前線異常あり   作:杜甫kuresu

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辛抱足らんかった。


第六話

「では、S09地区担当指揮官より簡潔に敵情報告をしてもらう――――頼んだ」

「へいへいっと。おっさんたち、耳の穴よーくかっぽじって聞いてくれよ」

 

 暗い作戦司令室。設備が古くて今は使われてなかったんだが、人数の問題で今回はホコリまみれのこの部屋で会議が行われることになった。

 

 メンツは見慣れたやつが多い。鼠、ゴリラ、後行き遅れた上級代行官。もうひとりは――――――誰だこの人、分厚い専門書を顔にひっかぶって、寝てないか? いや息苦しそうだな、思いっきり自業自得。

 各指揮官の人形も何体か集まっていて、俺がフランクに喋ったぐらいじゃどうにもならない重い空気が漂っている。

 

「えーっと、Kar。資料作ってくれたんだよな…………どうせだからくれるか?」

「勿論」

 

 Karが義手ではない方の手で俺に資料を渡す。ゴツゴツとした金属感に塗れた左腕を見ると、少しだけ後ろめたい気持ちになる。

 

「ほら、読まないと。前を向いて下さい、ね?」

「――――悪かった。無駄な感傷だった」

 

 ニコリと笑うと、また長いホルダーを立て掛けた直ぐ側に戻る。こういう時ばかりはアンタの態度は身に沁みるよ。

 息を吐いて気を取り直す。

 

「…………えぇ~、じゃあ行くぜ。今回の要注意AI、というか特異点なのは通称「蛇」と呼ばれる人形だ。コイツは一応戦闘力自体は高い。ウチの部隊をたかが二丁拳銃で突破してきたヤバイやつで、本人の言を信じるならアイツの半径数百メートルはシステムとやらで通信障害に遭う。はっきり言って滅茶苦茶な性能してる」

 

 あの不敵な笑みを思い出すだけで背筋が凍る。あろう事かあの鉄血、手加減をして俺で遊んだ挙げ句に「愉しい」なんて抜かしてきやがったんだから手に負えない。

 

 鼠がそれを聞くなりぎょっとした顔をして退出をキメようとしたが、ゴリラが手だけで襟首を掴んで席に叩きつけたかと思うと、鼠の後ろから肩に手を置きながら会話に飛び入り参加する。

 

「そうか。君が滅茶苦茶な性能、と呼ぶのならそれは最早グリフィンの1基地では対応不可能。そういうことだろうな」

「そうだな、少なくともウチの部隊はダミーの半数がアイツのせいでメッチャクチャになってる」

 

 後ろのKarを指差す、エリート人形にすら居た彼女が四肢の一つを――――――メインフレームが持っていかれている。

 これでもKar98kという人形が優秀なのは事実なわけで、普通に考えてメインフレームが被害を受ける事自体異常でも有る。

 

 何食わぬ顔で脂汗を流して、目の前で手を組んだ鼠が神妙な面持ちで問いかけてくる。

 

「ソゲキチ、もう俺はその「蛇」ちゃんとやらが月に代わってお仕置きしに来てる感じのヤバさってことはとっくに理解できてんだよね? 問題は何故、そんなヤベー奴との決戦の会議に俺みたいな用務員が呼ばれちゃってんのかってこと。ヘリアンは合コンで失敗しすぎて男なら誰でもヨルムンガンド一本背負投はしてみせるみたいなパワフルイメージでも持っちゃってるわけ?」

「今回は特例だ、此処に居る誰もが「404小隊」を知っている。つまりそういうことだ――――――っていうか合コンの話を此処で持ち込むな!」

 

 怒鳴られるが反省の様子なし、お前脂汗流してるとは思えない饒舌さで驚きだよ。

 ヘリアンが咳払いをして誤魔化そうとするが明らかに無理。仕方なく俺達は忘れたふりをしてヘリアンの語りに耳を傾ける。

 

「それで今回の問題は、その異常存在に対する対応が十分に敵わないことだ」

「具体的に説明願いたいのですが、構わないでしょうか。ヘリアントス上級代行官」

 

 いやに丁寧な呼び方で要請したゴリラに答えが来る。

 

「蛇は未だに前線で戦闘を繰り広げている、想定ではこの基地にも1週間もしない内に到達できるだろう」

「ウッソだろお前、俺は抜けさせてもらうぜ。ついていけねえ、俺は用務員が出来たらそれで良いんだよじゃあな」

 

