ゴブリン2
ゴブリンスレイヤーを殺し損ねた俺は人目を避けるように行動した。
仕留め損ねたせいで顔を知られた。ないとは思うが討伐依頼など出ていてはたまらない。だから、ほとぼりが冷めるまで潜伏することにした。
幸い、潜伏場所に持ってこいの場所を俺は知っている。原作7巻だったかな?
妖精弓手の故郷である
だが、俺はゴブリン。そんなことは関係ない。密林に入り、川上を目指し、モケーレ・ムベンベの領域に侵入した。
そこには『川を堰き止めるもの』の由来となった神代に築かれた堤防がある。何のために作られたのか知らないがいまや小鬼の城塞だ。
ゴブリンシャーマンが率いる群れが住み着いていたが圧倒的力の差を思い知らせて、奪い取った。そのまま群れは俺の配下になった。
安全な潜伏先を見つけた俺は、次はモケーレ・ムベンベに手を出した。
原作では一体だったモケーレ・ムベンベだが、探してみればそれなりの数が生息していた。
只人ではレルニアン・ヒュドラと呼ばれ、ヒュドラの名前の通り、首が多い。だが、生まれたときから首が多いわけではなく、歳をとるほど首が増えていく。つまり、一番首が多い個体が最も長生きしている。
やっぱり、飼うならヒュドラと呼べる首が多い個体にしたかったので、最も首が多いモケーレ・ムベンベを捕獲した。
群を抜いて巨大な背丈は
その巨体と複数の首による攻撃は厄介だったが、勝てない相手ではなかった。屈服させて飼い慣らした。
あと九本首は群れの長だったようで、ヒュドラの群れが丸々配下に加わったのが嬉しい誤算だ。ゴブリンを乗せて
しかし、モケーレ・ムベンベは一本首の若い個体でも千年以上生きているらしい。この九本首は何歳なんだ?
城塞を手に入れ、モケーレ・ムベンベを配下に入れ、密林の奥地を支配した。
目論見通りにことが進み、俺はほくそ笑む。
そうしてまた調子に乗ったのがいけない。とんでもない怪物が現れた。あれか? 俺が調子に乗ると不運が襲ってくるのだろうか? そんなに神様は俺が嫌いか? 安心しろ俺も神様は大嫌いだ。とりあえず一言。
「神は死ね!」
現実逃避はやめよう。今回の敵はドラゴン。それも野山を這いまわる下級の竜とは違う。恐ろしく力猛き、まことの竜。
その中でも伝説に語られる、神代を生き、神々さえ恐れた悪しき竜だ。
名前を呼ぶだけで呪われるほど伝説の怪物が、なぜ俺の前に現れたかというと、持ってる魔剣が原因だった。
悪しき竜曰く、銘を竜殺しの魔剣。
神代に作られた竜を殺せる力を秘めた勇者の聖剣に並び立つ、伝説の魔剣らしい。
無駄に装飾が凝ってるし、五年以上使って刃毀れもなく、切れ味も落ちず、俺の怪力で振り回しても折れないから、すごい魔剣だなとは思ってたが、まさか神代の遺物とは。
どうもここは悪しき竜の住処らしく、竜殺しの魔剣に傷付けられ、千年の眠りについていたらしい。
そこには竜殺しの魔剣が近付いてきたから、目覚め、現代の所有者である俺に恨みを晴らそうと思ったようだ。
……完全な逆恨みだな。竜は賢いと聞いてたけど思考回路がゴブリン並だぞ。
話が通じる相手じゃないのはわかった。生き残るには悪しき竜を倒すしかない。
流石は神々さえ恐れた伝説の竜。その肉体は全てが凶器。地形を一撃で変える筋力があり、十日十夜暴れ続ける体力があり、様々な呪文を使える知力があり、何十回と呪文を使える魔力がある。
何もかもが圧倒的で死ぬかと思った。まともに戦っても勝てないので、なんでもした。
眼球に魔剣を刺したり、鼻に汚物を突っ込んだり、口に毒薬を放り込んだり、耳に
で、悪しき竜の死骸を見て思った。確か前世の神話で竜の血を浴びたり、心臓を食べて強くなったドラゴンスレイヤーがいたな、と。
吸血鬼に噛まれたら吸血鬼化するという伝承が本当だったように、同じ方法でドラゴンスレイヤーのようになれるのでは? と思い、試した。
結果は大成功。
竜の血を浴びたことで、身体が鋼より硬く、いかなる攻撃も受けつけない不死身の肉体と、無限に魔力を生み出す竜の心臓を得た。
竜の心臓を食べたことで、神代の知識さえ記憶している、賢者を超える竜の叡智と、身体が竜と同種に改造された竜としての無敵の肉体を得た。
吸血鬼に噛まれ吸血鬼の力を得た
あと悪しき竜が溜め込んでいた金銀財宝、魔法の品、伝説の武具なども手に入れた。
防具を失っていた俺はその中でも最も良さそうな、鋼より硬く羽のように軽い
◆◇◆◇◆
