イリヤと不死身のサーヴァント【完結】   作:水泡人形イムス

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第4話 ショッピング&クッキング

 

 

 

 夢は見ていたはずだ。

 何か、想うものがあったはずだ。

 しかしまぶたを開けてみれば。

 どんな夢だったのか、何を想ったのか、すべて忘れてしまっていた。

 

 朝の冷たい空気が、胸から背中へと吹き抜けていくような――。

 イリヤが迎えたのは、目覚めだった。

 だからとて、何か感情を抱く訳ではない。

 特筆する事もない、1月26日、土曜日の、平凡な朝というだけだ。

 

 

 

       ◆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「おはようセラ。……リズはまだ眠ってるの?」

 

 手早く朝食をしながら確認する。

 料理担当はリズなのに、一口食べてみればセラの味しかしないのだから。

 とはいえ、やはり妹紅の粗野な料理よりこっちの方が好きだ。ハムと瑞々しい野菜を挟んだシンプルなサンドイッチを食み、丁寧に煮込んだスープを飲む。

 料理担当はリズだけど――アインツベルンのメイドとして当然、セラも料理上手だ。

 

「まだ眠っています。昨日はよく働いてくれましたし、今しばらく眠らせておきましょう」

「モコウは?」

「先程朝食を終え、朝の散歩に行ってくると」

「ふーん」

 

 朝の散歩、気持ちよさそうだ。

 寒くさえなければイリヤも洒落込みたいところ。

 理想を言えば寒さ控え目かつ雪が降っている事だ。

 雪はいい。綺麗だし踏んだ感触も心地いい。

 

 そんな事を考えながら朝食を終え、自室に戻ってのんびりする。

 聖杯戦争はサーヴァントが七騎揃うまで始まらない。せわしない輩は前哨戦をしてしまうし、そうでなくとも偶然接敵して開戦というケースもあるだろう。イリヤはそんなものにつき合う気はない。聖杯戦争が始まるまでアインツベルン城で悠々自適にすごすのだ。

 ――サーヴァントが召喚されたなら、それをイリヤは感知できる。

 まだ三騎だけ。バーサーカー。キャスター。ランサー。それだけだ。

 動く必要は、無い。

 しかし、それはそれで退屈だなと思っていると。

 

 ――コン、コン、コン。

 

 部屋の窓をノックされた。

 なんでそんなところから。虚を突かれたため驚いてしまったが、視線を向けている最中に犯人の心当たりはついており、事実、その通りの人間が窓の外で手を振っていた。妹紅だ。

 今日もこいつに振り回されるんだろうか、なんて思いながら歩み寄って窓を開ける。

 

「ここ、何階だと思ってるのよ」

「3~4階?」

 

 なんて言いながら顔を下に向けて確認した。日常的に空を飛んでいるせいで、高さの感覚が常人とズレているのだろう。別に羨ましくはない。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()するくらいの情熱と苦労を行えば、ここが何階なのかも強く意識できるだろうけれど、そんな妹紅以上の馬鹿など未来永劫、それこそ平行世界にすら存在すまい。

 それでもあえていたとしたらと仮定するならば、片腕に巻かれた包帯を解いて封印された力を解放して寿命と引き換えに超絶奥義をぶっ放す邪気眼めいた輩や――。

 心臓を失いながらも邪悪なる呪いによって生き長らえ、神聖な洗礼詠唱する厨二設定あふれる輩のような、それくらいぶっ飛んだ連中なら――。

 やるかもしれない。

 いる訳ないけど! そんな面白おかしい連中!

 

 

 

 まあ、ありえない仮定なので気にしなくていいし、そういった想像をイリヤがした訳ではない。

 そのような電波がビビッとやってきて、誰にも受信されず通り過ぎただけである。

 

 閑話休題。妹紅はほがらかにイリヤを誘う。

 

「買い出しに行く約束だろ。行こう」

「……あー……そういえばそんなような事を」

「こんな森の中に閉じこもってて退屈だろ? 行こう行こう」

 

 街――あの男が暮らしていた街。あの男の忘れ形見が暮らしている街。

 そこを、こいつは好き勝手に歩いて回る訳だ。買い物して回る訳だ。

 そんな――そんな楽しそうな事は――。

 

「……買い出しなら、荷物も多くなるわね。車を出すわ」

「くるま。リズに引かせるのか?」

「……貴女の中の車ってなんなのよ……」

「牛や人が引くアレだろ? 牛車とか荷車とか」

 

 駄目だこいつ。一人で放り出したら確実に的確に無駄な騒ぎを起こす。

 イリヤは決意した。自分がしっかりせねばと。

 まるで出来の悪い妹の前で奮起するお姉ちゃんのように。

 

「時代錯誤なモコウは色々勉強が必要みたいね。買い出しのついでに現代社会ってものをしっかり体験しなさい。まずは自動車から」

「じどうしゃ」

 