 スルスルと机下に溶けるみたいに鼠が滑り降りた。そのままGみたいなカサカサムーブメントで出口に直行するが、凄まじい体術でゴリラがすぐさま締め上げると

 

「ひぎぃ!」

 

 とそれこそゴキブリみたいな断末魔が鼠の喉から放たれる。

 仕方なく力ないままの鼠をゴリラが無理やり座らせた体にすると、話が当然のように続いていく。これは酷い。

 あ、45がニコニコしながら鼠の横に立ってる。オイオイオイ、死ぬわアイツ。

 

「帰りたい…………」

 

 ヘリアンは鼠の動きに慣れ切ったゴリラの捌き方にモノクルを落としそうになりながら、もう一度咳払いをした。もうこの異常空間で何かを取り繕う必要ないと思うんですけど。

 

「現実問題として此処まで来られた時点でもう手遅れだ。今は片っ端から人形を掻き集めて破壊されながらも、まあ何とか前線をゆっくりと押されてしまっている状況下に有る」

「よって貴官達と、この近隣基地のガンスミス――――――及び彼の弟の協力の下、ヤシオリ作戦を決行する」

 

 ヤシオリ作戦。正しくは八塩折作戦と書くもので、それはかつての日本神話における八岐大蛇の撃退時に使われた酒だという。

 一見名前が大仰すぎるかもしれないが、アイツはもう殆ど神話生物に片足突っ込んだ戦闘力を持ってる。実のところ作戦名は妥当だった。

 

 俺達が為すべきは、実質神殺しだろう。

 さて、キョトンとした俺達に横で帽子を引っ被っていた男が急いで起き上がって話を始める。

 

「あ、ね、寝てた! ええっと、という訳で今回協力することになったガンスミスだ。弟は16Labに居るから用事の時だけ回線をつなぐ形で参加する」

「彼らには――――――Kar、出してくれ」

 

 ヘリアンが目配せすると、Karが立て掛けていた長いホルダーを開いて――――――アレは。

 マジで出番があるとは思わなかったぜ。Karがそのバカバカしい銃身の中央部分を持ちながら軽く構える。

 

「陽電子狙撃砲を用いる為の狙撃アシストシステムの構築、及び狙撃手専用の微調整を行ってもらうことになっている。それも踏まえて今回の作戦にはS09地区担当、貴官が大きなキーパーソンとなる」

「え、はい?」

 

 聞いてないです。

 

 俺が聞いてないという顔をしてクエスチョンマークを並べあげると、「当たり前だ、つい数時間前に決まったばかりで立て込んでいたから伝えていない」なんてあっけらかんとした顔で言ってくれやがる。

 作戦内容が明文化される。

 

「今回は推定3.02km。この距離から貴官にこの陽電子狙撃砲を命中させてもらうことになっている故、渡した作戦要項をしっかりと確認し、またガンスミスの調整には努めて気を払いながら準備を進めて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で人形じゃなくて俺が狙撃しなくちゃならないんだ!? 意味不明すぎるぜ!?」

「俺だって同意見だが、合理的なんだから仕方ない」

 

 ガンスミスは何でこんな手慣れた感じで作業に入ろうとしてるんだ。頭大丈夫?

 という訳で、ガンスミスがえげつない量の荷物をウチの工廠に打ち込んだかと思うといきなり作業が開始した。恐ろしいことにトラックで運ばれてきたのを数十人単位で運んでいる辺り、この作戦はヘリアンが大マジで決行するつもりらしい事はハッキリしていた。

 

 改めて陽電子狙撃砲を見る。形からして明らかに実弾銃とは言い難い、まあそりゃあ陽電子狙撃砲だしなあ…………。

 Kar、ダネルと言ったライフル人形達も一応呼んでみた。ダネルは左目が損傷したのか眼帯をしている、改めてアイツの与えた被害が恐ろしい。

 

「あの行き遅れ上司も無茶な作戦を立てるぜ、何で人間なんだっけ?」

『へいへい、馬鹿な方の弟だぜ』

 

 置かれたモニターからニヤケた面が映る。後ろではペルシカが死んだように机に突っ伏している姿が見える辺り、この弟くんが16Labというのは事実らしい。

 

『陽電子狙撃砲は地球の自転とか普通の狙撃じゃ思いつかねえ観点で補正を掛ける必要があるんだよ、補正システムを人形に単純に打ち込むんじゃ人形の容量問題とかで時間を食いすぎる。だから人間がアシストシステムを装備する形のほうが合理的ってわけだ』

