歴オタミリオタ介護福祉士が異世界転生して外道鬼畜と言われようと手段選ばず天下と美少女の眼差しを受け続ける退屈じゃない毎日を目指す様です。 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
8話 メノス王国への進撃。
メノス王国軍がアルトヘイム軍を抜けない理由は何のこともない。兵の練度の不足である。アルトヘイム王国三大魔法騎士団聖龍騎士団団長アーシェ・ド・アルトヘイムが率いる3万の王都守備軍はアルトヘイム最精鋭の呼び声の高い軍団であった。この軍団の強さに加えこの戦場を流れるアトモス川は中央大陸を分断するように流れる川であり、中央大陸の要所各地、果ては海洋大国首都サン・モシャスに繋がるため、この大陸の交易に深く関わる運河でもある。そんな川は今はアルトヘイムを守る天然の城壁として機能している。メノス軍は渡河を図るも騎士団長アーシェ麾下3万の守備は崩せず川と対岸に尸を晒すだけであった。元々メノス王自体が戦はからっきしの文官であり、知識も全くないので、他の武官の制止を聞かずこの無謀な渡河を挑んだことがメノス王国の末路を決めてしまったと言っても良い。更に悪いことに彼らはハザムス王敗死の報を知らなかったのである。
メノス王
『なんで⁉︎何故これしきの川を渡りきらないのよ‼︎渡りきれば数に勝る我らが勝つのは目に見えているのに‼︎』
メノス王国軍将校
『川の水温、更に深さもあり兵が足を取られております。敵の反撃も激しく、我が軍はただただ消耗を続けておりまする‼︎』
メノス王
『早く渡りきるのよぉ‼︎出ないとあの猪が先にアルトヘイムに着いちゃうじゃないの〜‼︎陛下より恩賞を賜るのはこの私なんですからね‼︎』
メノス兵
『ご報告します!右翼より砂塵が舞い上がっております。』
メノス将校
『おお!ひょっとしてハザムス王が援軍を送ってくれたのでは‼︎』
メノス王
『チッ…余計な事を。どうせ勝てないから少しでも恩を売りにきたんでしょう?まっ良いわ。あいつらに敵の横を狙わせなさい。』
だがメノス王国軍の将校の一人が妙だと思い望遠鏡を覗き込んだのだ。援軍にしてはどうも少ない気もするし、互いに大半の戦力を動員しなければならない状況なのだからそんな援軍を出す余裕など無いだろうと思ったのだ。この将校の疑問は悪い方向で解決された。こちらに向かってくる軍勢はその数四千、そしてそれらは黒い襷を身につけその先頭を大剣を背負った騎士が駆け、そして軍旗はアルトヘイム王国であった。
将校
『おい、あの軍勢は何処の所属か調べたのか?』
兵士
『いえ、あの道は真っ直ぐ行けばハザムス軍の本陣に繋がり道中いくつかの関所が有りますので、敵が来ることなどまずあり得ないと思いましたので。』
将校
『ではあの軍勢はなんだ⁉︎』
敵じゃないか⁉︎と将校が言おうとした瞬間その砂塵から矢が降り、遂にそれは手薄のメノス本陣を肉迫した。殆ど後詰が居ない本陣は事実上蹂躙であった。メノス王は悲鳴をあげることすら許されずそのまま胴と首が分かたれるという事態になった。さて肝心のメノス王国軍であるが川を渡河中にこの変事が起こった事を知ってしまったのだから大混乱であった。彼らが何も知らずにアルトヘイム軍に迫っていたなどれ程幸せだったであろうか?無慈悲にも彼らは現実を突きつけられた。高々と掲げられたアルトヘイム軍の軍旗の穂先に刺さる己が主君の首級によって。
メノス兵
『王様が討ち取られた‼︎』
メノス兵
『俺たちは負けたんだ!逃げないと殺される‼︎引き返すんだ‼︎』
