アインツベルンの中庭――冬の城でありながら、美しき花々が咲き誇る場所。
そこに現れた侵入者が二人。
庭でメイドに囲まれて絶体絶命の間桐慎二と、いつの間にか屋根の上からすべてを見下している黄金のサーヴァント……英雄王ギルガメッシュ。
余裕たっぷり。100%の上から目線。
鼻持ちならない態度ながらも、自然の嬰児であるホムンクルスにとってそれは――根源から感情湧き立つ存在であった。その恐ろしさも理解できてしまう。
リズは間桐慎二など無視し、即座にハルバードを構え直す。警戒すべきは黄金の男のみ。
「セラ、あいつ凄く……」
「分かっています。私の事は気にせず、貴女は逃げなさい」
しかし、リズが戦う事をセラは良しとしなかった。
リズの方が強い。頼もしい。しかし――イリヤにとって必要なのはリズなのだ。
脱落したサーヴァントはすでに三騎。ここから先こそバックアップの有無が問われる。
ここで喪う訳にはいかない――誤れば喪う――その恐怖が背筋を震わせる。
「そう怯えるな。その畏怖を以て不敬への免罪とする」
屈託のない笑みを浮かべてギルガメッシュは立ち上がった。
「命が惜しくば
セラが前に出る。ともかくリズに手出しさせる訳にはいかない。
お嬢様の現状を改めてリズから聞いた以上、今、身を張るべきは自分だ。
「あの男がマスター? ではその言葉は聞けませんね。お嬢様を外敵からお守りするのが我等の役割。
「そうか。では花のように散れ。その鳴き声を聞けば、
どうでもよさげに告げるギルガメッシュ。
だがその言葉のひとつが、リズの希薄な感情を爆発させた。
「
そのような表現ができる者を、イリヤに近づける訳にはいかない。
サーヴァントに匹敵するほどのパワーで跳躍し、一気に距離を詰める。
直後、ギルガメッシュの周囲に金色の波紋が浮かび上がる。
その現象は、
閃光が奔る。
光の波紋から射出された光弾が、冷たい空に白を散らした。
「リーゼリット!?」
セラの悲鳴が響く。
リズは――バランスを崩しながらも屋根に着地し、破れた頭巾の下から銀色のボブカットをあらわにしていた。
「――ほう? 人形が、今のを避けるか」
「弾幕ごっこなら、慣れてる」
「弾幕……? ハッハッ。そうか、我が財をもっと見たいなどとは殊勝な人形よ」
妹紅が、手元ではなく周囲から弾幕を発生させる時のように。
ギルガメッシュの周囲に無数の、金色の波紋が浮かび上がる。
あのひとつひとつが射出装置。あそこから射出される光弾は――。
「セラ! あいつ、あそこから
「宝具――!?」
そんなものに勝てるはずがない。
しかしもう逃げられない。背を向ければ狙い撃たれる。
リズも火が点いてしまった。援護しなければ。
お嬢様は今、眠っておられる。
マズイ――敵の襲撃に
こんな時、モコウがいれば。
波紋から放たれる閃光。高速で射出される剣と槍。
半分はリズへ、半分はセラへ、一直線に迫ってくる。
視認、と同時に回避。射線外へと身を翻し、セラは魔力弾を放って反撃した。威力を重視した五発の弾。それらはすべて、新たに放たれた別の刀剣によって貫かれてしまう。
リズも屋根の上を駆け回りながら、宝具の隙間に身体を滑り込ませていた。
ハルバードで受け止める、などという事はしない。
受け止めてはいけない。打ち払ってはいけない。威力が違いすぎる。一発で、一撃で、ハルバードは粉砕されてしまうだろう。
宝具の嵐を受け、次々に破砕していく屋根。その震動がアインツベルン城を揺るがした。
(城が――しかし、これでお嬢様が異変に気づいてくだされば――)
思案しながら反撃の弾幕を放つ手を止めないセラ。
こんなものが命中したとて、あの黄金のサーヴァントは物ともしないだろう。
だがこんなものを浴びるのが嫌なのか、命中する軌道の魔力弾を狙って律儀に射落としている。わずかでも意識をそらせるならば、こちらへの攻撃も少しはゆるくなるはずだ。
「なんと……驚いたぞ。たかが人形風情がここまで避け続けるとは。ふむ、妙に慣れているように見えるな? ――良い。今しばらくこの遊興に耽ってやろう」
次々に、次々に、放たれ続ける宝具の嵐。
ありえない、こんなにも宝具を持っているなんて。セラの動悸が早鐘となり、焦燥が汗となって噴き出してくる。
それでも避けられる。――まだ、避けられる。
妹紅と毎日交わした弾幕の日々が、多角的な射撃を回避する術を刻み込んでくれた。
射出場所が黄金のサーヴァントの周辺からだけなら、射撃が速くとも直線軌道なら、避け続けていられる。
奴が遊興に耽っている間ならば。
爆音が轟く。
頭上から降りしきる瓦礫とガラスの破片の中、つまづきかけたセラに輝く剣が飛来した。
当たる――顔? 眼? 頬? 耳?
