前線異常あり   作:杜甫kuresu

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「蛇」はガリガリの悪役なので「孤島の簒奪者たち」とか「ラーの天秤」が似合う。
今更だけど設定が過去最強すぎて中々制御できない。頑張れビックリ人間ショー。

おらあ急ピッチで投稿だぁ!!!!!!!!!!!


第七話

「ほう――――――指揮官の癖に前線に出ているのか、ふむ。わたしも人のことは言えんが、おぬしは相当イカれていると見た」

「うるっせえよ。お前みたいなトンデモ鉄血人形が来るのは想定してなかったんだ」

 

 不敵に笑う彼は手汗も酷く、生唾を飲むのが抑えられない。力を抜いて薄っすらと笑う死人面の少女とはまるで正反対だ。

――コイツが今回の通信異常の原因? いや、だけど敵だ。信用なんて…………。

 

「褒めているんだ、素直に受け取れよ色男」

「奴さんに称賛されて喜べるかよ」

「そうか…………? わたしは嬉しいぞ」

「いやそりゃお前みたいなイカレポンチだけだろ…………」

 

――うーん、信用しても良いのか?

 顎に手を当てて考え込む姿が妙に人間臭くて、思わず認識がブレる。

 

 一頻り考えた後、そうだなあとツインテールをひょこひょこと跳ねさせて頷く。

 

「まあおぬし達弱いしな…………しかもバックアップも無かったか、確かにそんな余裕ないかあ…………」

「敵だからって馬鹿にしすぎだぞお前」

「いや失敬。素直すぎるのも考えものだな、呵々ッ!」

 

 変な笑い方に彼が白けた顔をすると、何か悪いかと少女は拗ねたように腕を組む。どうやら彼の冷たい態度がお気に召さないらしい。

 

「何だ、文句があるのか」

「いやあ。せっかくの美人さんがエゲツねえ笑い方するなあ…………とは思うよな」

 

 あからさまに「蛇」が聞き飽きたような顔をする。ぶっちゃけ彼は「まあそりゃ言われるわな」ぐらいに思っている、幾ら何でも凶悪に過ぎる。

 

「うーん、やっぱりおぬしもそう思う?」

「思う思う」

「うーむ、では――――――――ふふっ。こ、こうか? や、やれと言われてやるのは嫌だなコレ…………」

 

 さっきまで明らかに強キャラ臭を放っていたかと思えば、何だかキラキラした優しい微笑み方をするので思わず彼がちょっと見惚れる。微妙に恥ずかしそうに頬を紅くするのが敵ながら天晴。

 敵なのに、と敗北感を覚えつつ顔を逸らしてサムズアップで返した。

 

「そうそれ、すっげえ良い」

「それは良かった! デストロイヤーに「アンタの笑い方ダサい」って言われてちょっと凹んでいてなあ! 助かったぞ」

「ど、どういたしまして…………こっちも良いもん見たわ。うちの人形じゃこうはならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で敵同士で和気あいあいと会話とかしてるんだろうな…………』

 

 コッチが聞きたい。何してんのアンタラ。

 コホン、とお互いに咳払いをすると喉の調子の確認、髪のセット等を終えると少し前の緊迫感有る表情に戻る。果たして彼らは本当に敵同士かどうなのかはもうよく分からない。

 

「えーっと、わたしは何の話をしていたかな?」

「まだ何も話してない。俺がイカれてるとか抜かしやがっただろうがお前」

「ああそうだそうだ! では――――――まあ、おかしな奴はおぬしにも限らんよな」

 

 二つ結んだ黒髪が特徴の不思議な鉄血、名前は「蛇」と名乗っていた。

 地域でも間違えたような丈の短い夏物のセーラー服に身を包み、まるで大理石さながらの白い肌が特徴的。整った顔や女性らしい丸みも感じさせる華奢な体躯からは想像のつかない異様さを放っている。

 

 彼もその気配には焦らざるを得ない、通信の不調が起きたとは言え下ではKar達の部隊が半壊。僅かに届いた報告ではコイツが其れを達成した張本人なのだ。

 正直な話、ビルを登りきられた時点で彼は相当危険だった。

 

「あのカラビーナは合格だ。マトモに勝負が出来るだけでも中々の腕だ、わたしは所詮性能に物を言わせているだけだからな――――――アレは生かしてやったぞ? 感謝しておけ」

「そうかい、じゃあお礼代わりに銃弾くれてやるよ!」

 

 彼がすぐさまKar98kを構えて放ったが、少女は眉一つ動かさずに拳銃で弾丸を弾いてしまう。

――はあ!?

