イリヤと不死身のサーヴァント【完結】   作:水泡人形イムス

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第14話 柳洞寺だよ全員集合☆大乱闘スマッシュサーヴァント

 

 

 

「――――ヘラクレス!! なぜ貴方が!?」

 

「■■■■■■――――ッ!!」

 

 

 

 天が、地が、星が、人が。すべてのものが等しく震える。

 大気が質量を持って重くのしかかり、心身をきつく絞め上げていく。

 月下の柳洞寺に降臨せしは雄々しき大英雄。

 狂戦士と化したヘラクレスの雄叫びによって。

 

 ランサーとアサシンは思わぬ強敵に歓喜し、アーチャーは遠き日の記憶に納得し、ライダーはありえない光景に困惑し、セイバーはさらなる窮地に恐怖し、キャスターはただただ絶望する。

 バーサーカーの参戦はそれほどの衝撃だった。

 

「――わざわざ旦那を寄越すとは、ここで皆殺しにしろってのか!?」

 

 妹紅が両腕に炎をまとわせて援護態勢に入るや、バーサーカーは斧剣を振り上げながら暴風のように駆け出した。進行方向にいたのは――アーチャー。

 

「チッ――」

 

 弓兵が狂戦士と剣戟を交わして無事ですむはずがない。

 彼は血塗れの夫婦剣を投擲してきたが、斧剣の一薙ぎによって二本まとめて粉砕する。圧倒的質量の暴力からアーチャーは全力で逃れると同時に、左手に弓を出現させて応戦の構えを取った。

 

「させるか!」

 

 即座に妹紅が火炎弾を高速で投げ放ち、アーチャーのバランスを崩してやる。

 これを機と見てセイバーも動いた。士郎に肩を貸して立ち上がり、揺らさないよう注意しながら山門に向かおうとするも、天から降り注ぐ光の奔流が吹きすさび境内を焼いた。

 狙われたのは三箇所――。

 

「■■■■!」

 

 ひとつはバーサーカーに降り注いでその身を焦がした。

 

「スペル――!?」

 

 二つ目はアヴェンジャー妹紅の身にも迫るも、肌をかすめさせるギリギリで回避。

 

「くっ――!」

 

 三つ目はセイバーと山門の間にも降り注ぎ、地面をえぐって足止めをさせる。

 光を放ったのはキャスターだ。

 彼女は黒いローブを翼のように広げて月夜に舞い上がり、その周囲に魔力砲を発射するための魔法陣を無数に浮かべていた。この錯綜とした状況にあってわざわざ存在をアピールしては、袋叩きに遭いかねない。それでもキャスターは絶望を打ち砕くべく行動せねばならなかった。

 

「聞きなさい! そこにいるヘラクレスは規格外の大英雄! 私達が太刀打ちできる相手ではないわ。しかし、聖杯を得るため戦っているのなら――彼は倒さねばならぬ最大最強の障害!」

 

 混迷としたこの状況、もっとも逃げ出したいのはキャスター自身だ。

 しかしこれが絶大な好機である事も、理解できていた。

 

 

 

「ここにいる全員でかからねばヘラクレスは倒せない! 協力なさい!!」

 

 

 

 ヘラクレスの脅威をもっともよく知るが故に――キャスターは()()()()をしてしまっていた。

 ヘラクレスはバーサーカーとして召喚されたがために、その卓越した技能や、強力無比な数多の宝具を喪失してしまっている。隙を突くのが容易で、キャスターの想定よりずっと御しやすい。

 

 そして同時に()()()()をしてしまっていた。

 ――十二の試練(ゴッド・ハンド)

 成した偉業、逸話が昇華された宝具であり、生前は持ち合わせていなかった宝具。

 11の命を保有しているため本来持っている命を含めて12回も殺さねば倒せないという規格外の宝具。さらにBランク以下の攻撃を無効化し、一度受けた攻撃に対しては耐性を持つ特性までも備えている。

 その宝具の存在を知らないから、なりふり構わず1回殺せれば何とかなると思い込んでいた。

 

 ヘラクレスが最大の難敵である事は他のサーヴァントも理解できるはず。

 もしも全サーヴァントの戦力を結集できたのなら――。

 あまりにも大きな絶望の荒波の中、キャスターは一筋の光明にすがった。

 

「キャスタァァァ!」

 