正しく狼に襲われた羊の如くただひたすら狩り尽くされるのみであった。だがそこに救いの手を差し伸べたのもその狼達の大将であった。
アルトヘイム軍伝令
『全軍‼︎アーシェ様のお達しである‼︎全軍追撃では無く包囲せよ‼︎繰り返す包囲せよ‼︎敵軍に降伏を呼び掛ける故包囲されたし‼︎‼︎』
アッシュ
『マサユキ様‼︎』
マサユキ
『分かってるさ、全隊後退!敵後方の包囲運動は俺たちが起点だ、敵の背中から動くんじゃないぞ‼︎』
マサユキ
(とは言ったが、敵の残余は一万から二万。対する我らは四万。全軍の半数近くの捕虜を抱えて進撃など考えたくもないがな。捕虜にするなら少なくとももう五千減らすべきだな)
メノス軍将校
『降伏だと⁉︎バカな、そんなもの誰が受けるか‼︎皆我らの後背はたかだか四千の弱兵‼︎ここを抜ければ生きて故国に帰れるぞ‼︎進めー!』
メノス軍
『雄ォォォォォォォォォォォ‼︎‼︎‼︎』
マサユキ
『こうして誰かが先導して急に士気を取り戻したりするからヤなんだよ‼︎歩兵隊前へ‼︎』
黒襷隊歩兵部隊
『ハッ‼︎‼︎』
マサユキ
『テストゥード‼︎‼︎』
総大将の号令に諸将も続いた。
ガストン
『テストゥード‼︎』
トマス
『テストゥード‼︎』
黒襷隊歩兵部隊の兵達は盾で自分達の前と頭の上に盾を構えガッチリ身を寄せ合い、その隙間から槍を突き出した。歩兵の要塞と化した黒襷隊は敗残ながらも死兵と化したメノス兵二万を受け止めなければならなくなった。だが、歩兵が支え、投射部隊が嵐のように矢や魔法をひたすら撃ち放ったお陰で敵は消耗するばかり、更に各将が下馬し、兵達を鼓舞し、自らもテストゥードを組みに行ったのである。
アッシュ
『今こそ力を一つにせよ‼︎何があっても御大将に敵の刃が届く事あってはならぬぞ‼︎』
マシュ
『ひたすら撃つよ‼︎狙う必要は無い撃てば当たるわ‼︎』
ミシェエラ
『さぁ、男を見せる時だ‼︎一番男を見せた奴にオネェさんがご褒美をあげるわ!』
黒襷隊
『ウオォォォォォォォォォォォ‼︎‼︎』
人は城、人は石垣。かつて日本の戦国武将武田信玄はそう言った。なら今の黒襷隊はまさしく城であった。全く崩れぬ黒襷隊の守勢に兵は疲れ、左右を味方の兵が囲んでいるためメノス歩兵の士気は再び下がりだした。そしてそれを見逃すほどマサユキは甘くはなかった。
マサユキ
『敵が勢いを失った‼︎包囲の中心に奴等を追い落せ‼︎突っ込めぇ‼︎‼︎』
マサユキは大剣振り回し、行く手を阻む兵を両断しながら兵を率いていった。猛烈な攻撃の末、完全に包囲が完了した頃にはメノス軍は戦意を失ったのだ。最後に残ったメノス軍の上級将校が自らの命と引き換えに残余の将兵の命を守る事を求めるとアーシェはそれを了承。その将校は自刃し、首は届けられた。アルトヘイム、メノス国境の戦はこうして終結した。
戦が終わって束の間、本国より援軍が到着したアーシェ軍は総勢三万から六万に増員され、捕虜約一万八千を伴い、メノス王国王都メノシアに進路を取った。黒襷隊はアーシェ軍中央から少し離れた位置にて行軍していた。総大将直々の指令でもし捕虜たちが暴れ出した突撃して鎮圧する任を与えられたのだ。
マサユキ
『こうしてみると六万の軍勢は中々壮観だな、俺もあんな大兵を指揮して戦したいものだ。この後の攻囲戦で手柄を取れば五千人長は確実だ。』
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『『アヤセ殿』』
マサユキ
『これはカズマ殿、カテキ殿。助力感謝致す。』
