歴オタミリオタ介護福祉士が異世界転生して外道鬼畜と言われようと手段選ばず天下と美少女の眼差しを受け続ける退屈じゃない毎日を目指す様です。 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
かくしてメノス王国王都メノシアは開城、陥落した。アーシェは全軍の入場を命じたがマサユキ達黒襷隊はそれを拒否した。理由を問われたマサユキはこう答えた。
マサユキ
『犠牲を最小限に留める為の策とはいえ我らがこの王都の中に入れば大量虐殺者として民に恐れや怒りを招き、占領統治に支障が出兼ねません。されど殿下に彼らは怨みが有りません。寧ろ我らを入れなかったのはアーシェ様で有ると民の公言ください。さすれば大きな問題にはなりますまい。』
アーシェはマサユキ達が敢えて憎まれ役を買うという意を受け止めた。そして何故あのような事をしたのかとも問うた。マサユキは答えた。城攻めとは人の心を崩すもの。決して城壁や天守閣を潰せば終わるものではない。敵の戦意を崩す事こそ肝要であり、我々は大量の捕虜を抱えている為糧食の管理を困難になっている事、未だ我らに刃向かう気のあるものが大勢居た事。これら不安要素を抱えて包囲などすれば首になっていたのは我らの方であったと。そこでマサユキがとったのは敢えて反乱を起こしやすくし彼らが暴挙に出れば容赦無く処断し、捕虜にも守備軍にも一切の妥協を許さぬと言う姿勢を見せ、戦えば死ぬという心理を受け付けることであると。
もっともこれはマサユキの範疇を超えて起きた事でもあった。マサユキとしては起こしやすい環境を作ったものの、逃げ出したり乱痴気騒ぎを起こしたのなら引っ捕らえて兵は処刑、民は暴行を加えて敵に対しての心理的兵器にすれば良い、行動しなければそれで良し、また別の策を考えれば良いと思う程度でしか考えておらず、現にこの反乱騒ぎで武器や糧食の一部を失ったが兵の損失は無く、実はマサユキはこの世界、少なくとも中央大陸では一度も使われたことのないとある兵器をこの戦に持ち込んでおりいざとなれば有るだけ全部使って城門をこじ開けるつもりだったのだ。
だがマサユキの手の平で作り上げようとした舞台は思わぬ方向に繋がっていったのだ。乱痴気騒ぎを起こすのは兵であり民は逃げ出すだけだろうと思った。だが実際は多くの兵は王都メノスに逃げようと考えていた。だが民達は反アルトヘイム感情が高すぎて破壊工作をしようと血気に逸っていた。それに一部兵達が同調扇動した為に乱痴気騒ぎが起き、結果連帯責任として兵達は民を扇動した罪、民達は一時的な拘束でその後の生活の安全も保障したにも関わらず扇動に乗り反乱に身を投じた罪により処断しなければならなくなったのだ。マサユキの誤算としては血気に逸ったのは民の方であったということであった。
もしマサユキがそれを読めていればこの惨たらしい惨劇は起きなかっただろう。兎も角もマサユキの真の目的は反乱の芽を全て叩き潰す事であった。それはある意味成功したと言っても良い。だが禍根を残す事になったのは言うまでも無いだろう。
マサユキ
(アーシェ様なら旧メノス王国領を良く統治して下さるだろう。…情けは味方、仇は敵なり。俺にはまだ情けを掛ける余地が有ったのではないか?最初から城兵悉く撫で斬り刃向かえば民もそのようにすると脅して敵の総大将の首を持って助命するとしておけばよかったのではないか?いやそれはやはり無い。彼らの士気は高かった。処断した百数十名の命を持って敵将の、城兵という石垣を崩すことが出来たのだ。…天命とでも言うのか?我ながら人ごとのような言い訳だな綾瀬昌幸。お前は大義のため、ひいては己の為に大勢の他者を犠牲にしても良いと思う奴なのか。人間らしいといえば人間らしいがな。)
マサユキの暗い影を纏った沈黙を察したマシュはマサユキに心配そうに声を掛けた。
マシュ
『マサユキ…。』
マサユキは暫く黙った後、マシュの呼び掛けに答えた
マサユキ
『帰ろう、マシュ。俺達の任務は終わった。ここに居る意味はもう無い。』
マシュ
『………。全隊撤収する、遅れるな。』
黒襷隊が帰路に着き始めたのと同じ頃王都アルトヘイムに珍客が現れた。王宮を訪れたその者の出で立ちはターバンを巻き、踝に掛かるまで有ろうかという外套を纏い、白いシャツに茶色の太いズボンというまさしくイスラム、アラビア圏風の見た目をしていた。胸元はほのかに膨らんでいることから女である事が分かる。ターバンから青い髪が少し見え隠れしており、ターバンの上には三角形の突起物が出ていた。その少し後ろをイスラム暗殺者風の見た目をした女が付いて歩いていた。なんとその女には猫の耳がついていた。この二人組の女は猫人という東の大陸のみ存在する人種であり奇妙な事に女性しか生まれない。兎も角もこの二人組は西の大陸を統一するセパルコ朝アルサス帝国から来たのだ。現にアルサス帝国の近衛兵複数名と隊長として騎士一名がこの二人組を護衛していることからも確実である。先頭を行くイスラム風の見た目をした猫人の女は玉座の近くまで歩み、跪いた。
?
