Blind Diva 作:クミちゃん
真っ暗な世界をずっと見続けると、人間はどうなってしまうのだろうか?
「ん……? ここは、何処?」
眠りから覚めた私は目を開けるが、目に何かが被せられているからか視界は暗闇に包まれている。多分アイマスクか何かなのだろう。身につけた覚えは全くないが。
「全く、いつから私はアイマスクなんて……あら?」
ここがどこか知る為に目に被せられたものを取ろうとするが、不思議なことに何故か腕に力が入らない。脚や首も動かそうとするが、こちらも動かくことは無かった。
「結局、今動くのは口だけなのね……」
これ以上やっても意味がない。それよりも気になった事があった私はおとなしく目を瞑って考え事をし始める。
気になった事……それは昨日(正確には昨日なのかは分からないが)に起こった事についてなのだが、一体何があったのか『全く覚えていない』のだ。だからといって記憶喪失ということではなく、そこの部分だけが綺麗に消されたように何も思い出す事ができない。
昨日に何があったのだろう? 寝てしまう前に何が起こってしまったのだろう? 頭の中からすっぽり消えた忘れてはいけない『何か』を探るために、私は頭を働かせる。
でも、考えれば考えるほどに疑問が生まれては打ち消されていく。その『何か』を思い出そうとすると、脳がストップをかける為なのか鈍器で殴られたような鈍い痛みが私を襲うのだ。
「うっ……ぐぅっ……!」
痛みは今回だけではなく、考える度に何度も何度も襲った……まるで私に知らせたくないように、決して真相に辿り着かせてはくれずキリが無い。
考える事もやめて、私は外から聞こえる音に耳を傾ける。音を聞くからにどうやら雨が降っているようだ。
「今日は雨が降っているのね……確か、昨日もこんn ――うっ!?」
一瞬だけ思い出した昨日の事を呟くと、また痛みが私を襲った。でも、さっきのとは絶対的に違う。更に強く、まるで本当に頭が割れるかのような痛みだ。
「ぁ、ああっ……! うぁあっ! あぁあああ!?」
痛い、痛い、痛い……! 記憶がどうとか言ってる場合ではなかった。私らしくない声をあげながら、ジタバタとベッドで暴れて音をギシギシと鳴らす。咄嗟に頭を抑えようと力の入らない腕を動かそうとすると、今度は案外すんなり動いて頭へ移動する。
「うううぅぅッ! 痛い! 痛ぁいッ!! ……ッ」
激しく動き回った為に、ベッドから床に落ちる。その程度の痛みで頭の痛みが和らげられる事は無く、すぐさま立ち上がるとまた頭を抑えながら歩き回る。
「こ、この痛みをどうにか、しな……い、とッ!」
私はもはやこの痛みをどうにかするかしか考えれなかった。
…………そうだ、腕が動く今だったら目に被さっている物が取れるんじゃないか? 取れば周りが見えるし、助けも呼べる。そうと決まれば取ろう。私は頭に置いていた手をアイマスクの近くに動かす。
「こ、れは……包……帯?」
目に被せられた物がアイマスクではなく、包帯だと触れた事でようやく知った。何故自分が包帯なんて巻いているのだろう……? でも、そんな事はどうでも良い。とにかく私は、包帯を無理矢理にでも引き剥がした。やった、これで見える。これで助けを呼べる――そう思いながら私はゆっくりと目を開けた。
だが、そこに映ったのは自分が思っていたものとはあまりにも真逆のものだった。
「………………え?」
そこに広がっていたのは包帯を取る前と全く同じただの黒い世界。顔を右に向かせても、左に向かせても、上に向かせても、見えるのは黒い以外何もない黒、黒、黒。
自分に起きた事を理解したくないのか……全身が静かに震え始める。せめて自分の手を見ようと、震える手を目の前に持ってくる。
「嘘……嘘、でしょ?」
見えるのは前と変わらぬ只の黒。頭痛なんてなにも感じなくなるくらい、私にとって衝撃があった。いや、衝撃が強すぎた。
目が見えないなんて、信じたくなかった。
「嫌…いやいやイヤイヤ嫌嫌ァッッ!! なんで! なんでぇ!? 誰か、誰か助けてぇ!」
自分に叩きつけられた事実に混乱し、パニックになった私は、より暴れながら必死に叫んだ。此処が一体何処なのか確認する手段が無くなったと思ったから。冷静になれば他に手段は考えられたが、今の私にはそんな暇はなかった。
