イリヤと不死身のサーヴァント【完結】   作:水泡人形イムス

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第13話 魔女狩りダイナミック

 

 

 

 2月5日になって、妹紅とメイド達と弾幕ごっこを鑑賞した後、城内に戻って暖炉の前の椅子に妹紅を座らせて、イリヤは()()()()()を施した。

 側頭部をそっと撫でて、密度の高い髪の中に小さな指先を優しく滑り込ませる。

 頭皮をくすぐられる感触はむず痒いのか、妹紅が微笑をこぼすのが可愛かった。

 セラが恨みがましそうにしているのは気づかない振りをしておこう。

 

「――はい、おしまい」

 

 イリヤの手が離れると、妹紅は撫でられた部分を自身の手でも触れて確かめる。

 別段、変わった様子を感じ取れなかったのだろう。妹紅は小首を傾げて訊ねてきた。

 

「マーキングって実際なにやってるの? 本当に匂いをつけてるだけ? 実は何か塗ってるとか」

「ヒミツ。だってモコウったら、下手に教えたら台無しにしそうなんだもん」

「しないよそんな事」

 

 いやする。いつかきっとする。

 イリヤはそう信じていたが、口に出すと揉めそうなのでやめておく。

 

「まあいいか、一度死ねば解除されるんだし」

「わざと死んだらご飯抜き」

「むう……」

 

 やっぱり仕組みは言わない方がよさそうだ。

 マーキングも綺麗に隠れているため露見する可能性は極めて低いだろう。

 真っ白な灰の山に落ちたひとひらの雪をパッと見つけられる観察眼でもあれば、また違うのだろうが。

 

「さてと。今日はどうしようかしら? お日様が出てるうちからキャスターの拠点探しに行くって言うなら、お小遣いくらいは上げるけど」

「イリヤもすっかり優しくなったなぁ」

「でも午前中はちゃんとお城で働きなさい。今日はどこを掃除させようかしら?」

「楽なところでお願いします」

 

 楽じゃないところにしておいた。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 衛宮士郎は朝食の席で、テレビニュースの流す衰弱事件について心を痛ませていた。魔力集め、魂喰い。一般人に被害を出すマスターとサーヴァントを見過ごすなんてできやしない。

 学校に張られた結界の犯人と同一なのか、それとも魂喰いを良しとする主従が複数いるのか。

 分からないなりに今は、やれる事をひとつひとつやっていくしかない。

 

 衛宮士郎と遠坂凛は学校に仕込まれた呪刻を探し、次々に解除する。

 凛は数日前からこれを繰り返していたが、その度に新しい呪刻が作られたり、消した呪刻が再度浮かび上がったりして、結界を消すには至らなかった。

 結界自体はすでに張られているため効力を弱める事しかできない。しかし不完全なうちは相手だって結界を発動させないため、これらの行為は決して無駄ではない。

 だがやはり、マスターとサーヴァントを倒さねば解決はしない。そして、現状やれる事をやり終えて二人が別れた後――。

 

「呪文潰しご苦労様」

「――慎二」

 

 夕陽に照らされた弓道場の前を通ると、犯人のマスターに声をかけられた。

 間桐慎二。士郎の中学時代からの友人だ。

 

「まあそう怒るなよ。僕は衛宮と戦う気なんてないし、見たところそっちも無理やりマスターにされたんだろう? 僕も同じでね。魔術師でもなければ戦う気もないのにマスターさせられてんだ。だから学校に張ってある結界も単なる『保険』さ」

 

 学校中の人間を生贄に捧げられるだけの結界。

 それを保険だと慎二は言い切った。

 

「なにせ学校には遠坂っていう根っからの魔術師がいるし、あいつはマスター同士の戦いに躊躇なんてしない。僕にだって防護策は必要なのさ。あの結界はそれだけのものだよ。誰かに襲われない限り発動させる気もない」

 

 話の筋は通っている。だが士郎は昨日、雑木林で慎二らしき人影を見ていた。

 女生徒を襲ったのは慎二のサーヴァントなのか? それも呆気なく慎二は認めた。

 魔術師ではない慎二にとって、サーヴァントを完全にコントロールする事はできない。

 アレは事故だ。

 サーヴァントが勝手にやった事だ。

 今後は注意する。

 そう慎二は弁解する。士郎はそれを鵜呑みにはできなかったが、本心だとしたら聖杯戦争の平和的解決を望む士郎にとって願ってもない事。疑ってかかればそれが崩れてしまうかもしれない。

 

「分かった、信じる。お前が何もしないんなら、俺も手は出さない。それでいいんだな、慎二」

「物分かりがよくて助かるよ。それで、よかったら僕と協力しないか? うちのライダーは使えない奴でさ……セイバーを召喚した衛宮がいれば心強いんだ」

 

