俺はゴブリンだ   作:ザイグ

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小鬼王編を書いていたら思ったより長くなったので二話は分けました。
後編は明日、投稿します。


四ゴブ

ゴブリン4

 

混沌と秩序の戦争が魔神王の敗北で終わってしばらく、俺は辺境の街近くにいた。

何故、あれだけ避けていた人里に近づいたかというと、危機感を抱いたからだ。

先日の勇者との邂逅。この世には俺が勝てない強者がいることを理解した。そして思った。もしゴブリンスレイヤーが勇者くらい強くなったら?

可能性はゼロとは言えない。現にゴブリンスレイヤーは原作より明らかに強くなっていた。このまま強くなり続ければいずれ勇者に並ぶほどになるのでは?

白金等級のゴブリン退治の専門家。笑い話にもならない。

だから、まだ弱い内にゴブリンスレイヤーを始末する。それに都合良い事件もこれから起こる。

いま辺境には小鬼王(ゴブリンロード)が出現し、ゴブリン軍がゴブリンスレイヤーの住む牧場を襲おうとしている。

原作では迎え撃った冒険者によってゴブリン軍は壊滅。ゴブリンロードもゴブリンスレイヤーに討たれた。

その戦争に介入する。場所も、状況も、敵戦力も把握できる今回は仕掛けるには持ってこいだ。

 

まずゴブリンスレイヤーを殺す邪魔が入らないように原作よりゴブリン軍を増やした。具体的には十倍の千匹に達する大軍団。これぞ数の暴力。

銀等級冒険者に対抗するために六小鬼(ヘキサグラム)も連れてきた。本当は全員連れてきたかったが、四匹だけにした。残る二匹は理性もなく、暴れ出したら俺でも手がつけられない。集団戦なんてやれば敵味方関係なく皆殺しにしてしまう。だから、留守番だ。

あと妖精吸血鬼と剣聖吸血鬼も留守番。今回の戦争はあくまでゴブリンによる襲撃だ。ゴブリン以外が関わってるのを見られたくない。

何が起きてもゴブリンというだけで国が動かないのは楽でいい。

 

「GRARARARA‼︎ GRARARARARA‼︎」

 

ゴブリンロードの号令。いよいよ戦争が始まる。ちなみに指揮はロードに任せた。軍団の九割と主戦力は俺の配下だが、牧場襲撃は囮みたいなものだからロードの好きにさせることにした。

それでもこの軍団を集めたのは自分の力だと信じて疑わないロードは、どれだけ賢くなろうとゴブリンだと思った。

 

「さて、ゴブリンスレイヤーは原作通りに動くか? お手並み拝見だ」

 

圧倒的な数のゴブリンに、死傷者は出たものの冒険者は有利に戦いを進めた。

ゴブリンロードの戦術は完璧に見破られ、大量導入したホブゴブリンも槍使いを始めとした熟練の冒険者に敗れ、切り札である小鬼英雄(チャンピオン)も重戦士と女騎士に倒された。

ちなみに大勢の冒険者を見た瞬間、ロードは逃げ出した。まだ六小鬼(ヘキサグラム)も出していないのにあの潔さは素直に感心した。

 

「まぁ、いいさ。これでゴブリンスレイヤーは小鬼王(ロード)と相対する。お前たちは牧場の冒険者を蹴散らせ。こっちに近づけさせるなよ」

 

俺の言葉に戦場へ向かう六小鬼(ヘキサグラム)。それを見届け、俺はこっそりロードを追った。

 

……しかし、あの戦場で暴れ回る黒髪の少女って……いや、まさかな。雑魚怪物であるゴブリン退治するほど白金等級も暇じゃないだろう。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「また私のおかげで命を拾ったな」

 

「ああ、助かった」

 

小鬼英雄を倒した重戦士と女騎士。彼らは残った敵の元へ向かおうとし、女騎士が気付いた。

 

「っ、伏せろ!」

 

「⁉︎」

 

女騎士が大盾を構えて重戦士を庇う。直後、降り注ぐ毒矢の雨。あと少し遅ければハリネズミと化していただろう。

そしてぞろぞろと草原から現れたゴブリンの増援。その数は十、二十、三十と増えていく。

 

「新手! まだこれだけの数が!」

 

