前線異常あり   作:杜甫kuresu

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自分で書いたくせにこんな事言うのはおかしいと思うんですが、この話を書いたのが本当にノンケの男ならソイツ多分頭がおかしいです。

俺は多分頭がおかしい。


第五話

 ジェロニモは、未だ葛藤していた。

 

「ジェ、ジェロニモ先輩強すぎねえか…………ッ!?」

「そ、そうだな。何か、ツイてるらしい」

 

 ジェロニモ、そう渾名を付けられた彼が出したグーに対して、面食らっている青年のチョキが虚しく視界を蝕んでいる。

 彼が野球拳をしている相手はスコープという渾名が付けられている。素晴らしい狙撃の腕だとかで、人形が指揮官に与える渾名すらもがオプションパーツの名を関するほどならば、彼の腕を一度見てみたい――――と思っていた時期もあった。

 今では懺悔と守るべきものへの使命感がせめぎ合う拷問を生み出す人物記号に過ぎない。

 

 極東出身の黒髪黒目の色男、それも自分より一回り年下のスコープは酒を飲んだとは言え上半身は裸で、ズボンだけという有様。慄く格闘家スタイルの彼に対して、後ろから酷い顔をしたKar98kが忍び寄る。

 

「いやあ? 俺達だってこんな事はしたくないが『ルール』、だからなぁ? Kar君?」

 

 息巻くKarの後ろで煽る悪人面。ブラック労働で顔が青ざめているだとか、リトルグレイみたいだとかでグレイと呼ばれていた男だ。スコープは灰鼠と呼んでいて、妙に仲は悪そうである。

 とはいえ灰鼠は労働環境に耐えかねた脱走経歴持ちで、今は用務員だ。実はスコープの担当区域の先輩で、そして用務員というなんとも奇妙な関係性。しかし何故彼が招かれているのかはジェロニモにもよく分からない。

 

 Karが快楽に火照り歪みきったひどい顔で頷く。

 

「ええ…………ルールですから……」

「Karさん!? アンタ声が上ずってますけど――――――ヒィ!?」

 

 ひたりとKarがズボンの中に指を滑り込ませると、スコープが怖気だったようにビクリとする。脱がし方が妙に艶めかしいのがトラウマになったらしい、哀れなことだ。

 

「指揮官さぁん、あまり力を入れられると脱がせませんよぉ…………」

「お、おいアンタ手付きおかしいだろ!? あっ、やっ――――――――何処触ってんだっ、この変態ライフル!?」

 

 ひえっ、と情けない声を上げるスコープから目を逸らす。ふと目線が合ったシャッターを切る自分の基地のKar98kが、スコープのKar98kと同類の匂いがして鳥肌すら立ちそうだ。そう言えば彼も一服盛られたと言っていた。

 

 恐ろしいことにこの野球拳、本来は脱がす役は一枚で交代するのだが――――――彼の人形は「何故か」Kar以外不在である。というか彼の酷い有様に顔を赤らめて手で覆うネゲヴや、何か悟ったように目をつむって観察しているダネルは確か彼の人形なのだが、Karの圧力に気圧されて出ることが出来ないらしい。

 

 同じ指揮官として実に哀れに思う。しかしジェロニモの後ろで

 

「あわわわわ」

 

 と言うばかりの次の自分の脱がし役、WA2000を思うとその酷い様を見ていることしか出来ない。

 漸く終わった脱衣の後、息を荒くしたスコープはニヤリとして伽藍堂の瞳をまるで手負いの鷹のように鋭く光らせた。裸一貫とは思えない眩しさだ――――――だがパンイチである。

 

 そう言えば思案の最中に男の喘ぎ声がした気がするが、一体どういう了見なのだろう。ジェロニモには分からないし分かりたくもない。大体肌着を脱がすぐらいで喘がせるアチラのKarのド変態っぷりは字面で理解できていても概念として理解したくはなかった。

 

「やってくれますね…………次こそはネタを暴いて俺が勝ちます」

「ははは…………種も仕掛けもございませんってな」

 

 その主人公さながらの懸命さに、ジェロニモは彼と出会ったときのことを思い出す。

 