 しかし、協力の申し出は受けられなかった。

 慎二が本当に何もしないなら戦う必要もないし、身の安全なら教会に保護してもらえばすむ。

 また、この件は凛には秘密という事になった。

 彼女が知れば構わず慎二を潰しに向かうだろう。だが慎二は友人だからと信じて士郎に事情を話したのだと言ったし、万が一となれば自衛のため結界を発動させてしまうかもしれない。

 

 こうして、士郎と慎二の関係が一段落つき、このまま平穏に事が運べばと願いながら我が家へと帰宅する。そしてセイバーと夕飯を食べ、ささやかな幸せに疲れを癒やし、眠りにつく。

 士郎は眠る。やすらかに眠る。

 

 

 

 ――おいで――

 

 

 

 囁く声が士郎を呼ぶ。

 我知らず士郎は起き上がる。

 我知らず士郎は歩き出す。

 

 

 

       ――おいで――

 

 

 

 士郎は向かう。魔力節約のため寝静まったセイバーに何も告げず。

 家を出て、夜の深山町を歩き、長い、長い、石段を登って。

 

 

 

             ――おいで――

 

 

 

 思考が警鐘を鳴らす。よくない事が起きている。それでも身体の自由は利かない。

 声に従い、山門を潜り、柳洞寺の境内へと入る。

 黒いローブをまとった女が、士郎を待っていた。

 

「ようこそセイバーのマスター。不躾で悪いけど、貴方の令呪を譲ってくださらないかしら?」

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 マスターの異変を察知したセイバーは布団を跳ね除け、庭に飛び出るや甲冑をまとい跳躍する。その身は疾風となって夜の深山町を駆け抜け、あっという間に柳洞寺へと到着。

 ここに士郎がいる。

 こんな夜更けに何も言わず、こんな場所へ来るなど尋常の沙汰ではない。敵の策謀にかかってしまったのは間違いなかった。

 すぐ柳洞寺へ登ろうとするも、強力な結界によってセイバーの身体は動きを止めてしまった。

 英霊という概念を拒絶する、霊地の力を利用した結界。

 いかに対魔力に優れるセイバーと言えどどうする事もできず、唯一の抜け道、すなわち山門へと通ずる石段――正面から堂々と入るしかない。

 悩んでいる暇も、他の手段もない。

 セイバーは即断し石段を登り――山門の前に立ちはだかる美丈夫と相対した。

 長髪を頭の後ろで結び、着物を着た東洋人。右手には異様な長さの刀が握られている。

 

 ――侍。

 

 知識にはあるが、見るのは初めてだ。

 しかしなぜ侍。セイバーでもないのに剣を得物としている。

 彼が士郎をさらった犯人なのか?

 

「……訊こう。その身は如何なるサーヴァントか」

 

 答えなど期待せずに問う。

 騎士道精神や礼儀といった問題ではない。これは聖杯戦争なのだ。

 クラスは隠すのが常道であり、そこを違える者は己のクラスによっぽどのこだわりがあるか、みずからの必勝をまったく疑わぬ自信家か、あるいはただの馬鹿だけだ。

 故に、名乗るはずがない。

 

 

 

「――アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」

 

 

 

 名乗られてしまった!

 フツー名乗るか。セイバーなら名乗らない。クラス名すら名乗らない。透明の剣で『槍かもしれないし斧かもしれない』とかブラフも使っちゃうレベルで名乗らない。

 

 騎士道精神を尊ぶ決闘の場ならともかく!

 聖杯戦争という正体を隠しながら戦う場で!

 わざわざ名乗るなんて本当に馬鹿のする事なのだ!

 

 しかし馬鹿には見えない。

 果たして彼は如何なる道理で名乗ったのか。何かメリットがあるのか。

 だが、彼は堂々とした佇まいで言葉を続ける。

 

「フッ――立ち会いを前に名を明かすのは礼儀であろう。そなたのように見目麗しい相手であるなら尚の事よ」

「クッ――名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが騎士の礼です」

 

 セイバーの声は重く鈍い。彼女はすでに様々なハンデを背負っている。

 不完全な召喚による魔力供給の不備。

 未熟なマスターによるステータスの低下。それゆえマスターにすら真名を明かしていないというのに、よりによって敵に名乗らねばならぬとは。

 勝利のため合理的判断をする騎士王と言えど、その身は人々の理想を体現した存在。騎士の信念を汚す事などできようはずもない。

 不承不承ながら、苦虫を噛み潰したような顔でセイバーは名乗ろうとするも――。

 

「よい。名乗れば名乗り返さねばならぬ相手であったか」

 

 アサシンの側から、制止される。

 正体を聞き出す絶好の機を、みずから自嘲して拒否を示した。

 

「いや、無粋な真似をしたのは私であった。我等にとっては剣戟での語らいこそ全てであろう。いざ尋常に――参る!!」

 