 余計な誘いをしたキャスターに、妹紅が肉薄する。空を飛べる者同士が星の海で向かい合い、互いに砲撃を撃ち合った。妹紅は巨大火球を力いっぱいぶん投げ、それはターゲットの近くで大爆発を起こしてさらなる紅蓮を撒き散らす。さながら夜の空を夕焼けへと染め替えるように。

 一方メディアは高出力の魔力の光帯を何本も同時に放ってきた。

 その威力は対魔力がなければ致命となるほど。無数の流星が夜空を傍若無人に引き裂き、その大魔術の威力と速度、そして数は、他のサーヴァント達の度肝を抜いた。

 妹紅も驚きを隠せなかった。

 これほどの大魔術を扱える者など、幻想郷にだってそうそういない。物質的な破壊力ならこれ以上の攻撃など山程見てきた。しかしあれほどの魔力を収束した高密度の魔力砲など、霊的な存在が直撃を受けたらただじゃすまない。生身の肉体でも常人なら綺麗に消し飛ばされるだろう。

 

 だが避けられる! ――魔術の腕は凄まじいが、どうにも力押しだ。戦闘経験が浅いのか?

 

 光線にギリギリ触れるか触れないか――そんな際どいラインを取って妹紅は回避を成功させる。

 ()()()()は弾幕少女の嗜みだ。

 チリチリと肌の焼けるスリルが背筋から脳天へと駆け上る。

 

「そっちが威力ならこっちは密度で行かせてもらう! 蓬莱――瑞江浦嶋子(みずのえのうらしまこ)五色(ごしき)瑞亀(ずいき)!!」

 

 妹紅の周囲に首の無い鳳凰のオーラが浮かぶ。それはコウモリのようなキャスターのマントと対照的な色合いでありながら、不思議な事に不吉さはどっこいどっこいだった。

 オーラの周りに光弾が浮かぶ。スペルの名前の通り五色(ごしき)の燐光が眩く乱舞する。

 赤、青、黄、白、黒。それらは星空の隙間を埋め尽くすように、何百という星となって縦横無尽に飛び交った。

 

「くっ――こんな数だけの小手先にぃ!」

 

 火力自慢の妹紅ではあるが、火力勝負をしたら押し負けてしまうとすでに理解していた。一点集中の自爆技をかけようにも、相手が空間転移で逃げられるのは先刻承知。まずは弾幕だ。

 数の暴力で圧殺すべく、一発一発の威力を落として放った。

 故に光線で呆気なく薙ぎ払われてはしまうのだが、構わず次から次へと弾幕を注ぎ込んでやる。キャスターはみずからの光線で作った隙間に身を投じながら、妹紅への攻撃と、対バーサーカーへの援護射撃という三つの動作をしなくてはならない。

 

 互いの弾幕が衝突するたび、花火のように破裂して夜空を美しく彩る。

 まるでお祭りの会場。だが、眼下で行われるのは――。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 地上のサーヴァント達は一触即発の状況に陥り、戸惑っていた。

 

 このバーサーカーがあのヘラクレスだというなら、確かに単独で相手取るには危険すぎる。

 特にセイバーは、下手に士郎を連れて逃げようものなら、キャスターから妨害の砲撃を受けてしまう危険性があった。現にアヴェンジャーと空中で砲撃戦を繰り広げながらも、チラチラと地上の様子をうかがっている。ここは他の者と協力してバーサーカーを討つべきか? この人数でかかればすぐ決着がつくかもしれない。そうすれば士郎を連れて逃げられるか。

 そんな悩みなどお構いなしに飛びかかる者が一人。ランサーだ。

 

「ハッ――これがアインツベルンの切り札か!」

 

 サーヴァントが八騎いる。

 そんな疑問など、ヘラクレスという大英雄と戦える悦びの前ではあまりにも些細。

 むしろ宣言されていた切り札を、独力で切らせられなかった事を申し訳なく思うほどだ。

 

 蒼き旋風から呪いの魔槍が繰り出される。

 バーサーカーは即座に斧剣で対応する。炸裂する金属音。朱槍は折れず、怯まず、弧を描いて鮮やかに振るわれるも、身体に染みついた本能は機敏な防御と回避を両立させる。

 半身を引いて槍の斬り上げを回避すれば、ランサーの手元で槍は旋回し遠心力の乗った第二撃が放たれる。即座に斧剣で打ち払い、お返しとばかりに雷火のような一撃を振り下ろす。