 復唱し、目を閉じて天を仰ぐ妹紅。

 しばらくして、ポンと手を叩いた。

 

「ああ! 幻想入りした漫画で見た事ある!」

 

 MANGAの異文化を繋ぐパワーが、日本人相手に発揮した。

 

 

 

       ◆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 アインツベルン城の一角にて。

 

「セラ。イリヤの部屋、置き手紙あった」

「はっ……? リーゼリット、何を……」

「モコウとお買い物に行ってくるから、車使うって」

「モコウと!? 我々ではなくモコウと!? まさかバーベキューの時の妄言ですともー!?」

「お留守番、お願いって。お夕飯、モコウが作るからセラは作らなくていいって」

「お嬢様ぁぁぁ!? 私が何か無作法でも致しましたか!? まさかまさか私に不満があると! 仰るのですかぁぁぁお嬢様ぁぁぁぁぁぁー!!」

「セラ、考えすぎ。バーサーカーも一緒、大丈夫」

 

 などというやり取りがあったが、特に不都合は無かった。

 

 

 

       ◆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 メルセデス・ベンツェ300SLクーペ――などという名称や来歴や性能や、目玉が飛び出るようなお値段なんかもまるで知らないし、興味も無い。

 ベンツじゃなくベンツェと発音するのが格好いい、という違いも分かるはずもない。いや、説明すれば分かるかもしれない。弾幕は格好よさ重視なので。

 イリヤにとっては移動に使うツールであり、アインツベルンが愛用している自動車というだけ。

 妹紅にとっては轟音を立ててみずから走る鋼鉄の猛獣だ。

 

「うおおおっ!? なんだこれなんだこれなんだこれ。凄い、速い、楽しい、格好いい!」

 

 かつてないほど瞳を輝かせて感激する妹紅の姿が助手席にあれば、チラチラとよそ見運転しながらイリヤはご満悦に浸る。高度な飛行魔術を使えるあの女が、たかが自動車なんかでこんなにもテンションを上げてしまう滑稽さが実に愉悦――!!

 アインツベルンの森をかっ飛ばし、ガタンゴトンと揺れを楽しみ、公道に出たら猛スピードを楽しみ、自分も運転してみたいという妹紅をたしなめ、冬木市の新都まで一直線だ。

 

 

 

 妹紅はすっかり()()()()()になってしまった。

 天を衝くような高い高いビルの群れ。アスファルトで整備された広くて平らな道を、数え切れないほど大量の自動車が走り回っている。それ以上に大量の人間が歩道を行き交い、あっちのビル、こっちのレストラン、そっちのコンビニへと出入りしていた。

 

「ほへー。私の知っていた世界と違う……」

 

 妹紅は感嘆の息を漏らしながら、自動車の窓ガラスに張りついてあちらこちらを眺める。

 

「これが外の世界だと? 仕方が無いか。あれから千年近くも経ってるもんなぁ」

「貴女のいた幻想種の世界って、どんななのよ」

「あー……京の都みたいな感じの人里が……いや、この様子じゃ京もだいぶ様変わりしてるだろうな。ええと、江戸時代よりは発展してるぞ」

「比較対象がエドって……」

 

 エドは知ってる。サムライがチョンマゲしていて、木造りの平屋で傘作りのアルバイトをしている時代だ。三百年ほど続いた太平の世とされているが、その実、悪代官が跳梁跋扈する汚職時代でもあったという。

 ショーグンやオダイ=カンみずから、悪者を成敗して回ったというのは有名な話。

 

 イリヤはお爺様から日本の事を色々聞いているので、日本に来ておかしいものを目撃しても戸惑いが少なくてすむ。

 教養豊か。賢い。そして可愛い。

 そんな最高のマスターに恵まれたというのに、偽サーヴァントの奴は敬虔さが足りない。

 

「今日は祭りか」

「土曜日だから平日より人は多いと思うけど、別になんでもない普通の日よ」

 

 イリヤはショッピングモールを見つけると、そこの駐車場にメルセデスを入れた。

 広さだけならアインツベルン城以上だし、活気にも満ち溢れている。

 ここなら必要なものはだいたい手に入るだろう。

 

「荷物はモコウが持ちなさいよ」

「旦那に持ってもらうのはダメ?」

「ダメ。目立つし、バーサーカーにくだらない事――ダンナって何?」

「私がアヴェンジャー名乗るんだから、バーサーカーがいたらおかしいだろ。サーヴァントが八人いるぞ偽物はどいつだ! ってなっちゃう」

 

 そういえばそんな設定だった。アヴェンジャーがいいとか言っていた。

 ショッピングモールの巨大さに妹紅はしきりに感心し、広々としたホールに入るや、吹き抜けの天井の高さを大口上げて見上げたり、中央のエスカレーターを見つけるや面白がって早足になったり、手前で振り返るや手を振ってイリヤを呼んだり、なんとも恥ずかしい行動ばかり取ってくれるのだった。

 土曜日だけあって若い女や家族連れなど、大勢の客が集まっているというのに!