マサユキの前に現れた如何にも東方風の具足を付けた兄妹は、東の巨大な大陸オリエンス地方の大陸の三割と百を超える島を保有する東の二大勢力の一翼、東日の国の出身である
カズマとその妹カテキである。東日幕府の交遊施設の末裔であるカズマとカテキは武家の一員として対応あるアルトヘイムに仕える千人長であり、上官である大将軍クブルスの命令により黒襷隊の助力の為それぞれの隊の半分を引き連れて居るのである。元々マサユキは日本から来た事もあるが東日の国の出身であるこの兄妹には奇妙な親近感を覚え、兄妹もまた異世界とはいえ、同じ似たような文化に人種的類似点が多い事から久々にあった同胞のような感覚を覚えていた。
カズマ
『某達は一度、クブルス将軍の元に向かわねばなりませぬ。ハザムス攻めの行く末を見届けなければなるぬ故。』
カテキ
『マサユキ様、ご武運をお祈りしております。皆様には宜しくお伝え下さいまし。』
マサユキ
『ご両人の助力無くして此度の戦に勝ちは無かったでしょう。どう感謝すれば良いか。』
カテキ
『では戦が終わりましたら我らの邸宅にお越しくださいませ。遠い異世界に私達のような国が有るとは思っておりませんでしたのでお話をお聞かせ下さい。』
カズマ
『それは良い!マサユキ殿それで構いませぬ故拙者達の館にお越し下さい。』
マサユキ
『では承知、必ずお邪魔させていただく。』
カズマ
『では失礼致す。』
マサユキは二人を見送り、隊の戻ろうとするとアッシュが騎馬で寄せてきた。
マサユキ
『反乱か?』
アッシュ
『いえ、アーシェ様よりマサユキ様に召喚命令が下りましたのでお伝えに参りました。』
マサユキ
『…女性の頼みとあればさっさと行かねばならないか。本当は昼寝したい所だけど。』
アッシュ
『冗談を言ってる場合ですか?相手は王弟殿下御息女なのですよ、早く行かねば首を切り落とされても文句は言えますまい!』
マサユキ
『へぇ〜。王弟殿下御息女ね…はっ?』
アッシュ
『ご説明しましたよね?』
マサユキ
『話半分で聴いてた。』
アッシュ
『早くお行きなさい‼︎』
マサユキ
『行ってきまーす‼︎(焦)』
マサユキはアーシェの天幕まで騎馬で大急ぎで駆け抜けた。だが天幕の前で警護する聖龍騎士団の騎士に止められてしまった。
聖龍騎士A
『止まれ‼︎貴様何の用だ!ここは総大将アーシェ様の天幕であるぞ!』
マサユキ
『三千人長アヤセ・マサユキでござる‼︎総大将アーシェ殿下の出頭命令により馳せ参じた。道を開けられよ。』
聖龍騎士B
『たかだか三千人長の分際でましてや貴様のような異世界人をアーシェ殿下がお呼びするわけ無かろう。即刻立ち去れ‼︎』
異世界人と見下されたのに怒りを覚えたマサユキは口調を強め再度道を開けるように要求した。
マサユキ
『貴女らが何と言おうと殿下に呼ばれたのは変わらん。これ以上邪魔立てするならばタダでは済まさん。』
聖龍騎士C
『貴様‼︎騎士に向かってなんと言う口の利き方を‼︎』
マサユキ
『所詮騎士など、戦場においては一単位でしか無いわ。最も本陣より動くことのなかった生娘臭い女騎士どもなど一としても数えられんがな。それに騎士が何だというのであれば私は暗黒騎士だ。貴様らと違い、私は国家の大事を担う存在だ。
