「・・・・そういうことだ、本来この事はお前達には明かすことのできない任務だった。オレの名前が表に出ないのも諜報活動と隠密行動がオレの主要な任務だからな....だが、ついついこのホウタロウの『推理』というものに興味を持っちまったもんでな! 結果としてバレちまったが....でも、夜中に徘徊、てのは....よく解ったな....」
「薫がここに来てしばらくの間は授業中いつも眠そうにしていたからな....夜型の生活習慣かとも思ったが....」
「いつから気づいた?」
「違和感を覚えたのは薫が俺たちと一緒に初めて部室に行こうとした時だ。場所を教えていないのに先頭切って歩いていたしな....それに俺たちの教室ではまだ地学関係の授業を受けていない」
「わたし、部室のことを地学準備室、て言いましたっけ??」
「そうかも知れんが....とにかくこの時の薫はすでにこの校舎の教室の場所と名前を総て押さえていた、ひょっとしたらどの部活が使用しているのか、も....」
「まあどちらにせよ油断だったな....まさかこんな事で尻尾を掴まされてしまうとは....」
「そして夜中に....て事だよね....で総ての教室に....て、どうやって....」
「ふくちゃん! あれでしょ!! マスターキー!!」
「そうだ。職員室からチョット拝借して....スペアキーも作っちまったがな、へへっ!」
「なにもそこまでしなくたって....当直の先生と一処に....」
「これはおそらく校長、教頭クラスの一部の関係者しか知らされていない隠密行動だったということだろう。その証拠に薫のやつ、エリートのくせして伊原の怪談に怯えていたしな。つまり、夜中の探索中、当直教師に気づかれないためにライトを付けることさへ出来なかったわけだ。それでさっき当人が言ってたように、ここに来て初めて学校の校舎の暗闇に怯えることを覚えた....と、違うか?」
「・・・・そうだ....これまで多くの荒魂と対峙してきて度胸が着いてきたと思ってたが....ただの暗闇にこんなに怯えるなんて....特別遊撃隊員の名が廃る! てもんだ・・・・」
「でもちょっと待って! 折木....ここまでの推理、て....荒魂の位置情報、機関紙の写真、マーちゃんの日頃の言動....これだけで導き出したの!?」
「・・・・ん? そういう事になるのか....そうだったか? 後はお前たちからの情報かな....」
「益子さん、千反田さん、摩耶花....ホータローてこういうヤツ、てことさ....!」
「そういう事だったんですね....薫さんがこの校舎で寝泊まりしていたのは....でも、もう一つ、解らない事があります! 荒魂を引き寄せるその原因です! 折木さんには解っているんですよね....!! どうです!? 折木さん!!」
「それは....俺にも解らない。おそらく薫にも....薫に知らされていない事実というのもその原因なのかもしれんな。あるいは鎌倉側も....」
「....ここに来る前に、この高校の出来る前の古地図まで取寄せて祠の跡や鑪場の跡を確認してみたんだが、何一つ見つからなかった....だから鎌倉は俺を派遣した。校舎の中を調査するためにな....こういうことは普通の刀使には出来ないからな」
「手ぐせの悪いところもな....だが、俺にももう一つ解らない事がある。....それは、まあいい....俺もつかれた・・・・」
「おお、今日は里志も来てないのか」
「日直お疲れ様です、折木さん。福部さんは今日手芸部だそうです。今から文化祭にかけての新作の仕込みだそうですよ?」
「まだ五月の末だぞ....伊原も....て薫と漫研だったか」
「はい! 薫さん、なにかスーパーヒーロー? という分野に詳しいそうで、漫研さんの方からお話を伺いたいとのお誘いがあったそうです!」
「ほう....当人もそんなもんだしな....あそこは特撮ものもいけるのか」
「どうなのでしょう? でも摩耶花さんが『必殺』シリーズをご存知だったとは以外でした!」
「ってお前....あれはかなり昔の時代劇シリーズじゃないのか....?」
「はい! 子供の頃祖父母と一緒にテレビで観たことがあります! あのお婿さん、格好よかったですね!」
んー・・・・衛星の再放送かな? 俺もそんなに詳しいわけでは....何となく雑学程度に憶えていただけだしな....しかしあのくたびれたおジサマをカッコイイとは....千反田の男の趣味というのも....いや今は問うまい。
「伊原のやつも....少女漫画脳とばかり思ってたからあの話の展開は呆気にとられたぞ....まああいつの漫画の趣味も相当古風だからな」
「漫画の事はわたしにはよくわかりませんが、漫画も時代劇ももはや古典と言ってもいい作品はあまたに在ると思います!」
「おお、そうだな....」
まあ、千反田のあの迷推理も....古典的ともいうべき展開だったしな....