 彼は指揮官の中でも比較的若いほうで、ジェロニモとも少し年の差が有った。

 しかしある任務で一緒になったスコープは、ジェロニモにフランクながら敬意を持って接する好青年としての姿をまざまざと見せつけた。

 

『あのオッサン達に比べたらジェロニモ先輩はすげえマトモだし、俺尊敬してるんですよ!』

 

 朗らかな笑顔を思い出す毎に心が痛むがもう遅い。ジェロニモにはWA2000を守る使命があるのだ、これは例え軽蔑されようとも守るべきものの一つだ。

 

 それにこれまでだって多くのドラマが有った。服を脱がされることに怯えるもの、何故か喜ぶもの、ランナーズハイで狂うもの、ジェロニモはその勇姿を見届け、そして此処に立っている。

 手加減は出来ない。それがたとえ、スコープの後ろから出るサインに操られた出来レースだとしても。

 

「指揮官さん、意外と可愛い声で啼くんですね…………私は好きです」

「ネタを暴かないと俺は精神的にも社会的にも死んでしまう!? 負けられねえなオイ!?」

 

 ジェロニモも流石に負けてやるべきか一瞬迷った。迷っただけ、もう止まれない。

 

――というか、あのKarは何者なんだ。

 ふと考え込む。後ろのKarは必ず次にスコープの出す手が分かっている、いつもジェロニモに予めサインを出していた。

 最初はKarがニコニコとして見せてくるチョキやらパーやらはただの盛り上げだと思っていたのだが、三回連続で彼と一致して今も参考にすれば三連勝、もうどういうモノかは明らかだ。

 

 彼のところのネゲヴは起床時間まで統計を取る統計バカだったと聞いたが、もしや――――――野次馬のネゲヴと目を合わせ、逸らされたことで全てを察する。

 

 灰鼠は単純にスコープを煽って遊びたいだけのようだ。捻りのないクズである。

 

「いやあ弱いなあスコープくぅん! どうしたの、今日は調子悪いのかな~?」

「うるっせえ鼠野郎! アンタがイカサマしてんじゃねえだろうな!?」

 

 ガバリと振り向き怒号を散らすスコープに、灰鼠はうわ~とニヤニヤして煽り続ける。

 

「負けが込んでるくらいで人がインチキしてるとか言いがかりつけてるよコイツ、大人として恥ずかしくないんですかね? ああ悪い悪い、狙撃ばっかりしてるから頭は中学生ぐらいだったか?」

「クッソォ、ぶっちゃけ反論できねえ! ってか誰が中学生だこの野郎!?」

 

 灰鼠は一瞬だけ普通に笑った、何だかんだただ嫌いというわけでもないらしい。

 

 一頻り口論は終わったのか、スコープはジェロニモにキッと目を合わせると構える。

 

「…………ごちゃごちゃ言っても仕方ないかぁ――――さて、やりますか」

「――――――そうか。お前も決意固めたんだな」

「そりゃそうですよ。俺はジェロニモ先輩をひん剥いて、この後ろのおっそろしい変態女の羞恥プレイから逃げてみせる」

 

 どこまでもヒロイックな言動にイカサマまみれの自分をジェロニモは少し恥じた。しかし彼の縦縞のパンツを見ればそんな恥じる感情も失せた、明日は我が身とはこの事。

 そして眼の前のイケメン、かなりかっこいい感じで啖呵を切ってみせたのだが…………しかしパンイチである。

 

 司会を務めるジェロニモのスコーピオンが煽り文句を入れて盛り上げていく。

 

「さあさあ、あたしの指揮官は何処まで頑張ってくれるのかな!? それじゃ――――――」

 

 

 

「アウト――――――ッ」

 

 

 

「セーフ――――――――ッ!」

 

 

 

『よよいのよい――――――――ッ!』

 

 

 

 スコープは、そして全裸になった。

 Karのテクニックは見事なもので(よくわからないがアレは間違いなくテクニックだ、それだけはハッキリしている)、結果として彼が出してしまった残念極まりない声はジェロニモのKar98kが録音した後、スコープの基地内で高値で売り買いされていると後日ジェロニモは聞いた。

 

 それからジェロニモは時々自棄酒に付き合って奢ってやっている。その理由を推し量れるものは今は少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人共、大変だったようだな」