 アサシン、佐々木小次郎の長刀――物干し竿が神速となって迫りくる。

 セイバーは透明の剣でそれを弾き返し、闇夜に火花を散らせた。

 無数の剣戟、無数の火花。

 一秒でも反応が遅れれば、一回でも判断を誤れば、首が落ちる。

 稲妻の如き剣と、疾風の如き刀による超高速の攻防が加速する。

 力はセイバーが上。しかしアサシンの剣捌きはあまりにも達者。純粋な剣技のみで比較すれば、確実にあちらが格上だ。

 そしてついにアサシンの本気が垣間見える。

 

「秘剣――燕返し!」

 

 その時、アサシンの剣は確かに同時に存在していた。

 二本の刃が放たれる直前、セイバーは直感に任せて石段を転げ落ち、物干し竿の射程から一瞬早く逃れられた。それが明暗を分け、セイバーの命を長らえる要因となる。

 

多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)――まさか純粋なる剣技のみで宝具の域に達するとは」

「燕は風を受けて刀を避ける。早かろうが遅かろうが関係ない。それを捉えるのであれば、同時に三本は刀を振らねばなるまい? ――まあ、此度は足場が悪く二つしか振るえなかったが」

 

 今一度あの秘剣を放たれ、セイバーに避ける事ができるだろうか?

 否。あれは出させてはいけないものだ。ならばセイバーも本気を出さねばなるまい。

 正体を秘した聖剣、エクスカリバーによって正面から打ち砕く。

 

 

 

「それで結局、燕を捉える事はできたのか?」

 

 

 

 そこに、無邪気な声が混ざる。

 公園で遊んでいる子供達の輪に自分も混ぜてと言うような、そんな声色。

 驚愕し、セイバーは振り向く。

 紅白衣装のサーヴァント、アヴェンジャーが、ゆったりとした動作で石段を登ってきていた。

 

(――挟まれた!)

 

 前門のアサシン、後門のアヴェンジャー。

 そしてマスターである士郎は山門の向こうで敵に囚われている。

 絶体絶命の窮地に陥った事を否応なく自覚させられる、だが――。

 

「ああ。お陰様で寿命を終える前に燕を斬るに至った」

「ハハッ――見栄を張るならもっとマシな嘘をつくんだな。刀で燕を斬っただぁ? 寝言は寝て言え。人の技でそんな事できる訳ないだろ」

 

 アヴェンジャーとアサシンとて敵同士。セイバーを討ち取る絶好の機であっても協力するとは限らないし、サーヴァント二騎を相手に大暴れしたアヴェンジャーともなれば、敵と共闘なんてしない可能性も十分ある。

 窮地を打破すべく冷静に思考をめぐらせるセイバー。

 だがアサシンは。

 

「いやいや本当の事よ。私はこの物干し竿で燕を――」

 

 セイバー越しにアヴェンジャーの姿を確認し、その顔立ち、眼差しを見。

 呆けたように表情を崩した。

 その応対を不審に思ってアヴェンジャーも眉根を寄せる。

 何か想定外の事態が起きたのだと察したセイバーは、石段の端へと身を引きながら注意深く両者を観察する。

 そして、アサシンは間の抜けた声で呼びかけた。

 

 

 

「――――妹紅?」

 

 

 

 アヴェンジャーが目を見開き、息を呑んだ。

 なんだ。アサシンは今、なんと言った。

 

「なんだ。おいセイバーパープル。今なんつった」

「セイバー……ぱーぷる? いやいや、拙者拙者。拙者でござるよ~。アサシン……佐々木小次郎として召喚されておってな。まあ、そなたと共に在った時はそのような名ではなかったが……」

「何の話だ。おいお前、アサシン、何でその名前を知ってる」

 

 モコウ、というのは、アヴェンジャーの真名なのか?

 困惑するセイバーを完全に蚊帳の外に置き、アサシンは懐かしむように山門を見上げる。

 

「この場所、あの山門、覚えておらぬか?」

 

 言われて、アヴェンジャーは山門を見、長く続く石段を見、何かに気づいて、アサシンを見た。

 

「…………お前、まさか……燕相手に刀振ってた小僧か!?」

「如何にも。思い出してくれたようだな、不死鳥よ」

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 かつて――剣に魅せられた一人の少年がいた。

 侍でもなんでもない、ただの農民であった彼は、とある剣聖に弟子入りし、日がな刀を振り続けた。剣聖の死後も愚直に技を磨き続け、究め続けた。

 そんな中、ボロをまとった一人の少女と出会った。

 

「――ここに、ありとあらゆるものを斬れる剣聖がいると聞いた。そいつは生や死を斬る事はできるのか?」

 