 爆砕する地面。舞き起こる粉塵を置き去りにして跳躍したランサーはバーサーカーの横合いをすり抜けながら首元へ朱の閃光を振るった。

 バーサーカーは素早く腰を落として避けつつ、地面に食い込んだ斧剣を振り上げる。

 ランサーは槍の腹でそれを受け止めたが、そこは踏ん張りの効かない空中――小石のように弾き飛ばしてやった。

 直後、別方向から投擲された短剣が地を這うように迫り、バーサーカーの足に命中する。

 短剣の柄からは鎖が伸びており、ライダーの手に握られていた。

 

「――ヘラクレスと戦うなど正気の沙汰ではありませんが、総掛かりならば試す価値はある」

 

 などと言ってはいるが、念頭に置いているのは依然"撤退"の二文字である。

 マスター狙い以外に打つ手はないと今でも思ってはいるが、バーサーカーの守護を掻い潜って始末するのもやはり至難。

 総掛かりならもしかしたら倒せるかもしれないという淡い希望と、どうせなら他の連中と同士討ちになってくれれば都合がいいという打算が危険な賭けに挑ませた。

 何分、ライダーの()()()()()()を思えば聖杯戦争の勝利者となるのは難しく、どこかで賭けをしなくてはならない。真に守りたい人を守るために――。

 

 ライダーに手助けされたランサーは、後ろから刺される可能性を考え、油断なく構える。

 

「チッ、袋叩きなんざ性に合わねぇが……贅沢は言ってられねぇか」

 

 ここでノルマを完了すれば、後は憂い無しで戦える。

 起き上がったランサーは最速の俊敏性を以て再接近し、怒涛の攻撃を繰り出してきた。朱の残像を残す高速連撃は、しかし荒れ狂う斧剣の暴風によって弾き飛ばされる。骨身を軋ませながら踏ん張るランサーを援護すべく、ライダーは横に回り込んで再び短剣を投擲する。腕に、脇腹に、短剣は確かに命中した。しかしバーサーカーは物ともせずランサーと打ち合い続ける。

 

 バーサーカーを打倒するなら今が好機。

 セイバーにはそう分かっていたが、士郎を捨て置くなどできるはずがない。

 だが山門へ逃げ込もうにも上空からキャスターに狙われる。

 

「セイバー! その坊やは捨て置きなさい! マスターなら私がなって上げる、聖杯も使わせて上げるわ――私の魔術なら聖杯を再利用できるよう調整できる! 悪くない取引のはずよ!」

 

 セイバーの道を遮ったキャスターが、異なる道を示す。

 

「ふざけた事を! 貴女の言葉を信じろと言うのですか、キャスター!」

「相手はヘラクレスなのよ!?」

 

 妹紅と激しい弾幕合戦をしながらも、キャスターの悲鳴はヘラクレスの脅威のみに震えていた。

 敵サーヴァントが柳洞寺に集まってしまった?

 ヘラクレス参戦に比べれば些事!

 むしろ全員で共闘すればヘラクレスを打倒できるかもしれない。

 しかしたとえ聖杯で願いを叶えられるとしても、マスターを見捨てるという選択肢はセイバーにはない。騎士として共に戦うと誓ったのだから。

 

「――逃がすものか!」

 

 そんな心情をあざ笑うかのように、赤衣のアーチャーが夫婦剣を振りかざして迫りくる。

 士郎を左腕で抱いたまま、セイバーは右の不可視剣を反射的に薙ぎ払った。甲高い音と共に衝突し、剣越しに視線が交差する。

 

「アーチャー! この状況でまだ――」

「ヘラクレスもコルキスの魔女も知った事か。私は私の獲物を仕留める」

 

 白と黒の連撃が放たれる。

 セイバーはそれを片手一本でしのぐも、抑え込まれるのは時間の問題だった。士郎を抱えたまま斬り合い続けられる訳がない。もう数手で限界を迎え、自分か士郎が斬られると悟った。

 一撃、二撃――ああ、三撃目でやられる。三撃目が振り下ろされる。

 横合いから、銀閃が走った。

 

「――ぬうっ!?」

 

 アーチャーがそれを防御できたのは偶然に等しい。

 そして、セイバーとアーチャーの間に伸びるのは長い長い日本刀。

 

