氷菓 ....引出しの中の記憶....   作:ばなナイン

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第17話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後、薫は消えた。とはいえ突然にでは無い。あの一件の後、上からの命令でここ神山高校での一週間の待機命令が出たのだ。

 

 

 

『昼間は御刀を装備して、夜は外して離れた所に置いて寝床で過ごすんだ。これで何も無ければ原因は特定されたことになる....』

 

 

 

この一週間も何も滞りなく進み、放課後も部室でティータイム....荒魂も現れる事なく薫にとっては何気兼ねなく過ごせる最後の時間となった....

 

 

 

『おう、じゃあな!!』『ねねっ!!』

 

 

 

俺たちとの別れも素っ気なく、部活時間終了後アイツは高校を後にしていった。千反田は泣きじゃくり、伊原も泣きながらも千反田を支えて薫を部室から見送っていた。俺たち男共は....

 

 

 

「....なんか、呆気なかったね....まあそれが益子さんらしいんだけど」

 

「まあな。これで俺たちはまた四人か....」

 

 

 

感慨は残る....ただ、薫の俺に対する態度はこの一週間の間に少なからぬ変化があると感じていた。

 

 

 

『おう、これホウタロウのだ....』

『お、いいのか?』

『ああ! オレの特権で二人分手に入ることになった! もう少しで終わりだけどな....』

 

 

 

昼食時にサンドイッチやチョコパンなど....購買部でもレアな物資を『管理局』の権限で俺の分まで調達してくれるようになった。しかもタダだ....! これで俺もこの『組織』の内側の人間として認知されているのかも知れん! 他にどんな特権が....何て冗談だけどな。さらに....

 

 

 

『おう、ホウタロウ....オ....わ....たし....のこの制服姿....まだ中学生....ぽいのか....?』

『んーそうかー? だんだん着慣れてってないかー? もうすっかり板に付いてるぞー』

『そっ! そうか....! それなら....それで....フウ....』

『おう』

 

 

 

「まあ、アイツはアイツなりに残り少ないここでの生活を惜しんでいたんだろう....俺でも気晴らしの相手ぐらいにはなってやれたかな」

 

 

 

「「・・・・ハア・・・・」」

 

 

 

ん? 何だ? 里志と伊原のヤツ、溜息の後にジトっとした目で俺を眺めよって....!

 

 

 

「ホータロー....それは随分....アレだね....」

「オレキ....まあアンタに期待するだけ無駄ってことね....ね! チーちゃん!」

 

 

 

どういうことだ! 俺のような常識的な高校生を前にして....!

 

 

 

「えー....つまり、どういうことです??」

「チーちゃんまで....」

 

 

 

て....千反田も俺と同類ということか....? 否! 否! 三たび否....!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして千反田が美濃関にある特別希少金属利用研究所という機関に呼ばれ、あの博士とも再開し臨床実験に参加したそうだ。詳細は述べられないとの事だが、帰ってきて古典部の部室で和気藹々と事の次第を語っているところをみると大して危険な実験でもなさそうで俺たちはホッとした。ただ千反田自身は刀使としての能力は認められたものの、管理局には登録しないとのこと。対になる御刀が例のノロとの中和関係にあるため御刀、ノロ、千反田と三点揃うと....薫の寝床でのあの実験の様に....千反田の刀使としての能力が発揮出来ないのが理由だ。

 

 

 

『御刀にモ、対になるノロを求めて荒魂を探しまわる欲求がある、という仮説が証明されそうなのだヨ! その欲求が人の身体を通じて....つまりヒトのカラダを借りて荒魂....ノロを探し求める....その身体と一致した少女が刀使として荒魂を鎮める....しかし御刀自身ワ....』

 

 

 

『いつまでたっても自分と分離したノロさんに出逢えないのですね....』

 

 

 

『ダカラ! 今回のこのケースはとても特別なのだヨ! 御刀とそのノロが製造工程で分離したというのがだネ。数十年前の違法行為とその隠匿が今になってこんなに重要になるなんテ! つくづく不思議な縁だヨ! キミ!!』

 

 

 

地学準備室での探索の折も、薫の端末やねね? の鼻も効かなかったのも準備室にある多くの鉱物標本がノロからの放射物に干渉を与えて正常に探知出来なかったからだそうだ(荒魂と御刀は嗅ぎ付けたが....)。 隠した人物はそこまで見越していたのか....今となってはその経緯は不明だが、隠したいだけでなくいつかは見つけてもらいたい....地学準備室にノロを隠したのはそんな相反する動機からではないカ? ....とは博士の弁である。そういえば薫の奴は....

 

 

 

「美濃関には....おりませんでした....もうすでに別の任務で全国を走り回っているそうです....

あ! でも! 博士の孫娘さんには出逢いましたよ! 研究所でわたしの顔を見るなり飛んできてわたしに抱き着いて来ましたから!! うふふ!!」

 

 

 

あああの薫の言っていた『すぐ抱きつく金髪』のことか....? あのグランパ爺さんの孫娘の事だったのか....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん! 薫さんからこの様な物が届きましたよ! ....なんでしょう??」

 

 

 

....放課後部室で千反田が取り出したのはUSBメモリ? 千反田は携帯は持っていないがパソコンでメールやネットの検索ぐらいはしているらしい。だがそれ以上は....もっとも俺もリビングのパソコンでネットぐらいは弄れるがそれ以上の事は苦手だから必要な時は里志に任せっきりになる。つまり、俺と千反田はほぼ同世代人物ということになるな....