 不可思議な少女だった。まだ年若いというのに髪は老婆のように真っ白に染まり、生と死を斬るなどと禅問答の如き言葉を投げかけてくる。

 彼は、剣聖がすでに死んだ事。自分は、生や死など斬れぬと答えた。

 それを聞いて少女は暗い瞳を伏せ、山門にもたれて座り込んでしまった。

 彼は構わず刀を構える。

 気を鎮め、息を整え、機を待ち続ける。

 そして。

 一羽の燕が、彼の間合いへと入り込み――。

 風が舞い、剣が舞い、燕が舞った。

 

「……何してる?」

「なに、腕試しに燕を斬ってみようかと思うてな」

 

 燕は何事も無かったかのように空を飛んでいる。刀はかすりもしていない。

 少女は、酷く呆れた様子で彼を見つめた。

 

「燕を斬るなんて無理に決まってる」

「我が師にも言われたさ。しかし叶わぬ夢ならば、永遠に追いかけられよう」

 

 そう言って、彼は今度こそ燕を斬るべく鍛錬を再開する。

 燕の動きを脳裏に描きながら、一心不乱に虚空へと剣を振る。

 少女は、そんな彼をぼんやりと見つめていた。

 それが二人の出会い。

 

 それからほんの三ヶ月ばかり、共に燕を追いかけたのは――心躍る日々だった。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「念願かなって燕を斬るに至り、天命を全うしたが――いやはや、夢か真実(まこと)か、摩訶不思議な成り行きによって聖杯戦争に馳せ参じた故、生前果たせなかった猛者との死合を所望している。そこなセイバーなら十全に我が期待に応えてくれよう」

「はー、あの燕を斬ったのか……龍や虎を斬るなら分かるが、燕をなぁ」

 

 しみじみと懐かしむアサシン。ありのままの気持ちを吐露しており、そこに偽りや策謀があるようにはとても思えない。

 アヴェンジャーも心底感心した様子だったが、話のおかしさにセイバーは顔をしかめる。

 

「お前達、何を言っている? 燕とは小鳥の事ではないのか。そんなものを斬ったとて何の誉れとなる。ドラゴンと比べるなどおこがましいとは思わないのか」

 

 一介の剣士として当然の事を言ったセイバーだが、向けられたのは無知に対する呆れの視線だった。アヴェンジャーに至っては深々とため息をつき、無防備にセイバーへと歩み寄ってくる。

 

「龍も虎も力があって刃が届けば斬れるだろ。燕を斬るなんてお前、そりゃもうすごい事だぞ。燕を斬れるなら龍の首だって斬れるだろうさ。私も燕を落とそうと思った事があるが、炎が巻き起こす風に乗ってどこまでも逃げおおせるからな……いやぁ参ったよ」

 

 燕への評価が異様すぎるほど高いアヴェンジャー。

 こいつはいったい何を言っているんだ?

 

「我が師となった剣聖曰く、雨を斬れるようになるには三十年かかると言う。空気を斬れるようになるには五十年かかると言う。時を斬れるようになるには二百年かかるという。時と燕、どちらを斬るが容易いか――試してみねば分からぬと笑っておられたよ」

 

 アサシンも燕への評価が異様に高い。

 アヴェンジャーと違って真面目そうなアサシンが言うのなら、本当にそんな凄まじい生き物なのか? 間違ってるのはセイバーの方なのか? 燕とは、燕とはいったい!

 

「え、ええい! お前達の戯れ言などどうでもいい! 邪魔をするならまとめて叩き斬るまで!」

 

 ついには思考放棄を起こし、セイバーは不利を承知で剣を構える。

 しかし敵はアサシンとアヴェンジャー、しかも旧知で親しげときたものだ。

 どちらか一方に剣を向ければ、もう一方が――。

 

 思案を中断させるように大地が震動する。

 山門の向こう、柳洞寺の内部で魔力の光がほとばしっていた。

 ただでさえ石段に三人のサーヴァントが集っているというのに、柳洞寺ではさらにサーヴァント同士の戦いが行われている?

 モタモタしていられない。強引にでも突っ込むべきかとセイバーが足を踏み出そうとするも。

 

「小僧――」

 

 アヴェンジャーが、セイバーの横を悠然と通り過ぎる。

 無防備な背中を晒し、アサシンへと向かう。

 

「この先に用がある。どけ」

「フッ……すまぬがそれはできぬ。マスターの命によってこの場を守れと言われておってな」

「こっちもマスターの命令(オーダー)でな。()()()()()()()()()()()()()()()()、すっ込んでろ」

 

 ハッと息を呑むセイバー。

 アインツベルンが士郎に執着する理由、分からなくもない。

 しかし今回、セイバーはサーヴァントの打倒ではなく衛宮士郎奪還のためこの場に来たのだ。目的のかち合ったサーヴァントがいるなど想定外にも程がある。

 

「――ほう? これは異な事を。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をする」

「この聖杯戦争、私はイリヤのサーヴァントになると契約した」

「成程。そなたらしいと言えばらしい――では、不死鳥狩りと参ろうか」

 