妹紅の言葉が蘇る。
『
全神経、全関節、全気合をフル稼働。
あきらめるな。あきらめたら死ぬ。
身をよじる――たったそれだけの行為に全身全霊を尽くせ!
何かが削れるような衝撃音が鼓膜を強打した。
やられた? 死んだ? 視界をぐらつかせながらも、セラは疾駆した。
リズと違って戦闘向きではない我が身、それがこんなにも動き続けてくれる。死の暴風の中で、銀の長髪をなびかせながら、頬を流れる鮮血を知覚する。
大丈夫、生きている、まだ動ける、粘れる。
視力が明瞭さを取り戻すや、魔力を足に集中し、壁の段差を蹴って駆け上がる。リズと連携して挟み撃ちにすれば多少の活路は見出だせるかもしれない。
「ハッハッハッ――いいぞ、その調子で存分に足掻き、踊るがよい。
黄金のサーヴァントは楽しげに笑い、そして、花壇の隅に潜む慎二もまた楽しげに笑う。
圧倒的じゃないか、自分のサーヴァントは。
まずあの二人を血祭りにして死体を並べる。
続いてアヴェンジャーとバーサーカーを血祭りにして死体を並べる。
それらの前にあの小娘を這いつくばらせてやるんだ!
◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇◇◇
酷く億劫だった。
意識はまどろみ、身体は重りをつけたように感じる。
自室のベッドの中で、イリヤは心身が覚醒するのを自覚した。
最初にまず、ベッドの手前にバーサーカーがいるのを理解する。
5回――昨日、あのアーチャーによって5回も殺されてしまったバーサーカー。
2回――イリヤが1日で回復できる、バーサーカーの蘇生回数だ。
差し引きマイナス3。
バーサーカーの命は残り9回となっている。
これなら安全圏だ。アーチャーの多種多様な攻撃も、エクスカリバーの超火力でも、これなら耐えられるはずだ。
向こうも手負い、魔力不足、マスターの力不足によるステータスの低下などを抱えている。
負ける要素なんて何一つない。
なのにどうして――昨日はあんな事になってしまったんだろう。
イリヤの暴力を、無抵抗に受け続けた二人のサーヴァント。
悪い事をしたなと、今更ながらに思ってしまう。
でも謝るなんてできない。自分は強くあらねばならないのだ。
ベッドが揺れる。
何か、騒々しい気がする。
大きな手がベッドを掴んでいた。
「んっ……なに? バーサーカー……揺らさないで……」
マスターの声が聞こえ、バーサーカーはますますベッドを揺らす手を強めた。
ガタガタと揺さぶられ、イリヤの意識は無理矢理に覚醒されていく。
同時に苛立ちもつのり、昨日の反省なんてものも吹っ飛んでいく。
「いい加減に――!」
イリヤが跳ね起きると、バーサーカーの手はピタリと止まった。
同時に重々しい爆音が響き、窓ガラスがガタガタと揺れる。
「――えっ? な、なに?」
何事かが起こっている。バーサーカーはそれを知らせてくれていたのだ。
ベッドから飛び降り、窓へ。
そこには無数の瓦礫が転がっていた。砕けた石畳だけじゃない、崩れ落ちた屋根やガラス、壁すらも。
「――ッ!!」
こんな時に呑気に眠っていたのか。自分の愚かしさが頭に来る。
セラは? リズは? 戦っているとしたらあの二人だ。
焔の赤は見えない。妹紅はまだ帰ってきていないのか。
そもそも――敵は誰なのか。
城が揺れる。屋根の上で誰かが戦っている。
とにかく外に出て確かめねば。
「――そうだ、バルコニー」
ロビーの真上。樹海を越えて冬木の街を見渡せるバルコニーがある。あそこに行けば。
イリヤは自室を飛び出し、精いっぱいの駆け足で廊下を急いだ。
