ホラ食えよ、新鮮な変態ぽんこつ人形だぞ。
第一話
「アンタラうんうん唸ってるけど、何してんの?」
オッサン二人が俺に振り向いた。
指揮官の実戦形式のテストかなんかだと言ってペアを組めと言われたのだが、俺は見事に余っている。日本人顔はもう少ないからね敬遠されても仕方ないね。
此方のお二人も日本人顔だ。
一人は随分目付きが悪い。年は食っているようだがどうにも食えない表情の気がするし、でも警戒に値しない程度の人柄にも見える。総評して胡散臭い、警戒はしないが信用もできない感じ。
もう一人は堅物オブ堅物。見た目こそ大して特徴のある感じではないけど背筋の伸びた感じとか、足元も横の方に比べてしっかりとしていて重々しいのが硬っ苦しい。
横のはボクサーかってぐらい地に足の付いてない感じで対照的どころじゃない、何でアンタラが組むことになってるんだ。
「うん? いや何となく俺が目をつけてペア組んだわけだが、なーんか協力して上手く行くビジョンが出てこないのよな」
胡散臭い方が困ったようにヘラヘラ笑う。何わろとんねん、笑えないが?
結構深刻な問題だと思うんですけど、とはいえペア余りも見つけれてない俺が言うのもアレだな。
堅物な方が真顔で俺に尋ねる。
「不躾な申し出なのは理解しているのだが、案が有れば教えてもらえるだろうか?」
「え? ええ、まず特技は?」
二人は顎に手を当てると考え込みだす、仕草は似ても似つかない。
「俺はな、畳返しとかダミー作るのとか出来るぞ」
「撃ち合いには少し自信がある」
えげつなく噛み合わないんだなアンタ達は。逃げ寄りと攻め寄りとかそういう次元じゃないんですが。
どう見ても絶望的な組み方に憐れみさえ感じるのはともかくだな、嘆いたって状況は好転しない。質問を重ねてみれば何からしい着地点とか有るんじゃないか?
「今回はどう乗り切る?」
「正面突破は無理無理、どれだけ上手く躱すか考えてるなあ」
「障害は撃って倒す。が、今回は拳銃のみなので適宜、人形から拝借させてもらう」
また駄目だ。
「じゃ、じゃあ今回一番大事なことは?」
「そりゃ人形とぶつからないことだろ」
「必要に応じて銃撃戦に対応し、人形と対抗出来ること」
駄目だ。
「と、隣のやつには何を求めてる?」
「誤魔化し方を考えて欲しい」
「人形の身体的欠点を考えて欲しい」
質問、やはり駄目。質問、まだ駄目、質問、どうしても駄目。質問、未だに駄目。
やけっぱちになるわこんなん。
「そうですか!? じゃあもう二手に分かれて各自で好きにやれよ、俺には分からん!?」
『成る程、その手があった』
「マジかよアンタラ!?」
ガバリと羽毛の布団から起き上がった。見知った天井にホッと溜息、あのままあの地獄をまたリピートされていたら俺は少なくとも三回は精神的に死んでる。あのイカレ中年達についていったら俺は胃と眉間と鼻に穴が開くぞ――――――いや二個ぐらい元から開いてたな。
額の冷や汗を拭って窓側に急いで目線を向ける、登る朝日がカーテン越しに薄く移って軽く一安心。
俺は今日も指揮官だ。あの日の悪夢は随分としつこいようだが、現実ではアレより辛うじてマシなのである。
「おはよう、指揮官。平均より3分14秒遅い出勤だけど、体調でも悪いのかしら?」
六芒星の髪留め煌めくピンク髪、ネゲヴとばったり出くわす。扉を開けたら目の前に居るんだ、これはもしや出くわすと言うより待ち伏せなのでは?