 物干し竿を構え、燕返しの態勢に入るアサシン。

 その間合いはまさに剣の結界。踏み入る者あれば一瞬にして刀身が踊り、即座に命を奪う恐るべき斬殺空間。燕すら逃れられぬ剣戟の極地。最早何人も彼に近づくこと(あた)わず。

 それに対し、妹紅は――。

 

 

 

「スペルカード! フェニックスの尾!」

 

 

 

 周囲に膨大な数の火球を出現させて一斉に放った。

 石段全体を埋め尽くす圧倒的弾幕密度。人間が通り抜ける隙間もあるにはあるが、ちょっと空を飛んだりしないと無理がある配置だ。あるいは全力で横方向に逃げれば逃げられるかもしれない。だがここは左右を木々に囲まれており、英霊は石段の外側に出る事ができない。

 

「ちょっ――それは反則ぅ~っ!!」

 

 さっきまでの余裕はどこへやら、巫山戯(ふざけ)たような上ずった悲鳴を上げるアサシン。

 これでは燕返しを放っても、刀三本分の隙間が開くだけにすぎない。セイバーのように風を操る事も、アーチャーのように盾を出す事もできず、ただ剣技のみで戦うアサシンにとっては対処不能の攻撃だ。

 それでも彼は冷静だった。

 即座に構えを解くや唯一回避できる方向、つまり後方へと飛び退く。守護するべき山門を潜り抜けて柳洞寺の境内へと逃げ込む。

 

「今だ!」

 

 即座に火焔球の防壁の真後ろを飛翔して追いかけるアヴェンジャー。

 一拍遅れてセイバーも後を追う。今はとにかく士郎との合流が先決だった。

 そして、山門を抜けた先には――。

 

 

 

 広々とした幽玄なる境内の中。

 口惜しげにうずくまるアサシンの姿と。

 思わぬ侵入者に驚愕するキャスターの姿と。

 双剣の片割れを赤く濡らしたアーチャーの姿と。

 肩口を真っ赤に染めて地に伏す衛宮士郎の姿があった。

 

「シロウ――ッ!? 貴様ァァァッ!!」

 

 セイバーが絶叫し、アーチャーに向かって斬りかかる。

 アーチャーは舌打ちしながら夫婦剣で受け止め、すぐさま後ろに飛び退いた。

 追撃は可能だ。しかしそれよりもセイバーは主へと駆け寄り、その傷口を確かめた。

 深い。治療すれば助かるはずだが、放っておけば遠からず息絶える。それほどの重傷だ。

 

「これはどういう事か! 凛とは休戦しているはずだ!」

「――休戦したのはマスターであって、俺ではなかろう?」

 

 小馬鹿にしたような声色でアーチャーが反論する。

 だが否定はしなかった。キャスターに操られているようにも見えない。

 己の意思で衛宮士郎に致命傷を負わせたのだ。

 

 そんなセイバー達の事情などキャスターにとっては些細。

 敵対するサーヴァントが三人もこの場にいるなどあってはならない。飛行魔術で宙に浮かびながら、アサシンに向かって辛辣な言葉を浴びせる。

 

「アヴェンジャーにセイバーまで!? くっ……この役立たず!」

「そちらもいったいどうなっているのだ。悪戯心でそやつを通してやったが、まさか斯様な事態になろうとは」

 

 キャスターとアサシンのやり取り。二人が組んでいるのは完全に確定された。

 キャスターにとって敵は三人、味方は一人という状況。

 しかしセイバーにとっては――敵サーヴァントが四人、守るべき瀕死のマスターが一人という、今だかつてない最悪の窮地となっていた。

 この中から士郎を担いで脱出する? 英霊である以上山門からしか脱出できず、そこにはアヴェンジャーが陣取っている。厳しい表情で士郎とセイバーを見つめている。

 

『こっちもマスターの命令(オーダー)でな。()()()()()()()()()()()()()()()()、すっ込んでろ』

 

 今、炎で攻撃されたらどうしようもない。

 重傷のマスターの間近で風王結界(インビジブル・エア)など使う訳にはいかないし、担いで逃げるにしても勢いをつけすぎたら傷に悪影響がある。対魔力を全開にしてしのいだとしても、その隙にアーチャーかアサシンに狙われたらどうしようもない。

 

 ――衛宮士郎を見捨てて逃げる。

 それだけが、セイバーに残された唯一の勝機だった。

 

 たとえマスターを失っても、新たなマスターを見つければ聖杯戦争は続行できる。

 だが、しかし。

 共に戦うと誓い、未熟ながらも力の限りを尽くさんとするこのマスターを見捨てては。

 騎士王としての誇りは地に落ち、二度と起つ事はないだろう。

 

 敵味方が入り乱れ、各々が打つ手をこまねいていると。

 

「むっ――妹紅、避けろ!」

 

