「とんだ大役を仰せつかったね。ホータロー」
「ハア、小説か....軽い物ならいけるかな....」
「ホータローは純文学、ミステリー、歴史物、ライトノベルまで手広く読んでるからね。いずれは何か書くことにはなったはずなんだよ。千反田さんと出逢った時からね」
「おう何だ、全てを見通す様な事を言って。推理のつもりか?」
「そんなつもりは無いよ。ただ、益子さんのあの原稿が送られてきてふと二ヶ月前のあの事件の事を思い出したんだ。ホータローがこの高校に入学して古典部に入部してからこれまでの事はここに至るまでの符合だったのかな? ってさ」
部活からの帰り道、里志との何気ない会話がまたも文集の原稿の話にる。もう忘れて眠りたい....
「ほうそのココロは?」
「地学準備室でホータローと千反田さんがノロを発見しただろう? この事実を逆算してみたんだ。そして時系列に沿ってこれまでの事件を並べてみると....」
「どうだって言うんだ?」
「全ては千反田さんがこの高校に入学して古典部に入部した事から始まるんだ」
「....なんだ、それ....堂々巡りじゃないか....そのお陰で俺はいろいろと面倒を押し付けられて来たんだ....!」
「ホータローは気付いていない様だね。ま! 僕のこの推測もこじ付けみたいなものだからさ!」
「続けろよ....」
「まず部室の場所だよ。今は地学準備室だけどその前は生物準備室だったんだよね?」
「ああ、今は壁新聞部だな」
「千反田さんや僕達が神山高校に入学する一年前に部室が代わったとのことだけど、これを単なる偶然と観るか、何らかの符合と観るか、それでここまでの経緯が偶然の羅列か必然の積み重ねか、判断の別れるところなんだ」
「里志、言い回しがな....でも何となくお前の言う事も分かってきたぞ....
そうか、そうだよな....そういうこともあるかも知れん....」
「でも一年前という処がね....入学した年から! ....だったら僕の説ももっと説得力があったのに....
はは!」
こういう発想は俺には浮かばない。周りの連中の指摘する俺の『推理』という物が俺にとっては『運』でしかないように....千反田と俺達、部室としての地学準備室、そして薫....これらが時系列的に絡み合って二ヶ月前のあの事件の収束....これは....
「まあ言うなれば、『縁』かな? そう思わないかい? ホータロー」
「『縁』か....そうだな。あの時の事はそういうことにしとくか」
全ては千反田の古典部への入部....だけで無く、俺も姉貴に脅されて入部を余儀なくされた事も絡んでくる。初めて部室で出逢った時事件? が発生し俺は初対面の千反田にアノ目で金縛りを喰らわされた。里志曰く、あれ以来俺の『隠されていた興味深い才能』とやらに目覚たらしく、それからというもの千反田の好奇心とアノ目と金縛りによって様々な疑問を解くことを余儀なくされた。特に千反田がこの高校に入学した個人的ないきさつに絡む事になった時は....千反田や俺だけで無く里志や伊原をも巻込んで恰もパズルのピースが組み合わさる様にその概要が明らかになった事もあった。これだけでも里志の言う処の『縁』だか....
「千反田の叔父さんのケースの時はその『縁』が四十年前まで遡る事になるね。二ヶ月前の時は....七、八十年前までの『縁』が絡んでくるんだ。僕達が出逢ったのもそんな『縁』や数多有る『縁』によって絡みながらなのかも知れないね」
「腐れ縁もな....『出会う必要の無い縁はそのままに、出会わなければならない縁もそこそこに』を俺のモットーに付け加えておこう。サンキューな、里志」
「はは....ホータローらしいね!」
「....事のついでに言っておく....里志、喜べ。伊原は将来有望だぞ....」
「なんだいそれ??」
こんな会話をしながら俺達二人は帰路を別れた。まだ暑い....でも少しずつ日が傾くのも早く感じられる。文化祭か....あと一月、もう一月か....締切に追われる日々がまた今年も訪れたんだな。これも里志のいう『縁』のなせる技だというのか....まあいいさ。これまでの事は俺がこの小説を仕上げるための仕込だと思いさえすれば....でもこれが過ぎ去っていってもこのことが次の伏線となりそしてまた....もうやめた。今は小説を仕上げることを考えよう。考えずに済む事はやり過ごし、考えなければならない事は運まかせ....だな。ウム。
良きかな良きかな・・・・
『引出しの中の記憶』 終
元ネタ
生物準備室→地学準備室 第3話
千反田、折木の入部〜千反田の叔父 第1・3・4・5話
以上を以ちまして本SSは終了します。
読者の方々、筆者の自己満足の物語に付き合って下さりありがとうございます。
今の所、内容は....ですが、とにかくこれが文章として成立っているかどうかを知るのもここに投稿した目的でもありますので
それでも読んで下さる方々がおられるというだけでも目標は達成されております。
(成立っていると勝手に思いこんでいるのですが)
内容も文法も細かい事を挙げてみればキリの無いほど至らない処が多くあるかもしれませんが
読んで下さった方々の暇潰しにでもなって頂けたなら幸いです。
ありがとうございました!