ちょっと過った嫌な予想は頭を振って、二酸化炭素と一緒に口からサヨウナラ。何時も通り愛想笑いで俺は少し不満げな彼女の機嫌を取っていく。
「まずはおはよう。昨日寝るのがちょっと遅かっただけだっての、っていうか平均取るなよ」
「何で?」
「何でもへちまもねえよ」
お前に欠けているのはプロフェッショナルの流儀でもなければ実力でもない、一般的な倫理観だ。
「お前は心配性なんだよ、アイムグレイツ!」
「…………英語、絶望的に下手よね」
「やかましい」
笑うんじゃねえ。痛いところばかり突いてきやがって。
「健康管理だってプロに必要な能力でしょ、指揮官はもっとどういうモノを振り回してるのか理解して生活して欲しいわ」
また説教が始まった。ネゲヴは此処で俺と仕事をし始めてからずっとこんな感じで、俺に常に「指揮官たる振る舞いと規律」的なサムシングを要求してくる。
俺はどうでも良いけどな。大事なのは食い扶持に困らないことと、ついでに言えば拾ってもらった恩を返すことだけだし。
「あーあーそうですか、じゃあプロフェッショナルなネゲヴ先生が俺を管理すれば良いんじゃないんですか~?」
俺は煽るつもりで言ったのに、何とネゲヴが目を見開いて半狂乱じみたニヤケづらで迫ってくる。
「え。いいの!?」
「良いわけねえだろ変態ピンク髪」
冗談なら冗談って言ってよ、と拗ねたような口調で何故か俺が怒られた。ソッチが九割九分悪いと思うんですけど。
こんな調子では何時まで経っても仕事に向かえない。歩くよう誘導する。
「それはともかくだな、どうせだしネゲヴは分かってんだろ? 不調を訴えてる人形は」
「居ないわ」
「禁断症状で俺を要求するアホの子は」
「いっぱい居たわね」
「やる気は」
「皆有るに決まってるじゃない、バカにしてるの?」
「完璧だウォルター、ところでどうして俺を要求してるやつが居るんだ」
知らないわよ、とお門違いの非難に不満げに目を細める。でもそれおかしいよ、上官って普通は鬱陶しくて顔を合わせると仕事だなあってなって無性にどくさいスイッチ使いたくなる存在のはずなんだけど違うの?
知らぬ間についた。自動扉をくぐる。
「指揮官さん、お早う御座います」
テーブルの上に散らかした書類を一纏めにしているKar98kが、俺を見るなりにこやかに挨拶。育ちの良いAI設計だからか、仕草も俺に比べて圧倒的に整ったものだ。
一方俺は首をヘコヘコするぐらいの雑な挨拶。育ち悪いからな、言い訳じゃないぞ。
「あ、お早う御座います。相変わらず早い」
「朝食、テーブルに置いてありますからね」
Karの言う通り、使い所さんを見失った客用のテーブルに朝食が置いてある。パン、ソーセージ、スクランブルエッグ、珈琲。俺は随分優雅な身分になったらしい、横にピンクストーカーが居るとは思えねえ。
数少ない俺の平穏を切り崩しにかかるネゲヴ。今日も今日とてKarに絡む。
「何正妻ヅラしてるのよ、朝っぱらから食事も献身欲も重いわね」
あからさま極まってギャグに片足を突っ込んだ嫌味、反撃と言わんばかりにKarが口に手を当てると小さく嘲笑して俺の方に視線を誘導した。
「指揮官さんはそう思っていらっしゃらないようですけど?」
「めっちゃ食いたい」
思わず口元の緩む俺を見てネゲヴが見捨てられた子犬のような表情で何かを訴えかけてくる。いや、だってなあ…………。
ネゲヴが突っかかっていたKarなど放り投げて俺の脇腹を掴んで揺らす。いや~あんまり無い肉を抓られていてえ、いてえ…………。
「マジで痛くなってきた、やめて」
「朝から「私できる女ですよ」オーラを出してるこのドイツ女の何が良いっていうの!? 私じゃ駄目なの!?」
目が潤むのではないかと言うと悲しげなネゲヴに意地の悪いスマイルでKarが追撃。
「まあ正妻力の差というものでしてよ、ネゲヴさん。ねー、指揮官さん!」
「いや俺は腹減っただけなんだけどどうしたら良いの」
ねーじゃねえよ、俺は今腹が減ってるだけだわ。正妻力が勝ってるとか一言も言ってねえよ。
胸を張っていたKarが何故、と言わんばかりに不思議そうな顔で俺を見て固まる。ネゲヴ先生が勢いづいて煽りだす、アンタラ朝から元気ですね。
もういつものこととは言え、よくもうちの人形はこうすぐに揉めてくれるものだ。
「ほぉら、やっぱり。たかだか三大欲求を手に取った如きで調子に乗らないことね、これだから古臭いボルトアクションは困るわ」
