「おう、待たせたじゃ....」
『・・・・まっ! まてっ!! 入るな!! おい....!』
「ん!? 何だ!?」
「どうしたんだい?」
「扉が....向こうから押さえているみたいだ。おい.... なんなんだ?」
『薫さん!』
『マーちゃん....もう観念したら?』
『でもよお....オレ....はずかしーっ!!』『ねねー??』
なんだ? ハンガーストライキか? 無期限部活動停止、て事か? それなら....
「おう、何か知らんが開けないってなら今日はこれで部活は終了だ。じゃあな」
『・・・・まままて! ホウタロウ!! そこまで! ていうなら仕方がない....』
誰も頼んでいないのだが....勝手に扉が開いて、そこには・・・・
「おお・・・・」
「益子さん・・・・やるじゃない....!」
「どうですどうです!!」
「まあ私の一年の時のお古なんだけどね....似合うでしょ!!」
「摩耶花! GJ!」
「・・・・あんまりジロジロ観るな....!!」「ねね....」
ここ神山高校の女子指定の制服、つまりはセーラー服に....髪も少しばかり膨らみ具合はあるがストレート、で....頭部には左右にはねたお馴染みの癖毛も....千反田の艶のある真っ黒な髪とは趣きが違うがこれはこれで....
「いいじゃない! でもどういう嗜好の変化なのかな? 益子さん!」
「おう....いまさっきこの部室に着いた途端こんなハメに....いや、オレは悪くない! この旦那衆が悪い!!」
「ええ!? とてもお似合いですよ? 薫さん! せっかく摩耶花さんが譲って下さるというのですから明日の朝にでもこの格好で....」
「いやややややそれは!! オレにはこんな! カワイイものは....」
「ねね??」
「そんな! とても似合うよ益子さん! ホータローも、だろ?」
「ん・・・・ああ、まあこの学校ではそれが当たり前だしな....いいんじゃないか....? それに....初めて登校する中学の新入生みたいだし....」
「!....オレキ〜っ!!」
「折木さんっ!!」
「....ホータロー....いくら照れ隠しでも....それはOUTだよ....」
「・・・・ふハハハハハハハッ!! 流石ホウタロウの旦那!! 言う事が違うぜ!!
フフ・・・・」
「ねねっ??」
「いや、その....悪かっ....」
「決めたぜ! オレ明日からコレ着て授業に出る! いいよな? 伊原の旦那!」
「・・・・もちろん! ぜったいこれ着てクラスに来て頂戴!! ウレシ〜っ!!」
「そうです! ぜひぜひ!!」
「雨降って地....じゃなくて笑う門には....かな?」
「おお、そうか....! じゃこれにて一件....」
「....折木、でもさっきのはやっぱりナシだからね」
「おう・・・・そうだな」
照れ隠しの度が過ぎたか....て、おっ、俺はそこまで....フウ・・・・
「んでねー!」「おおマジか!!」「キャーっ!」「ほんと〜!?」
「ねねー!」
「・・・・すっかり馴染んだな」
「です! やはり制服のお陰でしょうか?」
ここの制服を着て授業をするようになってわずか二日....教室の女子との距離が一機に短くなった。もともと姉御肌なとこもある薫のことだ、今までもいろいろと個々に相談事を持ちかけられることもあったらしいのだが....ここに来て普通の高校女子という雰囲気になってきた。もっとも腰には例の装備を装着してのことだが....
「じゃ! 薫ちゃん!」「私も! 部活!」「おう! またな! じゃ、旦那方! 部室へGO! だ!」「ねー!!」
「おう....」
「ハイ! まいりましょう!!」
二人揃ってルンルン! と....馴染んでいる、というのはこの学校だけでなく普通の高校生として、だな....
「確かに....俺んとこの仲間ってのは....剣術しかアタマにない奴とか直ぐアタマに血が昇って喧嘩腰になる奴とかボソボソっと言いながら痛いとこ突く奴とか矢鱈滅多ら抱きつきたがるキンパツとかいつもニコニコしながらも無自覚に腹黒いお嬢とか....ホウタロウ、お前はホントにマトモに生まれついてよかったな....」
「・・・・へえー! 折木がマトモねえ・・・・」
「なにをいう伊原....さすが....! 薫サマはよく観てらっしゃる」
「まあ平均値として一般的な無気力男子高校生だよねホータローは」
「薫さんも! とても普通で一般的で素敵な高校生ですよ!! どこに出しても誇れるぐらいにです!!」
「おう....ありがとよ....! 普通ってことがこんなに重宝なモンだってことが知れただけでここに来た甲斐があったってもんだ」
ここでも読書だけではなく取り留めのないお喋りも。ここでの会話が去年の文集のテーマの切っ掛けになったり様々な事件? の解決の糸口になったり....けっこう創造的な無駄話が繰り広げられていたんだな....