(暗黒騎士はタダの暗黒魔法が使える騎士ではなく国家、君主に利益を齎らすものである限り通常の騎士よりも行動や権限に自由が保証されている。(国によってどの程度の権限が与えられているかは差異がある。)そもそも暗黒騎士は本来騎士団に所属しなければ国家君主にも忠誠を誓わない存在で、彼らが忠義を尽くすのは個人や思想といったものである。(始まりの暗黒騎士であり*女神12騎士の一翼でもあるアルトヘイム国父エドワード・ド・アルトヘイムの弟オルファンも忠誠を誓ったのは女神本人であり、神話に登場する女神の国には忠誠を誓わずその後の動乱にも一切関わらなかった。)ある意味今の傭兵のような存在であり、マサユキを始め各国に属する暗黒騎士は己や自らの信念や主義に忠誠を誓っている存在である。(しかし己の信じる君主や主義に忠誠を誓っている者が大半なのでそこは騎士とは変わらない。)
私の行動、発言は王家によって保証されている。王家に忠誠を誓う身でありながら王家の任命した暗黒騎士を蔑ろにすると言うのなら覚悟を決めていると言うことでよろしいか?』
聖龍騎士D
『騎士の常道に反する暗黒騎士が何を言うか‼︎如何に我が国の英雄としての称号といえど所詮異端者では無いか‼︎』
アーシェ
『お辞めなさい‼︎』
天幕からアーシェ・ド・アルトヘイムその人が現れ聖龍騎士達は跪き、それを見てた他の騎士団の騎士達や兵士達も続き、マサユキも愛馬シャムシュから降り、跪いた。
アーシェ
『我が軍はまだ作戦行動中です。軍に不和が有ると分かれば捕虜に付け入る隙を生みます。そんな事も貴方達は判らないと言うのですか。』
聖龍騎士団
『ハッ…申し訳ございません。』
アーシェ
『アヤセ卿、配下の騎士が無礼を働いた事、騎士団長としてお詫び申し上げます。されど我が国は騎士の国、この者らにとって騎士の誇りは祖国への誇りなのです。あまりそこを突くのはお辞めになって下さい。』
マサユキ
『いえ、私の方こそ熱くなりすぎました。以後このような事のなきよう努力する事を殿下に誓いまする。』
アーシェ
『他の者もそれぞれの持ち場に戻りなさい。一刻もすれば進軍を開始しますよ!』
将兵
『『『ハハァ‼︎‼︎』』』
暫くしてマサユキはアーシェの天幕に入った。昌幸は席を勧められそこに座って待つよう言い渡された。天幕には昌幸といざこざを起こした件の聖龍騎士団の騎士達が入っており当のアーシェは後ろに引っ込んでいた。すると幕がずれ、アーシェが入ってきた。アーシェは兜こそ脱ぎ、美しい金髪を露わにしているものの目を隠す為の仮面は付けたままであった。アーシェはそのまま昌幸の真向かいの席に座った。
アーシェ
『アヤセ卿、此度の戦は誠に見事な活躍でした。全軍を代表してお礼申し上げます。』
マサユキ
『いえ、全ては将軍が敵軍を引きつけてくれた故に出来た事。我らはただ余所見した敵に帳簿を叩きつけただけの事。』
マサユキはそう答えながらもずっとアーシェが仮面を着け続けるのか不思議で気になっていた。そしてそれは当の本人にも伝わり、アーシェはフフッと笑うと仮面を取るため手で顔を覆った。
聖竜騎士
『アーシェ様!まさか‼︎』
アーシェが仮面を取ると翡翠色の両の眼が現れ、右眼の上から鼻先と同じ高さにまで至る痛々しい大きな傷が縦に刻まれていた。
アーシェ
『…10年前私が15の頃、両親と王家の避暑地に行っていた時のことです。三年で森を散策してると手練れの5、6匹のゴブリンに襲われ、父は殺され、母は服を全て破かれた末三匹に寄ってたかって犯され、父と共に母を守る為に戦った私も敗れ、母と同じように身体全てを露わにされ、純潔を奪われそうになりました。幸い私はその前に駆けつけた近くの猟師や近衛兵達に助けられましたが、母は精神的にも肉体的にも傷つけられ、王宮を去り、王都近くの修道院に身を寄せました。私もこの傷を残され、こうして仮面をつけているのです。守れなかった愚かな自分を思い出すために。陽の光を顔一杯に浴びれなくなったあの日を忘れない為に。』
