Blind Diva 作:クミちゃん
「そうだ友希那、今日は◯◯の業者さんがくる。少し騒がしくなるかもしれないから、前もって伝えておこうと思ってね」
「そうなの……わかったわ」
そう返すと、自分の部屋に向かう。
雨の日の土曜日の出来事だった。
「リサは……ああ、今日は家族と何処かに行ってるんだったわ」
幼馴染のリサは今日は用事があるらしい。少し作曲のアイディアをもらおうと思っていたのだが、いないのなら仕方ないだろう。
「ここは……この方がいいわね」
部屋で歌詞を書きながら、作詞作曲を進めていく。
ある程度時間が経つと、集中し続けたからか、まだ昼なのに眠気が私を襲った。
「眠い……最近はかなり徹夜していたし……少し寝ようかしら」
ベッドへ横になると、急に瞼が重りをつけられたように重くなる。私は抵抗することもなく目を閉じる。
そして、私は眠りについた。
私が目を覚まして、外はあっという間に暗闇に包まれていた。時間を見れば、18時を指している。どうやら4時間程眠っていたのだろう。相変わらず雨の勢いは変わる事はない。
それと同時に……何だろうか、雨の音と混じって、まるで人が壁にぶつかったり、地面に倒れた時のような音が下の階から聞こえるのだ。疑問に思わないわけがない。
「……? 何かあったのかしら?」
目をこすりながら、部屋から出る。そして、下の階へ行くために階段を一段一段ゆっくり降りていく。寝ぼけて階段から落ちることだけはどうしても避けたい。
「父さん……? 母さん……? 何かあっ……た……の……」
寝ぼけていた意識が一瞬で覚醒した。
それはなぜか。何故ならそこには――
「――はっ!?」
夢の途中で眼を覚ます。悪い目覚めと同時に強い吐き気が私を襲った。
「うっ……!?」
周りへと手を伸ばして、なにか袋のような物を探すと、ガサガサと音が鳴った。この感触からするに、おそらくレジ袋だろう。
(なぜここに?)
だが、そんなに考えている暇はなかった。レジ袋を急いで口元へ移動させる。
そして、口の中で外に出たいと言ってる汚物を袋に吐き出した。
「んぶっ……おえぇ……げほっ! げほっ!」
吐き出した後に残る胃酸独特のあの味が、どうしても嫌いだ。まあ、好きな人などいないと思うが。とりあえず袋の手持ち部分を探して、適当に結ぶ。
(ふう……これで少しは楽になったわね……)
そう思って油断したのがいけなかった。
「うがっ……! また、痛み……が……あああぁああっ!!」
そう、あの頭が割れそうな程の痛みが再び私を襲ったのだ。頭を抑えながら、堪えられない痛みを声に出す。
「うっぐぅ……あぁ! 痛み……前、より……強……いぃっ!!」
なんで、なんでなんでなんで!? 頭の中はパニックだ。
「なんで、こんな……! 起きた……瞬間、にっ!……災難に襲われる……のかし…………ぁ……?」
不思議だった。『襲われる』その言葉を口に出した瞬間、体中から力が抜けてベッドに横になっただから。
更に不思議なことに、ついさっきまで喋っていた言葉や考えていた事さえも忘れてしまったのだ。痛みはいつの間にか無くなっていた。
「あれ……? 私、さっき……何を……?」
さっきまで一体何を考えていたのだろう? でもこのまま考えては、激痛が襲ってくるだけだ。今は大人しくしておこう。
とりあえず、ついさっきから今までのことについて一つ言うのなら――
「最悪の目覚めだわ……」
この一言に尽きる。
「リサちー、朝から気になってたけど……クマが凄いことになってるよ? やっぱり今日なんか変だよ」
ボーッとしていたアタシの意識は、ヒナが声をかけることで、すぐに目覚めた。
「……え? い、いや〜なんでもないよ! アタシはこの通り、元気だよ?」
無理矢理笑顔を作って言ってみせる。
勿論ウソだ。昨日は自分にとっても友希那にとっても辛い出来事があったのだ。寝ようにも寝ることができず、寝たのはせいぜい2時間くらい。変と言われても仕方がないだろう。
食事にも勉強にもなにも集中することができず、そして今、ヒナに対して適当なウソをついた。
「……ふ〜ん、そっか〜。まっ、とりあえず遅れないようにねー」
ヒナの表情を見るからに、あれは完全にアタシのウソに気づいている顔だ。そうに違いない。
そう考えているアタシを差し置いて、ヒナはささっと準備を終えて教室から出ていった。
(あれ、なんかあったっけ?)