 視線避けの魔術を使ってしまおうか。いやそんな事をしたら魔術師からは目立ってしまう。

 出来の悪い妹を連れ回している気分になったイリヤだったが、お姉ちゃんなんだからがんばらなきゃという謎の使命感が芽生えてくるから不思議だ。

 

「まずはブティックを探さないとね」

「ブティ……?」

「洋服屋さん。その一張羅をなんとかしないと」

「これはこれで戦闘服でもあるんだが。発火符も仕込んでるし」

「洗濯してる間、他に着るものが必要でしょう。他にはコートとパジャマ、後は下着かしら」

 

 当然というか、妹紅が要求したのは紅いコートだった。

 炎の中なら保護色になるから実用性もあると言える。戦闘中に喪失する可能性も考慮して二着確保する。ここまではすんなり進んだのだが、私服を決める段になって長引き始めた。

 

 

 

「スーツでビシッと決めてみない? ほら、あんな感じの」

「なんで男を指さす。しかも窮屈そうだ。いざという時に動けないぞ」

「格好いいと思うんだけどなー。いかにもアインツベルンのサーヴァントって感じで」

「そーゆー台詞は旦那にまともな服を着せてから言え。戦いの最中に見えたんだが、腰巻きの下がだな、その……あー……なんもはいてなかったぞ」

「……………………えっ!?」

 

「無地でハイネックの白いトレーナーに、紫のロングスカート……シンプルでいいかも」

「トレーナーはともかく、ロングスカートじゃ蹴りにくい」

「じゃあミニにする?」

「それはそれで寒くないか?」

「真冬にミニスカートの女の子なんて珍しくないわよ。ほら、そこらへんにいるじゃない」

「今時の若者は身体が丈夫なんだなー」

 

「なにこれ。黒地に白で『Welcome Hell』なんて書かれてる」

「へー。クールでいいな」

「……えっ? クール? これが?」

「……クールじゃないか?」

「……変よ」

「……変か」

 

「じゃあこれでいいよ、この白い長袖の。着心地もいいし」

「それ、今着てるブラウスと大差ないじゃない……」

「うーん、紅いズボンは見当たらんな。人を蹴りやすいズボンがいいんだが」

「蹴りやすさが評価基準なの!? モコウってば野蛮」

「おっ? これなんかいいんじゃないか。丈夫そうだし」

「ジーンズか……あまり可愛くないなぁ」

 

 

 

 結局実用性を重視する妹紅の意見を優先し、着心地のよさそうな白いブラウスと、動きやすさと丈夫さを備えたジーンズを選択。カジュアルな装いに妹紅も満足気。

 

 

 

「次はパジャマね。こっちは動きやすさなんか必要ないし――可愛いのを選びましょう」

「待て。なんだその着ぐるみは」

「パンダ師匠の着ぐるみパジャマだってさ」

「師匠ってなんだ」

「さあ? 何かのアニメのキャラクターじゃないの?」

「ふざけてないでまともなの選んでくれ」

「じゃあこっちの……うわっ、ネコの着ぐるみパジャマ? こんなの買わないからね!」

「いらないよ!」

 

「うわっ……ここにも『Welcome Hell』のパジャマがある」

「流行ってるのか? やっぱりクールなんじゃないか?」

「こんなのが流行るなんて世も末ね」

「おっ、あっちの女の人……『Welcome Hell』って書かれた服を着てるぞ」

「なんか変な帽子かぶってるわね。なにあの青いボールみたいな帽子」

「あの帽子もこの辺で売ってるのかな? おっと、それよりとっととパジャマ選ぼう」

 

「どう? いいのあった?」

「これなんかいいな。スベスベしてて気持ちよさそうだし、熱を外に逃しにくそうだし」

「それなら、こっちのピンクのにしましょう。温暖系の色だし、モコウに合うでしょ?」

「ピンク……ちょっと少女趣味すぎやしないか?」

「モコウだって女の子でしょ? ちょっとは可愛い格好しなさい!」

「うー……」

 

 

 

 パジャマはピンクの可愛らしいものを勝手に選んで購入決定。

 少女趣味すぎてどうのこうのと文句を言われたが、金を出すのはイリヤだ。

 強行すれば逆らえはしない。

 

「とはいえ、わたしみたいな子供が会計したら変に思われるし――モコウが会計してきて」

「うん、それはいいけど……このカードなに? お財布は?」

「そのカードを見せれば何でも買えるから気にしなくていいわ」

「……ふむ、手形か」

 

 クレジットカードの仕組みを説明するのも面倒だったし、イリヤも大雑把にしか理解しておらず人に説明できるほどの知識は無かった。

 魔術で幻惑すれば自分のような外見年齢でも怪しまれず買い物はできるが、妹紅がいるなら任せてしまえばいい。盗難品と勘違いされないよう堂々とするよう注意はしたのだが、おっかなびっくり支払いをする妹紅の姿は確実に怪しかった。