 

「おま――――――滅茶苦茶な奴め! シリアスでギャグするからそんなこったろうとは思ってましたよ!」

「いや見え見えだしなあ、というかそろそろ真面目にしろ」

「ウィッス」

「仮にも上級AIを舐めないでもらおう。これは撃つだけではなくこういう用途も考えた試作品らしくてな、わたしで試運転とは代理人殿も変わっているが…………まあおぬしなら、何とか試し撃ちは出来るだろうさ」

 

 遊ぶように両手に持った拳銃をくるくると回しながら構えると、撃ったような真似事をする。

 

「加減はしてやる。わたしに一矢報いてみせろ――――――ッ!」

 

 撃ち込んでくる弾丸は「視えている」。刹那に弾道を見切ると間を縫いながら彼は突っ切ってくる。

 機嫌を良くした「蛇」がしゃがみ込むと、走ってきた彼の足が逃げるのにも構わず半ば強引に刈り取った。

 

 まるで動きを読まれているような足捌きに目を剥く。

 

「おいおい、お前マジかよ――――――!?」

「呵々ッ! この程度なら代理人殿には敵わんぞ」

 

――いや、馬鹿だなってさ。

 不敵に笑う。彼は無理やり自分の足を上に空中で押し上げると、手で「蛇」の足を台にしながら飛び跳ねる。

 

「器用な男だ、曲芸というやつか」

「変なおっさんに教わった逃げ技の一つだよ――――!」

 

 サポートハンドだけで無理に跳んだ腕の軋みに耐えながら、片手で彼がKar98kを脳天に向かって構える。

 今ので足の姿勢を崩されたせいで少なからず後手に回らざるを得ない、そういう予想ありきの確実な捕捉だったが――――「蛇」は動じない。

 

「I.O.Pの其処らの人形と一緒くたにするな」

 

 唾棄すると「蛇」が伸ばした足を軸に、螺子のようにくるりと回転しながらクラウチングスタートのような姿勢に無理やり戻す。

 大幅にズレた照準に焦りながら受け身を取るが、逆立ちの体制になったときには遅かった。苦し紛れの発砲は「蛇」の髪留めを軽く掠めるに留まってしまう。

 

「骨の一本で済めばいいが」

 

 そのまま突っ込んできたかと思うと、右肩で思い切りぶつかってくる。

 骨が軋むのなど序章。すぐさま手を交差させて拳銃を彼の腹に押し付けると鋭い発砲音、背中から弾けるように血が撒き散らされる。

 

「あ、やり過ぎた。すまん、愉しかったからつい」

「ケホッ――――――」

 

 訳の分からない謝罪など耳に入らない、勢いのまま彼がビル入口に背中を打ち付けられる。内臓を駆け巡った血が口から吹きこぼれる。

――ヤバイ、コイツかなりヤバイ。

 

 そのまま倒れ込みそうな足を何とか背中を壁に擦り付けて立ち上がる、意識は朦朧。骨は幾つか折れたらしい、立ち上がるだけで悍ましい激痛が襲う。

 見ていた「蛇」は少しばかり冷めた目付きになる。

 

「倒れておけ。何ならば意識もない方が良い、死ぬのは誰だって恐ろしい事だ」

「……やか…………ましい――――」

 

 その忠告は合理的だっただろうが、大事な計算式が欠けている。

 どうにかこうにかと銃を構える。片目も開けない虚ろな表情の男に「蛇」は決して憐れみなど抱かない、それは非情ではなく彼女自身のポリシーだ。

 

――戦う意志があるならば、オレは応えるだけだ。

 すぐに「蛇」は構え直す。笑うことはない。

 

「よろしい。ウロボロスとしてでなく、一つの人格としてお前を認めてやる――――――だから問う。何故、未だに戦う」

「俺が此処で死んだら、部下が関係ないやつに媚薬を盛るんでな…………ははっ」

「その銃は何を撃つ」

「俺の後ろに立つものを狙う全てだ」

「そうか。最後だ、手間を取らせて悪いな――――――『オレ(わたし)達』に殺されることに文句は有るか」

「大アリだが…………俺のミスだ…………」

「合格だ。お前をオレは覚えておこう、加減をしたのは無礼だった。すまない」

 

――殺すには惜しいか。オレよりは上等な神経をしている。

 とはいえ戦場で情けをかける程彼女も落ちぶれていない、拳銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私達はアンタなんか覚えてやらないけどね』