「言ってくれますね。副官に任命されたこともないのに朝から待ち伏せして、あろうことか起床時間までちゃっかり記録しちゃってるド変態マシンガンのネゲヴさん?」
そう、そうだったよ。今忘れそうだったわ。
今日の副官は一応Karだ、ネゲヴは副官でもないのに俺の体調管理までやってのけようとしていたわけである。そういうのはちょっと…………。
オリハルコンメンタルなネゲヴは負けじとニヤついて言い返す。
「だらしない指揮官を放ったらかしにしてるから、代わりにやってあげてるんじゃない」
「朝から五月蝿いよこの姑の方々…………」
俺の妻役が不在のまま、姑の嫁いびりみたいなのが繰り広げられていくが俺は蚊帳の外。もうそのまま二人で外行ってくれない? 俺は一人で飯食うからさ。
とはいえネゲヴが副官になれないのはこのヤバイ感じにある。変に任せてみろ、何か勘違いして俺の私物を物色しだしかねない。
というかこの前合鍵持ってた。どうやったんだ、俺は聞くのも怖い。
「えーっと、取り敢えず飯食うからネゲヴは帰ろうな」
「指揮官、この女は危険よ。私が居ないと大変なことになる」
ネゲヴが凄い剣幕で俺の襟首を掴んで揺らしてくる。
「お前が居ても居なくても俺の身の周りは大変なことになるから。ほら、腹減っただろ? 別に俺は最低限のことは出来るから、な?」
俺の目をじっと見て何かを訴えかけてくるが、意見変わるわけないんだよなあ。腹減ってるのはお互い事実。ついでに言うとお前の横とか斜めとかで食事したくない。
という視線を送り返すと、襟首を投げるように離すと手を組んで捲し立てる。
「…………分かった。何か有ったらすぐ呼びなさい、良い?」
「はいはい。大抵は自力でなんとかすらぁ」
ってか食堂へ行け。
さて。ようやく退場してくれたネゲヴ大先生に大変な御礼を心中で申し上げつつ、俺はソファに座って朝食を眺める。
改めて見ても中々の出来だ。お嬢様風味な人形だから家事はポンコツかと思っていたぞ。
「ふぅ、飯だ飯…………そういえばこれってKarの手作り?」
「そうですよ」
「つよい。じゃあいただこうかな」
そう言って俺が食器に手を付けようとすると、何処と無く妖しい笑みを浮かべたKarが俺の手を制すると珈琲を差し出す。
「彼女に絡まれて何も飲んでいないのではなくて? そう急がなくても、寝坊したわけでもありませんし」
「うーむ、それもそうだな。作りたてにはちょいと悪いが、まずは珈琲で一服…………」
コーヒーカップを手に取る時の、Karの妙な熱視線が引っかかった。
――何だ、俺の直感が「これを飲むな」と言ってるんだが。
珈琲を見てみるが見た目は何も変わりない。問題は俺が覗き込んだ時、Karがちょっとだけ笑い方にぎこちなさが視えたこと。
俺の直感は大抵当たる。突いてみるか。
「何か入ってないかこれ」
「ま、まさか」
苦笑い。あやしい。
一旦カップを置こうとすると、Karは万力みたいな力で俺の手を掴むと口元まで持っていく。笑顔が胡散臭いことこの上ない。
「………………この手は何ですかね」
「ほ、ほらぁ? 取り敢えず飲んで一息つけばいいじゃないですか。ホットですもの、温かい内に是非!?」
これはヤバイやつだ。途中からKarの目が肉食動物が獲物を見ているソレだった、殺される。
咄嗟にコーヒーカップを無理くり置いて逃げようとすると、手を引っ張られてつんのめる。
後ろにずっこけたかと思うと流れるようにKarが俺に覆い被さってくる。
「うお!?」
「仕方ありません、これは実力行使するしかありませんね」
「――――――はい?」
そう言うと見たことのない速度でサッシュベルトを投げ捨ててチャールストンのボタンを外し始めるKar。待て、待つんだ。
「何入れてたんだよアレ!?」
「それは些末な問題です、大事なのは今から既成事実が生まれるという結果ですわ」
「何を言ってるんだこの変態ドイツライフル!?」
Karが頬を上気させて明らかにメスの顔をしながら俺を抑えつけようとする、ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
コイツひょっとしなくてもこのまま勢いで俺のソレをアレしてドールズフロントラインをおっぱじめる気じゃねえか。サービスは永遠に延期だ馬鹿野郎!