そう思いながら時計を見ると、アタシの顔は真っ青に染まる。
「やっば……! 次、移動教室じゃん!」
そう、移動教室だ。時間はあまり残されてない。クラスメイトがいない教室で一人、慌てて準備をすると、走って授業場所に向かうのだった。
「はぁ〜……今日は最悪だなぁ」
午前の授業が終わり、休憩時間となった。
結果か言うと現実は非情なもので、授業には遅刻してしまった。
(先生には「らしくないわね?」とか言われちゃったし……普段ならそんな事全くと言っていいほどないのに……)
そう思いながらアタシは屋上で一人、自分の曇っている心とは正反対の快晴な空を見つめる。
(ねえ、なんで空はそんなにも綺麗でいられるの……? 曇る時には一体何を思っているの……?)
空にそう問いかけても、返ってくる言葉は何もなかった。
暫くすると、背後から屋上の扉が開く音が耳に入った。誰だと思って振り返ると、そこにはよく見かける仲良し五人組が見えた。
「ああもう!暑っ苦しいからくっつかないでよ、モカ! ……あっ、リサさん。こんにちは」
「リサさん、こんにちは〜」
Afterglowの五人だった。こちらへ気がつくと、蘭とモカをはじめ、他の三人もアタシに対して挨拶をする。アタシも「やっほー!」と五人に返す。
「あれ? リサ先輩、今日は友希那さんとは一緒じゃないんですか?」
やっぱりそこを突いてくるか。ひまりがアタシに対して言った一言に、顔を顰める。確かにアタシは、よく友希那といるイメージがあるのだろう。
「い、いや〜今日友希那は体調崩しちゃったみたいでさ〜? 今日は一人で寂しいな〜……なんちゃってね」
つい咄嗟に、ヒナへの対応と同じようにウソを吐く。
本音を言えば、寂しいなんてレベルじゃない。それだけじゃ表現できないぐらいに、私の心にはポッカリと穴が開いてしまっている。
ただ居ないならまだしも……友希那はもう二度と、親もアタシの顔も見れなくなるなんて、そんな悲しく残酷な事が突然起きるなんて誰が想像出来るだろうか。
「そうなんですか。湊さんが……」
どうやら蘭も巴ら四人は、アタシのウソを信じたようだ。変な心配をかけるわけにはない。ささっと教室に戻ってしまおう。
「よし! まだ時間あるけど、アタシは教室に戻るね! それじゃ――「ちょっと待ってくださ〜い」ん……?」
四人が信じる中で一人、アタシに声をかける人物がいた。モカだ。
「モカ、なんかした?」
「いや、ちょっと思った事があったので〜」
こういう時のモカは何を考えているのか分からなくなるため、少し苦手だ。アタシは身構えながら、モカの言う事に耳を傾ける。
「その思った事って……なに?」
「リサさんさっき『友希那は体調崩しちゃった』って言いましたけど、それって本当なんですか〜?」
ドキッとした。体がピクッと動く。
「ちょっとモカ、あんた何言ってんの!?」
「落ち着いて落ち着いて。蘭は少し静かにしてて〜」
「それって……どういう事?」
ついついキツイ言い方をしてしまう。それも仕方のない事だ。まさかモカにそう言われるとは思っていなかったのだから。
「あたしって〜こう見えても結構人を見てるんですよ〜。沢山の人達を見てくれば色々分かることがあって〜。例えば〜……人が嘘をつく時の仕草とか」
仕草と聞いてビックリする。まさか、アタシはそんな分かりやすいようなウソをつく時の癖があると言うのか。