 

 今は冬なので――購入したコートのうちのひとつをさっそく着用させる。

 前を開けっ放しにしているとはいえ白のブラウスの大部分が隠れ、紅白衣装の割合が大幅に紅へと寄った。それでも紅白という印象が拭えないのは足首近くまで伸びる白髪(はくはつ)のせいだ。

 銀髪とはいえ外国人であるイリヤよりも、日本人なのに白髪(はくはつ)で異様に髪の長い妹紅の方が酷く目立つ。特異な容貌を奇異の目で見られるのは慣れているのか、妹紅は気にした様子もないが。

 

 ブティックの次はランジェリーショップだ。

 これには凄まじいカルチャーショックを受けた。

 

 マネキンに着せられたり、ハンガーにかけられた、キラキラでフリフリな下着の数々。

 色も薄いピンクや淡いグリーンなど様々で、繊細な刺繍が施されたものも少なくない。

 まさに色彩の弾幕空間であった。

 

 ――それに引き換え、妹紅の下着ときたら。

 

 

 

「さすが古代人……時代錯誤な下着ね」

「誰が古代人だ誰が」

 

 胸に布を巻きつけるだけというのは、イリヤの感性に準ずるなら古代人だ。

 妹紅を試着室に押し込んで、様々な下着を押しつける。

 乙女だけに許される乙女同士による乙女限定ファッションショー開幕だ。

 

「フリフリが鬱陶しい。気が散る」

「えー? 可愛いのに」

 

「なあ。このベビードールっていうの、透けてるんだけど……」

「へー。モコウって身体のラインは綺麗なのね」

 

「なにこれ穴がある」

「なんだろう……まさか男用? いやでもそんなはずは……」

 

「これいいな、しっくりくる」

「どれどれ? スポーツブラか……似合うと言えば似合うけど、全然色っぽくないわ」

「いやこれでいいよこれで。動きやすい。気に入った」

「あ、じゃあ白とピンクのストライプのにしましょ。モコウに絶対似合う!」

 

 

 

 スポーツブラ&ショーツを数セット購入した頃にはすっかりお昼となっており、二人はショッピングモール内のレストランに足を運ぼうとしたのだが、そこでまた意見が分かれた。

 洋食はいつも食べている。

 和食は今日妹紅が作る予定だ。

 中華は重そうだからイヤとイリヤが拒否。

 ステーキは昨日バーベキューしたからいいや。

 ああだこうだ言い合って、なんだかよく分からない流れでオムライス専門店に入る。

 

 

 

「また洋食か。セラとリズのおかげで毎日食べられるからなー」

「あら、知らないの? オムレツは洋食だけど、オムライスは和食よ」

「こんなのが和食な訳ないだろ。名前もカタカナだ」

「西洋にオムライスなんて料理は無いわ」

 

 料理が来るまでの間も、なんだかよく分からないやり取りをした。

 和食なのか洋食なのかよく分からない謎の料理オムライス。

 それはトマトで味つけた米を、オムレツで包んだ料理である。

 

「うわぁ、卵がトロトロだ。美味い美味い。でもイリヤのはトロトロしてないな」

「わたしのはプレーンだもの」

 

 いざ食べてみればとても美味で、お互い満足する事ができた。

 オムレツでチキンライスを包んだ食感、重層的な味わいは楽しくもある。

 だが、夕食は妹紅のお手前拝見となる。正直不安だ。

 オムライス専門店を出て、妹紅はうんと背伸びをする。

 

 

 

「はー、満足満足。街が見覚え皆無なほど様変わりしてて驚いたが、(いち)がひとまとめになってて便利だし飯も美味い。外の世界も随分と暮らしやすくなったもんだ」

「エドに比べたら、そりゃあねえ……」

「幻想郷は江戸より暮らしやすいってば」

「ゲンソーキョー」

 

 軽口を交わしながら食材売り場に向かう。

 購入済みの衣類、下着の入った紙袋をショッピングカートのフックに引っさげ、入店早々に豊富すぎる品揃えに妹紅は感嘆した。

 

 

 

「おい……なんか、季節外れの野菜や果物が並んでるんだが。今は冬だよな? 1月だよな?」

「1月26日の土曜日ね。今は旬のものじゃなくても収穫できるし、保管もできるのよ」

「ほへー。すごいぞ外の人間。柿もあるのかな」

「今日の晩ご飯を買いにきたの、忘れないでよ」

 

「タケノコ、タケノコ、タケノコ」

「なんでそんなにはしゃいでるの」

「タケノコを見つけた瞬間に今日のおゆはんはタケノコご飯に大決定した。水煮にしたのを保存して売ってるとは感心だ。帰りの時間も考えると、あくを抜いてる時間ないからなー。でも新鮮さはどうなんだろう」