「オレも、なのか? いいのか?」
「はい! 数枚でも構いません! 何か今年の文集に載せるものをお願いします!」
「いいのか....? オレ、そんなに本を読んでる方じゃないぞ??」
「マーちゃんの好きなテーマでいいのよ!」
「じゃあ僕も自分の趣味を大いに発揮してみるかな。ホータローは?」
「俺は....まだいいだろう....決めていない....」
「折木....早くしないとそれだけ割り振りを多く受け持つ事になるかもしれないわよ....フフ!」
脅しか? 伊原め....去年の恨み! どう晴らしてくれよう....
「みんな御免! こんなに遅くまで....!」
「まあいいってことよ!」
「そうだよ、お泊り会みたいでいいじゃないか」
「....ほんとに泊まるってんなら七時に帰るぞ....」
「ええ? ここでのお泊り、楽しいじゃないですか! ふふ!」
ここ地学準備室、俺たち古典部の面々はどういう訳か消しゴムを握りしめたり墨を塗ったり半透明? のビニールシートをカッターで慎重に切り分けたりはたまた活字の印刷された紙を切り貼りしたり....おおよそ文学とは無縁....ほどでは無いが地道な軽作業に勤しんでいる。
「どうじん? てこういう風に作られるんですね! 摩耶花さんは毎日これを? 凄いですね!」
「おお、オレもまさか漫画を手伝うことになるとは....!」
「冗談じゃない....なぜ俺まで巻き込まれなければならんのだ....!」
「まあ、僕は使われ馴れてるからね。ひどい時は二晩摩耶花の部屋で缶詰さ」
「ふくちゃん....それ誤解を招きそうだから....!」
伊原の部活である漫画研究会の有志数人が今度のコミケ? というイベントで同人誌を出品するらしい。より正確には参加できた知合いのグループの好意で置かせて貰えることになったのだが。その仕上げの追い込みに俺たち古典部まで駆り出された....まだ一月はあるらしいが。それにしても....
「....漫研はここより大所帯だろう。どうして俺たちまでこうなる....」
「漫研も人それぞれだからね。いわゆるガチ派とエンジョイ派の確執ってとこかな」
「そうよ....去年の文化祭だって....悪かったわね!!」
「まあまあ! こういう事は、滅多にありませんよ?」
「ああ、オレにとっては最初で最後だな」
薫のお陰(せい?)でこの地学準備室も八時頃まで使用する事ができるようになった。こんなこと文化祭の前の準備期間ぐらいしか認められてないのに。薫の顔の力がここまで及ぶとは....
「わたしの家でも良かったのですが、薫さんに外出許可が出なかったですからね」
「チタンダの旦那の家ってデカいと聞いたが一度目にしたいもんだ」
「そんな! 普通ですよ? ね! 皆さん!」
「....うーん、チーちゃんの地元ならね....」
「この辺に永く根を下ろしている家ならね。例えば....」
「桁あがりの四名家か?」
「うん! どうだいホータロー! その言い回し、もう流通しているんじゃないかい?」
「俺が憶えてただけだ....でも薫、外出許可が下りないって、ずっと校舎に居るのか? 日曜も」
「そうだな....オレがここに詰めているのは....荒魂発生の抑止になると上でも判断しているからだろ」
里志から聞いた話だが、刀使の中にはただそこにいるだけで荒魂が寄り付かなくなる達人的な? ベテランもいるらしい(十代の女子だが....)。中島敦の小説に出てくる弓の名人みたいな人物は現実に実在する、ということか?
「確かに刀剣類管理局のある鎌倉では荒魂の発生は滅多に無かったな。その代わり周辺で荒魂が発生してた。そこから鎌倉に向けて、ということだな」
「それも一年前までの話だよね。今じゃ....という事だけど」
「ふくちゃん、それは....」
「まあいいってことよ! オレ達の任務はそれも折り込み済みだからな」
元ネタ
桁上がりの四名家 第1話
去年の文化祭 第12〜17話