Я   作:きろ

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第一部 Philosopher's Stone
1 from Nine and Three Quarters(前)


 9月1日、ホグワーツ特急。

 

「ーーーねぇ、君 一体何者?」

 

 ホグワーツに向かう車内で、こんな風に問いつめられた新入生が一体何人いただろう。いや、そこまで限らなくてもいいか、有志以来あらゆる学校に向かう途中で、本気でこんな風に訊かれた生徒は一体何人いただろうか。

 少々他人事のような思考で現実から目をそらして君は考える。

 

 それこそ神様の手違いで生まれた規格外の天才や、前世からの記憶を引き継いだ転生者や、物語の台本を持って割り込む本来在らざる役者や、そんなものが混ざってしまった世界でないかぎりそうそうありえないはずだ。

 この世界に彼らがいないとは言い切れないけれど。

 少なくとも僕はそのどれにも該当しないからーーー、

 君は考える。

 どこから説明すればいいだろう。

 君は、考える。

 

 

 最初から説明するとなると、やはり1ヶ月前からだろうか?

 

 奇妙な手紙が届いた日から始めれば話すべき出来事は一通り話しきれると思う。

 …………………………けど、今はやめておこう。

 話が長くなりすぎる。

 この1ヶ月のことを振り返って君は首を横に振った。

 手紙を受け取ったあの日からあまりに多くのことがありすぎた。ホグワーツにつくまでに話し尽くせるか不安だ。

 

 なら。この国に着いたあたりから?

 

 振り返るのはほんの数日前の記憶。サザンプトンの港町に着いた所から始まる。あれからも色々なことがあった。

 ………けど、これもやめておいた方がいいかもしれない。

 再び君は首を横に振る。

 話すだけならそんなに時間はかからないけれども。まだ、自分の中でも整理がつけられていないことがいくつかある。中途半端に話したところで余計に混乱させるだけだろう。

 

 そうしたら、やはり。

 

 9と3/4番線から話し始めるのがいいだろう。

 大きな背中を追ってくぐった魔法のゲート。

 人ごみと蒸気の向こうで燦々と輝いていた赤い汽車。

 彼と出会ったのも、9と3/4番線だった。

 今真剣な顔でこちらを見据えている彼、セドリック・ディゴリー。

 まさかこんな顔をさせてしまうなんて、そんな気はさらさらなかったのだけれど。彼と君、志保 新が出会ったところから。そこから話し始めるのがちょうどいい。

 

 では、時を少し戻して本日9月1日午前11時前。

 イギリスはロンドン、キングス・クロス駅の9と3/4番線から、

 そこから、この話を始めることとしよう。

 

- - - - -

 

 9月1日午前11時前。

 キングス・クロス駅の9と3/4番線。

 

 君とセドリックが出会った時、君たちは互いに連れがいた。

 セドリックの方は勿論父親のエイモス・ディゴリー。

 君の方は、長身の黒人男性 キングズリー・シャックボルト。

 当たり前のことを説明するが、9月1日の9と3/4番線にいる親子連れというのはなんの不思議もない。というかむしろ当然の光景だ。遠方の学校へ行く子供、それを見送る親。当たり前のことであった……からこそ、ディゴリー親子は非常に驚いた。

「キングズリー、君、子供なんていたのかい?!」

 君とキングズリーの年の差、パッと見で30前後。

 親子と言ってなんら差し支えがない。そう思うのが一番自然な年齢差だ。

 だからディゴリー親子は、特にエイモスは驚いた。

 彼とキングズリーは魔法省で働く同僚だ。部署が違えど職場ですれ違うことも同じ仕事を分担したこともあった。だから、エイモスは知っていた。

 キングズリー・シャックボルトに子供はいない。

 家庭を持っていたという話さえ聞いていない。なのにいつの間に?そんなに大きい子が?

 

 驚くエイモスにキングズリーは鷹揚に笑ってみせた。

「私の子じゃないさ、父親代理をしているだけだよ」

 この子はキングズリーの古い友人の子で、事情があってキングズリーがここまでの送迎と見送りの役を任されているが。よく見る必要もない、黒と白、肌の色がそもそも違うだろ、私たちは遠い親戚でもないよ。

 肩をすくめて説明するキングズリーに、君もそれ以上の説明の言葉は持っていなかったからこくりと頷いて、自己紹介だけした。

「今日からホグワーツに入学します。

 志保 新です。新が名前で、志保が苗字。

 よろしくおねがいします」

「中国人(チャイニーズ)…いや、日本人(ジャパニーズ)か」

「以前外務省に勤めてたころの縁でね」

 そう補足されてディゴリー親子は納得した。

 なにか事情はあるようだが、深く詮索することでもないし、取り乱して恥ずかしい所を見せてしまったな。笑いながら軽く謝る程度にはエイモス・ディゴリーは人の良い人物だった。

 

 

 だから父さんは何も不思議がってはいないだろうけど。

 セドリックがそう言うのは、それを見たのはセドリックだけだったからだ。

 ーーー席を見つけ、車窓越しに。ディゴリー親子と同じ様に、別れの挨拶をする君とキングズリーの様子を。角度的にエイモスは完全な死角になっていた。

「それじゃ、気をつけて」

「キングズリーも。

 ここまでありがとう」

 実の親子ではないのだから少々かたいやりとりも当然だろう、だが、

「"…………、…………"

 忘れないでくれ。これが我々が君に託す唯一の願いだ」

「わかってるよ。

 僕は大丈夫だから、心配しないで」

「ーーーすまない。

 ーーーだが、我々を信じてくれ」

 そんなやり取りをする"事情"とは、"関係"とは一体なんだろう?

 

 その気がなかったとは言え、盗み聞きのようにして聞いてしまった会話だ。

 探るようなことは出来ないけれど、忘れることもしにくいだろう。気になるのも仕方がない、君もセドリックに同情する。せめてそれだけで終わればしばらくするうちに記憶もぼやけていったかもしれないのに。

 そうさせられなかったのは僕のせいだからなぁ…。

 君は考える。

 いや、僕のせいかな?

 不可抗力の部分もかなりあるんだけど…。

 君は、考える。

 




(もしもキングズリーに家族がいたら彼には大変申し訳ないのですが、家族に関する設定は見かけなかったので。

映画でキングズリー役の方がとてもかっこいいです)
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