「というわけで、折木さん、今年の文集はどういうテーマにしましょう!」
なんだ....唐突に! こいつの発想の飛び方も相当....でも確か去年の文集のネタを捻り出したのも....まだ一月早いじゃないか!
「なにも今でなくていい。里志と伊原が集まった時にでも....」
「薫さんもですよ?」
「おい、それは....」
薫の奴、いつまで居るか知らんが....少なくともここでの任務が続く限り俺たちとここの部活で、という事になるが....
「最近薫さんも生活に余裕が出てきたようですから、ただ本を読むだけではなく何か文章でも、と思ったんです」
本は本でも漫画じゃないのか? 最近は伊原に借りた少女物も読んでるようだが....薫に文章なんて書けるのか?
「もう一月は荒魂さんが現れておりませんからね。あ! もうほかの高校に引っ越しているかもしれません! もしそうだったら....薫さんも安心して部活動に専念できますよ!!」
「そうだったとしても....その高校に転入しに行くだけだろ....」
「あ! ....そうですね....薫さんのお仕事はそういうお仕事でした....」
またシュンと....薫がここに居着いてからまだ一月しか経ってないのか。あいつ、完全に馴染んでるぞ。一年も一緒にいたみたいだ。ただ、生活に余裕というというのは....俺の思い違いでなければな....
「おう里志、お前もか」
「うん。10分は遅れて来るように、て摩耶花からの厳命でね」
....フム、そこで里志も俺の教室に寄ったってわけか。千反田の奴、『とにかく10分! 10分ですよ!! それから部室にお越し下さい!!』て念を押して薫と部室に向かったがな....女三人で秘密の女子会....女子会なのか!? なにやら良からぬ企みでも....てあいつらそんなに陰湿でも無かったしな。
「ところで古典部の出し物は決まったのかい? ホータローは」
「千反田はテーマを決めたいと言っていたが、みんな個別のを持ち寄ってじゃ駄目なのか?」
「おそらく書き割りの問題じゃないかな。テーマが一貫していると編集がし易くなるとか」
「去年は伊原が中心になって割り振りを決めていたしな。お陰で俺の担当が割増になったが」
「今年は益子さんもいるからね。五人だとまた勝手が違うのかも知れないよ」
「薫か....この騒動が収まるまでの間だな....」
「益子さんも鎌倉では始末書に追われて....なんて言ってたから文章を書くことには負担は無いかも知れないしね」
「あれは嫌々書かされるもんだろ....あいつの専門は何だ? 特撮物か?」
「それだと漫研向けだね。ここ古典部では一応活字中心のメディアじゃないと。それに、なるべく早く決めてくれると助かるな。僕と摩耶花はそれぞれ掛け持ちだからさ」
「おう....そうだったな....」
薫も漫研と掛け持ちに....なってる暇なんて本当は無いはずだけどな....いや俺の勘が正しかったら....むしろほっといた方が良いのかも知らんし。
「そろそろかな。じゃあ行きますとしますかホータローの旦那!」
「おう」
「・・・・ん? 待ってホータロー、....んん?? ....もう少し待ってろってさ! 摩耶花が!」
「おう....なんならもう俺先に帰って....」
「じゃあそのようにメールで返しとくよ。....んー、ヨシと! ん? もう返事が....直ぐ来るように、てさ! ホータロー!」
何なんだ....俺たちに気を持たせようとしているのか....デレか! デレ期なのか!? ....なんて事あの連中には....やれやれ。