「「全くだよ…………」」

 

 ゲッソリとしたスコープとジェロニモは服を着込んだはずなのに顔が青褪めている。まあアレは言うなら蠱毒みたいなもので、生き残っても生き残らなくても呪いが残るものだろう。

 

 ホクホク顔の脱がし役だったKarだが――――――正直、久しぶりに恐ろしいと感じる。あまり顔を向けたくはない。

 許されるなら席を変えたいが、彼を放置するのも忍びないので逃げれなかった。

 

 しっかりとスコープの右腕に張り付いたソレからは目を逸らし、軽い慰め。

 

「とはいえ煽ってばかりの鼠もしっかりと脱がされた辺り、結果的にはまあ互角といった所だろう――――――――件の鼠は何処だ」

 

 ジェロニモが酒をぐいと一気飲みすると、グラスをそっと置いて神妙な顔で答えた。

 

「彼なら45達に拉致――――――コホンッ! 連れて行かれてたよ、俺は止められなかったが悪くないだろアレはさあ」

 

 ジェロニモの苦笑いに頷いておく、彼も多少は灸を据えられておくべきだろう。私の事を「相棒」なんて調子のいい呼び方をしているが、面倒事を押し付けてくる性分には変わりない。

 堪えきれんとばかりに大きく高笑いしだしたスコープが急に呻いた、見たくはないのだが…………やはり。

 

 胡乱な目をしたKarが彼の右腕を締め上げている。密着も厭わない積極性はもしかすれば褒めるべき点かもしれないが、スコープの死にそうな顔を見ていると居た堪れなさが上回る。

 

「痛い、痛いです!?」

「今日ぐらい私に夢中になってください! せっかくの祝い事なんですから――――――ね?」

 

 私でも分かる色目を使うKarに、心底不快そうに顔を歪める彼には感嘆すら覚える。私はそこまで徹底できるか分からない。

 

「ペティさん助けて。この変態女、この程度で俺が一夜の過ちを犯すと思ってるんだけど」

「過ちじゃありません、必要なスキンシップですよ?」

「ほらこんな事言ってる」

 

 鮮血色の蕩けた目つきに化物でも見たような怖気だった顔で返すスコープだが、様々な経緯を勘定に入れても中々な忍耐力だろう。

 性格は、まあアレなのだろうが見目だけなら若い君にとっては魅力的だろうに。

 

 ペティ・オフィサーというのが私の渾名らしい。理由は興味が無いから聞いていないが、鼠と彼はよく「ペティ」と雑に略す、かなり失礼な意味になるが分かっていないらしい。別に怒ることもないが、これで友好的なつもりなのは如何なものか。

 二人はそういう大雑把で面倒くさがりな所は似ている、仲はかなり悪いようだが。

 

「私には対応しかねる、他を当たってくれ」

「頼れるのはアンタだけなんだ、頼むよ!」

「…………」

 

 どうしたものか、付き添いのトンプソンに目線でレスキューを要請する。

 んー、と酒臭い息が顔に掛かる。距離が近い…………まあ、滅多にない息抜きだ。今日ぐらいは我慢するとしよう。

 

「ボスは男にもモテモテだな―、助けてやれよ。男の価値は身内の危機でこそ試されてんだぜ~?」

「いや、手段が思いつかない」

 

 おや、と目を見開くとトンプソンが壊れたくるみ人形のようにカタカタ笑う。

 

「ああ、そういうのか! 意外だな、女絡みは手慣れてるもんだと思ってたんだが」

「…………? そんな事はない、が」

「ふ~ん――――――いや皆まで言うなって、ボスは悪い男だなぁ!」

 

 何故だ?