「アサシン……?」

「フッ。主を案じるそなたの面差しがあまりにも可憐であったのでな。つい、手が出てしまった」

 

 セイバーは力が抜けるのを感じた。

 アサシンは信用に足る男だ。敵に助けられるなど騎士として恥ずべきだが、それでも、士郎を殺されずにすんだという安心感は得難いものだった。

 そこに、空から相反する声が降ってくる。

 

「いいぞ小僧! アーチャーを殺せ!」

「何をやってるのアサシン! 今はバーサーカーを優先なさい!」

 

 魔力が無尽蔵なのかと思えるほどのペースで光弾と光線を撃ち合っている妹紅とキャスター。

 片や光線を回避しながら、片や光弾を魔力障壁で防ぎながら、ほぼ同時に同じ相手に向かって叫んだ。

 アサシンは苦笑せずにはいられなかった。

 

「やれやれ……剣は同時に振れるが、私は一人しかいないのだぞ」

 

 などと言いながら、アサシンの双眸はまっすぐにアーチャーを見据えていた。

 バーサーカーはすでに二人の英霊を相手取りながら、キャスターからも狙われている。

 あれほどの豪傑、今すぐにでも手合わせ願いたいが――こんな状況では無粋というもの。ならば他の無粋者を成敗してやるのが道理であるはずだ。

 しかし。

 

「えぇい、令呪にて命じます! アサシン、全力でバーサーカーと戦うのよ!」

 

 キャスターの手の甲が赤く発光する。

 サーヴァントがマスターをやっている。事情を知らないアーチャー以外の者は困惑と驚愕をしたが、すぐにルール破りなりインチキなりをしたのだろうと当たりをつける。

 

「クッ――全力で、と来たか。小気味よいほどに底力が湧いてくる」

「ついでにその剣にも強化を付与して上げるから、何とかなさい!」

 

 さらにアサシンの物干し竿が淡く輝き出す。今ならセイバーの聖剣とだって、短期間ならば正面から打ち合えるだろう。

 無粋に加担する己を自嘲しながらも、ヘラクレスという大敵と戦える歓喜が湧き上がるのをアサシンは止められなかった。戦なれば思い通りにいかぬのは当然。ならばせめて、目の前の状況に全霊を尽くすのみ。

 切っ先をバーサーカーへと向け直しながら、アサシンは詫びる。

 

「すまぬなセイバー。後は自力でなんとかしてくれ」

「――いえ。ありがとう、アサシン」

 

 暗雲渦巻く窮地のまっただなか、そこに、一筋の風が吹いた。

 清涼で、冷たいながらも胸をあたたかくさせる風。

 騎士道と武士道がほんの一瞬、交わっていた。

 

「ヘラクレスと申したか。浅学ゆえ何処(いずこ)の武人か存じ上げぬが、いざ、参らせてもらう!」

 

 バーサーカーはランサー、ライダーという二騎の機動力に優れたサーヴァントを同時に相手取らされ、小刻みなダメージを蓄積させられていた。そこに疾風迅雷となって迫るアサシン。鋭く容赦のない全力の太刀筋はバーサーカーの脇腹を半ば近くまで切り裂いた。

 

「■■■■――ッ!」

 

 形勢が傾く。新たに乱入した機動力と技に優れたサーヴァント、アサシン。

 技を失った狂戦士にとって、この状況は危うい――。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「残念だったなセイバー」

 

 アーチャーが冷笑し、再び夫婦剣を出現させて握りしめる。

 無言で透明の聖剣を構えるセイバー。

 両者の距離は数メートル。アーチャーなら一呼吸で詰められる距離だ。

 左腕で抱きかかえた士郎の命は、果たして後どれだけ持つのか。

 冷や汗が頬を伝い――。

 

 

 

「替われ旦那ァァァッ!!」

 

 

 

 高熱の火炎球が天から降り注ぐ。

 バーサーカーを囲んでいたランサー、ライダー、アサシン、そしてセイバーを狙うアーチャーの頭上に。無論おいそれと攻撃を受けるようでは英霊とは言えない。各々は回避行動を取り、同時にバーサーカーが地を蹴った。そして妹紅が急降下をし、二人が空中で交差する。