 

 

 

「うん、僕のパソコンで何とかなるよ。千反田さんもホータローも少しは情報でパソコンに身を入れたほうがいいね」

 

「必要な技術は適当に、いらない技術は人任せに....が俺のモットーなんだが?」

 

「ははっ! 違いないね! それでもホータローの人生通ってしまいそうな感じがするけどね」

 

「単に物臭なだけじゃない....ダメよチーちゃん! コンナのに感染しちゃ!」

 

 

 

「なんか出ましたよ!」

「これ、原稿じゃないかな?」

「え! これマーちゃんの!?」

「おい....結構分量あるぞ....」

 

 

 

薫が千反田に送りつけたのは学園祭に出す古典部の文集『氷菓』の原稿だった。部長の千反田の家にパソコンが有ることを知らなかったため郵送で送りつけて来たのか。しかし原稿のボリュームが....

 

 

 

「....すごいですね!」

「こんなに書けるなんて!」

「さすが始末書で鍛えられたことはある」

「アンタは社会に出たら毎日でしょ!」

 

 

 

『特撮における英雄像とその変遷・敵役の犯罪思想の時代的意義....』

昭和の特撮映画、テレビ、現代のアニメに至るまで....名作を中心にスーパーヒーローの遍歴とその英雄像、戦法やシリーズ全体のストーリー展開、時系列で覧た被り物スタイルの変化など....あれから二ヶ月、二学期の始まった頃までにこれほどの原稿を仕上げてくるとは....俺はまだ何も手を付けていないぞ....!

 

 

 

「この原稿....これだけでも文集にしたら去年の厚さ位にはなるわね...」

「省略してしまうのかい?」

「そんな....勿体無いです!!」

「いっその事今年はこれだけ載せて特撮特集にでもすれば....」

「却下よ!」

 

 

 

何だ伊原の奴部長でもないクセに....でもこんなもん見せられたら何か書かなければならないという義務感というか....促されるな....

 

 

 

「....よし! 僕も趣味を丸出しにして『19世紀西欧におけるダンディズムとファッションの推理小説への影響....ホームズとデュパンを軸に....』なんて物を書いてみるかな!」

 

「ふくちゃんがそれなら私は....『70年代少女漫画に診るジェンダーのゆらぎ』ってのはどう!?」

 

「わあ! すごいですね! ではわたしは! 『テレビ時代劇・鬼平犯科帳・民放時代劇のターニングポイント』というのはどうでしょう!!

折木さんは!?」

 

 

 

....おい....なにヤル気になっているんだ....それに里志! ここ古典部では活字中心のメディアで....とか言ってなかったか? 俺はそこまで考えていないぞ....!

 

 

 

・・・・俺は....そうだな....この現代社会に武者修行で全国を行脚する孤独な高校生剣客がとある高校で化物を退治した御礼に妙齢の美人校長の家に寝泊りしながら校舎に巣喰う学校の妖怪七本槍との対決に挑むという....しかもイケメン剣士だと思って校長が自宅に寝泊りさせていたが実は....結果この二人に禁断の愛が芽生えて仕舞い....ウムム」

 

 

 

「折木さん??」

「アンタなにブツブツ言ってんの!?」

「....いや、なに....」

 

 

 

妄想がただ漏れに....まあこのぐらいの想像力、健全な男子高校生なら当然だよな....??

 

 

 

「ひょっとして創作小説かい?」

「小説!! いいですね! 今年の騒動をヒントに高校を舞台にして薫さんをモデルにした主人公が剣を振るう....そしてその校舎の中にはお宝が....! さらにそのお宝には悲しい歴史が....折木さん! 是非それを小説にしてみて下さい! わたし....内容が....気になりますっ!!」

 

 

 

・・・・俺の文集のテーマが確定してしまった・・・・まあ軽いラノベ風にすれば書けないことは無いかな・・・・千反田の好みに合わせてラノベの例の『お約束』は無しだが・・・・

 

 

 

「....ならついでに題名も考えてくれ....題名があるだけでも話の展開がし易くなる....」

 

「アンタ....どこまでも他人任せなのね....」

 

「まあ、本文を書くのはホータローだし、小説としては処女作だろ? 後の大文豪様折木ホータローの影に美人部長の助言あり! 自伝には同じ部員だった僕達の事も匂わせてくれよね!

ホータロー!」

 

「なに好き勝手なことを言う....!」

 

「これはどうでしょう!! タイトルはまだ決まりませんが副題は!

『引き出しの奥の記憶と孤独....』では!! あのノロさんの見つかった所です!!」

 

 

 

「うん、いいんじゃないかい? ホータロー!」

「後はアンタがちゃんと書けるかよねー....」

「ぜひ! お書きになって下さい!! 折木さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・はあ....姉貴よ....俺はただここで本を読むだけでよかったはずじゃなかったのか....? 姉貴には格闘技で脅され、里志には校内に個室が出来ると担がされ、千反田には出逢ったとたん金縛りにあわされ、伊原にはオマケのクセに嫌味を言われ続け....とうとう小説を読むだけでは無く書くことにまで....俺の高校灰色計画、どこでどう間違えたのか....フウ....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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