――何か無いか、手は。無いか…………いや、有る。かもしれない。
咄嗟に空いた手で外を指差す。
「あっ! あんな所にZF41が落ちてる!」
「え!? 本当ですか!?」
あるわけねえだろ、バカめ! 一瞬目線を逸らした隙に手を払い除けて扉に猛ダッシュ。
開けたら閉めましょうの精神で扉を投げつけるように閉めようとすると、えげつない勢いで制服の裾に食らいついてきたKarの細い手首が扉にがっちり噛みつかれる。
「お、おい! 大丈夫なのかよってか離せ、離せぇ!」
「この程度で諦められるなら、私は戦術人形になんてなっていませんのよ!?」
お前のその根性は戦場で存分に発揮してどうぞ、引っ張られていたコートを脱ぎ捨てて駆け抜ける。
すぐさま扉が開いた音、振り向かずに全力疾走ですね逃げろ。
「一体何を心配しているのですか指揮官さん! 私、優しく手解きしてあげますよ!?」
「はぁ!? 違うわそうじゃねえ、助けてウェルえも~ん!」
半狂乱に我らが救世主ウェルロッドの名前を呼ぶ。とはいえアイツが幾らいつもストッパー役でも朝も早けりゃ今日は会えてない、来るわけが――――――。
がたん。通り過ぎた天井のダクトが外れる音とともに黒い何かが着地する。
「私はウェルロッドです――――――ふっ、決まりましたね」
何かそれっぽいポーズを決めて一人でニヤニヤしてる。お前も最近ちょっと変だよね。
とはいえ救世主は救世主だ。縋るならウェルロッド、はっきり分かんだね。
「マジかよ。流石ウェルえもん」
しかし何でダクトにいるんだ、何で俺のそばにずっと居たんだ、謎しかないけどもうお前しか居ない。
「頼んだ!」
「了解。指揮官の命に従い救援任務を遂行します」
そう言いながらKarをあっという間に組み伏せたウェルロッドは、何処かの特殊組織顔負けのスーパーアクションをして見せていた。
この後俺の部屋の方から走ってきたネゲヴとまた一悶着有ったりしたのだが、取り敢えずウェルロッド何時から居たのかという問題から解決していく所存だ。
――という訳で。最近鉄血が騒がしい俺達の最前線、S09地区。
あろうことか此処は身内同士ですら騒がしいというのが今回のオチということになる。俺の敵は鉄血なのかI.O.Pなのか、最近本気でちょっと分からなくなってきた。
P氏とB氏に土下座して許可をもらってきました(大嘘)。普通に頼んで普通に書いた。
見た目の描写とかが事実かどうか、辺りはご想像におまかせします。俺は割と好き勝手書くからね。
ネゲヴが統計型依存スペシャリストになったし、Karは変態ヤンデレ一服盛りやガールになった。あらすじだけ渡してアドリブに任せたのが原因か。