 視線は交わさなかった。

 妹紅に砲撃の照準を合わせていたキャスターに、バーサーカーの剛体が迫る。

 悲鳴を噛み殺しながら放たれたキャスターの魔力光、それを正面から突き破ってバーサーカーは斧剣を振りかざした。避けられないと悟ったキャスターは全力で高速詠唱し転移。闇に溶けるように姿を消して難を逃れる。

 地上へ降り立った妹紅は即座に弾幕を展開。

 セット、スペルカード――。

 

「蓬莱人形ッ!!」

 

 妹紅を中心に放たれる黄色い光弾は円形が広がり、多数のサーヴァントを同時攻撃する。だがそんな直線的な攻撃で捉えられる者などいない。ライダーが鼻で笑った直後、その背中に青の光弾が突き刺さった。

 

「ガハッ――!?」

 

 致命傷ではない。即座に体勢を立て直したライダーは背後を振り返り、困惑した。

 柳洞寺の塀の手前に青い光弾が列を成して浮遊しており、それが端っこから順に境内へと斉射されているではないか。しかも妹紅を挟んだ反対側、アーチャーのいる方には赤い光弾が整列されており、それもまた内部へ向かって斉射されている。

 柳洞寺境内はあっという間に赤、青、黄の魔力弾が内外から放たれる弾幕空間と化していた。

 

「流石の手数だなアヴェンジャー!」

「相変わらず多芸な娘よ。しかし些か不死鳥らしさに欠けるな」

 

 ヘラクレスとの戦いを妨害されながらもランサーは嬉しそうだ。

 どうせ多人数で一人を襲いかかっていたのだ。ならば向こうも仲間の手を借りて当然。

 戦場の混迷こそ戦士の生きる場所だ。

 そして楽しみつつも、着実に情報を暴いていく。炎だけでなく魔力弾も達者に操り、これほどの制圧力を誇るとは見事なものだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。種が割れてしまっても困るので、雌雄を決する時までの温存が不可欠。そのためにもまずは生き残らねばならない。

 アヴェンジャーの弾幕と、バーサーカーの斧剣から。

 

 アサシンもまた久方振りに味わう妹紅の実力に郷愁を抱いていた。逃げ道のない山門前と違ってここなら対処もできる。弾幕の隙間を潜り抜けながら視界の端でバーサーカーを追い続ける。

 一旦妹紅を斬り捨てて空白を作るべきとは思っているが、何分、令呪によってバーサーカーを狙うよう命じられているゆえ、そうもいかないのだ。

 

 アーチャーは前後から迫る光弾を夫婦剣で弾き飛ばしながら、戦況を確かめようと視線をめぐらせた。ランサー達は弾幕とたわむれている。キャスターはどこかに潜んでいるはずだ。

 

 セイバーは……動いていない?

 そして、空から、キャスターを仕損じたバーサーカーが降ってきた。

 よりにもよってアーチャーに向かって。

 

「なん……だと……!?」

 

 思い返せば、柳洞寺に出現したバーサーカーが最初に狙ってきたのはアーチャーだ。

 恨みでも買ってしまったのか。当惑しながらアーチャーは夫婦剣に魔力を込める。

 生半可な剣では奴の斧剣は止められない。ならば――。

 

 セイバーは未だ脱出の機をうかがっていたが、最初に行ったのは足を止めて対魔力の力を高める事だった。アヴェンジャーの弾幕ならば、威力を集中させたものでない限りこの程度で防げる。

 だからまず戦況を見極めてから――そう思っていた。だが。

 

「なぜ……だ?」

 

 なぜか、セイバーの周りにだけ弾幕が飛んでこない。

 光弾はアーチャーと打ち合っているバーサーカーにさえ激突し、破裂している。キャスターの魔術すら物ともしないバーサーカーならば巻き込んでも同士討ちにならない、という事だろう。

 しかし、セイバーを狙わない理由はなんだ? 誘っているのか? 今が好機と逃げ出したところを後ろから狙うつもりなのか?