どうして自分の足はこんなにも遅いんだろう。
妹紅のように飛べたなら。
バーサーカーのように走れたなら。
そこまで考え、失策に気づく。窓から飛び出して、バーサーカーに受け止めてもらう方が手っ取り早かった。今更遅い。扉を開け、バルコニーへ出る。すぐ後ろからバーサーカーも蒼天の下に姿を現した。
震動は続いている。この位置からでは屋根の上なんてよく見えない。
バーサーカーの肩に飛び乗って、バーサーカーに屋根の上へと飛び移らせる。
果たしてそこに、セラとリズは――いた。
中庭を挟んだ反対側の屋根の上で髪を乱れさせながら、ボロボロの服を何箇所か紅く染め、息も絶え絶えになっている。両者はともに一点を見据えていた。
その方向から無数の剣が飛来し、二人は素早く回避行動を取る。
見覚えのある攻撃方法。赤衣のサーヴァントを想起し、振り向いた先にあったのは尖塔。
そこに立っていたのは黄金。その足元にはリズのハルバードが半ばから折れた状態で突き刺さっていた。
「アーチャー? ――違う、あれは」
知らないサーヴァントだった。
黒いライダースーツを着こなし、黄金の髪をなびかせる尊大な男。
彼の赤い眼差しがこちらへと向けられる。
「お前が聖杯の器を持つ人形か。ホムンクルスと人間の混ざりものとは、また酔狂なものを造ったな」
声をかけられ、傷ついたメイド達も主の登場に気づく。
「お嬢様! 危険です、お下がりください!」
「……イリヤ、だめ……」
バーサーカーを従えたイリヤが、忠実なる従者達から気遣われている。心配されている。
そんな屈辱よりも、驚愕と戦慄が先に立つ。
あの大きすぎる存在を無視できない。
「――貴方、誰なの」
黄金のサーヴァントが顔をしかめる。
「たわけ、見て分からぬか。この身はお前がよく知る英霊の一人であろう」
「――うそ! わたし、貴方なんて知らない。わたしが知らないサーヴァントなんて、存在しちゃいけないんだから……!!」
力強い嫌悪と拒絶を見せるイリヤ。
しかし黄金の敵は舐めるようにイリヤを見つめた。みずからの所有物を愛玩するように。
「フッ――もう三人分、すぐに
「――――ッ!!」
「それとも、核だけ
敵が何なのかは分からない。しかし明確に、討ち滅ぼすべき敵だとは理解する。
力ならこちらにもある。何物にも揺るがぬ、あらゆるものを打ち砕く、最強の力が。
「セラ、リズ、下がってなさい! こいつの相手はバーサーカーがするわ!」
「主みずから幕引きを望むか。よかろう、ここまで粘った褒美だ――存分に見上げよ!」
黄金のサーヴァントが片腕を掲げる。
少しずつ夕焼けに染まりつつ空に、黄金の渦が現れた。
「来い――イガリマ!!」
そこから生えてきたのは、アインツベルンの城を両断するには
空を覆い尽くさんばかりの、山のような剣が、赤い日差しを遮った。
ゾクリとイリヤの背筋が凍える。
宝具――それも並大抵のものではない。
あれは、あれこそは。
「――神造兵装」
人によって造られたものではない――人によって造れるものではない――神や星といった上位存在によって精製された兵器。
アインツベルン城の終焉を意味する事象そのものであった。
「お嬢様ッ!」
「イリヤ、逃げて!」
空が、降ってくる。
セラとリズが、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
無意識に手を伸ばそうとするも、より大きな手が、イリヤを抱きかかえる。
バーサーカーに抱きしめられて、引き寄せられて、二人の姿が遠ざかる。
