不死身 in ゴブリンスレイヤー   作:鉄の字

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一話

 

 

 

 

 

 

俺は不死身だ!

 

────とある退役軍人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供程の緑の身体に醜く尖った耳と鼻。

不規則に並んだ歯の間からは下卑た声が漏れる。

 

──ゴブリン

 

最弱ながら数は最も多いこの魔物は下劣で狡猾、最低で非力。

その悪知恵で人間を襲い、または待ち伏せし、残虐に殺し、弄ぶ。

 

そして、今この洞窟の開いた場所でも自分達を殺しに来た者を殺し返し、女は繁殖の為の肉袋となっていた。

 

その数は十二匹。

 

悪臭のする吐息を口から出しながらつい数時間前にやって来た冒険者(獲物)を堪能していた。

 

女は全身を打たれ、痛々しく膨れ上がった紫の痣で元の体が分からない。

ゴブリンは忙しなく腰を動かし、悦に浸った汚らしい表情を浮かべる。

 

その喧しい騒ぎに広場の入口辺りで睡眠していたゴブリンが起き上がり、戦果を味わおうと舌舐めずりする。

 

自分も中に入れて欲しいと嗄れた声を────

 

 

 

 

 

その瞬間に、伸びてきた手がそのゴブリンの首を折る。

 

 

 

 

 

────その嗄れた声を出す事もなく何をされたかも分からず地面に伏して動かなくなる。

 

「GR!?」

 

「GOOR!!」

 

「GROGRO!?」

 

突然の事に慌てるゴブリン達。

各々、武器を手に取り、目の前の敵に向ける。

 

そこにいたのは一人の修羅。

 

左手には松明。

右手には長い鉄と木が混じった筒らしき物。

 

松明に照らされるその顔は正に鬼神が如く。

 

松明を投擲。

開けた場所だが、そこまで広くない。

松明一つでも十分に明るい程だ。

 

ゴブリン十二匹の姿が顕になった瞬間、男は駆けた。

 

「ぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」

 

「GRッ!?」

 

地が響くほどの咆哮。

驚きの声を上げるゴブリンに一直線。

筒の先に付いた剣で槍のように喉を突き刺した。

 

隙あり、と横から刃こぼれした剣を振り下ろそうとするゴブリン。

それよりも先に筒を棍棒の様に振るい殴る。

 

頭蓋骨が砕けたゴブリンは血を吹き出しながら倒れる。

 

「オラァ!殺してみろぉ!!」

 

倒れた先にいる斧を持ったゴブリンへその筒を投擲する。

血に濡れた刃は寸分違わずその薄汚い眉間へと突き刺さった。

 

「殺してみろぉ!!」

 

殴り倒し、もう一体に組み付く。

そして、親指を立てて両目に突き刺した。

 

「GAAAAAAA!?!!?」

 

悲鳴を上げるゴブリンに対して男はその獰猛な顔を変えないまま近くにあった岩で無慈悲に何度もゴブリンの顔面を叩きまくる。

 

やがて動かなくなったゴブリンに祈りも何も捧げること無く次の敵に相対する。

 

何体かは後退りし、何体かは失禁している。

瞬く間に五体を倒した男にゴブリン達は恐れ慄いた。

 

そして、彼は走り叫ぶ。

 

己を暗示する言葉を。

 

「俺は不死身だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受付嬢さん、依頼が終わったよ」

 

「あ!不死身さん、お帰りなさい!」

 

『不死身』

それがその男の通り名だった。

 

男は厚い背嚢の中に尻っ端折りをした着物をメインに着用し、マフラーと軍帽に靴、下にはズボンを履いている。

そして、何よりも特徴的なのが整った顔に刻まれた、今にも血が吹き出しそうな傷跡だった。

 

一見変わった服装と顔立ちをしているが、男の通り名である『不死身』とは結びつかないだろう。

 

男自身もそんな呼び名が付くとはここに来るまで思いもしなかった。

最も、呼び始めたのは目の前にいるギルド職員の制服を纏った受付嬢なのだが。

 

「はい、確認しました。これは報酬です」

 

机の上に出された金袋を受け取り、着物の中にねじ込む。

そこで不死身はある事を思い出した。

 

「そう言えばさっき街の入口で見掛けない四人組の冒険者とすれ違ったんだけど『ゴブリン退治』とか言っててさ、大丈夫か?」

 

──ゴブリン

数多いる魔物の中でも一番数が多いとされる魔物。

その反面、魔物の中でも一番弱いとされており、冒険者達からは見向きもされない。

 

しかし、奴らの恐ろしい所は先述した通り数が多く、“馬鹿だが間抜けではない”所である。

悪知恵や土地の地形等を利用して油断した冒険者を陥れる。

 

『ゴブリンなら子供の頃に追い払ったことがある』

そう言いゴブリンを侮り慢心した新米冒険者がゴブリンに敗北し、捕まり、男なら殺され、女なら犯される。

 

仮に助けられても精神が崩壊し、神殿に入り修道者になるか故郷に籠る事が多い。

そして、これは特別な事ではなく『よくある話』なのだ。

 

「何とか諦めてもらおうかと思ったのですが………」

 

彼女は国が運営するギルドの受付嬢。

依頼を冒険者に斡旋するのが仕事である。

『この依頼は貴方達には無理ですよ』と言う事は出来ないのだ。

 

彼女に出来る事は冒険者の持って来た依頼を受け取り、帰って来た冒険者の依頼の経過を紙とペンを使って書き写す。

それだけであるのだ。

 

「じゃあ、ちょっと様子見てくるよ」

 

「いいのですか?」

 

「関係ない奴らだけど世話になってる受付嬢さんが心配してるなら行かないとな」

 

軽く微笑み、肩にかけた革紐をかけ直して颯爽と去ろうとした──

 

 

 

 

 

「ゴブリンか」

 

 

 

 

 

──振り返った目と鼻の先に『なんか変なの』がいなければの話だが。

 

「きゃぁぁぁああ!!!?!?」

 

薄汚れた装備に身を包んだ中肉中背の男。

どう見ても彷徨う鎧とかゾンビとかその類の魔物にしか見えない姿に不死身は甲高い声を上げた。

 

「あ!ゴブリンスレイヤーさん、こんにちは!」

 

受付嬢のさっきまでの悲しそうな顔が希望に溢れた顔になる。

なんか変なの──ゴブリンスレイヤーは不死身の横を通ってカウンターの前に行く。

 

「ああ。それでゴブリンと聞いたが」

 

「はい、実は先程、白磁等級の冒険者四人がゴブリン退治に出かけたのですが………」

 

ゴブリンスレイヤーは受付嬢が出した依頼を手に取り、その内容に目を通していく。

 

「新米には荷が重いな。恐らくシャーマンや田舎者(ホブ)がいる」

 

「ゴブリンスレイヤーさん………」

 

「直ぐに行く」

 

「ありがとうございます!」

 

非営業スマイルを振りまく受付嬢。

最も、彼女はゴブリンスレイヤーに好意を抱いているので仕方の無い事なのだが。

 

対して不死身はそんな頑張る乙女に内心で両手を振りながら応援していた。

 

「何だ?アンタも行くのか?」

 

「ゴブリンなら行こう。だが、準備を整えてからだ」

 

「そうか。なら、俺は先に潜っとくぞ」

 

「ああ」

 

短く素っ気ない返事をしたゴブリンスレイヤーはそのままギルドの出入口を潜る。

不死身もその様子に『感じ悪い奴だけどいつもの事か』と思いつつ軍帽を直すと同じく出入口へと向かった。

 

 

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