Blind Diva 作:クミちゃん
今日もアタシは、いつもの様に学校に来て授業を受けて、現在はもうあっという間に休憩時間になった。勿論、友希那は学校にはいない。
これだけ寂しいと思ったのは、おそらく初めてだ。あぁ……早く友希那に会いたい、会いたくてたまらない……ただそれだけ、それだけを朝から思っている。
(そういえば、昨日はお見舞いに行ってなかったな。もしかしたら、友希那は怒っているかも……もしそうだったら謝らなきゃな〜)
「……リサちー」
「ん? ……ど、どうしたのヒナ?」
声をかけたヒナの方へ笑顔を向ける。するとヒナはアタシの事を、真剣な面構えをしながらこちらを見ていた。
(あれ? アタシなんかしたっけ?)
そう思って心当たりを探すけど、最近ヒナの対して何かをした覚えはない。
「リサちーって……最近寝てる?」
一体何を言うのかと思えば、失礼な事を言われてしまった。全く、たまにヒナはこう言うところがあるから直してほしいものだ。
「なに急に〜、バッチリ寝れたって! もう元気バリバリってもんよ!」
アタシが元気アピールをしても、ヒナの表情は変わる気配がない。ねえ、なんでそんな顔をするの?
「じゃあ、何で疲れ切ったような顔をしているの?」
「……え?」
アタシは自分の耳をおかしくなったのかと一瞬疑ってしまった。アタシが……疲れてる? 何を根拠にそんな事を。そう思いながらバッグから手鏡を取り出す。だが何故か、急に見るのが怖くなってきた。それでも、見なくては。そう決意して、恐る恐る自分の顔を見てみる。
「え……これが……アタシの顔?」
その手鏡に映っていたのは、自分自身の顔とは言えないまるで別人のようになっていたアタシの顔。正直言って、信じられなかった。
「ア、アタシが……なんで、なんでこんな顔してんの!? 昨日はよく寝たのに……っ!」
「ねぇ……リサちーはよく寝れたって言うけど、それって本当なのかな?」
昨日のモカと同じように、ヒナはアタシに問いかける。
モカとは違って、そう言ってくるヒナの真剣な表情が、アタシは急に怖く感じてしまった。『嘘なんかつかないで、さっさと本当のことを言え』って言ってるように見えたから。
「ほ、本当だよ!」
「それじゃ、昨日何時に寝れたか覚えてる?」
「それくらい言えるよ! 確か…………あれ?」
なんで? 寝たはずなのに、寝た時間が記憶の中から現れる気配がない。記憶喪失になったわけでもないのに。
「つまりは、リサちーは嘘を言ってたんだよ。あたしや他の人に変な心配をかけないために。その様子を見るからに、寝たと思い込んでいたみたいだけど」
(は……? アタシが、ウソをついてる? 寝たと『思い込んでる』?)
昨日のウソなら分かるが、今はウソなんてついていない。思い込んでもいない筈だ。
「リサちー……何かを隠す為に嘘を言うのは別にいいよ、あたしも意地悪ぐらいの時はたまにやるし。……でも、逆に隠すことがデメリットでしかない時だってあるんだよ?」
「…………」
アタシは何か言葉を返そうとしたが、なぜか言葉が詰まって何も言えなかった。
場にはアタシやヒナの他にもクラスメイトがいるというのに、さっきから静かだ。ヒナだけが怖いと思っていたのに、今ではクラスメイト一人一人の心配の視線まで恐ろしく感じる。
本能がこれ以上ここにいてはいけないと言っているような気がする。絞り出すように、苦しい表情をしながらアタシは言った。
「ご、ごめん……ちょっと飲み物買って、くる、ね……」
そして、財布を持って教室から逃げるように出て行く。
ヒナは何も言わずに、立ち去るアタシをただ見続けるだけだった。
「はぁ……はぁ……っ! アタシって、こんなに体力なかったっけ……?」
ヒナが言った『寝たと思い込んでいた』と言う言葉の意味を今、体で実感した。長い距離を思いっきり走ったわけでもない、逆に短い距離を急ぎ足程度だと言うのに、あっという間に息が切れてしまっている。