「――――いや」
金属の壁が、イリヤとメイド達の間に振り下ろされた。
メイド達の姿が
刃はそのまま古城の屋根を爆砕し、頑強な壁をも砕きながら下降していく。
留まる事を知らず、鳴り響き続ける破砕音が鼓膜を通って頭蓋そのものを震わせる。破片や粉塵が舞い上がって世界を汚し、イリヤの心も引き裂かれた。
千山斬り拓く翠の地平――まさしく山を斬り拓くが如く、アインツベルン城は崩壊していく。
「次はお前だ――シュルシャガナ」
イガリマが大地に到達するよりも早く、残酷な第二波が現れる。
空が紅く燃える。
「モコウ――?」
紅い炎は、不死鳥の如きサーヴァントの代名詞。
格好つけて空を染め上げながら、駆けつけてくれたんだと確信する。
安堵の笑みを浮かべて見上げた空には――イガリマに匹敵する巨大な剣があった。
刀身は赤熱して高温を発し、崩壊を後押しするように、あるいは天罰のように落下してきた。
万海灼き祓う暁の水平――神話の光景が今、ここに再演される。
「■■■■■■■――ッ!!」
バーサーカーが吼え、屋根を踏み砕く威力で跳躍して有無を言わさぬ退避を試みる。
イガリマが大地を割ると同時に、半壊したアインツベルン城へとシュルシャガナが衝突した。荒れ狂う業火がほとばしり、イリヤの家を灼き祓っていく。
「――――ッ!!」
イリヤの悲鳴は爆音に呑まれて消えた。
飛び火によって、花壇も燃えついていく様が見えてしまった。
妹紅とバーサーカーが戦った時とは違う。全滅だ。すべて燃え尽きた。
セラとリズはどうしたのだろう。姿は見えず、声も聞こえない。
生きているのか。
怪我をしているのか。
死んでいるのか。
死体が残っているのか。
そんな事すら分からない。すべて、二本の巨大な剣に呑み込まれてしまった。
なにもかも、なにもかも、悪夢のような光景に沈んでしまった……。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇◇◇
二百年の歴史を重ねた、冬木のアインツベルン城の倒壊――。
イガリマの質量が生んだ衝撃と、シュルシャガナの爆炎によって刃の届かぬ位置まで余さず蹂躙されてしまっている。
みんなで一緒にご飯を食べたサロンも、ベッドをあまり使おうとしないサーヴァントに与えた客室も、もはやただの瓦礫と称されるだけの存在。
巨大剣は地面どころか地下室にまで行き届いており、瓦礫が地下の空間へと崩れ落ちていた。
イリヤの部屋はかろうじて残っているが壁には大きな亀裂が走っており、いつ崩れてもおかしくない状況だ。
ロビーはイガリマによって半分削り取られており、中庭からロビーの中を覗けてしまっている。ロビーの上階も同じような有り様で、先日アーチャーの開けた穴まで崩落は続いていた。――もし防火処理を施していなかったら完全に崩れ去っていたかもしれない。
中庭になだれ込んだ瓦礫の山の上に立つバーサーカー。その胸に抱えられるイリヤ。
そして。
役目を果たした二本の神造兵装が光となって姿を消すと、どこからか黄金のサーヴァントが降りてきた。
彼は焼け野原となった中庭の中央にある石像の上へと着地して、偉そうに腕組みをする。
隅っこには腰を抜かしている間桐慎二の姿もある。
「ひっ……ぎ、ギルガメッシュ! 僕が巻き込まれたらどうするつもりだ!?」
「ギル……ガメッシュ……?」
ガタガタ震えながら間桐慎二が怒鳴り、名を呼んだため、黄金の敵の正体を知る。
人類最古の英雄王がなぜ、サーヴァントとして現界しているのか。
いや、あれは――受肉?