「はぁ……タケノコ好きなの?」

「幻想郷じゃ竹林暮らしなんでな。毎日新鮮なタケノコを食べてる。外の世界のタケノコはどんなもんかな? 楽しみだ。おっと、里芋発見。こいつは煮転がしにしよう」

「日本人は食い意地が張ってるって聞くけど、本当みたいね……」

 

「お刺身セット……だと!? 海の幸がこんな簡単に……!」

「お刺身ねえ。これ、調理とかせずそのまま出すものでしょう? 夕食はモコウの料理の腕前を証明するためのものだし、必要ないわね」

「いや、でも、しかし、海の幸が――イリヤ! 冬木って港町なのか!?」

「港町よ。でも港じゃなくてもお刺身やお寿司なんて、日本中どこでも食べられるはずだけど」

「何それすごい。外の世界がこんなに進歩してるなんて……ゴクリ……」

「……ゲンソーキョーには無いの? お刺身」

「無い。山間部に隔離された世界だからな……海の幸なんて外の世界から輸入するしかないし、そんなツテ持ってないよ」

「……幻想種の世界のイメージがガラガラ崩れてくわ」

 

「おっ? あっちで焼き鳥を売ってるな」

「モコウ。自分で料理するんでしょ」

「ああ、焼き鳥は得意なんだ。さっき鶏肉もカゴに入れたろう? ()()()()()()()

「わあ、意外と本格派ー!」

 

「醤油……味噌……ううむ、色々あるが取り敢えず高いのでいいか。みりんと酒も……」

「お酒って、自分が飲みたいだけじゃないの?」

「いや、料理にも使うよお酒。料理酒」

「それもそうか。ワインで煮たりするものね。ていうか、調味料そんなに買ってどうするのよ。ボトルだらけじゃない」

「こういうのは一通りないと困る。城の調味料は本当に訳が分からん……」

「それ、日本語しか読めないせいじゃないの?」

 

「うーん、買いたいものがたくさんある。でも持ち切れなくなるしなぁ」

「夕食が美味しかったら、また連れてきて上げるわ」

「いや……いっそ自分で作るより、外の世界の料理をいっぱい堪能する方が……!? 港町って事は、お刺身やお寿司もここで買うより料亭で職人が用意した最高級のものを……」

「どれだけ食い意地が張ってるのよ……でもお寿司かぁ。ちょっと興味あるかな」

 

「こんなもんかな。じゃあ最後は米だ、重たいからな。……うーん色々あるな、これにしよう」

「モコウ。お金を出すのがわたしだからって、値段で選ぶ品性はどうかと思うわ」

「安物を買うよりは安定するだろ……あっ!? イリヤ、城に米を炊く釜ってあるか?」

「え? さあ……錬金術用の釜ならあるだろうけど」

「鍋は見かけたから、それで炊いてもいいんだが……ここって調理器具も売ってる?」

「売ってると思うけど……お米用の釜も買うの?」

「美味しいタケノコご飯を炊くために必要不可欠」

「はぁ……分かった分かった。後で買いに行きましょう」

 

 

 

 食材、調味料の購入はすんだものの、その重量はかなりのものとなった。

 ショッピングカートに積んでいるとはいえ、いちいち運んで回るのは面倒である。

 キッチン用品売り場に着くと妹紅は一人で釜を探しに行き、イリヤは売り場の外でショッピングカートを持ったまま待機となった。

 妹紅――出来の悪い妹の面倒を見ている気分で一緒に買い物をして回ったが、なかなか楽しい体験だった。それを思い、自然と笑みがこぼれ――思い出す。

 

「……あれ? わたし、モコウ嫌い……だよね?」

 

 それなのに、どうしてこんなにも楽しいんだろう。

 イリヤはきゅっと口をつぐむ。

 楽しかったし、今でも楽しいのだ。

 買い物の相手は妹紅なのに?

 いや、妹紅が相手だから楽しいのではない。買い物、それ自体が楽しいのだ。

 セラもリズも連れず、色んな商品を見て回って、そんな行動が楽しいのだ。

 ……ちょっぴり悔しくなる。

 何が悔しいのかは、よく分からない。

 つまらなそうにキッチン用品売り場の出入り口を見つめる。

 妹紅はまだ出てこない。

 釜ひとつ買うのに何を手間取っているのか。

 出入り口を見つめながら、唇を尖らせて――。

 

 日に焼けた髪の青年が、買い物袋を持って出てきた。

 

 ドキンと、心臓が跳ねる。

 彼は、こちらに気づいていない。

 外国人の、銀髪の女の子なんて、目立つのに。

 視線避けの魔術は、使ってないのに。

 たまたま彼の視界に入らなかったから、彼はこちらに気づかない。

 

 イリヤはその青年を知っていた。

 会った事はない。話した事もない。資料で彼の姿を知っているだけだ。

 それでも、ずっとずっと、彼に会いたかった。

 

