Blind Diva 作:クミちゃん
大切な人が倒れた……今日もいない。それが、一人の少女にどれだけの影響を与えるのか。誰もわからない、誰も知らない。分かるのは、その一人の少女のみ。
ここ……何処だっけ。
日差しによって目を開く。そして思ったとてもくだらない疑問は、周りを見ることで瞬時に解決する。
あぁ……なんだ、アタシの部屋じゃん。なんでこんな事思ってんだろ。変なの。……え〜と、いま何時……?
外が明るいので朝なのは分かるが、今のアタシは時間が知りたかった。もしかしたら、ギリギリの時間なのではないかと内心に微量の心配をしながら。
腕だけを動かして、目覚まし時計のあるであろう場所に手を置く。目覚まし時計を軽く掴み、そのまま自分の視界の中へ移動させる。長針と短針の位置を確認すると、安堵し体から力が抜けた。
よかった〜。この時間なら、いつも通りに準備をして少し遅く家を出ても学校に着けるかな。
心の中で若干の余裕が生まれたアタシは、体を起こす。そして立ち上がり、歩こうとした。だが、そこで一つ問題が生じた。
「ん……あ、あれ? なんでこんなに体が怠い……んだろ?」
不思議なことに、アタシの体に異様な怠さが襲ってきて、思ったように体が動かせないのだ。手錠をかけられているように腕は上手く動かない。足を動かそうものなら、大量の重りが取り付けられたかのように、足は全く前に進まない。
一体なにが?
「……とりあえずご飯、食べなきゃ」
そんな事を思っているうちに、数分ほど時間が経っていた。余裕があるからといっても、このままでは遅刻してしまうだろう。
まずは朝食をとらなくては。怠さで重い体を無理やり動かして、アタシは部屋から出る。そして、まるで錆びたロボットのような動きで一階へ向かった。
「はぁ……はぁ……っ!」
おかしい。明らかにおかしい。
壁に寄っかかる形になりながら、アタシは思っていた。視界がチカチカと点滅すると同時に、ぐらりと歪んでいるため足元がふらつく。そして何か喋ろうとすると、変なところで止まったり間が空いてしまう。
流石に疲れにしても度が過ぎているように思う。それじゃあ、精神的な何か?なんなのだろうか、全くわからない、頭が回らない。
「あれ、てか……アタシ、今なにしようとしてるん……だっけ?」
まるで年寄りのように急にど忘れをしてしまった。まだそんな年齢ではないのに。唸りながら十秒ほど考えてやっと答えが出た。
……あっ、そうだ。ご飯食べに来たんだった。
じゃあ、その後は?
解決してからまた新たな疑問が生まれた。またアタシは考え始める。
まさか、部屋に戻って休む? いやいや、あり得ない。
友希那だって頑張ってるんだ。アタシはこの程度で休んじゃ駄目。このくらいなんともない。アタシは全然動ける。授業を受けることも、ダンスをすることも、ベースを弾くこともできる。
なら、答えは一つしかない。
答えは出た。
学校行かなきゃ。
またアタシは、ヒナや蘭達や家族に心配させたくない。
震え、動くことを拒む体に再び鞭を打って、アタシはリビングへ向かった。
朝食を作ろうと思っていたが、テーブルの上にあらかじめラップで包まれた朝食が置いてあった。それと一枚の紙を見つける。おそらくお母さんが書いたのだろう。
「ん〜と……どれ、どれ?」
紙を近づけて書いてある言葉を、目を左から右へ動かして読む。
どうやら今日は急に早く仕事に行かなくてはならなくなったようで、朝食は作っておいたから冷めないうちに早く食べてくれ。ということらしい。
忙しい中わざわざ作ってくれるなんて、優しいお母さんだ。
「それじゃ早速、いただき……ます」
そう言ってラップを取り、ほんの少し温かさが残っている朝食を食べ始める。手が揺れるせいで上手く掴みにくいが、何とか食べ進める。
味はあまり感じなかった。
「ふぅ……ご馳走さま、でした」
多少の時間を要したが、全て食べ終わった。
「あ……そう、だ。リモコンリモコン……っと!」
テーブルにあるリモコンを手に取って、テレビをつける。今はニュースをやっているようだ。
「よし、これ洗って準備、も、しなきゃ」
だが、ニュースを見る前に、まずはこの食べ終わった皿や茶碗を洗わなくては。カタカタと皿を持つ手が震えるが、そんなもの関係ない。キッチンに持っていき、綺麗に洗う。
「ふん、ふん……ふふ〜ん♪」
今日は鼻歌も上手に出来ないけど。
ーー続いてのニュースです。自分らを◯◯業者の者と偽り一家を襲い、妻と夫を殺害、女子高生を強姦して逃走した◯◯◯◯と◯◯◯◯が昨夜逮捕されました。
そのニュースがアタシの耳に届くことはなかった。
「よ〜し、準備、完了! それじゃあ早速、学校に……向かいます、か!」
制服に着替え髪も整えたりして、学校へ向かうための準備を済ませた。
やっぱり少し声がいつもより小さかったり低くも感じるが、まあ多分気のせいだろう。
靴を履き、いつもより重い扉を開ける。そして今は仕事で両親がいない家に向かって言った。