 反射的にアサシンが叫ぶ。敵に塩を送った訳ではない、ただ邪魔だっただけだ。

 アヴェンジャーが山門の前にいては、新たにやって来たのが何者なのか見えにくいというだけ。

 旧知の敵の言葉に従ってアヴェンジャーが飛び退くや、長い紫の髪をなびかせて長身の女が飛び込んできた。しかも妙な事に背中をこちらに向けた、無防備極まりない姿勢で、境内の半ばほどにまで飛んできたのだ。

 誰かに攻撃されれば何もできず死んでいた。

 誰も攻撃しなかったのは、あまりにも事態が突発的だったのと、迂闊に攻撃したら他の誰かに自分が狙われるかもしれないからだ。

 

「……ライダー!?」

 

 士郎から聞き及んでいた身体的特徴から、セイバーが正体にたどり着く。

 ライダーと呼ばれた女は両手に鎖つきの短剣を構えており、胸の前で交差させていた。まるで胸元への攻撃を防いだかのような姿。いや、事実防いだのだ。

 

 さらに、新たに、山門から姿を現した七人目の攻撃を。

 

「よぉ、随分ユカイな事になってるじゃねぇか。――俺も混ぜろや」

 

 蒼い軽鎧に朱の魔槍を携えた、猛犬の如き相貌の男。

 

「ランサー!? なんでここに――」

「ハッ。見た事のねぇサーヴァントが石段の下から覗き見してたもんでな。ちょいと声をかけつつ槍で小突いてやっただけさ。……マスターの命令(オーダー)にゃ反してねぇぜ」

 

 この場にいる誰も知らない事だが、ランサーはすべてのサーヴァントと戦って情報を収集し、生還するよう令呪によって命じられている。故に、まだ戦った事のないサーヴァント、今回の場合はライダーがいたため、命令(オーダー)通り戦闘を仕掛けた訳だ。

 その結果、柳洞寺にサーヴァントが集うという面白おかしい状況になったとしても不可抗力。

 そして情報収集の戦いはまだ終わっていない。ライダーには短剣で攻撃を防がれただけで、真名も宝具も暴いていないのだから。

 

「なっ……ら、ランサーまで?」

 

 柳洞寺を拠点としているキャスターとしてはたまったものではない。

 こんな、聖杯戦争の序盤でしかない状況で、なぜ、どうして、サーヴァント七騎が、己の陣地に集結してしまっているのだ。一人は下僕とはいえ、こんな状況でいったいどうしろというのだ。

 聖杯戦争が本格的に始まる以前、キャスターはランサーと前哨戦をしている。その実力もよく分かっている。直接戦闘では勝機が薄く、アサシンをあてがっても怪しいものだ。二対一でなければ勝機はない。

 せめて狙い通り衛宮士郎から令呪を奪えていれば、最優のセイバーを隷属させて一気に優位に立てたというのに、それもアーチャーが妨害した挙げ句に衛宮士郎まで手にかけられてしまった。

 あのまま衛宮士郎が死んでしまったら、セイバーを従えるのが難しくなってしまう。下手したらセイバーも魔力切れで消滅してしまうだろう。

 考えうる限り最悪の状況だった。

 

 ――不幸中の幸いと言える点があるとすれば、彼等は柳洞寺の人間をどうこうする気はないようだ。ならば空間転移で自分だけ逃れてしまえば、アサシンが殺されるだけでこの場はすむはず。

 いや、戦いが激化して柳洞寺が巻き込まれたら? セイバーやライダーの宝具なら相当な火力を発揮するはずだ。アヴェンジャーの火力も相当のもので下手したら柳洞寺が炎上する。

 迷いがキャスターの思考を鈍らせている間に、事態はさらなる最悪へ転げ落ちようとしていた。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「――死んじゃう」

 

 アインツベルン城。バルコニーから冬木市を眺めながら、イリヤは呟いた。

 マーキングのおかげで妹紅の視界を共有できている。

 だから見えていた。

 サーヴァント六騎が一箇所に集結するという異常事態と、その真っ只中で致命傷を負って倒れている衛宮士郎の姿が。

 状況はすでに一触即発。誰かが迂闊をすれば、それが引き金となってそれぞれが自衛や脱出、あるいは敵の打倒のため動き出す。その激しい争いの中、衛宮士郎が狙われたらあっという間に殺される。狙われなくとも巻き添えを食って殺される。

 これは聖杯戦争。自分が手を下す前に、衛宮士郎が他のサーヴァントに殺される可能性も考えなかった訳じゃない。

 

 そうなったらそうなったで仕方ない。

 彼が他の誰かに殺されてしまっても仕方ない

 一番大事なのは聖杯を手にして願いを叶える事。

 それがイリヤの存在理由でありアインツベルンの悲願。

 でも。

 だけど。

 

 

 

『やめろセイバーァァァアアア!!』

 

 

 