竜殺しを成してしばらく。俺は新たな取り組みをしていた。
その名も『ゴブリン繁栄計画』。
最弱の怪物であるゴブリン。だが、中には先祖返りしたホブゴブリン。呪文を使えるゴブリンシャーマン。狼に騎乗するゴブリンライダー。熟練の冒険者さえ圧倒するゴブリンチャンピオンなど強い亜種は数多く存在する。
その亜種を意図的に生み出せれば、最底辺の生活をするゴブリンがより繁栄するのではないかという計画だ。
まぁ、大それたことを言ったが、ぶっちゃけ暇だから育成ゲーム感覚で色々試していただけだ。
呪文を教えればゴブリンは全てゴブリンシャーマンになるのか。
痩せっぽちなゴブリンの栄養状態が改善すればホブゴブリンのような屈強な肉体になるのか。
ゴブリンライダーを熟練させれば竜さえ乗りこなすゴブリンドラグーンになれるか。
ゴブリンチャンピオンを鍛えれば更に強い個体になるのか。
それなりに成果は出て、新しい亜種も生まれた。その中でもずば抜けて進化した個体が六体がおり、そのゴブリン達を
他にも母体の種族や栄養状態、戦士なのか魔術遣いなのかで生まれてくるゴブリンにも変化があるのかなど調べた。え、外道? それでも元人間か? そんなものはゴブリンになったときに捨てた。
わかったのはゴブリンの遺伝子強過ぎってことくらいだった。小さな
あと数が増えすぎた。何年も実験していたから堤防がゴブリンだらけになった。百匹からは数えていない。
だから、各地に旅立たせた。厄介払いとも言う。
ついでに吸血鬼として使える力に蝙蝠を使い魔にすることができるので、それで監視した。住む環境でどう適応するか観察もしてみよう。
で、しばらく放置していると密林近くの遺跡で異変が起きた。
ゴブリン共が襲われた。だが、冒険者ではない。巨大な怪物で、ゴブリン共を従え、砦に陣取ってしまった。更に放ったゴブリン共を掻き集め始めた。
せっかく各地に放ったゴブリンを一纏めにされては堪らないので砦に向い、文句を言った。
そこにいたのは
だが、待てよ。密林に近い古い砦。そこに蔓延るゴブリン集団。親玉のオーガ。……これ、原作1巻であったよな?
「毛色の変わったゴブリンだが、ゴブリン風情が我に挑むとは命知らずな」
「命知らずね……」
ここで彼我の差を把握してみよう。
体格。只人と変わらない俺よりオーガの方が圧倒的に大きい。
膂力。オーガは小鬼英雄に勝るとも劣らないが、俺は竜と吸血鬼の力によって巨人を遥かに超える。
防御力。オーガの皮膚は岩のように硬いが、俺は身体は鋼より硬い。
呪文。オーガは熟練の魔術遣いを上回るが、俺は賢者を超える竜の魔力と知力がある。
治癒力。眼球を潰されたくらいなら傷が癒えるオーガと、脳と心臓以外ならどんな瀕死の傷も癒える俺。
武器。オーガはただでかい戦鎚で、俺は伝説の魔剣。
結果は……。
「……も、申し訳ありません……‼︎ 許してください……⁉︎」
「まぁ、こうなるよな」
無傷の俺と倒れ伏し無様に命乞いをするオーガが出来上がった。普通のゴブリンなら、このまま残虐性を発揮して嬲り殺すだろうが、俺は冷静に考える。
オーガは魔神王の配下。殺せば魔神王まで敵に回す。あの悪しき竜と同等の怪物などと戦うなど真っ平だ。どうしようかと悩んでいたら、協力を要請された。
俺は魔神将に匹敵、いや上回る力を持つ強大な怪物だから、秩序の軍勢を滅ぼすのに助力してほしいと。
流石に人類全てを手に回すは面倒くさいし、目の敵にされるので嫌だった。かといって魔神王を敵に回すのも嫌だ。
仕方なく俺はこのまま砦のゴブリン共はオーガに預け、俺は森人の里に攻め入ることで手を打った。
オーガが率いるゴブリン軍が背後から秩序の軍勢を襲い、俺は秩序の軍勢の一角である森人の里を潰す。それで納得させた。
まぁ、個人的には目立ちたくないから地理的にも離れた森人の里なら鏖殺してしまえば正体がばれず、混沌の軍勢がやったと思われる打算がある。
あとゴブリンスレイヤーがいずれこの砦を訪れるから、オーガをぶつけて原作との差異を知りたい。イレギュラーが介入して原作乖離なんてよくある話だからな。
できれば二度と会いたくないが、俺との遭遇がどんな影響を与えているか知りたい。
オーガと遭遇して、そう時を立たず、ゴブリンスレイヤーの
基本的には原作通りだった。ゴブリンは皆殺しで、オーガは真っ二つにされた。
……見る限り、ゴブリンスレイヤーは原作より強くなってるか? 戦士としての技量が上がった?