 迷いが足を止める中、事態はさらに流動する。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「うっ……せ、セイバー?」

「――シロウ!? 気がついたのですか」

 

 肩を深く切り込まれたはずの士郎が、声を発し、顔を上げた。

 ハッとして傷口を確かめる。血塗れのトレーナーが邪魔でよくは見えないが、出血自体は止まっているようだ。治療も、何も、していないのに。

 士郎は意識を朦朧とさせながらも、目に力を込めて一点を見る。

 

 バーサーカーとアーチャーが切り結んでいる。

 驚異的な質量を誇る斧剣に対し、アーチャーが持っている干将莫耶は刃渡りの短い中華剣。

 二撃、三撃と回避したアーチャーが、後方へ高々と跳躍しながら魔力をたぎらせる。

 

 ――体は剣で出来ている。

 

 そんな言葉が士郎の耳の奥で響き、直後、アーチャーの持つ白と黒の夫婦剣が発光した。

 刀身が大剣と呼べるほど伸び、峰の根元側は針山のように金属が隆起している。

 あるべき形を歪め、無理やり巨大化させたような異形の剣。

 

 まるで白と黒の翼を握りしめているかのよう――。

 

 それを持ってしてアーチャーはバーサーカーの斧剣を受け流した。

 鋭く頑強なオーバエッジだからこそ成せる技。

 その光景が――士郎の胸の奥に響く。

 

 あれは理想だ。

 セイバーのような、士郎にはたどり着けぬ理想の剣ではない。

 衛宮士郎という人間がたどり着ける、長く険しい道の果てにある理想の剣だ。

 なぜそんな気持ちになるのか、士郎には分からない。

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「クッ――キャスターはどうしたのです!」

「気配はする、隙でもうかがってんだろうよ。それよか迂闊に飛び込むなよ」

 

 弾幕空間に慣れつつあったライダーは反撃を試みようとしたが、ランサーの忠告によって再び回避に専念した。敵ではあるが共闘中に騙すような相手ではないと理解している。

 

「あいつ、アヴェンジャーは不死身だ。首を落とそうが心臓を貫こうが、平然と復活するぜ」

「信じ難いですね。アレはいったい何のサーヴァント……いえ、サーヴァントなのですか? 八人いるというこの状況、明らかにおかしい」

「正直分からねぇ。だがキャスターがアサシンをサーヴァントにしてんだ、それくらいあるんじゃねぇか?」

「……それで、貴方はアレとどう戦うべきだと?」

「殺すんじゃなく、封印とかできればな」

 

 封印。その単語に、ライダーはみずからの目を覆うバイザーに手を当てた。

 キャスターは全サーヴァントが揃っている今こそヘラクレスを倒す好機と考えており、ライダーとてそれが理想形だとは分かる。分かるが、理想は理想なのだ。

 全サーヴァントが揃っているという事は、宝具を使えば全員に正体がバレてしまう。

 仮にヘラクレスを倒せたとしても、待っているのは正体の露見した己の不利。

 ヘラクレスを取り囲んでおきながら、誰一人として切り札を使えないのであれば――逆にこちらが潰されてしまうのではないか? そんな懸念が『撤退』の二文字を強く意識させる。

 

「後ろだ旦那ァー!」

 

 弾幕を止めて妹紅が叫ぶ。

 同時に、バーサーカーは振り向きざまに斧剣を薙ぎ払い、アサシンが地を蹴って、斧剣の腹をも蹴って、バーサーカーの眼前へと駆け上がる。

 

「お命頂戴つかまつる」

 

 その刃は卓越した技量に加え、規格外の魔力を持つキャスターの令呪と強化の魔術が上乗せされている。

 ――狙うは首。流麗な銀の軌跡が三日月を描き、バーサーカーの首を半ばまで切り裂いた。

 刃は骨にも届いている。気道すら切断されるも、鋭さのあまり血管同士は触れ合ったままで出血が遅れた。

 あまりの早業に加え、地上は弾幕で満ちているため、バーサーカーが致命傷を受けたと視認できたのは妹紅だけ。

 他はかろうじてランサーが目撃していたが、傷の深さまでは測れていなかった。

 

 すぐさま、鳥の形を成した火焔がアサシンとバーサーカーに迫る。

 高速で放たれた鳳翼天翔、さらにそのすぐ後ろを妹紅が高速飛行で追いかけている。

 背後から迫りくるそれをアサシンは見向きもせず、バーサーカーの肩を蹴って跳躍して逃げおおせた。

 残ったのは首を斬られて動きの止まったバーサーカーだけ。火焔鳥は彼の額ギリギリをかすめて飛んでいき、妹紅はバーサーカーの肩に飛び乗って防衛のための弾幕を周囲に展開しようとする。いかに不死身と言えど、蘇生時のフォローは必要だと判断して。