 青年はイリヤの反対方向へと歩いていく。背中を向けて、遠のいていく。

 数秒ほど、呆然としてその姿を見つめていた。

 聖杯戦争は始まっていない。でもまさか、こんな予期せぬ形で出会うとは。

 

 後を追おう。

 

 本能的に駆け出した瞬間、手にかかる重みに引き止められてしまう。

 誰かに手を掴まれたのではと思って振り向いてみれば、大量の食材や調味料の積まれたショッピングカートを自分自身で握りしめているだけだった。

 すぐに手放し、彼の後ろ姿を探そうとして――。

 

「お待たせ~。店員が炊飯器を勧めてきて参ったよ。使い方を説明されてもよく分からんし、私が欲しいのは――イリヤ、どうかした?」

 

 妹紅が戻ってきていた。

 イリヤは足を止め、呆けた表情のまま向き直る。

 妹紅はちゃんと釜を購入してきたようだ。炊飯器は持っていない。

 

「……何かあった?」

 

 やや真剣な声色で訊ねられ、イリヤは頭を横に振った。

 それに合わせて表情も平然としたものに作り直す。

 

「なんでもない。必要なものは全部買ったでしょう? 帰るわ」

 

 下手な嘘だなと自分でも分かった。

 妹紅はきっと、すぐにでも言及してくるだろう。

 聖杯戦争を勝ち抜いたところで、マスターであるイリヤがいなければ願いの叶えようがない。

 偽サーヴァントなどを申し出た妹紅としては、マスターの不安要素は見逃せないはずだ。

 

「カゴに載せるスペースがもう無い。釜、持ってもらっていいか?」

「……もう。しょうがないなぁ、モコウは」

 

 でも、妹紅は気にした素振りを見せなかった。

 その姿がとても大人びて見えて――渡された買い物袋が、妙にかさばった。

 

「……ねえ、これ釜以外にも何か入ってる?」

「茶碗とか箸とか、ついでに買っちゃった。イリヤは箸使える?」

「馬鹿にしないで。それくらい使えるわ」

「よかった。昔知り合った異人は箸が苦手でなぁ、茶碗いっぱいの(あわ)を杓子で食ってたよ」

「あ、(あわ)?」

 

 西洋料理には泡ソースというものがあるし、昔の日本に似たようなものがあっても別におかしくはない。が、泡ソースは泡ソースであって、泡ソース単体で食べるものではないし、泡だけ食べてもお腹はふくれないだろう。

 あるいは、そんなもので腹を満たさねばならぬほど貧困な食事事情だったのか。

 

 やっぱり日本は変な国だ。

 

 

 

       ◆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 帰り道は法定速度なんてなんのその。

 イリヤスフィールは視線避けの魔術を使い、明らかに違法な速度を出してかっ飛ばした。あまりの速度とハンドルさばきに妹紅は悲鳴を上げ、買ったばかりの食材の無事を祈る有り様。

 深山町を越えてしまえば後は郊外。車もまばらでイリヤの邪魔をする者はいない。飛ばしに飛ばして飛ばしまくって、二人はアインツベルン城へと帰宅した。

 早々にメイド二人が出迎える。

 

「お嬢様、お帰りなさいませ。モコウ……お嬢様に迷惑をかけなかったでしょうね」

 

 と、真っ先にセラの詰問を受けた妹紅は乾いた笑顔で応じる。

 

「荷物運ぶの、手伝って」

「はぁ? そんなもの自分で――」

「……手伝って…………」

 

 イリヤの全力ドライビングは相当堪えたらしく、捨てられた子犬が雨の中で震えているような声色に、セラも思わずたじろいでしまう。

 リズはというと、醤油と味噌とみりんと料理酒の入った袋と、米袋を平然と持ち上げつつ、運転席でふんぞり返ったままのイリヤに小声で訊ねる。

 

「何かあった?」

「何も」

 

 何もなかった。

 ただ、背中を見つめていただけだ。

 

 

 

       ◆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 アインツベルン城と冬木市はとても遠く、車を使っても行き来には時間がかかってしまう。

 妹紅はすぐに夕食の準備に取りかかり、キッチンが心配だからという理由で見張りについたセラもなんやかんやで手伝わされた。

 イリヤは妹紅の着替えをみずから客室に運んでやった後、そそくさと自室に戻ってベッドに突っ伏しぼんやりと時間を潰す。自分は何がしたいんだろうと自問する。

 あの時、どうしていれば自分は満足したんだろう。

 

 思考を巡らせるも具体的な事は何も浮かばず、ただ、今日あった出来事を思い返すばかりだ。

 一日中妹紅と一緒にいたはずなのに、彼の事ばかりがまぶたに浮かぶ。

 

「エミヤ……」

 