「行ってき……ます!」
よーし! 今日は早く学校に着いて、ヒナを驚かしてやろっと♪
悪巧みする子どもがいかにもしそうな笑みを浮かべながら、アタシは学校へ向かうのだった。
「ねぇ薫くん〜」
あたしは見るからに退屈そうな表情で薫くんに声をかける。あっ、気がついた。
「ん? どうしたんだい、日菜。急に私に話しかけてくるなんて」
薫くんが不思議そうな顔でこちらを見る。確かにたくさんと言うほどではないが、薫くんと話す機会はあんまりない。じゃあなんであたしが薫くんに声をかけたのか、それはただそんな気分だったからじゃない。
「いやさ〜、もうちょっとでHR始まるのに、リサちーまだ学校に来てないじゃん? 何かあったのかなぁ〜って」
そう。あたしの話し相手でもあるリサちーがいないからだ。話し相手がいないと暇で暇で仕方ない。
「確かに……この時間ならもうこの教室にいるはずなのにね」
「でもまあ、最近リサちーはちょっと体調悪そうだったし、今日は素直に休んでるのかも」
「あぁ、昨日のリサの様子を見ると休んでいても仕方ないのかもしれないね。あの時のリサは、かなり無理をしているように見えた」
リサちーがどうしてああなったのか知らなくても無理をしているのがわかるなんて、余程リサちーはわかりやすいらしい。
「あ〜あ。今日はるんっ♪って来ないなぁ……」
「まあそんなこと言わないで。もしも本当に暇な時には、私が今のように話し相手になるよ」
「ありがとう薫くん〜」
今日はいつもよりつまらない一日になりそう。あ、でも薫くんの他にも麻弥ちゃんやAfterglowの皆もいるし、もしもの時にはお話でもしようかな〜。
HRが始まる三分前、そう思いながら自分の席に座ろうとした時だった。教室のドアが開く音が聞こえた。多分、先生だろう。でも少しだけ、リサちーなのではないかという期待を持っている自分がいた。
「はーい皆さん、自分の席に戻ってくださ〜い」
なんだ先生か。つまんないの〜……。
でも先生が来たということはリサちーの事を聞けるんじゃないか? 閃いたあたしは早速聞いてみる事にした。
「先生〜! リサちーがまだ来てないんですけど、連絡ありましたか〜?」
「それが、今井さんからの連絡が来てないんですよ」
連絡が来てない? って事は、今リサちーは学校に向かっている最中? いや、それにしては遅すぎるし……。それかもしくは具合が悪すぎて電話をかけられない? でもその時は親が変わりに連絡をするだろうし……。
「何かあったんでしょう――」
先生の言葉を遮るように、もう一度教室のドアが開く音が教室内に響いた。全員ドアの方向を向く。
瞬間、クラスメイト全員がどよめいた。
「……あれ? 皆どうした……の? そん、な、驚いた顔を……して」
「い、今井……さん?」
「リサ、ちー……?」
先生もあたしも、驚きで固まってしまった。
リサちーの手は小刻みに震えており、膝には転んだのか皮膚が裂け少量の血が流れている。その膝の傷に気づいていないのか、痛がる素振りもせずに、死んだ魚のような目がギョロギョロと動き教室内を見渡す。その顔からは生気が感じられなかった。
怖い……ただただ怖い……
怖気があたしの全身を襲い、包み込むのは容易いことだった。そこに佇んでいるリサちーが、とてもリサちーとは思えなかった。思いたくなかった。
「今井、さん? 大丈夫……ですか? とても体調が優れているようには見えませんし、膝が怪我をしてるじゃ……ないですか」
先生が戸惑いながら、なんとか言葉を絞り出す。
「いや〜……別に大丈夫、ですよ、先生。ぐっすり眠れました、し、気分絶好……調です! さ、もうHRの時間……ですよ先生!」
先生の言葉にリサちーらしき何かは途切れ途切れになりながらも笑顔で答える。目は全く笑っていなかった。
「ヒーナ、どうした……の、そんな顔して! ……ホント、はもっと、早く学校に来て……驚かしてやろう、とか思ってたん……だけど、まぁでも、今ヒナが驚いてるから、それで、いっか! ……ヒナ?」
「あ、ううん。別に大丈夫……だよ」
「そ、う? なら、いいけど」
リサちーらしき何かが返事をしないあたしを心配してくれているようだったが、あたしは適当に返すことしか出来なかった。
つまらないだろうと思っていた一日が一転、恐ろしい一日に変わった。そんな日が今、始まってしまった。
だが、本当に恐ろしいのはこれからなのだと、この時のあたしは思ってもいなかった。
皆さま、お久しぶりです。前回の投稿から間が空いてしまい、申し訳ございません。今回の話はもう少し長かったのですが、全部書こうと思うと更に投稿するのに時間がかかってしまうので、敢えて今回はこの話を含めて二つに分けさせていただきます。
これからどうなっていくのか、予想しながらお楽しみにして頂けると嬉しい限りです。それでは、今回はここで。皆さま、また次回でお会いしましょう。