マサユキは己の好奇心を恥じた。人には必ず踏み入ってはならない場所がある。それを考えもせずズカズカと入った己が恥ずかしくなった。
マサユキ
『思い出したくないことを思い出させてしまい申し訳ありません。』
アーシェ
『構いません。大戦の後にも関わらず駆けつけてくれた勇者に対して礼をするのであれば仮面をつけるなど非礼というもの。』
マサユキ
『どうぞ仮面をお付けください。貴女には必要な筈です。私はこれで失礼致します。』
アーシェは席を立ったマサユキを大急ぎで呼び止めた。
アーシェ
『アヤセ殿!』
マサユキは驚きながら振り返った。
アーシェ
『ソフィアをどうか宜しくお願いします。私にとってあの子は姉妹の様なもの。貴方は貴方の住む世界からこちらにやってきて間もないのにあの子の為に戦ってくれたと聞き及んでいます。こうして私と私の軍のために戦ってくれた様にこれからもあの子のために戦ってください。』
マサユキは礼するとしっかり答えた。
この会談の直後アーシェ軍はメノス王国王都まで迫った。道中敵軍の抵抗は無く、進路上の村々は制圧していき、掠奪こそしなかったもののそれでも反抗的な住人は女子供も捕らえ、捕虜にした。そして王都メノスを攻囲したのである。然し敵軍は未だ領民の志願兵合わせて一万が防衛戦力として立て篭もり、容易には降伏する感じでは無かった。当然と言えば当然であった。彼らの主君は殺され、今彼らの領地は蹂躙されようとしていたのだ。
元々メノス王国はノーロット帝国の征服活動に対して臣従して帝国傘下に入っているため帝国の武力を受けなかったのだ。だからどちらかと言えば侵略者はアルトヘイム王国であり、皇帝の命と言えど彼らにしてみれば侵略される前に先制攻撃を仕掛けたことになる。
兎も角も堅牢に持ち堪えるこの城塞都市への攻め手を考えあぐねていた。アマルの様な魔導障壁こそないがこの堅牢な城壁はたやすく破れるものでは無かった。投石機で撃ち込んでも時間が掛かるのは明白であった。
アーシェは一時攻撃をやめ、包囲を続ける傍、軍議を開きメノス攻略作戦を練ることにした。かくしてアーシェの天幕には諸将が集まり意見を交わした。
将校
『ここは兵糧攻めを行い、彼奴らを干殺しにしては?』
アーシェ
『それでは罪のない民にも犠牲が出ます。彼らはアルトヘイムの民となるのです。無用な犠牲を強いては民を安んじるという陛下の意を違える事になります。』
聖龍騎士
『では攻城塔と梯子を用意して城壁に登り制圧を試みては如何か?』
文官
『アマルの故事に習うおつもりか?あれは聞いた話ではゴブリンどもの大半が都市より出た為制圧が容易であったという話であって、此度は一万の正規の軍人と反アルトヘイム王国感情に駆られた武装国民が城壁を固めて居るのですぞ?何は我らが勝ちまするが何人生き残っているか分かりませんぞ?』
マサユキ
『…ならば私に策がございます。』
アーシェと文官がマサユキの方に振り向き、将校は視線だけを向け、聖龍騎士達は嫌悪の表情を浮かべ、そっぽを向いた。
マサユキ
『我が祖国には、人は城、人は石垣、人は堀という言葉がございます。城攻めにおいて最も我らを阻むのは城壁でも魔導障壁でもなく、人なのです。団結した人間はいかなる障壁にも勝ります。城壁や障壁は物であり、いつかは壊れる。だが人は信じるものがある限り不滅。ならば人から、心から崩すのが定石。アーシェ様、私に捕虜の扱いをお任せ願いませんか?必ず敵の城門を開けて差し上げましょう。』