「――――――夢、か…………」

 

 薄く息を吐く。拳銃を向けられたあの時の絶望が、鮮明に手触りとして残っている。

 

「まっ、過去は過去だ」

 

 でも、あの時のAR-15の姿に覚えた希望だって同量だ。プラマイゼロだね。

――わたし達、か。

 

 あの時の「達」の意味は本当によく分からなかったが、全然嘘をついていないヤツだったのははっきりと覚えている。敵だし人も殺してるんだろうが、だからと無下に殺して良いタイプなのかは迷ってしまう――――――

 

「指揮官さんが元気ありませんね。一発ヤッときましょうか」

「ああー! 今元気出ました―! ヤバイなーもう今日徹夜して動けるぐらい元気だわ―!」

「流石に冗談ですよ…………?」

 

 何ちょっと引いとんねんヤクギメ女。お前が言ったらあんまり洒落になってないんだよ自覚しろ。

 何故か俺が「え、まさか本当にするとでも?」みたいなドン引きされているのは本当に理不尽では? イチゴちゃんまで? これは悪夢ですか?

 

「指揮官、それはちょっと引きます…………」

「ヤクギメ逆レイプ人形と手錠かけてくる奴に俺はドン引きされる生き方してないけど?」

「人聞きの悪い事を! 合法ですのに!?」

「合法じゃないです」

 

 何で俺が承諾したことになってんだ、お前マジかよ。

――ああ、そうだ。明日だっけか、作戦。ヤシオリ作戦だっけ、何か特撮でありそうな名前しやがって。

 

 あの「蛇」とやらを超長距離狙撃するというシンプルかつ頭の悪い作戦だ。陽動には近隣地区の指揮官、人形を総動員。人数が足りないから指揮官も出て貰う必要があるとかないとか。

 片割れは「は? 出撃だけでも既に俺の豆腐メンタルがボロボロなのに俺が出る? 寝ぼけちゃいけないなあヘリアン、幾ら指揮官してた頃に合コンネタでからかわれた恨みが有るとは言っても私情持ち込んじゃ駄目だぜ? なあソゲキチ君?」とか言ってた、何で俺に振るんだよ、喜んで駆り出してやるわボケ。

 

 片方は仕方なくやるらしい、慣れっこだとか…………待て、慣れっこなの?

 

 もう調整にガンスミスが俺を引っ張り回すからクタクタだった、一応指揮官業務は鼠が(驚くことに)やっているらしいんだが――――そう言えば45達が見てるってさっき内線で俺に叫んでたな。そういう事ね。

 

「大体完成したぞ―、持ってみてくれー!」

「はいはい、今行くよ!」

 

 また呼ばれた。全く忙しいなあ。

 壁にもたれかかっていた身体を起こしてすぐに向かう、何となしに振り向くとKarが手を振って

 

「今夜、鍵は開けておきますね」

 

 って言ってた。は?




ドールズフロントラジオ、生で聞きたいな…………よし、拉致るか。
わたしは真面目に銃に疎くてな、代理人殿には叱られるしハンターには笑われるしで困ってる。

あのソゲキチとやらとは酒を飲みたい。敵ながら気が合うようだ、もしかすれば――――――わたしの同類やもしれんな、ふふっ…………やっぱこの笑い方は勘弁して。実は本編も序盤は「ふふっ」だったんだけどキツかった。やめよう、うん。

デストロイヤーと喋ってみたのだが、「それはそれで気持ち悪い」等と抜かしおったしな。次はないと思えよあのメスガキ…………。
おっと失礼、此処はお祭り騒ぎの会場だと聞いた故な。ちょっと話が逸れた。
というか武装は縛ってるし手加減してるし今回のわたし良心の塊では? 何時もだったらソゲキチはもう死んでるな。

【蛇】
対人ゲー中に来られるとキレてしまいそうな電波障害姉貴。
ユーモアは有る、本編では余り見せていない一面。
意外と少女チックなところは有る。経済観念は庶民派で、偶に「弾撃ち過ぎた!」と一人で悶絶する。
彼女は「警戒させない、疑わせない」事に突き抜けた話し方をする、無自覚たらし。
「戦いたかったけど殺したくはなかった」みたいな所が有るタイプ。Kar98kだと問答無用で殺したくなるらしい、理由は不明。
パット見で危険には見えない、但し噛ませ犬オーラがないので「凛然たる美しさ」みたいなものは有る。

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