「じゃあ俺じゃなくて人形がそのアシストシステム装備しろよ」

 

 今度はガンスミスの方が答える。

 

「今回はあの鼠さん? とかゴリラ? とかも前線に出る可能性を考慮するレベルで人員が足りてねえ、指揮なら別のやつが遠隔でも出来るわけで、それを考えると非戦闘要員程度の戦闘力と言って差し支えないアンタが最適解なのよ」

「合理的も突き詰めると狂気だよなあ!?」

 

 いや確かにそれは合理的だよ!? 人数が居ないなら役立たずを上手く扱うっていうのは当然の経営的な考え方なんだけどさ、だからって俺に一番重要な所を寄越しちゃうのは如何なものかな!?

 

 俺記憶喪失なんですけど…………。

 Karが俺にサムズ・アップしてくる。

 

「指揮官さんは強い子です、私が保証します!」

「彼女ヅラに保証されても困るんだけど」

「えっ、おたくのKarは彼女じゃないのか。俺に彼女って言ってなかったっけ?」

 

 ま~た彼女ヅラしてるよこの女。今回は許してやる、俺は怪我してる女にまで酷い扱いはできん。

 ガンスミスが俺に銃を持たせると、何処に重心がかかっているかだとか、Kar98kは何処らへんに重みを感じてるとか持ち直させて確認を取ってくる。正直特に分からない俺は、まあそのまま答えるばかりになる。

 

「うーむ、それは良いんだが高さがキツイな。それこそバイポッドとか欲しい」

「そっちかあ。ええっとな、バイポッドはないが大型の台は用意できる。高さは4cm、5cm、6cmと想定してるがどれが良い?」

「攻め過ぎたくない、5cmで」

「オーケー」

 

 部品の予想リストの中で採用したものにはチェックが付けられていく。

 ガンスミスが傍らにざっくばらんに広げている図面には正確に描かれた陽電子狙撃砲に様々なOPがくっつく想定なのか、矢印が引っ張りまくってある。

 

 ダネルが一息をついて壁にもたれていた俺の肩を叩く。

 

「コーヒーでも飲むか? 間違って2つ買ってきてしまってな、渡し先を探している」

「ダネル姉貴…………すき」

「そうか、それは有り難いな」

 

 知らない間にイチゴちゃんとKarが横に座ってたのはいただけないが。コーヒーを受け取って一気飲みする。

 イチゴちゃんはコーヒーが飲めないらしく、りんご入りおしるこなるトンデモナイ名前の缶を開けるとちびちびと飲んでいる。Karはニコニコとしながら「それください」と言わんばかりに目の前でしゃがみ込む、やるかよ馬鹿。

 

 コーヒーは全く飲まずにダネルが話しかけてくる。

 

「…………狙撃のコツは、何も乗せないことだぞ。指揮官」

「へぇ、面白いことを言うな。ってか狙撃は心配しなくても良いですよ、俺は「当たる」んだから」

「それだけ自信が有るなら問題ない、頼んだぞ」

「指揮官、りんご入りおしるこ飲んでみませんか? これ凄く美味しいです!」

 

 話の流れを切るなよいちごちゃ~~~~~~~~~ん??????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…………何だ此奴等、話にならないな」

 

 蛇――――――ウロボロスが人形だったガラクタを軽く蹴るなり、ひっそりと溜息をつく。

 彼女は退屈だった。今回はとある人形を逃さないためにこのS09地区に侵攻しているわけだが、先日であった「あの男達」以外で面白いものをウロボロスは見ていない。

 

 元々言われた通りに動くような人形ではないのだが、今回は命令してきたのがあの代理人だからと従っているようだ。原則気が向けば命令に背くが、代理人に関しては別だった。

 

「おうおう、ウロボロス殿にはつまらん仕事をさせてわりいなあ」

 

 嫌味っぽく笑って返す処刑人。

 彼女達はたった二体しか居ないが、側には物音一つしない。周りでは何十という人形達の死骸が塵のように捨てられていて、真っ白な肌の彼女達はさながら亡霊のような様子にも見えるだろうか。

 

 しかしウロボロスは素っ頓狂な顔で否定する。

 