『・・・・お料理研究会恒例! 文化祭特別企画『ワイルドファイアー!!』・・・・今年の優勝者は....? ・・・・天文部!!『暗黒舞踏の食卓! ブラックホールへの誘い!!』!! 皆さん拍手!!!』
グランドでの実況がここ古典部の部室にまで響く・・・・今年は優勝を逃したか。古典部二連覇ならず! 里志の奴悔しがっているかな。まあ今のあいつはそんなタマじゃ無い。こういうお祭り騒ぎを思う存分楽しむ事があいつの今の性分みたいなものだからな。
さて、姉貴の弁当も食べ終わったとこだし、客の入りも落ち着いてる。ここは一つ居眠りとするかな....
今年は去年の様な惨劇にはならなかったし、この『氷菓』の売行きも好調だ。薫の原稿がページの半分近くを占める特異な文集になったが....俺たち残りの部員の原稿がまるでオマケのような扱いだな。お陰で今年の文集の厚さは去年の倍以上になってしまったが....
薫の奴まだ忙しいのかな....伊原とはメールのやり取りはしているようだが....文化祭の内の一日も休みが取れないとは....やはり管理局はブラックということだな....千反田もスカウトされずにすんだし....ふわあぁ・・・・
・・・・ったね!・・・・ ここでもチョコミントが食べれて....! ・・・・あれは! ・・・・たまたま売り子とすれ違ったから仕方なく買ってあげただけだ....! ・・・・わたしは....ふつうのクッキー・・・・食べたい・・・・そう? じゃっ! 帰ったらまたいっしょに作りましょ! フフッ! ・・・・ホカに比べて辺鄙なとこデすネー! ・・・・まあそういうな! この部屋がこの高校でのオレの城だ!!」
・・・・ん? 客か? ・・・・オレの城って・・・・この声・・・・はっ・・・・!?
「・・・・おい....! 薫! 薫なのか!! お前なんの連絡も無しに....!!」
「おう! ホウタロウ久し振りだな!! お前一人か? 他の....」
「WOOOOW!! アナタがアノ!! ココでの事件を解決した名探偵!!
明智ホータローデすネーッ!!!逢いたかったデース!!!」ギュ〜ッ!!!
・・・・っ! ぅわっ!! おいっ!? コラっ!!! ナンだ!!
またアメリカンなボディートークかっ!! ってこのキンパツ....あのグランパの孫だな!!!
俺はオレキだっ!!
・・・・部室が・・・・ですよ? ・・・・っ!? 薫さん....?
薫さんですよねっ!! 久しぶりです!! 逢いたかったですっ!!
・・・・ここに来る事どうして黙ってたんですか!?!」
「おう旦那! ハハっ!! そこはそれ、サプライズってヤツよ!!
伊原の旦那にも口止めしてもらってな!!」
「マーちゃん!! 久しぶり!! ね! チーちゃん驚いてるでしょ!!」
「久しぶり! 益子さん! この方達がお仲間さんだね?」
「おう! この日のために皆んな有給を貯めてくれてたんだ! オレが一寸したインテリである処をな!!ってホウタロウ! ....旦那も好きだねえ....ヒヒっ!」
・・・・ん? そういやこのキンパツ俺が椅子から身を乗り出そうとした瞬間に抱き着いてきたな・・・・ということは・・・・ohh....!
「うわぁ! エレンさんも! お久し振りです!!」
「で、オレキ、アンタ何でそんなイイ思いしてるワケ?」
「そうだね! ここは一つ説明してもらわないと!」
「わー!! この人が名探偵!? コ○ン君なの!? すっご〜い!!」
「おい....ここは米花町じゃ無い....! それにあの子は小学生だろ!」
「ああ.... またウチのエレンがご迷惑を....フフッ!」
「男の人にとってはご褒美....薫がそう言ってた」
これはご褒美なんてモンじゃ無い拷問だ! まあ一寸計り男の願望も入ってはいるがな....じゃない! 薫のヤツ....元気にやってんだな。愉しい仲間達の様だし、千反田達ももううち解けているしな。今日は賑やかなひと時を過す事になりそうだ....俺には刺激が強すぎてもう体力切れだが・・・・
「・・・・これは無実だ! 不可抗力だ!複雑怪奇な『縁』の絡みだ!! 俺は知らんっ!!」
「ねねーっ!!」
・・・・お約束の過ぎる後日談 おしまい
元ネタ
『ワイルドファイア』 第14話
去年の様な惨劇 第12話