 令呪を使って、衛宮士郎はセイバーを止めた。

 イリヤを守るために令呪を使ってくれた。

 あの時の胸の熱さは――今でも明確に思い出せる。

 でも今は、胸が苦しい。

 士郎は死ぬ。もうすぐ死ぬ。

 

 ――自分がシロウを殺すならいい。

 でも、手の届かないところで勝手に死なれるなんて――。

 

「モコウ……ねえ、聞こえてる? 返事をして、モコウ!」

『…………リ…………に、言っ……?』

 

 他の連中に聞こえないよう、小声で返事をしているのだろう、

 しかしそれは途切れ途切れでよく聞こえない。

 昨晩、キャスターの前で妹紅に念話をし、それを見抜かれてしまった。

 もしかしたら柳洞寺に新たな結界を張りジャミングをしているのかもしれない。

 

「モコウ! シロウを……お兄ちゃんを確保して、今すぐ連れ帰って! モコウとお兄ちゃんなら入口からじゃなくても外に出られるの! 返事しなさい!」

『…………聞こ………………』

 

 駄目だ。聞こえていない。

 向こうも恐らく同じような通信状況なのだろう。

 妹紅と仲良くなったのに。

 妹紅は言う事を聞いてくれるのに。

 肝心の意思疎通ができない。

 戦闘になっても士郎を殺さないよう言いつけてあるから、妹紅が士郎を狙う事はない。しかし誰かを守る事に不向きな妹紅が、この状況で士郎を守り切れるはずもない。

 かといって、イリヤが今から柳洞寺に向かったところで間に合わない。

 一瞬で柳洞寺に行くなんて、それほどの空間転移の魔術なんて、イリヤには――。

 

 ハッとして、振り返る。

 イリヤの背後には、マスターを守るべく無言で立ち尽くしているサーヴァントがいた。

 イリヤのもう一人のサーヴァント。一人目のサーヴァント。最強のサーヴァント。

 

「バーサーカー」

 

 祈るように、イリヤは名前を呼んだ。

 バーサーカーはただ静かにイリヤを見つめ返し、続く言葉を待っている。

 命令を告げられる事を待っている。

 願われる事を待っている。

 だから。

 

「お願い、お兄ちゃんを――シロウを守って」

 

 イリヤの肢体が、赤く輝く。

 全身に張り巡らされた魔術回路、そして令呪が、少女の願いを抱いて赤く輝き――。

 

「バーサーカー! 今すぐモコウのところに飛びなさい!」

 

 令呪が行使され、バーサーカーの身体は光に飲み込まれて消失する。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 妹紅は焦っていた。

 さっきからイリヤが何か言ってきているが、言葉が途切れ途切れで聞き取れない。

 此処はキャスターの陣地。迂闊に飛び込んだせいで通信妨害をされているらしい。

 自己判断でこの状況を乗り切らねばならないが、はて、乗り切るとは何を指すのか。

 自分だけなら簡単に逃げられるし、他の連中が乗り気ならここで聖杯戦争を終結させてやってもいい。だが衛宮士郎を見殺しにしていいものか。

 

 六人の中でもっとも闘争心を駆り立てているのはランサーだ。

 この場にあって守るものがなく、逃げるどころか自分から乗り込んできた。

 最初に動く可能性が一番高い。

 

 アーチャーも危険だ。士郎は重傷を負わされたが、まだ息がある。

 トドメを刺しに来るかもしれない。

 

 キャスターも危険だ。士郎をここまでさらった犯人はこいつだろう。

 どうするつもりだったのかは知らないが、百害あって一利なしなのは間違いない。

 

 アサシンは悪い奴じゃない。しかしキャスターに従っている。

 それにこの広さではさっきのように隙間を埋め尽くす弾幕など放てやしない。

 

 ライダーは初めて見た。動向がまるで読めない。完全に正体不明。

 ただ英霊だの亡霊だのより、妖怪に近い気配を感じる。

 

 セイバーは、衛宮士郎を見捨てる気はないようだ。

 だがセイバー一人でどうこうできる状況ではないし、協力を申し出たところで信じてもらえるとも思えない。こうなったらセイバー以外の五人同時に弾幕をぶつけて暴れ回ってやるべきか? そうすればセイバーは士郎を連れて逃げるはず。これが最善手。

 

 妹紅がそう結論づけ、戦いの火蓋をみずから切ろうとした瞬間。

 真っ白い髪の毛から、パァッと光があふれ出た。

 

「――えっ?」

 

 当事者の妹紅からはよく見えなかったが、その場のサーヴァント全員が視線を向けてくる。

 髪の毛が一本だけ、まばゆく輝きながら重力に逆らって浮かび上がっている。

 

 これがマーキングと呼ばれるモノの正体だった。

 イリヤは妹紅の髪を梳いて、香りをつけていたのではない。

 髪を梳きながら自身の髪の毛を一本、妹紅の頭皮に植え込んでいた。意識の送受信を行うアンテナとしてだ。

 無数の白に紛れた一筋の銀。見分けるなど、真っ白な灰の山に落ちたひとひらの雪を探すようなものである。

 

