていなかったのだ。そこに更に大型ゴブリン二体が襲い掛かったが、それらはアリスに水魔法で溺死させられ、オーランにメイスで頭蓋を粉砕されてしまい、その巨体で同胞を潰してしまった。

 

その一連の出来事を見ていたジィールは感嘆の声を挙げていた。

 

ジィール

『ほう…少しはやるではないか…。この戟を合わせられる奴などおらんと思っていたところだ‼︎』

 

やがて両軍は激突、激しい戦闘に発展。乱戦の為、後衛の魔導士や弓兵も前線に出てしまう始末であった。

 

その頃、黒襷隊は順調にドワーフ達が作ったトンネルを進んでいた。作業と並行して進むのは正直ゾッとしない所があったが、そこはやはりドワーフ族の信頼あってこそであった。

 

ドワーフ精鋭工兵隊隊長

『オメェさんら、もうすぐでアマル出るぞ!準備は良いな‼︎ワシらがあと一回ツルハシを振るえば、上に出口が出来るぞ!』

 

昌幸

『了解した。任務を果たすぞ野郎共‼︎黒襷隊!出陣だぁ‼︎‼︎』

 

トンネルが開通し、城壁より少し離れた所から黒襷隊千人が飛び出してきた。千人はそれぞれ二百人に分かれ、内四隊がそれぞれの担当する城壁に向かった。残りの一体は昌幸直轄部隊であった。

 

昌幸

『敵の新兵器が持ち込まれている可能性があるらしい。我々はその破壊、ないしは接収する‼︎』

 

昌幸?

(策はなったようですね…敵の大半が城壁の外、オマケに最新兵器をその手にできるチャンス迄転がり出るとは、本当に我が主人は運が良い…後は務めを果たすまで…)

 

また同じ頃、野営地より他の従卒と望遠鏡を使い戦場を見ていたリリィはこっそり天幕に戻り中に入った。中には誰かいるようであった。

 

リリィ

『戦闘が始まりました!敵軍も殆どが出撃し、敵将も出てきています。全て予定通りです‼︎次の指示は如何なさいます?』

 

天幕の中にいる人物は馬を用意するようリリィに指図した。リリィが馬を用意する為に天幕から去るとその人物は矛を持った。

 

それから暫く経ち、城壁の外は正しく混沌とした戦場になっていた。戦局はアルトヘイム軍が有利進めていたが、ジィール隊が到着してからはその優位も危うくなってきていた。この四千騎の突撃は正しく悪魔的威力を発揮していた。それでも瓦解しないのはしっかり対騎兵陣形を取り、兵が踏みとどまったからであろう。

 

黒騎士

『ジィール殿下!敵の槍衾の所為でこれ以上は進めません!両翼には魔導兵と弓兵が居て、蜂の巣にされる恐れがあります‼︎』

 

ジィール

『ならば徒歩で行くまでよ!続けノーロットの戦士達よ‼︎』

 

ジィールは馬から飛び降りると戟を振るい、槍衾に押し入っていく、鍛え上げられた戟に槍は切り落とされ、折られ、中央突破せんと駆けて行った。それに続く黒騎士達も皆大概であった。

 

ミシェエラ

『来たね…。』

 

アリス

『此処は私が…。』

 

ミシェエラ

『ならお姉さんも手伝うよ。』

 

ソフィア

『ならば三人で…迎え撃ちましょう。』

 

三人に向かってジィールは突進してきた。黒毛の馬に跨る大男は戟を振り被った。アリスは剣と盾を構え、迎え撃った。

 

鉄のぶつかる音が響きジィールとアリスは鍔迫り合いの形になった。

 

ジィール

『フン…貴様のような生娘くさい女がアルトヘイムの大将軍とはな、笑わせる。』

 

アリス

『ほざけ!義理も弁えぬ畜生が‼︎己が国民を化け物に委ね、教皇庁を蔑ろにする下郎が‼︎』

 

ジィール

『我が父こそ信仰の守護者、女神の剣なるぞ。教皇はその力が無いが故に女神の寵愛を失ったのだ。蔑ろにされて当然。』

 

ソフィア

『力で奪った者の言うことか‼︎』

 

ソフィアはレイピアを横から突き入れるがジィールはアリスを突き飛ばし、その巨体でレイピアを躱してみせた。そこに更にミシェエラの鉄扇が襲い掛かる。

 

ミシェエラ

『そこだ‼︎』

 