女騎士は驚愕する。開戦時から討ち取った数は既に五百を超えていたゴブリン軍にまだ予備兵力がいたのだ。

 

「それだけじゃねえ。あの一等デカイのはヤバイぜ」

 

ゴブリン軍を率いて現れた先程のゴブリンチャンピオンにも劣らない巨体。ならばこのゴブリンもゴブリンチャンピオンなのかと問えば違う。

身に纏うは全身鎧。それも巨体を余すことなく守る重厚な金属鎧だ。武具は背丈もある大盾と重戦士のだんびら以上の大剣。それも揺らめく燐光は魔力の証、魔剣だ。武具も鎧も業物、これだけ充実した装備を持つゴブリンなど聞いたことがない。

更に隙をついて奇襲する狡猾さといまも油断なく警戒する冷静さ。知性も非常に高い。挙句に……。

 

「IRAGARARARARARA‼︎」

 

「馬鹿な!」

 

「こいつ⁉︎」

 

大剣から放たれた《聖撃(ホーリースマイト)》。二人は回避しながら、その正体を悟る。奇跡を授かり、敵を討ち滅ぼしに現れた神の使徒。

 

小鬼(ゴブリン)聖騎士(パラディン)だと……!」

 

——否。彼は奇跡を授かっただけの小鬼聖騎士とは格が違う。

彼は元小鬼英雄で、自分が一番強いと信じて疑わず、事実彼は無敗だった。それを完膚なきまでに打ち砕いたのが吸血小鬼(ダンピール)だ。

ダンピールに敗れ、軍門に下った彼はそれでも自分が一番強いという自負を捨てられなかった。彼はどうにかダンピールより強くなりたいと悩み、悩みに悩んで神に奇跡を授かった。

覚知神。ゴブリンにさえ邪悪な知恵を与える邪神から得た奇跡と優れた頭脳によって剣術を身につけた。その技量は熟練の冒険者である女騎士にも劣らず、膂力と体格が勝る分彼の方が強い。

彼は強く、賢い。最高戦力である六小鬼(ヘキサグラム)に名を連ね、軍団さえ指揮する頭脳がある。ゆえに彼はこう呼ばれる。

 

小鬼将軍(ヘキサグラム)

 

「GROAAAB‼︎」

 

小鬼英雄と小鬼聖騎士。二種の力を併せ持つ小鬼将軍がゴブリン軍を率いて冒険者に襲い掛かる。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「ゴブリンの増援だ! 百、いや二百はいるぞ!」

 

「ヤバイぞ! 助けに——」

 

冒険者が言えたのはここまでだった。なぜなら振り抜かれた巨大な戦鎚を受けて、身体を爆散されたからだ。

その冒険者は銅等級。実力と信用を兼ね備えた銀等級に次ぐ力があった。そんな冒険者が反応もできない速度で攻撃が繰り出された。

銅等級冒険者を瞬殺したのは見上げるほどの巨大なゴブリンだった。オーガさえ超える巨体はまさに巨人。圧倒的な膂力はその手の戦鎚で全てを粉砕するだろう。

 

六小鬼(ヘキサグラム)の一角、小鬼巨人(ゴブリンギガンテス)

 

「こりゃまた大物だな」

 

「気を、つけて。強い、わよ?」

 

「はっ、大物喰らいをしなけりゃ、冒険者の名折れだ!」

 

『辺境最強』と名高い槍使いが攻めかかり、小鬼巨人が迎え撃つ。戦鎚がクレーターを作り、お返しとばかりに必殺の槍が振るわれる。

 

「なっ⁉︎」

 

だが、小鬼巨人は宙返り(・・・)して避けた。巨体に見合わぬ身軽さだ。何より攻撃されてから回避までの判断力が凄まじく速い。戦い慣れている。

小鬼巨人はダンピールの実験の過程で生まれた上位種だ。ホブゴブリンは経験を積めばゴブリンチャンピオンに至る。ならばゴブリンチャンピオンに更に経験を積ませればどうなるか?

