氷菓 ....引出しの中の記憶....   作:ばなナイン

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第11話

 

 

 

 

「....どうだ? 千反田の様子は....」

 

「....寝息をたててる....よかったチーちゃん....」

 

「....とにかく、これでしばらくは落ち着くね....でも荒魂が現れてからまだ一時間も経ってないんだよ....」

 

「そうだな....ここに来たのはまだ九時半前だったし....」

 

「まだ....出られないのかしら....」

 

「まあね、益子さんがここに戻るまでの間じゃないかな」

 

 

荒魂の一件を終わらせたあと、薫の言付けで薫の宿泊所に缶詰めにされている。灯りもつけるな! との事でこの物置場は真っ暗闇だ....千反田は薫のベッドの上で安眠中....人の気も知らんで....!

 

 

 

『二つともオレが片付けた事にする。本当の事を言ったら面倒だ....』

 

 

 

という事で今学校の敷地内では警察、刀剣類管理局の担当者、ノロ回収班など....とにかくほとぼりが冷めるまでここを動くな! とのこと。

 

 

「チーちゃんの家には私のウチでお泊り、て事にしたけど....九時に仕事疲れで熟睡....てうまく誤魔化せてるのかしら....」

 

「まあ仕方がないね....僕もホータローの家で、て事にしてるけどさ。一度も行ったことないけど」

 

「俺はどうする!? て....別に普段からそんなに心配されてないからな」

 

「家でも影が薄いのね....さすが折木....」

 

「ほっとけ。お前は里志の部屋でお泊りにしとけ。満腹満腹....!」

 

「ちょっ....! もう....ふくちゃんもそれでいい....?」

 

「なんでそうなるかな.....」

 

 

少しは気分に余裕が出てきたか....軽口も出始めてきた。そうなると必然的に....

 

 

「あの時のチーちゃん、て....」

 

「驚いたよね....あんな事になるなんて」

 

「この刀も....いったいどこから取り出したのか....」

 

 

俺たちの側には刀が一振....鞘、柄ともに白木造り。何の装飾も無い....

 

 

「世界を股に掛ける大泥棒の相棒が使ってそうだね。流石に手に取って鞘から抜きたい....とは思えないけど」

 

「やめてよ....こんな暗闇で....抜くなら折木に向かって抜きなさいよね....」

 

「俺が真っ二つになってもいいと言うのか....?」

 

 

軽口も悪口になりかけた頃に....

 

 

「・・・・おう、バレてはねーようだな」「ねね....」

 

「・・・・マーちゃん....! やっと灯りが点けれる....」

 

「なんだ、怯えてたのか。まああの幽霊騒ぎで布団に包まってただけはある」

 

「なによっ!」

 

「旦那方....! シー・・・・! チタンダの旦那は....」

 

「・・・・ああ....まだ寝ている....もう現場検証とか終わったのか?」

 

「まだだが....まあ後はノロの回収かな。二体もあるから一晩掛るかもしれん」

 

「結局今日帰れないのね・・・・こんな形でお泊り会だなんて・・・・」

 

「・・・・すまねえ! オレのヘマだ....! オレが気を抜いてさえいなければ....!」

 

「そんな! 私が無理をいって助っ人を頼んだから....」

 

「・・・・摩耶花のせいじゃないさ。こればかりは誰のせいでも無いんじゃないかな?」

 

「里志....お前顔マッ青だぞ....」

 

「・・・・そうかい....? だとしたら僕もこの校内の暗闇の怖ろしさに目覚めた....ということだよホータロー・・・・」

 

「もうおいそれと怪談話も出来ないってわけか。いい薬になったな里志」

 

「はは....ところで益子さん、この刀のことなんだけど....」

 

「ああ、これか....」

 

 

例の刀を薫に渡す。ん....抜き始めたか....刀身を人に向けないで構えたな....

 

 

「・・・・これはオレとは合わないな....チタンダの旦那ならあるいは....

てこれで旦那はあの荒魂を鎮めたんだよな....」

 

 

「合わない、て? マーちゃん?」

 

「オレ達刀使というのは自分で御刀を選ぶんじゃ無い....御刀に....オレはコレだ....に選ばれて能力を発揮出来るようになるんだ。チタンダの旦那の場合はこの御刀ということになるが....これは....」

 

「何があるのかい? 益子さん?」

 

 

「これは....御刀、というほどの名刀でもない....どちらかと言うと....軍刀だな....