然しジィールはまるで動じず片手で剣を引き抜き、ミシェエラの鉄扇を防いでしまった。

 

ジィール

『小娘共、少しはやるようだがいくら束になっても俺には敵わんぞ?さぁ平伏して感謝するが良い、お前達三人とも我が武で打ち払い俺の端女にしてくれる。』

 

ドス黒い笑みが三人を威圧した。だが踏みとどまらなければならない。ジィールを逃せば、その分アルトヘイム軍が敗北の危機に晒される可能性が大きくなるのだ。

 

一方の城壁では黒襷隊が激しい戦いを繰り広げていた。もっとも僅かなゴブリンしか残っていなかったので実際は虐殺である。

城壁で戦っていたマシュはふと中央の広場を見ると己の目を疑った。そして隣にいたガブリエルに問うた。

 

マシュ

『ガブリエル!中央広場を見て‼︎』

 

ガブリエル

『なんだよ騒がしい…ってなんだありゃ…。でっけえ投石機にでっけえ槍がくっついてやがる‼︎』

 

マシュ

『あれが新兵器…。……‼︎ 昌幸だ!昌幸達が下で戦ってる‼︎』

 

ガブリエル

『んじゃあ当たりだな。まさか本当に有るとはな…。アマル防衛戦の時に一度だけ姿を現したそうだがそれ以降音沙汰なしだったがこんな所に配置されてやがったのか。』

 

その敵の新兵器の周りで昌幸達は戦っていた。昌幸は矛ではなく剣でゴブリンと戦っていた。

 

昌幸

『敵の兵器は無傷で摂取する‼︎ゴブリン共に触らせるな‼︎』

 

昌幸(?)

(とは言え、この壊れ様…なんの兵器かは存じませんが素人目にも分かりますよ。これは使い物にならないって…。このアマルはかつてこの大陸の覇者になったアマルガム帝国の帝都だった地。それを守る城壁には超強力な古代の城壁魔法がかかっていた。それを破る程の魔力をそう何度も使える訳が…⁉︎』

 

昌幸(?)は己の眼を疑った。まさか…まさかそんな事が…こんな事をしでかしやがったのかと…恐らくこの中央大陸で生きる者にとっては禁忌とも言える所業でこの兵器は動いていたのだ。だがそれのお陰だ全てが合点がいった。昌幸(?)は直ぐに自身の命令を撤回した。

 

昌幸

『工作中止‼︎中止だ‼︎これら全てこのまま奪取する‼︎決して壊すな‼︎』

 

黒襷隊隊士

『破壊しなくてよろしいので?』

 

昌幸

『破壊してみろ、俺達はこの大陸すべての国を敵に回すことになる。』

 

黒襷隊伝令

『隊長!各城壁の制圧に成功しました。アマルは奪還されました‼︎』

 

昌幸

『良し‼︎全員正門の城壁と門の前に待機。防衛用兵器の準備も急げ!使えるだけ全部だ。』

 

その頃戦場中央は激しい戦いを繰り広げていた。水龍騎士団対ジィール親衛騎士団の激突はもはや凄まじいの一言である。精鋭騎士団同士の戦闘にもはや他の兵士や部隊が介入する余地など無い。そしてその中でソフィア、アリス、ミシェエラの三人と、ジィールが戦っていた。性別的な能力の違いあれど手練れ三人を相手してもジィールは全く平気であった。逆に三人は大怪我こそしていないものの、疲れ果て、突き飛ばされたりして出来た傷の所為でボロボロになっていた。

 

ジィール

『フン‼︎少しは楽しめたが、もう終いにするか…。覚悟‼︎』

 

ジィールは拍車を入れるとソフィアに突進してきた。アリス、ミシェエラが止めに入るが二人とも跳ね飛ばされてしまった。二人の美女の悲鳴がソフィアに聞こえてきた。そしてソフィアも迫り来る猛将に恐れをなしてしまい動けなくなった。そして戟は振り下ろされた。ソフィアは目を強く閉じた少しでも死の恐怖を紛らわす為に…だが戦場にソフィアの首が飛ぶことは無かった。鉄同士の衝突音がソフィアに迫る死を払い除ける。ソフィアの前には馬に跨るローブを纏った人物であった。その手には矛を持ち、正しく戦士と言わんばかりの覇気が出ていた。そこに一陣の風が吹くそれはローブについていたフードを翻し中の人物の顔を露わにした。

 

ソフィア

『昌幸…?』

 