「いや? M4と会えると聞いたからな、ならば構わないよ…………アレは面白い。唾を付けねばならないだろう」

「へー、ウロボロスに気に入られた人形か。速めにブレードの錆にしねえと面倒そうだ」

「まあそうとも言うかな? 呵々ッ!」

 

 愉悦に歪んだ笑いに処刑人も釣られる、穏やかなようで穏やかではない会話だ。

 機嫌よく雑談をしてる最中、ウロボロスの方に通信が入る。

 

『ウロボロス、作戦は順調ですか?』

 

 声に思わず背筋を伸ばすウロボロス、代理人の声らしいと処刑人はニヤつく。

 さっきと打って変わった堅い声。

 

「はい。鉄クズ共がやたらめったらと物量戦術でけしかけられますが、捜索作業は滞っておりませぬ。M4A1が見つかるのも時間の問題でしょう」

『…………そう。気に入ったからと生かしたりしてはダメよ』

「当然です。少なくとも代理人殿の命令には背きませんよ、わたしは」

 

 本当かしら、と疑念混じりの声に困ったように頭を掻くウロボロス。こういう時だけ、彼女は子供っぽい表情を見せる。

――ありゃ姉妹だな。全く、AIに血縁関係もクソも有るわけねえ筈なんだが。

 

 処刑人は無表情に感想だけ纏めると、そのままクズデータとして消去した。

 暫く戦況報告に興じていたウロボロスだが、どうやら会話も終わりらしい。代理人が少し言葉に迷い始める。

 

「それではそろそろ切りましょう、傍受されたら敵いませんので」

『ああ、少し待ちなさい………………あまり無茶はしないように。ロストするぐらいなら負け犬らしく逃げ帰って来なさい、良いわね』

「え? ああ、はい」

 

 ウロボロスの言葉が終わる前に通信が切れる。

 急に妙な発言をしたのが引っかかるのか、どうにも釈然としない表情で歩き出すウロボロスに処刑人が尋ねる。

 

「変な顔してんな。何て言ってたんだよ」

「いや? ロストするぐらいなら負け犬らしく逃げ帰れ――――――だそうだが、はあ。どういう意味だろうな?」

 

――心配されてんじゃないの、それ。

 不器用極まりない二人に若干引きながらも、変に手出しはすまいと処刑人は取り敢えずその話題を何とかフェードアウトさせることに終始した。




【ウロボロス】
姉貴。余裕で憑依者だが言動を徹底して弄るのでタグは不要とする。
「わたしがウロボロスだ」の主人公、そしてラスボス。神出鬼没でアーカードの如く暴れて去っていく、ハリケーンボンビーとかと大差ない愉快犯。
戦闘力はいつもの5分の1ぐらい。本気だと変態三連星が束になろうが勝ち目は薄い。本編見れば何処を手加減してるかすぐ分かる、だいぶ弱い。
本編終了後に近い人格なので、一体どういう結末なのかも図り知れるかもしれない。イメージで言えばサマーウォーズのラブマシーンの人形版。


好きに言ってくれるじゃあないか、本編を更新しろこの馬鹿。
――――あー、わたしが出てきたら大体後書きも担当している。様式美みたいなものだ、他作品向けのファンサービスだから慣れてくれ。
まあどうせ中身は同じだからな、呵々!

というかコレヤシマ作戦では? いや敵役だからな、やられ方にどうのこうの言う気はないが。とはいえ2062年設定にかこつけて無理をし過ぎではないか…………。
ヤシオリ作戦は自分で考えたらしいが、図らずもシン・ゴジラと被ったそうだ。派手な事故よな。

あ? カンペとはまた珍しい――――――ええと「今回は『ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー』よりガンスミスを招致しています。紹介よろしく、バイバイ」――――――っていやいや。帰るな、わたしに放り投げるんじゃない。

とはいえ貸しは貸しだ。御礼申し上げる、結構な無茶振りをしていたようだからな。でもわたし別に関係ないんだけどなあ…………まあ構わんが。

【ガンスミス】
「ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー」より。アチラもS09地区設定らしい、其処ら辺だけはパラレルだそうだ。
今回はノリと勢いだけで勧誘した…………とか何とか。まあ陽電子狙撃砲なんてガンスミスが触る必要性は皆無だからな。
何でも屋ではないと言うが、割と何でも屋の疑惑は有る。基本はゆるゆるの指揮官のもとでM1895と銃器を紹介するラジオをしているそうだ…………わたしは銃火器に疎いからなあ、傍受でもしてみようか。
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