Blind Diva 作:クミちゃん
狂い始める。何もかも。
負の連鎖は……続いていく。
今これを読んでいるあなたにも……なんてね。
今日のリサちーは不気味だ。
それはついさっきリサちーの様子を見た自体でわかっている事だが、昨日や一昨日のとは決定的に何かが違う。各授業ごとに、暇潰しと言う名のリサちー観察をしながらあたしは思った。
あ、一応言っておくけど、リサちーに対して怖い気持ちはまだある。だって最初、化け物だと思っちゃったくらいだし。でも、今はなんとかリサちーをリサちーだと認識できるようになってる。それぐらい流石のあたしでも情報の処理が追いつかなかったんだ。まあ、リサちーがおかしいのは変わらないんだけどね。
リサちーを観察し続けて分かったこと、それはかなりの確率でボーっとしていて集中出来ず、話もあまり聞いていないし聞こえていないようだったということ。そのせいで先生から何度も「大丈夫?」 とか「保健室行ったら?」と言われても上の空で返事をしなかったり、返事をしても
「え……? あぁ、アタシ、は大丈夫……ですよ?」
という言葉を、少し低い声で何度言われてもそう言うだけ。
リサちーがおかしいのは授業中だけじゃなくて、移動教室の時もなんだ。
椅子から立ち上がって、教室から出るだけでも精一杯そうだった。倒れそうなリサちーを慌てて支えたときに見えた、今にも魂が抜けていきそうな顔は、多分忘れようとしてもそう簡単には忘れられないだろうな……。
しかもずっと支えていないと、いつ倒れるかわからないから、あたしとしてはすっごくヒヤヒヤした。こんな事を思ったのは何年ぶりなんだろ。
そんなこんなで観察を続けているうちに、あっという間に午前の授業が終わり休憩時間へとなった。相変わらずリサちーは上の空だ。
いつもならリサちーや麻弥ちゃんとお弁当を食べたりするんだけど、ここで一つ問題が起こった。
「あ……やっちゃったかも」
鞄の中からお弁当を探すけど、その目的のものが見つかる気配がない。おそらく家に忘れてしまったのだろう。
「う〜ん……どうしよう」
このままでは何も食わずに休憩時間を終えてしまう。購買に行くという選択肢もあるが、正直リサちーが心配でならない。買いに行っている間に倒れてたりなんかしたら大変だ。
どうしようかと唸るアタシの耳に、この学校にはいない筈の人の声が入り込んできた。
「日菜」
「え? あ、おねーちゃん!」
声をかけられた方向へ顔を向けると、そこには片手にお弁当を持っているおねーちゃんがいた。わざわざあたしのために持ってきてくれたんだろう。
呆れた表情をしてあたしを見るおねーちゃんとは別に、お弁当を見てキラキラと目を光らせるあたしは分かりきった事を聞いた。
「わざわざここに来るなんて、何かあったの?」
「……あなた、分かって言ってないかしら?」
「……えへっ♪」
おねーちゃんの言葉にあたしはきゃるる〜んと効果音が出そうなポーズをした。そしておねーちゃんからお弁当を受け取る。
「ありがとっ! おねーちゃん!」
「別にいいわ。それじゃあ、私はもう行くわね」
「あ、待っておねーちゃん!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
用を済ませて教室から出ようとするおねーちゃんの手を掴むと、あたしも一緒に教室から出た。
「日菜、急に何をするの!」
「急にごめんね。でも、どうしても伝えておきたいことがあるんだ」
「……なに?」
おねーちゃんがかなりご立腹の様子だが、それよりも言っておきたいことがあった。それは言わずもがな、リサちーの事だ。
真面目な表情をすると、あたしの表情を見て察してくれたのか、おねーちゃんはあたしに耳を傾ける。
「今日の……いや、昨日も一昨日もだけど、リサちーの様子がおかしいんだ。今日は特に」
「……確かに、ついさっき私が教室に入った時、声もかけてこなかったわね。いつもは何か話しかけてくるのに」
おねーちゃんもやっぱり思ってたようだ。てことは……。
「リサちーの顔……見た?」
「…………っ」
おねーちゃんは返事はしなかったが、あたしから目を逸らしたを見て理解した。見たのだろう、リサちーのあの生気のない顔を。
「見たん……だね」
「ええ……見たわ。今井さんには思えなかった、思いたくもなかった……! なんで、なんであんな顔を……!」
おねーちゃんが歯を噛み締め、手を爪が食い込みそうなほど握る。それを見てあたしの胸も痛くなった。
まずはどうにかリサちーを助けなくちゃ。今までのリサちーより今日のリサちーは下手に刺激したらダメだ。下手にやれば硝子のように呆気なく簡単に壊れてしまうだろう。
「とりあえずおねーちゃん、リサちーはあたしに任せといて!」
「……本当に大丈夫かしら」
おねーちゃんは不安そうな表情であたしを見る。正直怖いって気持ちがあるけど、せめて今だけでも、おねーちゃんの前では強がりたくなったんだ。
「……任せるわよ」
「……! うん!」
おねーちゃんは少し後ろに振り向いてそう言うと、少し早く廊下を歩いていった。
やっぱりおねーちゃんはどんな時でもあたしをるんっ♪ ってした気分にさせてくれる。おねーちゃんに任された以上、頑張らないと!