 名前を口にしようとして、名前を知らない事に気づく

 姓は、父親と同じはずだ。

 でも、下の名前は。

 ああ、自分はそんな事も知らないんだなと思うと、胸がきゅっと切なくなって。

 コンコンコンと、ドアをノックされた。

 

「イリヤ。モコウのご飯、できたって」

「ああ、うん……今行く」

 

 リズを伴ってサロンに行くと、そこには不満気な妹紅と、不満気なセラが待っていた。

 料理を失敗でもしたのだろうか。

 テーブルを眺めて見れば、五人分の料理が綺麗に陳列されている。

 別に焼き焦がしたとか、そういう失敗は見て取れない。

 が、どうしようもないほど地味な色合いで統一されていた。

 

 

 

 茶碗に盛られているのはタケノコご飯。米と言えば白いはずなのに、なぜか茶色く色づけされてしまっている。手頃な大きさにカットされたタケノコも似たような色合いで地味だ。申し訳程度に混じっている薄切りの人参が精一杯の主張をして朱色に彩っているのが健気。

 

 その隣の茶碗には茶色く濁ったスープで満ちていた。恐らくあれがお味噌汁。具材としてこちらにもタケノコが見て取れる。ついでに大根とワカメも入っているようだ。

 

 さて、続いて平皿に盛られているのはやや小振りな芋だ。これが里芋の煮転がしなのだろう。これも茶色い色合いだった。恐らくソースが茶色いのだろう。

 

 ここまで来たらもう分かっている。

 メインディッシュであろう焼き鳥も、また茶色だ。

 

 串に刺さった、丁寧に焼かれた鶏肉。それを包み込む茶色いタレ。香ばしい匂いは食欲を刺激するし、肉料理なら外側が茶色くなるのもよく分かる。一昨日食べたローストチキンだって表面は茶色だ。でもここまで、こんなにも、茶色で統一されすぎていたらもう、なんで茶色なんだと指摘せざるを得ない。そんなに茶色が好きか藤原妹紅!!

 

 

 

「なんか全体的に茶色すぎて萎えるんだけど……モコウはどうして元気ないの?」

「タケノコ……悪くはないんだけど、良くもないというか……むうう……」

 

 タケノコへのこだわりが相当強いらしい。

 あく抜き済みで楽でいいと喜んでいただけあって、その失望も大きかったのだろう。

 落胆をあらわにする妹紅に、セラは絶対零度の眼差しを向ける。

 

「フン……ショッピングモールで売っている安物、さらにパック詰めされて水煮済みのものなど買うからそうなるのです。こんなグレードの低い食材をお嬢様の口に入れようなどとは笑止千万」

 

 黙ってイリヤと一緒に買い出しに行った挙げ句、メイドの仕事まで横取りされてしまえば仕方ないのかもしれない。料理担当はリズだけど、セラが作る事だってあるのだ。

 機嫌が悪くなるのも仕方ない。

 

「別にそんなの気にしないわ。モコウの料理だもの――最初から期待してないし」

 

 辛辣な言葉を浴びせながらイリヤは席につく。箸だけじゃなくフォークとスプーンも用意されており、気遣いを感じながらも馬鹿にするなという気持ちが湧いた。箸は使えると言ったのに。

 セラとリズも席につくのを見て、妹紅も椅子に手をかけ――止まる。

 

「旦那の分も作ったんだから食わせてやれよ。ちょっと狭いが部屋の隅には座れるだろ」

「……バーサーカー、出てきなさい。一緒に食べましょう」

 

 マスターの命とあらば即座に実行。

 部屋の隅へと光の粒子が集まり、大型の人型、バーサーカーが実体化する。

 それを確認してから妹紅は椅子に腰掛け、両の手のひらを胸の前で合わせる。

 

「それじゃ、いただきます――と」

「……いただきます」

 

 イリヤは言葉だけですませると箸を手にし、器用に操ってタケノコご飯を摘んだ。

 茶色い米と一切れのタケノコを一塊にして口に運ぶ。

 タケノコが美味しくなかった――と妹紅は言った。

 しかし米の柔らかさとにじみ出る味わいはしみじみと舌に広がり、タケノコのコリコリとした食感は楽しく、心地よいものだった。

 

「――美味しい」

 

 思わず呟く。タケノコの質だってそう悪いものじゃない。

 お米はいいものを買ったし、タケノコの味も染み込んでいて、食感のバランスも丁度いい。十分誇っていい出来ではないだろうか?