アーシェ
『アヤセ卿の言や良し!お任せいたしましょう。頼みましたよ?』
マサユキ
『ははぁ‼︎』
マサユキは自陣に戻ると諸将を呼び出し策を伝えた。
ガストン
『正気かよ⁉︎そんな事をすればどうなるか分かってるのか‼︎』
マシュ
『そうよ、そんな事をするなんて人間じゃないわ‼︎』
マサユキ
『人の心を崩すと決めたんだ‼︎その時から俺は人ではない鬼だ。後の反乱の芽を摘み取ることは必要だし、何より俺達の旗印は不惜身命を持って戦う事を誓うという意味だ‼︎…俺は死んだ仲間をこのまま朽ちさせる気はない、死んでも尚も戦士としてあり続けさせてやる。俺達の力としてこいつら生き続ける。』
ミシェエラ
『やろう、みんな。大将がやると言ったんだ。私たちはマサユキちゃんと地獄まで一緒に居たいからここに居るんだろう?』
ヤートン
『ガストン、戦だぞこれは。綺麗事ではやれぬし、俺達のそれ以上に殺している。今此処で躊躇えばその前に俺達が奪った命はなんだったのだと考えねばならん。』
ガストン
『兄貴…。』
アッシュ
『では宜しいか?皆準備を始めましょう。此度は新しい隊旗と我らの新しい装備の御披露目でもあるのですからね?』
皆が天幕を出る中マサユキはミシェエラを呼び止めた。
マサユキ
『ミシェエラ少し待ってくれ。』
ミシェエラ
『なーに?お姉さんに一緒に寝て欲しいの?お姉さん知らないぞ〜♡』
マサユキ
『それも悪かないけど、さっきはありがとな。助かったよ。』
ミシェエラ
『どういたしまして。で〜も…』
ミシェエラはマサユキの額を指で弾いた。弾かれたマサユキは額を抑えながら呆気に取られた。
ミシェエラ
『あまり無茶しちゃダメ。貴方は優しい子なんだからいつか限界が来て壊れちゃうんだからね?』
マサユキ
『…ああ、肝に命じておくさ。』
翌日メノス守備軍の前に奇妙な軍旗が辺り一面に立っていた。金色の丸い硬貨のようなものが6枚ありそれが二列で横に並んでいる。その硬貨の中心には四角い穴が空いている。旗の生地は紅く、誰も見たことのない軍旗であった。それを持つ赤い軍装に黒い襷も巻いた兵達がメノスを囲んでいた。そして中央から同じように赤い鎧に黒い襷を巻いた大剣を背負った騎士が出てきた。
マサユキ
『メノスの方々‼︎お初にお目にかかる!それがしは先日よりアルトヘイム国王陛下より任命された暗黒騎士アヤセ・マサユキと申す。我ら六万の攻めをたった一万で防ぐとは誠に天晴れ、されどこれを見るがいい‼︎』
マサユキが合図すると磔がいくつか現れ、そこには前の黒襷隊の軍装をつけた死骸が括り付けられていた。どれも惨たらしくなった死体であり城壁を守る兵達は嫌悪の色を示し、住民は恐れた。これは同じアルトヘイム軍でも同じ事が起こっていた。
マサユキ
『この者らは先の戦で鬼神の如く戦い貴公らの同胞に討ち取られた者達だ‼︎我が隊の信念は不惜身命‼︎これに則って戦った立派な兵達だ‼︎次のこの旗を見よ‼︎これは我が祖国に伝わる旗印だ‼︎6枚の硬貨は死後死者の世界とこの世を繋ぐ川を渡る舟に払う船賃だ‼︎これを掲げるということはもう分かるな‼︎我ら黒襷隊は全員死ぬ覚悟が出来ている‼︎道連れにしてでも敵を打つ‼︎正しくこの死体のような状態になっても戦う‼︎されど我らが総大将は貴公らに降伏を勧めておる。降るなら良し。だが忘れるな。我ら貴公らと相撃つ覚悟あり‼︎我ら四千悉く貴公ら一万をいつでもお相手致す所存。もう一度言う努努その事忘れるな‼︎』