「あっ……と、とりあえず……飲み物……っと!」
僅かだが、足が震えているのが分かる。
(だ、大丈夫……アタシはまだまだ大丈夫)
百円玉を二枚入れて、自分の好きな飲み物を選んでボタンを押す。ガコンっと音と立てて出てきたジュースを取ろうと身を屈めようとしたが、現実は非情なもので、それは叶わなかった。何故なら
「……あ……ぇ……?」
足の力が抜けてグラリと視界が歪み、結果的に地面に倒れてしまったからだ。
「ぁ……ははは……辛い、辛いよ……」
気が緩んでしまって、本音を隠す壁が崩れてしまった。もうこうなったら止まることはそうそう無い。
「薄々わかってたよ、こんなことしても意味ないってことなんて……っ! でも、どうすればいいの……どうすれば安心できるの……? 誰か、誰か教えてよぉ……」
アタシ自身の口からポロポロと本音が溢れる。誰もいないで静かな場で答えを求めても、返ってくるのは静寂だけ……
「リ、リサさん! どうしたんですか!?」
……ではないらしい。アタシに気付いた蘭が、走ってこちらに向かってくる。今のアタシじゃ、嘘をつくことも出来ない。
「蘭……助けて、助けてぇ……っ」
「顔色が悪い……もう少し我慢してくださいね。今、保健室に連れて行きますから……!」
か細い声で蘭に助けを求めると、蘭はアタシの肩を担ぐ。そして、出来るだけ早く保健室へと向かうのだった。
「本当に大丈夫なんですか?」
「……うんっ。アタシのためにわざわざありがとね、蘭」
「い、いや、あたしはそんな大した事はしてないですよ」
あたしは、自販機前で倒れていた顔色の悪いリサさんを保健室に連れて行った。保健室の先生も、リサさんを一瞬見ただけでベッドに寝かせるように言った為、大人しく言葉に従いベッドに寝かせる。やはりそれほど酷いのだろう。それより
(こんなリサさん……見たことないな)
あたしが知っているリサさんは、いつも元気で誰とも話せて、料理も上手くて、なんでそんなに出来るの? と素直に思うくらい尊敬するリサさん。
もう一つは……辛い事実を必死に隠そうと無理矢理元気なフリをして、あたし達に心配をかけないようにするちょっとバカなリサさん。今のリサさんはまさに後者だろう。
「それじゃ、あたしはそろそろ行きま……ん?」
そろそろモカ達のいる所へ向かおうとすると、服の裾を弱い力だが摘まれたことに気付く。摘んだのは勿論リサさんだった。
「ねえ……少しだけ、アタシのお願い……聞いてくれる?」
「……内容によっては断るかもです」
「あっはは……そんな大変な事じゃないよ。ただ……アタシが寝るまで、手を繋いでてほしいな〜なんて……」
リサさんが言ったことにあたしは目を丸くする。まさかそんな事を言うなんて思いもしなかったから。
あたしは数秒固まると、ふふっと笑った。
「ら、蘭……?」
「全く……リサさんったらバカですね。大丈夫ですよ、そのお願い聞きます」
(本当に……バカなんですから)
そう思いながら、リサさんの右手を両手で優しく包む。あたしの答えに吃驚したリサさんだったが、すぐに笑顔になりあたしに向かって言った。
「……ありがとう。おやすみ、蘭」
「はい。おやすみなさい、リサさん」
目を閉じると、疲れすぎていたのかリサさんはあっという間に眠りについた。もう一度寝た事を確認すると、右手から手を離す。
「さて……今何時……あっ」
時計を見て絶句する。休憩時間がもう終了間近だったからだ。これは後でモカ達に色々言われる事だろう。でもまあ、今起こった事を話せば納得してくれるだろう。
「しっかり休んでくださいよ。リサさん」
そう言って、あたしは保健室から静かに出ていくのだった。
三話を読んでいただき、ありがとうございます。
相変わらず書き方が下手で申し訳ございません。
次回も是非お楽しみに。
それではまた次回でお会いしましょう。