「まあ、敢えてリサさんの仕草は言わないでおきますね〜。それで、リサさんの仕草と、ひーちゃんが問いかけた時の表情から、もしかしたらリサさんが嘘をついてるかもしれないな〜と思いまして〜」
「ひーちゃんに言われた時、体調崩しただけなのに、まるでもう会えないみたいな凄い悲しそうな表情してましたよ〜」
まさかそこまでとは、驚きだ。まさか仕草だけでなく、表情からも読み取られるなんて。
「それで、どうなんですか〜? リサさ〜ん」
……ここまで言われたら、もう言うしかないのだろうか。モカも、アタシを逃がす気はないようだし。
「モカ……あんたもういい加減に――「蘭……もう、いいよ」……リサ、さん?」
多分アタシの声は震えているだろう。
ダメだ……本音を伝えようとすると、どうしても堪えられない。出来るわけない。
「リ、リサさん!?」
アタシのウソを見抜いたモカが珍しく慌てている。それもそうか、アタシは今泣いているのだから。
「あはは……っ。なんでだろ……涙、が……止まらない、止まらないよぉ……」
「リサ……先輩」
五人は、突然泣き出してしまったアタシを見て困惑している。休憩時間だってずっと長いわけじゃない、早く話さないと……そう思っても、涙が止まる気配はない。
「いやだ……いやだよ……っ。友希那が、友希那がもう、アタシ達の事を見ることが出来ないなんて……いやだよぉ……!」
『え……?』
泣くと同時に、友希那の事を喋ってしまった。アタシの口から零れたその言葉に、五人は唖然とした表情をした。
「ねえ、蘭ちゃん。も、もしかして……」
「リ、リサさん。もう見ることができないって……湊さんは……まさか……」
零れた言葉から、どうやら蘭達は考えたくもない事を考えているのだろう。でも真実は残酷だ。アタシが真実を話さないと……。
「うんっ、友希那は……もう、目が見えないのぉ……っ!」
『場が静寂に包まれた』
この言葉が、今この状況に一番合うだろう。
巴だけじゃなく、蘭達も相当なショックと衝撃があるだろう。身近な先輩が盲目になったという事実をアタシの口から告げられたのだから。
ある程度時間が経つと、漸く涙が止まり始める。アタシは涙を拭いて、暗い表情をしている蘭達を見ると、無理矢理笑顔を作ってこう言った。
「蘭達ってさ……『いつも通り』を大切にしてるんだよね?」
「え、ええ……そうですけど……」
「そっか。でもその『いつも通り』が、いつか急に壊れるかもしれないから……本当に大事にするんだよ」
「あっ! リサさん!」
それだけ言うと、アタシは逃げるように教室へと向かって走った。後ろから蘭達がアタシに何かを言っているのが聞こえたが、全部聞こえないフリをして、ただただ走っていくだけだった。
「ふ〜ん成る程〜……リサちーがいつも以上に元気がなかった理由って、そういうことだったんだ」
リサちーが屋上の入り口近くにいたあたしに気づかず、教室に向かっていったのを確認すると、ため息をつく。
「全くリサちーったら……軽い事を隠すならまだしも、そんな重い事隠してたら、Roseliaに大きな影響があるのに。まっ、とりあえず今日聞いたことは、おねーちゃんに伝えておこうっと!」
そう言うと、あたしは鼻歌を歌いながらスキップでリサちーのいる教室に向かうのだった。
二話を読んでいただき、ありがとうございます。
ここからどう物語が進んでいくか、是非お楽しみにしていてください。
次回も更新が遅くなる可能性がありますので、気長にお待ちしていただけると嬉しいです。
それでは読者の皆様、また次回でお会いしましょう。