 セラも同じくタケノコご飯を口にし、目を見開いている。

 

「わたし、これ好きかも……。セラとリズはどう思う?」

「むう……タケノコのグレードは低いですが……これは、熟達した技術が……意外です」

「んっ。おいしい」

 

 リズは無表情のままだが素早く箸を動かし続けて、冬眠明けのリスのように各種料理を食べている。バーサーカーは茶碗を口の上でひっくり返し、一口で全部食べてしまった。無表情のままなのでどう思ったのかは分からない。

 

「くうっ……違う、違うんだ。こんなもんじゃないんだ。迷いの竹林のタケノコはもっとこう……シャキっとした生命力が舌の上で踊る感じがして……でも味噌汁は美味しくできた。ワカメなんていつ以来だろう。くそう、お刺身もこっそり買っとくんだった」

 

 不満そうなのは妹紅だけだった。

 そのくせ一番楽しんでそうなのも妹紅だった。

 味噌汁に浮かぶタケノコから目を背け、味噌汁に浮かぶワカメを熱烈に歓迎する。

 イリヤも味噌汁を口にする。なかなか奥深い味がするし、こっちに入っているタケノコもなかなか美味しいと思う。だがワカメはどうも好きになれなかった。

 味が悪い訳ではない。ただなんとなく気に入らないのだ。

 

「落ち着いた味がする。うん、見かけに反して飲みやすいわ」

「これがミソ・スープ……素朴ですがなかなか侮れません。しかしまだ雑なところがあります」

「大根、苦い」

 

 セラの指摘ももっともだと思いつつ、続いて里芋の煮転がしを食べる。

 タレは甘く、しかしそれが霞むほど芋が柔らかかった。トロリと溶けるような食感は本当に芋なのかと疑いたくなる。

 

「ぐぬぬ……いえ、これはモコウがすごい訳ではありません。日本料理にも一理ありというだけです。ええ、そうですとも」

 

 セラが悔しそうに何か言ってる。

 美味しいなら素直に褒めればいいのにと呆れつつ、イリヤは焼き鳥を手にとった。

 これもまた甘いタレがかかっており、肉の焼き加減も外はカリカリ、中はふんわりと絶妙で、さすがは焼き鳥人間の焼き鳥だと感心してしまった。

 

「やるじゃない。100点満点、とは行かないけど――料理上手だって認めて上げるわ。けど、年齢を鑑みるならもっと上手でもいいんじゃないかな」

「流石に()()()にはかなわん」

 

 言い訳するように妹紅は言い、ああだこうだ文句をつけているセラをチラ見した。

 日本料理は新鮮で面白かったけど、料理担当ですらない()()()()()()()()()である。

 それを当人が理解できないはずがないのに、これらの料理を一番認めているのはセラだ。

 

「くっ……タケノコも良質なものを調達したとしたらどれだけ……くうっ、飽きのこないこの絶妙なバランス! くううんっ! モコウのくせに、モコウのくせにー!!」

「セラは美味しそうに食べるなぁ」

「誰が美味しそうになんて! 私はただ客観的視点から公平に品評しているだけです!」

 

 本当に楽しそうだ。

 イリヤはタケノコご飯を口に運ぶ。一通り食べてみたが、これが一番しっくりくる。

 米の柔らかさと、タケノコのコリコリした食感、にじみ出る味わいとのハーモニーは実に絶品であり、そんなに不満を並べず素直に食べればいいのにと呆れてしまう。

 とはいえ、妹紅の理想のタケノコご飯というのにも興味はあった。

 

「新鮮なタケノコを使ったら、もっと美味しいのね」

「ん、ああ――そうだな、自分で掘って、丁寧にあく抜きして、そういうタケノコを使って作ればこんなもんじゃないさ。冬が旬のタケノコもあるが、この辺で掘れるところある?」

 

 そんなものは知らないが、またもやセラが噛みついた。

 

「買えばいいでしょう買えば。然るべき高級店で最高級のタケノコを! ショッピングモールの高級品など所詮は二流品です。お嬢様の手を土で汚す気ですか?」

「いや、一番美味いのは自分で掘ったタケノコだって。この辺に竹林はないのか竹林は」

 

 二人の口論を他所に、イリヤとリズはマイペースにタケノコご飯を口に運ぶ。

 バーサーカーはというと、とっくに自分の分の料理を空にしており、おかわりの催促もせず静かにイリヤを見守っている。

 

 

 

 こうして――形は違えど全員がこの夕食を楽しんだのは、疑いようがなかった。

 食後はセラと妹紅とで食器を片づけ、イリヤは浴場でゆったりと疲れを癒やす。

 車を何時間も運転して、妹紅の買い物につき合い――というか面倒を見てやって、最終的に釜と茶碗と箸の入った袋まで持たされた。

 でもそれに見合うものは得られたし、それらの時間そのものも楽しかった。

 そして偶然とはいえ、彼を見る事ができた。

 

 悪くない一日だったと思う。

 聖杯戦争が始まるのを森の奥でただ静かに待つだけの日々が、妹紅のせいですっかり騒々しいものになってしまったけれど――今のところ、なかなか楽しい日々だ。

 

 今夜はきっと、やすらかに眠れる。

 

 

 




 日本文化SUGEEEEEしてしまうのが、世間知らずお嬢様イリヤではなく、神話の時代の住人であるバーサーカーでもなく、日本人である妹紅という不具合。

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