綾瀬昌幸本人であった。であれば今アマルで突入部隊の指揮を執っているのは一体誰なのか?それは少し時を遡って話をしなければならないだろう。昌幸は自身とジィールが惹きあった事に警戒心を抱いた。もし自分が奴を呼び寄せてしまったら…全てが台無しになる。奴には戦場で踊り狂ってもらわねばならない…ならばもし戦士としての匂いを放つ人間に惹かれるなら自分がここに残る方が良いのではないかと考えた。だが結局はこれは詭弁に過ぎない。ただ昌幸はジィールと戦いたくなったので有る。ただそれだけで有る。

 

そこで変装の名人であるアッシュに指揮を一任し、身代わりになってもらい、自分は時が来れば颯爽と登場し、ジィールと矛を合わせようとしたのだ。アッシュもまた主人たっての願いであった事も有ったが彼は互いが好敵手と認めた戦士が互いを惹き合う危険性を理解していた。アッシュは了承し、昌幸にしばらく隠れられる場所を提供、リリィにその間の世話を任せ、自分は必ず主人の策を成就させると誓約し旅立ったのだ。

 

昌幸

『アッシュには無理をさせた…。だが策は成った。ジィール気づかんか?お前の後ろから響いてくる剣戟の音が、高らかに上がる歓声が、雄叫びが!お前は俺の策に嵌ったのだ。』

 

ジィールは振り返るとアマルに掛かっていたゴブリン旗が叩き落とされ、アルトヘイム軍旗が掲げられていく様が見えた。

 

ジィール

『ほう…戦場を遠くから覗き見してただけに留まらずこんな小細工を施していたか。雑魚の癖にやるではないか。』

 

昌幸は矛を突きつけて更に続けた。

 

昌幸

『その口がいつまで減らず口を放っていられるか見物だな。お前は今日死ぬのだ。退路は断たれた。唯一祖国に帰れる望みがある山脈は険しく超えるのは困難。だがそこにも野戦築城済みの傭兵弓兵隊が待ち構えてる。』

 

ソフィア

『いつそんな人数を雇ってたの⁉︎』

 

昌幸

『エルフの街に居る時ちょろっとね。退路封鎖或いは敗残兵狩りをやって貰うつもりで雇った。』

 

だがジィールは怯まず戟を振り回し雄叫びを上げ、こう返した。

 

ジィール

『ならば貴様らを倒し活路を開くまで俺と黒花騎士団は強いぞ…‼︎』

 

昌幸

『愚将がほざくな。戦しか知らぬ猪武者は狩られるがお似合いだ。貴様を倒し、大将軍までひとっ飛びに昇進してやる。』

 

二人の騎馬武者は互いに武器を合わせた。ジィールは驚いた。先日矛を合わせた相手が急に強く成った事に、昌幸は驚いた。大口を叩いたは良いものの自分の実力ではジィールを斬れないと思っていたのに、今こうして拮抗した事に。

 

二人の戦いは凄惨なものだった。互いが互いに一太刀、二太刀と斬られてもまだ戦い続けているのだ。見ていたアリスは歯を食いしばり、ミシェエラは冷や汗を垂らし、ソフィアは涙を流し、口を覆った。周りにいる水龍騎士団や黒花騎士団の騎士達も戦いを辞めて固唾を呑んで見守っていた。

 

するとゴブリンロードが決闘している二人を見つけた。ロードは自身の兄弟を殺した男が昌幸で有ると本能で知ると怒り狂って突進した。オーランがそれに気づき止めに入るが老体にはこの化け物を止める力が無かった。

 

オーラン

『いかん‼︎昌幸そっちにロードが行ったぞ‼︎』

 

ゴブリンロード

『グオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎』

 

ゴブリンロードは見境なく棍棒を振り上げ昌幸とジィールが鍔迫り合いをしているところに振り下ろした。轟音が響いたがそこには何もなく、ロードが顔を上げた瞬間二つの斬撃がロードを三枚に下ろしてしまった。

 

昌幸&ジィール

『下郎が…邪魔をするな…!』

 

ゴブリンロードを斬り殺した二人は更に戦いを続けた。昌幸は騎乗して戦い続けていては勝負が掴んと考えシャムシュから飛び降り、徒歩になって切り掛かった。両者は互いの返り血と自分の血で真っ赤に染まっていた。だが両者の表情は苦痛では無く狂気の笑みであった。そしてもう一度両者が武器を合わせると二人は後ろに飛び退いた。そして同時に両者は崩れ落ちた。

