Blind Diva 作:クミちゃん
痛みから逃げるのは罪ですか?
「………………」
1時間。
「………………」
1分。
「………………」
1秒。
「………………」
0.1秒。
全ての時間が同じように感じるこの変わることもない色が、精神の傷を深くし開いていく。暗闇に光が差すことなど起こるはずもなく、その黒一色は、何もできない私を嘲笑っているように見えた。
「ッ……ぅあ……っ」
鈍器で殴られたような頭痛が私を襲う。何度も経験しているが未だに慣れることはない。痛みがなくなるまで情けない声を出し続ける。
同時にまた思い出してしまう。
あの認めたくもない忌々しい記憶を。
あの、私を地獄へ叩き落とした2人の
『友希那ちゃんって……体の隅から隅まで綺麗でとても美しくて……食べちゃいたいなぁ〜あははははっ!』
「こ、こない、でっ」
どんなに手を振っても、その手は男達の体をすり抜け意味を成さない。
発情した犬のように息を荒くしヨダレを垂らし、私へ向けて小汚い手を伸ばしてくる。どんなに抵抗しても無駄。どうせ防ぐことはできないのだから。
「嫌、嫌ァ!」
『それじゃあ、楽しませてもらうよ〜友・希・那ちゃ〜ん??』
「いやぁぁあああああ!!」
がむしゃらに手を振り回す。壁や物にぶつかっても気にせずただただ悪魔に抵抗する。身体を少しでも遠ざけようとベッドの端に縮める。
「やめて……やめて、よぉ……」
動かなければ確実に危険な目に遭う。でも、後ろは壁。無慈悲にも壁。
私は泣いていた。大量の涙を流し、自分の体を強く握りしめ祈る。
「お願いします、お願いします、お願いします、お願いします……っ!」
だがどんなに願っても、悪魔は悪魔。悪魔が急に天使になるわけがなかった。
『いただきま〜す!』
幻影が私の肩に触れた。その時だった。
「………………ぁぇ?」
まるで脳が熱くなりすぎて何かがプツンとショートしたような感覚が、私の全身を駆け巡った。全身から力が全て抜け、壁に寄っかかる。
「………………ぁ?」
今、何が起こった? 悪魔が私に触れたら、強い電流が流れたような衝撃が来た。
なんで?
「わ、私は、あの男達になに、を……ぁ……が……ッ!」
頭を抑えることも出来ない程の、今までに経験したことのない激痛が襲った。
「……ぁ…………ーーッ!?!?」
思うように声が出ない。頭、それと下半身が痛い。痛みを紛らわそうとしてもできない。
「……っ! …………!?」
ベッドの上で意味もなく暴れる。他に考え付くことなんてなく、ただただこうするしかない。これしかやることが考えられない。
何か、何かないのか。拷問にも感じるこの四肢を裂かれているかのような痛みを抑える事ができるものが。
両手両腕を何処か構わず伸ばして探す、ない。
探す、ない。
探す、ない。
ない、ない、ないないないないないないないないないないないないないないない。
カチャンッ
今確かに手に何かが当たり、私の耳目掛けて希望の音を鳴らした。考える暇なく私は、その何かを手にした。
「は、刃物……刃……モノッ!」
その何かを触って調べると、それが刃物だとわかった。おそらく、包丁ではなく果物ナイフだろう。
でも、な
「……っ! ぁああ!!」
刃物とわかった後、私は考える事を捨てていた。痛みから逃れることだけを考えていた私にとって、なぜここにあるかなんてどうでもいい事。
私は必死で、右手に果物ナイフを持ち、左腕目掛けて突き刺す。
「いぎゅ……っぁあああ!」
刺した部分から何かが切れるような音が聴こえ、瞬く間に熱を帯びる。でも、今更止めることは出来ない。この激痛が少しでも軽くなるのであれば、どんなに血を流したとしても構わない。今すぐにでも解放してくれ。
『ふー。ヤるもんもヤったし……どうする?こいつ』
『う〜ん……本来ならこれ以上やる予定なかったが、友希那ちゃん俺たちの姿を見ちゃったからな〜。見られなかったら何もしなかったんだけどな〜……あっそうだ
目を見えなくするってのはどうだ?』
『おっそれいいな! っつーことで申し訳なくないけど、綺麗なおめめ、見えなくさせてもらうよ〜』
『ホント、見えなくしちゃうのがとても惜しいくらい友希那ちゃんの目って綺麗だよね〜』
突然、また二人の悪魔たちの会話が頭をよぎった。
「……!! もぅ……ぃやあ……ッ!」
あの二人の顔が浮かび、記憶を思い出すことによって、今感じている激痛に加えまた違う痛みが襲う。
生き地獄。この言葉が似合う場面が生きていくうちで起こるとは誰が想像できただろうか。
「消えろ……消えろッ……消えろォッ!!」
もはや片腕にナイフを突き刺すだけでは足りない。左腕の感覚がもうほとんどない。そんな所じゃ意味がない。
ならば、どこに刺せばいい? どこに刺せば楽になれる?
「………………」
顔を下に向ける。見えはしないが、そこには当然私の腹だ。ひとたまりもないだろう。
深呼吸などせず、
ナイフを勢いをつけ腹目掛けて突き刺すーー
「…………ぅあああッ!」
「友希那ちゃん! やめて!」
事はなかった。邪魔が入った。知りもしない女が私の腕を抑えやがったからだ。
「みんな、友希那ちゃんを抑えて!」
その言葉が聞こえると同時に、また一人、また一人と私の体を抑え果物ナイフを奪われる。
「や……め……ろ……ッ!」
抑えられながらも女達に抵抗するために、もう見えないナイフへ向けて必死に手を伸ばす。その手が何かを掴む事はなかった。
「なんで、なんで邪魔するのよ!とても苦しいのに、苦しみから逃げるのがいけないっていうの!? 離せ……離せェッッ!」
「友希那ちゃん、とにかく落ち着いて!あなたはまだ混乱しているの、だから!」
混乱するのは仕方がない。あの悪魔の幻影を自分で勝手に生み出して取り乱し、思い出したくもない記憶を思い出して、痛みに今も苦しんでいるのだから。だから抗ってやってるんだ、たった今。だから、だからっ。
「私が今どんな苦しみに耐えているのかわからないくせに!! 勝手な事言うなぁ……ッ!」
私は今、女たちに向けて大声を出すことによって痛みを紛らわそうとするが、効果なんてあるはずがない。あるなんて思うか? 舌打ちをして、また何か言おうとした。
「いいから私から離れて果物ナイフを渡しなさい。大丈夫よ、死には……しな……っ! ……ま……た……」
最後まで言い終わるまで、体から力が急に抜けた。
いやだ、こんな所で……!
「ゆ、友希那ちゃん!? 友希那ちゃん! ……きな……ちゃ…………ん…………!」
私を抑えていた女達が、慌てながら必死に私の名前を呼んでいる声がする。
しかし私の意識は徐々に遠ざかっていき、だんだんと声も聞こえなくなっていった。
次目が覚めたとき、何が起こっているのか……なんて、考えるのは馬鹿かしら?