「たわけ。
「……な、ならいいんだ。へへっ……それにしても、派手にやったな。おいアインツベルン! もう一人、アヴェンジャーはどうした? 怖くなって逃げ出しちまったのか?」
腰を抜かしたままだというのに、あっさり調子に乗る間桐慎二。
吐き気を催すほどくだらない男だ。あの夜、情けなどかけず殺しておくべきだった。
だが今はあんなゴミ後回しだ。
「……殺す……殺してやる! お前は殺す!」
苛烈に叫ぶイリヤ。
だがギルガメッシュの視線はあくまでバーサーカーに向けられていた。
「大英雄ヘラクレス……フッ、お前なら
「っ……うああぁぁぁぁ!!」
怒りが――爆発する!
衛宮切嗣へのそれとは異なる、炎のような憎悪。血液が沸騰し、火花が散りそうな瞳で怨敵を睨みつける。アレが敵だ。アレが仇だ。アレを倒せ。アレを殺せ。アレを! アレを! アレを!!
バーサーカーの腕から降り、瓦礫を踏みしめ、敵を指差す。
「バーサーカァー!!」
「■■■■■■■――――ッ!!」
マスターの恣意がバーサーカーに叩きつけられる。
激しすぎる怒り、煮えたぎるような憎しみ、そして――。
『お嬢様』
『イリヤ』
胸が張り裂けてしまいそうな悲しみが、バーサーカーを突き動かした。
英雄王ギルガメッシュは面白そうに唇を歪めると、その身体を光で包む。
これほどの益荒男を相手に
ライダースーツが消え去り、英雄王の五体が黄金に輝く鎧によって着飾られた。
さらに前髪を掻き上げると、たったそれだけで前髪が雄々しく逆立ち、魔獣のように鋭い双眸が強調される。燃えるような、血のような、赤い瞳が爛々と彩られる。
英雄王が戦装束へと着替えたのだ。それは華美なる姿を見せびらかすためであり、ほんの僅かの警戒心も添えて。
先のホムンクルスのようにバーサーカーも踊ってみせるのであれば、斧剣の切っ先が届く可能性が僅かばかり存在する。
とはいえヘラクレスの一撃だろうと、かする程度でこの鎧は引き裂けない。直撃でも受ければ話は違ってくるのだろうが、それを許すほど英雄王は甘くない。
慢心した上でねじ伏せる。それこそ王の作法である。
「来るがいい大英雄。神話の闘い、此処に再現するとしようか」
周囲に黄金の波紋を浮かばせる。
名剣、宝剣、業物、神剣、魔剣、妖刀、鋭刃――バーサーカーを屠るに見合った宝具、その原典が、波紋の中からその姿を現した。
凛のアーチャーに5回も殺された、あの戦いの再演のようだ。
だがしかし、今度は、その難易度が桁違いに跳ね上がっている。
それでも止まらない。止められない。
アレを殺し尽くさねばならない。
最悪の弾幕遊戯が始まった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇◇◇
――勝てはせぬと直感が告げる。あの敵は規格外だ。
英雄は英雄であるが故に、あの男を越えられない。
だが、それでも――小さきモノを守るためならば、何人にも屈する訳にはいかない。
怒りが滾る。激情は暴虐の衝動となって、理性なき体躯を駆り立てる。
小さきモノを愛していた二人――。
小さきモノが愛していた二人――。
嘆いている。愛する者を失って、小さきモノが嘆いている。
我が身の情けなさを恥じながら、狂戦士の闘志は紅蓮となって燃え上がった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇◇◇
城が斬り拓かれるのを見た。
城が灼き祓われるのを見た。