『アルトヘイム王ご機嫌麗しゅうございます。私はアルサス帝国より派遣されましたクットゥーア商会総領トウカ・クットゥーアと申します。』
フレデリック
『アルトヘイム王フレデリックである。我がアルトヘイムに何用で来られた?アルサス帝国の商人殿よ?』
トウカ
『この度、我らが偉大なるスルタンよりアルトヘイム王国と我が帝国との間に通商協定を結びたいと承りその全権を我がクットゥーア商会に一任されましたのでそのご挨拶に参りました。先ずは我が帝国からの贈り物、というより商品をご覧下さい。』
大商人トウカが取り出したのは鉄の筒を木材で囲い、鉄の筒の背後には火打ち石がついたハンマー型の謎の飾りのようなものが付いており、クロスボウに見た目が似てる事もあり兎に角武器である事は分かるが誰も目にしたことが無い物であったのだ。
ホルサス
『これは如何様に使うものかな?』
トウカ
『お見せしましょう。キル、鉄の板を。』
キルと呼ばれた黒い不思議な装束を着た女は無言で頷くと鉄の板を取り出し、それを木偶に取り付けた。トウカは使い方をアルトヘイム王国の面々に実演販売の如く説明しながらやってみせた。
先ず鉛の弾とこの火薬と呼ばれる薬剤が入った紙袋を噛みちぎり、先端の口に入れる。それを鉄の筒の下に付いている棒で奥まで詰める。次にこの火打ち石がついたハンマー状の飾り、撃鉄と呼ばれるものを少し引き上げる。次に撃鉄の前に付いたカバーを開け、火皿と呼ばれる小さな窪みに火薬を少し入れる。そして蓋をする。撃鉄をもう一回引き上げる。下に付いている引き金を引く。火打ち石がカバーと、擦れ火花が生まれ、着火用の火薬に引火して中の装薬にも引火し爆発、球が打ち出される。
と言い終わった瞬間!轟音が王宮の広間内に響き渡り、居並ぶ貴族達は驚き、王妃は悲鳴をあげ、耳を塞ぎ、ホルサスとフレデリックはその衝撃に囚われ、ソフィアは新たな時代の幕開けを感じ取っていた。
かくして撃たれた鉄板は見事に穴が空いており、そこそこ厚みのある重装騎士や重装歩兵クラスの鎧にも匹敵する程の厚さの鉄板が簡単に撃ち抜かれていることからも驚愕の声が止まることを知らず溢れ出した。
トウカ
『このトゥフェケラーシュ、東洋のオリエント大陸では鉄砲、火打ち石銃、そちらの言葉ではマスケット銃というのでしょうか?それをここに五千挺用意しております。これを無償で差し上げます。』
フレデリック
『ほうマスケット銃と言うのか、これがあれば剣も弓も槍も要らなくなり、騎士の時代は終わるであろうな。』
トウカ
『然し当然ですが条件がございます‼︎これは商談なのですから、本来であればそのトゥフェケラーシュも五千挺分の料金を戴く所なのですよ。』
ホルサス
『無償と言うからには欲する物は金銭では無いな。貴公らの条件を聞こう。』
トウカ
『我が偉大なるスルターンはこの中央大陸の非帝国領に於いて力を持つであろう五つの勢力、貴国と教皇庁、海洋国家サン・モシャス、商業王国ハドシア、そしてこの4国の中間に位置するハシューモス大森林に位置するエルフの国エルフラーシュ王国。この五強国とその他諸侯による連合を形成し、帝国に対し一大反攻作戦を行おうとアルトヘイム王国が画策していると睨んでおります。』
その発言にフレデリックとホルサスは恐怖を感じた。流石は西方の大陸を支配する大帝国、こちらの動きは予測済みであったかと。
トウカ
『この連合を取りまとめるのも間違いなくアルトヘイム王国である。そのアルトヘイム王国に対して偉大なるスルターンはこのトゥフェケラーシュの代金の代わりとして取り付けたい約定があり、それを守って頂きたいと仰せでありました。その約定は、現在我が帝国のノーロットの西方、つまり荒野地帯の西端の海岸線沿い全てを侵攻しましたがそれ以上は現状では叶いませんでした。しかし東方から兵が上がれば話は別、戦力を割いたノーロット帝国であれば我が軍でも充分に戦える。荒野地帯と草原平野地達の境目、第六都市ナバスアレンまで、つまり帝国領の四割に当たる地域の切り取り次第、ないしは占領した暁には無償に我が国に引き渡して頂きたい。』