 トンプソンは笑いっぱなしに席を立つと、そのまま違う人形の方に雪崩込んでいく。後で謝っておかなくては、彼女は酒が入ると他所にとっては迷惑極まりないだろう。

 

 よく分からないままに本題に戻ってくる。

 

「そもそも、そちらのKar98kはどうしてそこまで君に拘っているんだ」

「分からん。コイツ多分頭おかしいんですよ」

「酷いですわ!」

 

 Karが私の方を睨んできた、何故? 今日は良く分からないことばかりだ。

 

「ペティさん!」

 

 君もそう略すのか、まあ良い。

 

「あなたは根本的に間違えています、好き嫌いに理由があるわけ無いでしょう!」

 

 それはそうだ、盲点だった。

 好悪に理屈が付けられないのは2062年でも変わらないのだったか、まあ解明される日も来ないのは見えているのだが。

 

「そうだな、すまない。つまらない質問をしてしまったようだ」

「いえいえ、あなたは好きです」

「都合の良い好きだぞペティさん、騙されんなよ!?」

 

 別に騙されては居ない。体よく逃げようとしているだけだ、鼠の気持ちも今なら分かる。世の中には逃げるべき事柄というのは確かに有るらしい、少なくとも今がそうだ。

 

 既に引き気味の私にスコープが血走った目つきで捲し立てる。

 

「それは良いからマジで助けて!?」

「すまない。やはり対応しかねる、二人で楽しんでおいてくれ――――――私は他の人形の様子を見てこよう」

「裏切り者め! やっぱ堅物ゴリラじゃねえか! ジェロニモ先輩助けて!」

 

 どんな謗りも受けよう、どちらにせよ私ではどうしようもない案件だ。

 当然のことだが、私の次に頼られたジェロニモも

 

「いや~、俺には手出ししかねる。お前は良い女性に恵まれたな、幸せな結婚生活の報告とかを聞いて安心できる日を待ちかねておくよ」

 

 とかなり無情な返答をしていた、彼に味方など居なかったというわけだ。




感想返しが気分になってきた。
という訳で今回は「少女徒然」より、かの有名な(多分有名だろウンウン)野球拳。許可取ってるんだぜ? なんか打ち合わせの時にだいぜっさんされた、うれしい(こなみかん)。

思いっきり地雷作品なのに普通に快諾してくれたので五分過呼吸になったりしましたが、俺なりにはいい仕事をした筈。ご協力、有難うございました。次回も宴会ネタ自体は続く、またお誘いする機会は――――――無いといいですね(白目)。

【少女徒然】
今回の野球拳そのもの、及びジェロニモ先輩を拝借。
当方がよくお世話になる「前線日記」とは似て非なるねっとりとしたヤンデレが住まう巣窟。変態ヤンデレ一服盛りやガールとかも居る、可愛い(錯乱)。
俺は地の文が大好きです。詳しくは「協力作品一覧」を参照。

此処らで多すぎる指揮官をちょろっと整理。

【グレイラット先輩】
灰鼠、灰鼠先輩、鼠野郎などとも。鼠先輩っていうと違う人が出張ってしまう。逃げる方のやべーやつ。
「前線日記」の逃走ガン振りしてるアイツ。S09地区で働いていたが、ブラック労働に嫌気が差して逃亡した退役軍人。今は用務員、要するに捕まった。404小隊はこっち狙い。スコープは嫌い、と言うが巻き込まれたら文句は言うけども絶対的な距離は置かない感じ。ただし自分から助けてやるとか絶対ありえないし、巻き込まれると普通に不満たらたら。俗に言う腐れ縁。

【ペティ・オフィサー】
堅物ゴリラお爺ちゃん、相棒、ペティさんなどとも。強行突破する方のやべーやつ。
「前線小話」で人形を素面で誑かす寡黙なオジサン。鼠野郎と同様にスコープのテストの時に同席しており、スコープにトラウマを与えている。
経歴は変わった所はない、事はないがコッチで触れても面白く扱えないのでアッチで見て欲しい。
基本的に良識ある大人だと思われる、スコープには縁があるからちゃんと交流しようとしたりしてなかったりする程度。好きか嫌いかで言えば全然嫌いではないと思う。

【ジェロニモ先輩】
出番をもらえるかは俺のDM送る勇気次第の人。ジェロニモで十分なので別名はない、「少女徒然」の周りがねっとりしてる方のやべーやつ。
本人はマトモで戦争を憂いたり人形可愛いとか言ってるだけのオッサンだが、一服盛られたりパンツ盗まれたりする。
今回は唆されたハリボテ野球拳英雄。スコープには色々申し訳なくなって親切になるのではなかろうか。
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