爆風が樹海の木々をけたたましくざわめかせ、森の小道を走るメルセデスも震動によってバランスを崩し、あわや木にぶつかりそうになる。
遠くで、山のような二本の剣が光に溶けて消えていくのを目視し、士郎は息を呑む。
アレは――自分では複製できないものだ。
解析すら不能なエアほどではない。しかし、あんなものを幾らでも持っているのだとしたら、自分達が駆けつけたところで勝機などあるのか。
その不安を――儚き少女の姿で塗りつぶす。
もしかしたらもう手遅れかもしれない。
でもどうか、間に合っていてくれ。
メルセデスの助手席で揺られながら、衛宮士郎は誰にでもなくただ祈っていた。
セイバーもまた大きな不安を抱えてはいたが、昨晩逃亡した道を逆走し、すでに崩壊したアインツベルン城へと急いでいる。
近づくにつれ、表現し難いプレッシャーが強まってくる。
「イリヤ――」
衛宮士郎の焦燥は募っていく。
森の木々が、揺れる。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇◇◇
バーサーカーは劣勢を強いられていた。
重戦車のように突進しても、ギルガメッシュの放つ数多の宝具がことごとくその威力を削ぐ。
無数の光の矢に射られているようだ。それらは剣であり、槍であり、斧でもあった。
とにかく迫りくる武器をことごとく斧剣によって叩き落とす。稲妻のような連撃はすべて、後ろに立つ小さきモノを守るため。
回避を最小限にし、己が身を盾とせんがため。
だがバーサーカーの腕は二本しかなく、斧剣は一本。ギルガメッシュは気分次第だ。
「どうしたバーサーカー。まだ人形の方が身軽だったぞ」
「■■■■――ッ!」
圧倒的な手数の差によって、バーサーカーは呆気なく2つの命を奪われていた。
イリヤが1日かけて補充した命が、もう散った。
「クク――今の
ギルガメッシュの言葉を理解できた訳ではない。
しかし応じるようにバーサーカーは疾駆する。弾幕の隙間に身を投じ、肌をかすめるギリギリで避けて見せた。こうすると、小さき主は瞳を輝かせて喜ぶのだ。
「ほう? 図体の割に機敏に避けるではないか。ではこれならどうだ」
感心した英雄王は、あっさりと難易度をひとつ上げる。
射出される宝具の数が増え、範囲が広がり、速度も増した。
前方からだけではない、頭上や横合いからすら弾幕は飛んでくる。
セラやリズであったならば一秒と持たない弾幕の嵐の中、バーサーカーは闘志を燃やして駆け抜けようとした。
弾幕ごっこは、彼だって経験がある。
小さきモノの従者達が、毎日やっているのを見守っていた。
だがそれでも。
ああそれでも。
相手が妹紅であったなれば、ギルガメッシュを上回る弾数であろうとその肉体によって耐える事ができる。事実、勝負のたびに耐えてきた。神の祝福を破られたのは一番最初の一度だけ。
しかし一撃一撃すべてが最上級の宝具では――。
バーサーカーの健闘を称賛するようにしてギルガメッシュは語る。
「曰く、ヘラクレスは十二の難行を乗り越え、その末に神の座に迎えられたという。その蘇生能力は貴様の人生、逸話を宝具として昇華したものだろう。その宝具だけは
黄金のサーヴァントは宝具の矛先を小さきモノへと向けた。宝具の嵐を突破できそうになったギリギリのタイミングを狙ってだ。
そうなれば、小さきモノを守護せんとする大英雄は我が身を投げ出し、盾となるしかない。
無論、斧剣で弾ける分は弾くが――回避を封じられる以上、その五体は無残に引き裂かれた。
英雄王の称賛が嘲笑へと移り変わる。
「俺の宝物庫はその