 

束の間の静寂がアマルの平原に訪れた。だが先に立ち上がったのはジィールであった。ジィールは戟を取り昌幸にトドメを刺そうとした。だがその昌幸を身を呈して守ろうとした者が居た。ソフィアであった。彼女は昌幸を抱きしめ庇った。ジィールはそんな両者を見て何を思ったのか、戟を下ろし馬にまたがった。

 

ジィール

『命拾いをしたなアルトヘイムの王女と若い戦士よ。この戦は我らの負け。ゴブリンも一匹残らず殺され、如何に我らといえど延々と八万を相手にするのは不可能だ。退くぞ!真っ直ぐアマルの城壁を通ってな‼︎』

 

ソフィアは未だ衰えないジィールの凄まじい覇気と殺意に恐怖した。そしてソフィアは精一杯の声を上げてこう命令した。

 

ソフィア

『黒襷隊‼︎アマルの城門を開けなさい‼︎誰も戦ってはなりません‼︎もうこれ以上誰も死んではなりません‼︎‼︎』

 

ソフィアの戦場一帯に響く声を聞いた黒襷隊の面々は大急ぎで城門を開けた。黒襷隊は恐怖した。敗走しているはずなのにこの四千人の黒騎士達は全くそういう雰囲気を感じないばかりか決して勝てないという絶望感すら与えた。黒花騎士団はそのまま破壊された城壁の穴を通り、祖国ノーロットに帰っていった。兎に角もアマル奪還戦はアルトヘイム王国の勝利に終わった。

 

昌幸が目を覚ましたのはその日の夕刻であった。日が半分近く沈み、空はオレンジ色になっていた。アマルの都市内に運び込まれた昌幸は衛生兵によ?止血と縫合、そして傷の治癒を白魔導兵にして貰っていた。そしてその昌幸をソフィアはずっと自分の膝に乗せていた。昌幸が瞼を開けるとソフィアは微笑して昌幸の前髪を撫でた。

 

ソフィア

『起きた?』

 

昌幸

『戦はどうなった?』

 

ソフィア

『勝ちましたよ、全部貴方のおかげ。』

 

昌幸

『それは違うよ…こんな無茶な作戦についてきてくれた兵達やそれを許してくれた諸将のお陰だよ。』

 

昌幸は横を向くと黒襷隊と水龍騎士団の面々が肩を組み酒を交わし嬉し涙を流しながら笑いあっていた。この勝利の前には平民も貴族も騎士も無かったのだ。

 

昌幸

『おっと、重いよね?退くよ。』

 

ソフィア

『ねぇ昌幸?少し散歩しない?』

 

昌幸

『それは姫としての命令?それともソフィアからのお願い?』

 

ソフィア

『どっちもです千人長。』

 

昌幸

『畏まった。』

 

二人は暫く街の中を散歩した。笑うドワーフ戦士、歌うエルフ女性弓兵、食べる人間槍兵、治療を受け、安堵の表情を浮かべるアマルの市民。生き絶え、奴隷のまま生涯を終えた市民達を涙を流して埋葬する市民とそれを支える従軍神父と修道女、色んな人が戦いの終わりを噛み締めていた。アマルの街が一望できるテラスまで二人は歩いた。

 

昌幸

『…すまないジィールを取り逃がしてしまった。これで帝国との戦いは辛くなる。』

 

ソフィア

『元々中央大陸を六割も支配する大帝国よ?ジィールを倒せていたとしても大変なのは変わらない、そうかここからなんだね。』

 

昌幸

『ここからだ。これで帝国はアルトヘイムを侵略せんとするだろう。隣接する衛星国も挙って宣戦布告してくるだろうね。』

 

ソフィア

『それでも私達は一所懸命に守らないと行けないこの国を、民草を…。』

 

昌幸

『でも今は、この勝利に喜んで良いと思う。この難攻不落の城塞都市を再び管理下に置けたのは大きな成果だ。魔導障壁自体はまだ生きてるから城壁をより強固にすれば例の新兵器にだって負けはしないさ。』

 

ソフィア

『そうだよね、大丈夫…だよ…ね。』

 

ソフィアが急に倒れこんだので昌幸はそれを支えた。

 

ソフィア

『ごめんなさい、力が抜けちゃって…。』

 

昌幸

『頑張ったもんな…。』

 

月明かりが二人を照らす。両者は互いの顔を見つめあい、やがて影は一つに重なった…

 

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