そう考えた吸血小鬼は十匹以上の小鬼英雄を集めて、最後の一匹になるまで殺し合いをさせた。

同じ壺に様々な虫を入れ、共喰いをさせる『蠱毒の壺』をゴブリンで実行したのだ。

結果、最後まで生き残ったのが巨人と見紛う巨体まで成長したゴブリンギガンテスである。

圧倒的な膂力に、巨体に見合わぬ素早さを兼ね備え、膨大な戦闘経験によって戦士としての技量は極めて高い。純粋な白兵戦は六小鬼(ヘキサグラム)最強だ。

 

「なるほどな。一筋縄じゃいかねぇか。悪いが付与(エンチャント)をくれ」

 

「はい、は、い」

 

だが、それで臆する銀等級ではない。魔女によって槍使いの武器が呪文で強化される。辺境最強と六小鬼最強が激突した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「西から二百、反対からも二百! 挟撃する気よ‼︎」

 

「こりゃ、ちとまずくないか⁉︎」

 

「確かに! 小鬼共にまだこれほどの手勢が残っていようとは!」

 

視力に優れた妖精弓手からの報告に、鉄人道士と蜥蜴僧侶は焦る。予想を遥かに上回るゴブリンの大軍団。

開戦で雪崩れ込んできたゴブリンは六百に達する。そこに更に四百もの後詰めがいたのだ。

連戦に誰もが疲弊し、呪文や奇跡も残っていない。その状態で敵の増援と戦うのは厳しい。

 

「と、あぁーっ‼︎」

 

だが、絶望を打ち砕く希望が冒険者にはいる。草原を埋め尽くす醜い小鬼共を太陽が吹き飛ばす。冒険者の最高位——白金等級。聖剣を振るう勇者がゴブリンの蛮行を許しはしない。

この牧場は彼女にとって第二の故郷であり、ゴブリンスレイヤー達は家族だ。家族の危機に彼女が戦わないわけがない。

ゴブリンといえど五百を超える軍団に襲われ、百にも満たない冒険者の被害が驚くほど少ないのは勇者がゴブリンの大半を一手に引き受けたからだ。

最も戦っているはずの彼女は汗一つかかず、余裕だ。伝説に導かれた勇者は、正しく無敵。

 

「おっと!」

 

迫る熱線を聖剣で打ち払う。《分解(ディスインテグレート)》の呪文。光速をどうやって捉えているか疑問だが、そこは勇者だからと納得するしかない。

問題は《分解》を使った敵だ。これほど高位の呪文をゴブリンシャーマンが使えるはずがない。小鬼将軍(ジェネラル)小鬼巨人(ギガンテス)に匹敵する強敵がこちらにも現れた。

 

体格は普通のゴブリンと変わらない。しかし、身につけたローブやアクセサリーは全てが魔法の道具(マジックアイテム)。手にした杖もそこらの呪文遣いが持つものより遥かに上質だ。

何より知性に溢れる瞳が、その頭にどれだけ邪悪な知恵が詰まっているのか教えてくる。おそらくゴブリンシャーマンの上位種だ。

 

「GBOB! GOROBGGRB! GOROBG‼︎」

 

敵が呪文を叫ぶ。呼応するように草原を血に染めるゴブリンの死体が“起き上がった”。

生きていた訳ではない。その証拠に首がない死体や真っ二つにされた死体までも動き出している。

邪悪な呪文によってあの世から呼び戻された小鬼動死体(ゴブリンゾンビ)。殺された恨みを晴らそうと冒険者に牙を剥く。

 

「亡者を操る……? 死人占い師(ネクロマンサー)か!」

 

小鬼死霊遣い(ゴブリンネクロマンサー)。ネクロマンサーは六小鬼(ヘキサグラム)の中では珍しく、実験や敗北でなく自らの意志でダンピールの配下に加わった変わり種のゴブリンだ。

ダンピールの配下になる前から、自力でネクロマンサーに至っていた彼は強者の死体を求めていた。そして様々な上位種を生み出すダンピールの元ならば幾らでも死体が手に入り、ダンピールは扱いの困る死体処理を任せられる。利害関係が一致した結果だった。

ただネクロマンサーはダンピールもいずれは殺し、その死体を利用しようと企んでいるが、それにダンピールは気づいていない。

 

そしてネクロマンサーの危険性を冒険者はよく理解していた。そこらの邪悪な魔術師とは格が違う。

ネクロマンサーは死体を操る。墳墓を暴けば、亡者の軍勢を生み出し、国を滅ぼしかねないほどだ。

そしてここは戦場。ゴブリンの死体は幾らでもある。ゴブリンネクロマンサーがいる限り、ゴブリン軍は不滅だ。何度でも蘇る不死の軍団と化す。

 