黒襷隊将兵から雄叫びが上がり敵軍は益々不気味になってきた。こんな頭のおかしい連中と戦うのかと。然し城壁を破れぬ限りその心配は無いと胸を撫で下ろした。だがその夜。双方寝静まってくらいであろうかの深夜…突然…。
アルトヘイム軍
『エイ‼︎エイ‼︎‼︎オォォォォォ‼︎‼︎‼︎』
アルトヘイム軍
『エイ‼︎エイ‼︎‼︎オォォォォォ‼︎‼︎‼︎』
アルトヘイム軍
『エイ‼︎エイ‼︎‼︎オォォォォォ‼︎‼︎‼︎』
なんとアルトヘイム軍が勝ち鬨を揚げ始めたのだ。当然メノスに住まう人々は一人残らず叩き起こされた。そしてそれは夜が明けるまで続きアルトヘイム軍は2時間おきに三回交代で雄叫びを上げ続けた。
翌日も同じように勝ち鬨が上がり続けた。これが延々と続くかと思いきや。その夜今度はアルトヘイム軍の陣地から火の手が上がり攻め手のアルトヘイム軍は大混乱に陥ったのだ。前線の兵達は不安になったが後退の命は下らぬばかりか、黒襷隊の兵達は全く意に返さず勝ち鬨を挙げ続けている。そして思った以上に本陣の騒ぎは収まったのだ。
そして夜が明けるとメノス方はとんでもない光景を目にする事になる。
なんと王都メノスの前に大勢のメノス兵の捕虜と道中の村で反抗した為捕虜になった住人達が引きずり出されていた。中には女子供もおり、赤子を抱く母親や歳幅も行かない子供に中には聖職者まで居た。そして件の暗黒騎士が彼らの横に立っていた。
マサユキ
『よく眠れたかな?メノス方の衆らよ。この者らは昨夜我が軍の見張りの隙を突き逃げ出し、挙句放火した者達…と思っているおめでたい連中だ。この者らは我らが敢えて逃げ出させ、敢えて火を放させた事も判らぬうつけ者達よ‼︎降り、狼藉を働かねば命、財産は保障すると言うたのに此奴らはそれを放棄し我らに刃向かった。よって悉く敵と認識する!』
そう言ってマサユキは大剣を抜くと左端に立っていた兵士の首を跳ね飛ばした。捕虜達は恐怖に包まれ悲鳴をあげた特に隣にいた若い女は返り血を浴び一際大きな悲鳴をあげていた、がその娘は今度は後ろに立っていた黒襷隊の隊員にハルバードで串刺しにされ断末魔をあげ息絶えた。それを皮切りに左から兵士も子供も神父も、妊婦も、シスターも老人も、赤子を抱いた母親も、青年も、村娘も農夫も次々と殺されていった。
マサユキは惨たらしい光景と断末魔の嵐を背景に王都メノスを守る者達に続けた。
マサユキ
『先にも言ったが我らは決して敵には情けを掛けぬ‼︎このまま篭り続けるのであれば、この者らを悉く撫で斬りにした後ありとあらゆる手段を使い貴様らををこの者らのようにする故覚悟せよ‼︎‼︎』
メノスの守備兵と民はこの凄惨な殺戮劇を見ることしかできずにいた。次から次へと殺されていく捕虜達は百数十名いたのに対し、もうこの時点で二十数名になっていた。そして残り数名に差し掛かったその時見かねたアーシェが先だったか敵方の使者が先だったかマサユキを止める声が響いた。
アーシェ
『アヤセ卿もうお辞めない‼︎』
使者
『待たれよ‼︎捕虜を助命して下され‼︎我らは降る事を決めもうした‼︎』
マサユキは辞めよと、合図を送るとこの惨たらしい殺戮劇は終わった。その後使者はアーシェに降伏の意を告げる書状を渡し、アーシェもそれを認めるという意を認めた書状を使者に渡すと使者はメノスで待つ守備軍の司令官にそれを渡した。こうして王都メノス攻囲戦は終了した。両軍の犠牲が殆どないと記録されたが、当時三千人長であったアヤセ・マサユキの狂気の策で捕虜100名以上が命を落としたこの攻囲戦は今でも賛否両論で議論されている。