……とか思いつつも、早速ピンチ。どう声をかけたら良いのかっていう問題発生。変に言葉選びを間違えるわけにはいかないし。うーん……。
また唸りながら悩んでいるあたしの耳に、今度は廊下を走ってこちら側へ向かってくる音が聞こえた。音からするに2〜3人程だろう。
「ひ、日菜先輩!」
「ん? あっ、ひまりちゃんと巴ちゃんにつぐちゃん!」
廊下を走っていた人達の正体は、Afterglowのメンバーの三人だった。三人の中で一人、息切れ状態のひまりちゃんが、あたしに一つの質問をした。
「あの……! リサ先輩って、教室にいますか?」
その質問にあたしはギョッとする。正直今のリサちーをあまり見せたくない。だからと言ってここで嘘をついたとしても、教室を見られたら結局意味がない。
まずは何故それを聞くのか、最初にひまりちゃん達に聞くことにしよう。
「なにか……リサちーに伝えたいことでもあるの?」
「はい、実は今日の登校中……リサ先輩と会ったん……ですけど……あっ」
話していくうちにひまりちゃんの表情が暗くなっていく。だが、途中で何かを見つけたような表情へ変わった。
「リサ先輩!!」
次の瞬間、ひまりちゃんが勢いよく教室内へ入っていった。おそらくひまりちゃんがリサちーに気付いたのは、教室の扉が開いていたからだろう。おねーちゃんと話す事だけ考えていて、扉を閉め忘れてしまっていた事に内心で舌打ちをする。
「あ、ちょっと!」
「ひまり!」
「ひまりちゃん!」
ひまりちゃんの名前を呼んでも、本人はこちらを向くことなく、どんどんリサちーに近づいていく。
「足の怪我大丈夫ですか!?」
「……え? 足、の……怪我?」
濁った目だけを動かしてひまりちゃんを見ると、低く掠れ、途切れ途切れになりながらリサちーは声を出す。
「ま、まさか、わからないなんて事ないですよね!? だってほら、血が固まってるじゃないですか!」
リサちーの反応がまるで何も知らない他人のようだったからか、ひまりちゃんは若干のパニックになる。それでもリサちーに焦りながらでも教えた。
首を傾げながら、その血が固まっている足を何十秒も凝視するとリサちーは言った。
「ひまりったら、何言ってるの? アタシ怪我なんてしてないじゃん。ほら、全然綺麗だよ?」
急に言葉を途切らす事なく、自分の怪我を否定した。この時だけ、いつものような笑顔で。いつも通りの声で。
「…………え? な、何……言ってるんですか、リサ先輩!?」
リサちーが放った言葉は、ひまりちゃんだけではなくあたしや巴ちゃんやつぐちゃんをも困惑させ、同時に恐怖を植え付けた。
怪我なんかしていない……? どういうこと?理解していないの? 理解しようとしていないの?
リサちーに対する恐怖が蘇り、またガタガタと体が震え始める。
「ひ、日菜先輩!」
そんなあたしを心配して近づいてくるつぐちゃんを手で止める。
「あたしは、大丈夫……だから」
「いや〜なんでか朝から先生やみんなにもそう言われるんだそんな事ないのに何度も同じことを言われるとさどんどんイライラしてくるんだよねアタシどこかおかしい?」
怒りに顔を歪めながら、リサちーは言葉を一度も切ることなくひまりちゃんの目を見て言う。
「いや、で、でもリサ先――」
「いい加減にしてよッ!!」
「……ッ!?」
机に拳を力強く叩きつけ立ち上がる。
「さっきから言ってるじゃん、なんでもないって! それなのになんでアタシに言うの!? そんなにアタシをイライラさせるのが楽しい!?」
「そ、そんな事は……!」
今まで溜まった鬱憤が爆発したのか、廊下にも聞こえる程に怒鳴る。ひまりちゃんもまさかこうなるとは思っていなかったのか、目に涙を浮かべて怯えている。
「いいよ、もうこんな所に居たくない! おかしい……皆おかしいよ!」
そう言うと、リサちーはあたし達の横を走って通りすぎていった。
「あっ、リ、リサちーっ!!」
「リサ先輩!」
「おいひまり、大丈夫か!?」
巴ちゃんがひまりちゃんに近づいて心配するが、当の本人には聞こえないのか人形のように崩れ落ちた。
「私、とんでもないことしちゃった……どうしようどうしようどうしよう……!」
「……ッ! ここはアタシとつぐに任せてください。日菜先輩はリサさんを追いかけてください!」
ただ地面を見つめてブツブツと呟くひまりちゃんを見て、巴ちゃんが焦った表情をしながらそう言った。
「うん、わかった! ひまりちゃんは任せたよ!」