 

 

 イリヤの髪の毛を目印にして――それは来た。

 

 

 

 英霊を拒む結界の内側に、道理を無視して出現させる絶大な魔力行使。

 令呪による空間転移によって、()()()()()()が訪れる。

 ここに集った五騎の正規サーヴァントにとっては、()()()()()()()()()()

 

 巌の如き豪傑、雄々しき巨漢。

 そこに在るだけで周囲に絶大なプレッシャーを与える大英雄。

 イリヤスフィールのバーサーカーが、柳洞寺に出現した。

 

 

 

「旦那!? なんで――――」

 

「■■■■■■――――ッ!!」

 

 

 

 妹紅の傍らに降り立ったバーサーカーは、天空の星々すら震わせんばかりに雄々しく高らかに咆哮する。それは、すべてのサーヴァントに戦慄を与えた。

 ランサーは当惑する。初めて見るサーヴァントにちょっかいをかけ、楽しいパーティー会場に乱入したつもりが――ほんの一瞬で乱入者に驚愕する側に回ってしまった。

 

「何だと! どうなってやがる!?」

「八人目のサーヴァント――!?」

 

 セイバーにとっても青天の霹靂だ。

 まったくもって意味が分からない。あんなサーヴァントは知らない。いるはずがない。

 しかしアヴェンジャーに寄り添うように出現したという事は、あれはアインツベルン側の存在。

 ――セイバーと士郎を目の敵にする勢力だ。

 

 

 

「バーサーカー……だと!?」

 

 このような状況にあって、正しくクラス名を見抜いたのはアーチャーだ。

 彼は幻視する。イリヤスフィールの傍らに立つ、雄々しき大英雄の姿を。

 そして、ああ、やはり――彼女にはその組み合わせが一番似合う。

 

 

 

「ほう――?」

 

 唯一冷静なのはアサシンだ。バーサーカーの味方である妹紅よりも冷静だ。

 それもそうであろう。()()()()()()()()()()など、()()()()()()()のだから。

 あの時代からこの時代まで現世をさすらっていたとするならば、彼女の他にサーヴァントがいて然るべき。

 そして妹紅がサーヴァントなどと名乗っている以上、本物のサーヴァントが同じ勢力に潜んでいると考えるのが道理。

 果たしてそれは大正解。しかもこれほどとびっきりの、極上の武人(もののふ)だとは!

 剣を握る手が思わず震える。

 恐怖ではない――これは()()。生前ついぞ侍になれなかった男の、魂からの()()()()だ!

 

 

 

「ば、バカな……あれは、あの男は――!!」

 

 ライダーは恐怖していた。

 馬鹿な。ありえない。そんなはずがない。

 思考は混乱したまま堂々巡り。今すぐ逃げるべきという当然の結論にいつまで経ってもたどり着けない。ただただ恐怖し、畏怖し、バーサーカーの雄叫びに身を震わせる。

 戦う意味はない。勝てないのは決まっている。マスターを狙う事だけが唯一の勝機。アレに挑むなど馬鹿げた話だ。撤退の機を逃してはならない。

 

 

 

「そん……な……どうして、貴方が……」

 

 キャスターにとっては泣きっ面に蜂どころではない。

 彼女は知っている。会っている。苦楽を共にした事さえある。

 大きくて威圧感のある姿が苦手だった。

 けれどあらゆる困難を打ち砕く力強さが頼もしかった。

 

 あってはいけない、こんな事が。

 あってはいけない、こんな理不尽が。

 

 無理だ。

 不可能だ。

 

 彼を倒せるはずがない。

 彼を倒せる者などいない。

 

 あいつ、あの女、アヴェンジャーを名乗るあいつに仕込まれた髪の毛を媒体に転移してきた。

 あれこそが英霊。

 あれこそがサーヴァント。

 

 

 

「――――ヘラクレス!! なぜ貴方が!?」

 

 

 

 誰よりも遅く現れた英霊は、すべてのサーヴァントが集結している真っ只中、いとも容易く真名を明かされてしまう。かつて共に大海原を冒険した仲間によって。

 最高神ゼウスの子であり、十二の試練を踏破し、ギガントマキアにおいては強大な巨人族を討伐し、他にも数々の伝説や偉業を残し、非業の結末を迎えながらも神の座へ至った男。

 

 ひとつの神話の頂点を極めし者。

 ギリシャ最大最強の英雄ヘラクレス――ついに聖杯戦争へ身を投じる!!

 

 

 




 ちょっとセイバーのマスター釣り上げただけなのに、風雲急を告げすぎる柳洞寺。
 それと剣聖さんは別に妖忌って訳じゃありません。剣の共通認識みたいな感じ。

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