しかも昭和初期の....」

 

 

「いわゆる昭和新刀、てやつだね、益子さん」

 

「里志....お前はホントどうでもいい知識も仕入れてるんだな....で、その昭和の刀というのは?」

 

「ちゃっかり尋ねてるじゃない....でもその刀では、て事なの? マーちゃん?」

 

「オレも詳しいことは....でも刀に関しては少しばかり目が利く。しかもコイツは玉鋼から打ち出されたものでも無い....一体何であの荒魂を....」

 

「益子さんは前にも言ってたけど、玉鋼から造られた御刀で無いと荒魂を鎮めることは出来無いんだよね。それはつまり....」

 

 

「ああ、みんなも知っての通り、ノロはこの国の砂鉄から玉鋼を取り出す時に不純物として廃棄....古代にはな....ある時から祀られるようになった....今なら御神体だな....だが祀られずに放置されたままのノロが荒魂と化して俺達人間を襲うようになった。それを祓えるのが....という事だ....」

 

 

「今ネットで調べてみたんだけど、明治以降の刀というのも一言で言い表せないぐらい入り組んだ歴史があるみたいだね」

 

「ああ、製法も材料もマチマチだ....外国産の鋼鉄を使った物もある。さらに研究も進んで古来の製法よりも更に丈夫に出来ているものもある。実際に戦場で使用する為にな。だが、荒魂を鎮める為にはやはり古来の製法で....

だから刀使達は名の在る銘刀を現場で振るっているんだ。選ばれた、ということもあるがな....」

 

 

 

「そうか....刀にもいろんな歴史があるんだな。

・・・・なあ薫、あえて答え難い質問をする。こんな事になったんだ。質問にはちゃんと答えてくれ....」

 

 

「なによ折木....こんな時に! それにこのことはもういいって....」

 

「....いや、ホウタロウ、どうやらオレはお前の質問に真摯に答えなければならないようだな....いいだろう」

 

 

薫の奴も覚悟を決めたか....では俺もだ....!

 

 

「じゃあ、薫....お前はここに来てから初めの一週間ぐらいは真面目に夜中の探索を行ってきたな....だがそれからお前は探索をしていない。どういうことだ? 」

 

「....ホータロー、なにを....益子さんは前に夜中に校舎を調査するためにこの高校に来たって....ホータローもそう推理しただろう....!」

 

「そうよね....マーちゃんはたしかに....」

 

 

ん....伊原の反応が....俺に食って掛ると思ったが....そうか....

 

 

「・・・・やはり気づいていたか....ホウタロウ、お前は流石だ....」

 

「どういうことだい? 益子さん、ホータロー....」

 

 

「・・・・マーちゃんはここでの生活が楽しかったのよね....だからでしょ....?」

 

 

「摩耶花まで....説明してくれないか? 摩耶花! ホータロー!」

 

「簡単だ。薫はある時から昼間眠そうにしていなかったからな」

 

「そう....でも部活の終わり頃にはいつもあくびをしていたし....しばらく仮眠を取ってから深夜に、と思ったんだけど....チーちゃんから聞く話では毎朝元気が良くてお昼もちゃんと食べるようになったって喜んでいたし....あの話を聞いてからもしや! て思ったの....」

 

「薫が俺たちに正体を明したのはそれからまた二週間ぐらい後だけどな....俺と千反田は同じ教室だから何となく薫の日常の変化を感じていた、そういうことだ」

 

 

「じゃあ僕だけその事に気づいて無かってわけだね....してやられたよ....でもそうなら何で探索を打ち切ったんだい? 益子さん」

 

 

「おう....それは....」

 

 

「....一つには、捜査に詰まってしまった事、一つには探索をねね? に任せてたという事もある、そうだな?」

 

「ねねちゃんを? どうやって?」

 

「おそらく人の通れない所、排水管や通気口、外壁もあるな。とにかく校内でも探索が難しい所をだ」

 

「そういえば....このねね....いる時といない時が....だったね」

 

「ああ、こいつも生き物だ。ちゃんと休ませてやらないとな」

「ねね....」

 

「で、もう一つ....答えは伊原が言ってしまったようなものだがな....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元ネタ

幽霊騒ぎ 第7話

 

軍刀の情報はネット、特に wiki からの記述を要約したものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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