「ゆ、友希那!? 大丈夫! 落ち着いて!」
勢い良くドアが開く音と、突如自分の耳に聞こえたリサの声。それでも、自分の混乱が収まることはない。
「リサ! リサァ! 目が、目がぁ!」
「友希那!」
「……あっ」
リサに優しく抱かれた事に気付く。混乱したなかで鼻についた仄かな香りは、私の涙を誘った。
「う、うぅ……っ、リサァ……なんで、なんで目が見えないのぉ……?」
「大丈夫、大丈夫だから……!」
しばらくそのまま、数分の時間が経過した。私はただただ、リサの胸の中で泣き続けたのだった。
「リサ、ごめんなさい。取り乱してしまったわ……」
「いや、しょうがないよ。その……目が見えなくなったら私もそうなると思うし」
「そうだとしてもよ。それにしても、泣き続けたからかしら……なんだか眠くなってきたわ」
「そっか、じゃあ今日は素直に寝た方がいいね!」
リサがそう言うと、私をベッドに寝かせる。
「そういえば……父さんと母さんは?」
ふと思った事をポツリと呟くと、自分が何か不味いことを言ってしまったか、リサと私の間に沈黙が生まれる。
「リサ……?」
「……! ああ、ごめんね友希那。それについてはまた起きた時に話すよ。今話しても、途中で寝ちゃうかもしれないでしょ?」
「……それもそうね」
確かに途中で寝てしまってはいけない。リサの言う通り、素直に寝る事にしよう。目は見えなくなったが、目を閉じる。
「それじゃあ寝るわね。おやすみ、リサ」
「うん、おやすみなさい!」
そう言うと、静かに意識を手放した。
「なんで……こんな事に……」
友希那が寝たのを確認すると、『病室』から出て、そのまま階段を降り、玄関から外に出る。外はすっかり暗くなっており、前もあまり見えない。まるで、今の自分自身のようだ、と苦笑いをしながら思うしかできなかった。
友希那が病院へ搬送されたのを聞いたアタシは、すぐに友希那の容態を知るため急いで駆けつけた。病院について、医師に言われた言葉は、絶対に忘れるはずがない。
「友希那は、友希那は大丈夫なんですか!?」
――落ち着いて聞いてください。彼女……湊さんはもう、
「……え?」
頭の中が真っ白になった。少しの間、何も考えることができなかった。出来るはずがなかった。自分の大切な幼馴染が、目が見えなくなった? 「嘘だ」と言いたかった。でも、医師のその顔を見れば、嘘だとは絶対に言うことはないだろう。
――それと同時に、彼女は心にも深い傷を負っているようです。私のような男性が状態を確認しようと近づくと拒絶反応が出て、呼吸困難に一度なりました。所謂“男性恐怖症”というものです。
「つまり、何かが原因で男性にトラウマを持っている……ということですか?」
そう言うと、医師は頷いた。二度目の衝撃だった。目が見えなくなっただけではなく、もう一つあるとは誰が想像するだろうか。
――そして、最後に一つ。重要な事が……
一体いくつあるのだろうか。もうやめてあげてくれと本心で思ってしまった。
「……なんですか?」
――彼女の……湊さんのお父さんとお母さんは『 ました』
そして医師の告げた言葉に、私は脱力し、地面にぺたんと座ってしまう。今、この人はなんと言った? 頭で処理なんて出来ないなんてレベルではなかった。その時に
――嫌…いやいやイヤイヤ嫌嫌ァッッ!! なんで! なんでぇ!? だ、誰か、誰か助けてぇ!
友希那の声が聞こえて、無我夢中で走って、なんとか落ち着かせたり、寝かせたりで今に至るが……
「言えるわけないよ……」
目が見えなくなったよりも男性に対してトラウマを持っている事よりもより重い事。それは――
「友希那のお父さんとお母さんが『亡くなった』なんて……」
私が真っ暗な空を見て呟いた言葉は、誰にも聞かれる事なく、静かに消えていった……
意外にも多くの人にお気に入り登録して頂いたので、連載していきたいと思います。次話の投稿は、少し遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちくださいますようお願い致します。