「だったら、真っ先に潰すだけさ!」

 

だが、その程度で勇者は臆さない。呪文を紡ぎ、《火球》を連発する。まだまだ余力を残す彼女にとって二、三回の呪文は問題ない。

 

しかし、迫る《火球》にゴブリンネクロマンサーは不敵な笑みを浮かべ……地面から飛び出した巨大な手に《火球》は阻まれた。

それは腐食し、所々骨が剥き出しになった死者の腕だが、あまりにも巨大だ。天に伸ばした腕だけでも小鬼巨人に並ぶほどの高さがある。

地面を押しのけ、それが姿を現した。現れたのは醜い顔を腐敗でより醜悪にしたゴブリンだった。

背丈は小鬼巨人の二倍以上。吐く息から腐臭が漂い、鼻がおかしくなりそうだ。規模があまりにも巨大だがこれもまたネクロマンサーによって蘇った小鬼動死体(ゴブリンゾンビ)だ。

 

「大きいだけのゴブリンなんて怖くないよ‼︎」

 

太陽の爆発! ゴブリンゾンビの片腕が爆散した。巨人だろうとゾンビだろうと変わらない。魔神王さえ倒した勇者に倒せぬ道理はない。

だが、ゴブリンゾンビは動じず、ゴブリンネクロマンサーも余裕の笑みを浮かべる。それに勇者は疑問を抱き、答えはすぐに出た。

爆散したゴブリンゾンビの腕が、肉片が集まり、再生していく。否、あれは肉片ではなく何百ものゴブリンゾンビが群がり、腕の形を成していっている。

 

超巨大ゴブリンの正体は、ゴブリンゾンビの集合体。ネクロマンサーが操る死体でありながら、六小鬼(ヘキサグラム)に数えられる小鬼群体(ゴブリンレギオン)である。

 

その最大の特徴は『個にして群』であること。群体ゆえに《解呪(ターンアンデッド)》で地に還すことができるのは一、二匹程度。数千もの死体が集まったゴブリンレギオンには何の支障もない。

更に肉体を構成するゴブリンゾンビ全てが本体であり、失って問題ない分体だ。頭を失おうが心臓を壊されようが、急所など存在しないゴブリンレギオンは倒せない。その上、蘇ったゴブリンゾンビも取り込み、巨大化を続けていた。

しぶとさだけなら魔神王を超える。ゴブリンレギオンでは勇者に勝てないが、逆に勇者ではゴブリンレギオンを殺しきれない。

 

元より目的は時間稼ぎ。勇者を抑えておけば、冒険者をゴブリンの物量で始末できる。そしたら小鬼将軍や小鬼巨人と合流し、全軍で持久戦に持ち込み、疲れ果て動けなくなった少女を犯してやる。それを思い浮かべゴブリンネクロマンサーは舌舐めずりした。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「ロード? 馬鹿馬鹿しい。お前は、ゴブリンだ。ただの薄汚いゴブリンに、過ぎん……!」

 

戦場から離れた森の中。ここで一つの決着がつこうとしていた。

戦場を逃げ出したゴブリンロード。しかし、その考えを読んでいたゴブリンスレイヤーに待ち伏せされ、息絶えようとしていた。

女神官が作り出した二枚の《聖壁(プロテクション)》に挟まれ、動けなくなったロードを真銀(ミスリル)の刃が貫く。

 

「そして、俺は……小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)だ……!」

 

小鬼の王は絶命し——敵を仕留めた一瞬の隙を突かれた。

 

「《ウェントス()……ルーメン()……リベロ(解放)》‼︎」

 

核撃(フュージョンブラスト)》。その威力は山を消し去り、最高位の竜でもなければ形を保てずに消失する。

襲撃者は只人たった二人に万物の根源たる力を揮う禁術を何の躊躇いもなく行使した。

いや、元より千のゴブリンを使い捨てにしているのだ。禁術くらい出し惜しみはしない。最大の呪文で確実に殺すくらいが丁度いい。

 

「同感だよ、ゴブリンスレイヤー。ロードなんて小賢しだけの同胞……お前を誘き出す餌ぐらいの価値しかない」

 

闇より現れた吸血小鬼(ダンピール)。木々も花草も、全てが消失した更地で、呟きに応える者はいなかった。

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