 

「――今!」

 

 だが弾幕が出現するよりも一手早く、キャスターが転移で姿を現した。

 月を背に、妹紅とバーサーカーを見下ろせる高所に。

 同時にバーサーカーの足元に大きな魔法陣が出現し、不可思議な拘束力によってその身を縛る。

 

「なっ――」

「共に死になさい!」

 

 防御も回避も不可能。砲門の役割を果たす魔法陣が星々のように宙へ浮かび、そのひとつひとつから紫光の魔力砲撃が雨のように降り注ぐ。しかもその一発も外れる事なく妹紅とバーサーカーへと。あっという間に二人の姿は光に呑み込まれた。

 肉体を蒸発させられながら、妹紅の唇が動く。

 

「パゼスト――」

 

 か細い断末魔は間近にいたバーサーカーの耳にだけかろうじて届いた。しかし。

 

神言魔術式・灰の花嫁(ヘカティック・グライアー)!!」

 

 その続きは超高出力な白光の奔流にかき消される。

 キャスターの前面に展開された一際大きな魔法陣から放たれた極太の光線は、バーサーカーの巨体を完全に包み込んだ。羽虫のようにくっついているだけの妹紅も同様だ。

 

「ヘラクレスとアヴェンジャーを同時に――!」

「いや。バーサーカーはともかく、アヴェンジャーはあの程度じゃ……」

 

 その手際のよさにライダーは感嘆の声を漏らす。

 だがランサーは警戒を緩めない。

 アサシンはあえてセイバーとアーチャーの間に着地して牽制し、アーチャーは油断なく状況を見定める。この二人も妹紅が倒されたなど微塵も思ってはいない。

 

 皆が見守る中、光が爆ぜた。

 

「――えっ?」

 

 呆気に取られるキャスター。

 最大出力で放つ魔力砲が唐突に四散させられた。

 アヴェンジャーとバーサーカーのいた場所が激しく燃え上がっている。

 キャスターは悲鳴のように叫んだ。

 

「馬鹿な! 幾らアヴェンジャーでも、この魔力砲を跳ね除けるなんて――」

 

 火柱が四散し、内側から現れたのはアヴェンジャー妹紅ではなかった。

 神々の与えし試練すら乗り越え、如何なる嵐も物ともしない剛健なる者。

 

 

 

 バーサーカーだ。

 バーサーカーが立っている。

 赤々と燃えている。肌を赤く染め上げている。

 赤熱し、炎上し、不死の炎を全身にまとって仁王立ちしている。

 

 

 

「……アヴェンジャー?」

 

 その炎をまとった姿にランサーが呟く。

 あれはバーサーカーのはずだ。なのになぜアヴェンジャーのような光景になっているのか。よくよく見れば喉の傷も見当たらない。

 再生したのは間違いない。

 だがそれはバーサーカーの能力なのか? アヴェンジャーの能力なのか?

 

 どちらなのかは分からないが、どちらだとしても最悪のケースだ。

 

 ライダーは思わず後ずさる。アレはマズイ。よくない予感がする。

 アサシンとアーチャーも後ずさりをする。最大の脅威が誰なのか、そんなの見れば分かる。

 

 セイバーは風をまとった。

 傍らに未だ重傷の士郎がいるにも関わらず、風の防壁を張らねばならぬと直感して。

 

 そしてキャスターも魔力障壁を展開する。

 ひたすらにバーサーカーを恐れる心が、反射的な防御行動に全力を振らせた。

 

 

 

「■■■■■■■■――ッッ!!!!」

 

 

 

 赤化バーサーカーが一際大きく叫び、斧剣を天高く振り上げる。その峰からジェット噴射のように炎の翼が羽ばたいて、炎翼と化した斧剣が全力を持って振り下ろされる。

 星も砕け散るのではと思われるほどの破壊力が、境内の地面を叩きつけた。

 

 瞬間――すべてが白に染まった。

 驚天動地の大爆発。

 月まで届かんばかりの火柱が、天地をつんざく轟音と共に噴き上がる。

 生命より先に在った原初の焔が踊るかの如く、灼熱の大嵐が境内に吹き荒れた。

 

 

 




 十二の試練さえ無ければ袋叩き作戦も悪くなかったんだ。
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