寧ろぼったくりを食らっているのでは無いかと皆は思った。だがホルサスは仮に帝国を倒したとしてもその後の占領政策に不安を抱えていた。それは今トウカが提示した荒野地帯の都市や町はノーロット帝国よりと言うよりもアルサス帝国よりであり、幾度か占領されていることから彼らの信仰宗教は女神教ではなくアルサス教であるのが問題であった。ただでさえ敵国に占領されたのに更には自分達とは違う宗教を信仰していると言うマイナス要素にマイナス要素を足す状況下で占領など兵が幾ら居ても足りず、恐らく占領した領土全てを陸続きにする事は不可能である事もあり王都から離れれば離れるほど管理が不可能になる。つまり反乱が起きやすくなると言う事を懸念していた。いやそれよりも問題なのはこの大帝国の助力を得られない状態になる事をホルサスは恐れていた。最悪タダ働きをしなければならないかも知れない。それでもアルサス帝国の助力が叶えば勝機が確実に見える。ホルサスはそれを飲む旨をフレデリックに伝え、フレデリックもまた同じ考えであることを伝えた。
ホルサス
『相分かった。約束しよう。しかし一つ聞かせてくれ。なぜ我が国なのだ?別段他国でも同じ条件で交渉に出向いても良かった筈だ。』
トウカ
『それはアルトヘイム王国が最も占領するであろう領土が多いと睨んでいるからです。アルトヘイム、エルフラーシュ、ハドシアはそれぞれ帝国に対して国門があり、陸続きになるますので確実に多く領有するでしょうし、サン・モシャスは海洋国家の強みを生かし、海岸線の領土を取得していくでしょう。教皇庁もサン・モシャス程では無いにしても海に面しておりますので海から進軍するでしょうが、それよりも教皇が我に従えと言えば敬虔な信徒の多いノーロット人が住まう都市や街は皆教皇庁に味方するので戦わずして領土を得られるでしょう。だがアルトヘイム王国が他国にない強みがある。それは帝都ノーロットと向かうまで他の有力都市や街がその道中に存在し、国力を多く取得出来るだけでなく帝都に最も早くたどり着くのもアルトヘイムであるからです。強力な騎馬軍団を保有し、歩兵は20年程前より弱体化すれど有力な将の元で戦えば恐らく往時の強さを取り戻すだけの素質と可能性を秘めております。スルターンは貴国軍の強さを良くご存知です。20年前の帝国の征服運動に対して周囲全て囲まれても最後まで屈さず所領を守りきった事は我が帝国に伝わっております。それにフレデリック陛下と宰相殿は帝国滅亡後の事もお考えでは無いでしょうか?』
二人は沈黙をもって返したがそれが答えでもあった。トウカはニヤリと笑うとそのまま続けた。
トウカ
『スルターンは帝国に対しての反抗よりも帝国滅亡後の五大国の戦にこそ価値があるとお考えです。そして願わくばそれを制して欲しいのはアルトヘイム王国である。そうお考えなのです。どうか我らの期待を裏切らないでくださいませ。』
フレデリック
『期待に添えるかは分からないが、我らとしてもアルサス帝国の力を借りたいのは事実だ。これからも良き繋がりを持てると良いな。衛兵!この方々を晩餐室にお送りしろ。今宵は宴を開く故ごゆるりとなさるが良かろう。』
トウカ
『ありがたき幸せに存じますが、時は金なり、次の商談が有りますので残念ですがお暇させていただきます。』
そう言ってこのなにもかも見透かした西方の大国の使者は去った。残されたの呆然と立つ貴族や武官や文官。疲れ切った顔の王家の面々や宰相と五千挺のマスケットが入った箱であった。暫く大広間に沈黙が流れたがその流れを破ったのはホルサスであった。
ホルサス
『陛下、恐らくアルサス帝国は我らに使者を派遣した様に他国にも使者を派遣していると思われます。同じ様に鉄砲を渡し、似たような内容で取引したと考えられます。行動されるのであれば早い方が宜しいかと。』
フレデリック
『そうだな、この兵器の登場でこの大陸には革新が広がる事だろう。たしかサン・モシャスは似たような構造の攻城兵器を作ろうとしていたが難航していたと聞く。だが火薬の登場で形になってしまうかもしれん、まだ互いの力が拮抗している間に盟を成すとしよう。』
西方よりもたらされた兵器は中央大陸の各国にそれぞれの利益や革新を促し、中央大陸の行く末に大きく起因していくだった。
そしてこの日よりマサユキは火薬のもたらす硝煙の烟る戦場の覇者になる道を歩く事になっていくのである。