上手くいけばここでゴブリンスレイヤーを始末できるかと思って、ホブゴブリンやゴブリンシャーマンを増援として送ったのだが。
ホブゴブリンの首を次々刎ねる技量と、ゴブリンシャーマンを何匹も串刺しにする膂力。原作では鋼鉄等級の冒険者にも実力では劣ると自分で言っていたが、俺が見た感じは銅等級くらいありそうだな。
あと変なのはゴブリンスレイヤーが持つ剣……あれ、
しかし、えげつない。串焼きのようにゴブリンを何体も串刺しにして燃やしやがった。容赦のなさは相変わらず……て、あれ?
(見えなくなった。使い魔との繋がりが切れたのか……流れ矢でも当たったか?)
まぁ、見たいものは見れたから別にいいか。使い魔はいくらでも代わりがいる。
そう楽観的に考えた俺は森人の里侵攻の準備に入った。
「
◆◇◆◇◆
「あのゴブリンスレイヤーさん。どうしたんですか?」
戦いも終わったのに虚空に短剣を投擲したゴブリンスレイヤーに女神官が声をかける。
「蝙蝠だ」
「蝙蝠?」
見れば短剣で刺された蝙蝠が落ちてきた。怪物の類でもない、普通の蝙蝠だ。こんな地下遺跡なら居ても珍しくない。妖精弓手が意味がわからず質問した。
「なんで、蝙蝠なんて刺したのよ。怪物でもないのに」
「吸血鬼は蝙蝠を使い魔とし、遠方を見通せると聞いた」
「……なんでゴブリン退治で吸血鬼が出てくるわけ?」
ますます意味がわからない。だが、言葉足らずな男はそれ以上語らない。
「しかし、えげつないの、かみきり丸。油を塗った
「そうよ! 刺せばそれで十分じゃない! ゴブリンって焼けると酷い臭いがするなんて知りたくなかったわ‼︎」
鉄人道士が声をかけ、妖精弓手が騒ぐ。
「
「……オルクボルグ、何を殺す気よ」
「ゴブリンだ」
「そんなゴブリンはいないわよ!」
噛み付く妖精弓手と気にも留めないゴブリンスレイヤー。これはいけないと蜥蜴僧侶が話題を変える。
「いや、それにしても見事な戦働きでしたな。小鬼殺し殿の歌に偽りはなかった」
小鬼殺しの鋭い
おお、見るが良い。青に燃ゆるその刃。
まことの銀にて鍛えられ、決して主を裏切らぬ。
かくて小鬼王の野望も終には潰え。
救われし美姫は、勇者の腕に身を寄せる。
しかれど、彼こそは小鬼殺し。
彷徨を誓いし身、傍に侍う事は許されぬ。
伸ばす姫の手は空を掴み、勇者は振り返ることなく立ち出る。
屈強なホブゴブリンの首を容易く刎ねる姿は歌に語られる辺境の勇士そのものだった。
ゴブリンスレイヤーとしてはダンピールの出鱈目な膂力と脚力に少しでも対抗するために鍛えただけだ。
「どこがよ。歌と一緒なのは
「金臭さを消すのに必要な処置だ。こんなゴブリンに奪われたら厄介なものは俺も持ちたくない。吸血鬼が銀の武器に弱いらしいから、使っているだけだ」
「だから、何で吸血鬼なの! オルクボルグでしょ!」
「俺はゴブリンスレイヤーだ」