巴ちゃんとつぐちゃんに任せると、リサちーを追いかけるために急いで廊下に出る。すると、汗を流している蘭ちゃんとモカちゃんがこちらに向かってきた。
「日菜さん、さっきリサさんが廊下を走っていったんですけど、何があったんですか!?」
「説明は後! 二人とも付いてきて、今はとにかくリサちーを追いかけなきゃ!」
「どうやら只事じゃなさそうですね〜。早く行きましょう日菜先輩〜」
口ではいつものように緩く喋っているが、モカちゃんの顔は真剣そのものだった。早速二人を連れて、あたし達は走り出した。
「リサちー!」
『リサさーん!』
リサちーの事を呼ぶが、当然返事は返ってこない。
代わりに焦りながら探すあたし達に聞こえたのは、
「キャー!!」
階段付近からの生徒の叫び声だった。その声に思わず、走らせていた足を止めてしまう。
「どうしたんですか日菜さん、早く行かないと!」
「う、うん……わかってる。わかってるんだけど……っ!」
足がどんどん震え始める。
リサちーは今日状態があまりよくない。それと階段付近からの声……これだけでも脳内で最悪な事ばかりが思いついてしまう。それは足が震えて当然だろう。
「でも蘭、今の叫び声って、もしかしてリサさんに――」
「それ以上言わないで! ……そんな、そんな事ないよ、絶対!」
そう否定しているのに、足の震えが止まる様子はない。逆に強くなっているような気がする。
「大丈夫……リサちーは大丈夫。大丈夫、だから……!」
自分に無理矢理にでもそう言い聞かせ、震える足に鞭を打ち、ゆっくりでも前に進む。その声が聞こえた階段へ向かって。
「はぁ……! はぁ……っ!」
一歩、また一歩……ただ足を進めているだけなのに、勝手に心臓の鼓動が速くなる。それと同時に、また最悪の事が思い浮かんでくる。
――そんなに思い浮かぶってことは……もう受け入れようとしてるんじゃないの?
突然、頭の中であたしの声をした何かにそう問いかけられる。
違う、違う違う違う! リサちーは大丈夫なの! そんな事ない、そんな事……!
――本当にそう言えるの?
その何かの質問に、あたしは言葉を詰まらせた。そう言い切れる理由も何もないから。
……ッ! そ……れは……!
――あれ、何か根拠があるからそんな事ほざいてるのかと思ったけど……根拠の一つもないの?って事は……。
うるさい、うるさいうるさいうるさぁい!!
頭を横にブンブン振り回し、そいつの言葉を掻き消そうとする。
「ひ、日菜さん?」
「日菜先輩、本当に大丈夫ですか……?」
蘭ちゃんとモカちゃんが心配した顔でこちらを見たのに気づき、ふと我に返る。
「ご、ごめん。それより、あの人だかりって……」
階段の方向を見ると、多くの生徒達が集まっていた。
瞬きなんて一度もできず、少しずつ人だかりに近づく……そしてその人だかりの中を通って、どんどん前へと行く。
そして、遂に一番前へと出ることが出来た。
大丈夫……リサちーは大丈夫なん――
必死に願っていた事は、目の前の光景によって軽々と打ち壊されることになった。
あたし達の視界に映ったものは、階段の踊り場にいるリサちーが一人。
「あ……あぁ……あぁああ!」
「リ、サ……さん……?」
「まさか……そんな……!」
ひまりちゃんのように、地面に崩れ落ち、視線がリサちーから離れない。
嘘、だよね? ね、リサちー? 演技だったら怒るよ? ねぇ、起きて、起きてよリサちー……っ!
絶望。この言葉以外にどの言葉が当てはまると言うのか。この、本当に最悪の事が起こってしまった事実に。
ただ見ていて、何もする事ができない無力なあたしに、頭の中のそいつがこう言った。
――ほら、結局そうなった。
その声が聞こえた瞬間、視界は暗闇に包み込まれた。
あたしはまだ……まだ大丈夫なのに……!
でも何故か、――――――。
皆様、大変お待たせいたしました。
今回はこのような内容となりました。ですが困ったことに、この先どのように展開にしようか、正直悩んでしまっています。つまり、また次話投稿にかなりの時間を要する可能性がとても高いです。気長に待っていただけると嬉しいです。
それでは今回はここまで。皆様、また次話でお会いしましょう。
※お気に入り登録、評価をしてくださった皆様、本当にありがとうございます。まさかここまでいくとは思っていなかったので、とても嬉しいです。これからもBlind Divaをよろしくお願い致します!