足手まといになっている。イリヤはそれを自覚しながらも、この場をバーサーカーに任せて逃げるなんて出来なかった。
イリヤは強い――逃げたりなんかしない。
セラとリズが殺された――この傲慢不遜なサーヴァントに。
眼の前で殺さなくては気がすまない。燃え盛る憎悪に心を焦がしながら、イリヤは叫ぶ。
「バーサーカーは誰にも負けない。世界で一番強いんだから!」
マスターの言葉を受けて、不甲斐なさを露呈しながらもバーサーカーは奮起する。
殺す――守る――どちらも果たさねばならない。
そのためには
蘇るのだ。
「■■■■■■■■――ッ!!」
「その人形を捨て置けぬか。一握りにも満たぬ勝機すら、もはや尽きたぞ」
無数の宝具が放たれる。中には治癒を阻害する呪いを携えた魔槍、不死殺しの能力を備えた神剣すらも存在する。
それらが着実に、確実に、バーサーカーの命を散らしていった。
時にバーサーカーの猛進を阻むべく正面から。
時にバーサーカーの意をそらすべく頭上から。
時にバーサーカーを試すかの如く小さきマスターへと向けられ、我が身を盾とさせられ。
全身に魔剣、宝剣、魔槍、神槍を突き刺されている。左肩を胸元近くまで両断され、息も絶え絶えとなって、ついにその動きを止めた。
死亡回数は8回――前日の戦いの分も含めて、これで
残るはたった1つの命のみ。
「そんな……うそ、うそよ……バーサーカーが負けるはずないんだから……」
「フッ――"鎖"を使う間でもなかったな。まあ、あやつを使ってしまってはつまらぬ。身動きができぬでは、何だったか――そう、
どこで、その言葉を。
そういえば攻撃を避ける様を、メイドと比較して楽しんでいた。だったらきっと、セラかリズが弾幕ごっこという表現をしたのだろう、ギルガメッシュの攻撃を見て。
でも、だけど。
弾幕ごっこは、楽しい遊びだ。
こんなのは弾幕ごっこじゃない。
「その調子では、ついて来る気は無さそうだな。まあいい、聖杯など他に用意すればいいのだ。核だけもらっていくとしよう」
「……い、いや…………」
ギルガメッシュが軽く手を上げ、剣を一本、空中に設置する。
イリヤは、よろよろと後ずさる。
バーサーカーは、膝をついたまま低く唸る。
中庭になだれ込んだ瓦礫の上、そこがイリヤの墓所となろうとしたその時。
「イリヤ!」
半壊したロビーから、コート姿の衛宮士郎と甲冑姿のセイバーが姿を現した。
その表情は緊迫しており、イリヤの無事を確認してもなお、緩む事はない。
「お兄ちゃん……?」
呆然とするイリヤに声をかけてやる余裕もない。
かたわらで瀕死の重傷を負っているバーサーカーを見てしまったから。
中庭の中央、石像の上に立つ黄金のサーヴァントも見つけてしまったから。
セイバーは理解した。判断を誤ったと。
来るべきではなかった。共闘なんてもう間に合わなかった。
公園での傷が癒えぬまま早すぎる再戦を演じて、勝機があるはずもない。
「ム――何をしに来たセイバー、お前は最後だと言ったであろう」
ギルガメッシュは士郎など意に介さず、セイバーのみに視線を向ける。
――空はすでに赤く染まり、アインツベルンは斜陽を迎えていた。
じきに夜がやってくる。その時までに命を散らすのは、果たして誰か。
メイドが頑張った結果、英雄王が興に乗って被害拡大。
アインツベルンらしく裏目ったとも言えるし、時間稼ぎをできたとも言える。
さらにバーサーカーはUBWの時点で「避けたら死ぬぞ!(マスターが)」をされてるせいでどうしようもない。ちょっと誰かギルギルにスペルカードルール説明したげてー。