「今年の帽子の歌は何点?」
「80点かな。やりたいことはわかった」
「去年より50も挽回だ!やるじゃないか帽子殿!」
「去年はちょっと抽象的過ぎたからなぁ…」
「コクなんとかとか言う詩集にはまってたんだと」
「帽子が?」
「年に一回しか仕事がなかったら帽子だって暇だろうさ」
「なるほどな…?」
星空の天井と無数のロウソクが輝くホグワーツの大広間。
今は組み分けの儀式の最中なのだが、あくまで主役は一年生だ。
喉元過ぎて熱さなどとうに忘れた上級生は気楽なもので。適当に拍手や歓声を混ぜながら、緊張の面持ちの新入生を楽しむくらいしかすることがない。
「今年はウィーズリーんち最後の弟が入学だっけ?」
「フレッド、ジョージ、お前らの弟どれだ。どの寮になると思う?」
「うちの赤毛なんかわざわざ見つけてなにがおもしろいんだ」
「ロンもグリフィンドールだよ。家族全員ずっとそうなんだから」
全く同じ角度で頬杖をついているのはウィーズリーの双子、フレッドとジョージ。君たちの学年を代表する…訂正、この学校を代表する問題児だ。
校内で知らない者はまず確実にいない、そう言いきれるくらい悪名轟く二人だが。過ごす時間が長い分君たち同級生はすっかり扱いを心得ており、被害を被ることは非常に少ない。
だから、まあ。その場にいた同級生全員がわかったわけだ。
双子が同時に頬杖を止め、にたりと笑ったその意味と近い未来の光景が。
「ーーーだがしかし、ジョージよ。我が家の赤毛で6回も同じ光景を皆様に見せるのはいかがなものだろうか?」
「ーーーそれは言えているな、フレッドよ。赤毛を見ただけで皆様を退屈させてしまっては我が家の名に泥がつく」
双子の扱い、と言ってもこの直結回路を持つ二つの脳みそをコントロールなんて出来るわけがない。教師陣でさえ手を焼いているのだ。半人前魔法使いごときになにができるだろう。
要はいかにして哀れなカモに犠牲になっていただきつつ自分は外野に逃げるか、という話なのだ。新しいカモもいっぱい入って来たし、今年も一層安泰だな。新入生の群れを見ながらそんな話をもう何人かとしている。
そしてたった今そのカモが彼らの末弟で確定した訳で、それが自分たちじゃない以上君たちは苦笑いとため息を交わし合う以上はなにもしないことが最良だとよく心得ている。
なんだかんだいって、やりすぎることもあるが双子の悪戯に悪意はないし、一定以上のラインは決して侵さない。
前科が大量にあるからこその信頼、というものもあるのだ。
新入生諸君には絶対に勝ち取れと言わない種類の信頼だけれども。
ごそごそとなにか始めた双子を見守りつつ。
哀れな末弟君に心の中だけで合掌した。
その後あの"生き残った男の子"ハリー・ポッターの組み分けがあったりして(ちなみにグリフィンドール寮だった)(レイブンクローやスリザリンに賭けていた同級生達の間でいくつかのコインが行き交ったりした)(拍手に混ざりながら意外に普通の眼鏡少年だななどと君は考えていた)
賑やかさの中で君はまったく気づくことがなかった。
双子たちの笑みが君たちにも向けられていたことに。
- - - - -
「ウィーズリー・ロナルド!」
新入生ほとんど全員が儀式を終えた頃、哀れなウィーズリーの6番目の名前が呼ばれた。
双子の準備もとっくに万端。机の下に用意してるのは…改造花火か。
市販だった時の原型が分からないぐらい色々合体させられているけれど。遠目から見てもすでに緊張でかたまっているのがわかる弟君に、おまえらどれだけ容赦ない悪戯かますつもりだ。
とりあえず、耳はふさいでおくか。
口を(口?)を開きかけた帽子を見て構えた時ーーー
ーーーフレッドと目があった。
にやり、目を細める。
いやな予感がした。
まずとっさに見たのが双子の手の中。
杖先に火が灯る。花火の導火線に近づく。着火。
「〜〜っ!おまえら!どこ狙ってんだ!!!!」
君は弾かれるように立ち上がった。
同時に爆音。破裂。熱が頬を掠めて行く。
火花が向かうのはまっすぐと、人の高さ。
すっかり誰もいない天井の方を狙うと思っていたのに。
あいつら、わざと角度を低くしていた!
「エバネスコ
言いたい事は山ほどある。アルプスなんて目じゃない。エベレスト級だ。けど全部後回しだ。
とにかく危ない放物線を描いているものから呪文で止める。
相手は火花だ。痛覚もない。短さと唱えやすさを優先してとにかく散らすが。ちくしょう、数が多い。1人でなんとかできる量じゃないーーー
「アグアメンティ!」
「エバネスコ!!」
「ディフィンド!!」
ーーーが、この点を君は全く焦ってはいなかった。
振り返る間でもなく、というか君が立ち上がったのとほぼ同時に周りの同級生達も立ち上がり、同じ様に杖を振るっていた。
双子の扱いは心得ている。
それができなければ被害を被るのは自分たち自身なのだ。洞察力も第六感も磨かれようもの。無事に全ての火花を逸らすことができ、あとから振り返ればそれぞれ呪文も一度きりくらいしか使っていなかった気がする。
ほんと、ありがたいものを培わせてもらったよ。
けど一体なんのつもりだ。
双子の方を振り返って、
パンパンッ
乾いた音とキラキラと瞬きが頭上から降って来た。
今度は何だよ…
見上げた君にさっきの火花達が金の流れ星に変わり星空の天井から降り注いで来た。
ここで君はやっと理解した。やけに手の込んだ改造花火、わざと危ない方向に向けられた火花、にやりとわらった双子。双子の悪戯に悪意はないし、一定以上のラインは決して侵さない。
つまりは、僕らが気づき散らすことも全て計算に含まれた上での悪戯だったのだ。なんでもいいから魔法に触れると元の姿に戻る変身術でもしこんでいたんだろう。思い返せば去年の学年末にそんな呪文を作っていた気がする。
してやられた……。
悔しげに拳を握る君たちを尻目に双子は無駄に派手な動きでテーブルの上に登る。
「「親愛なる新入生諸君!!」」
「これから君たちが過ごす学校生活は、不意をついて危険が降り注ぐかもしれない!」
「だがしかし恐れるな!君たちには我々という先達がついている!」
「君たちに危険が降り注ぐ時は!」
「我々が流れ星にでも飴にでも変えよう!」
「「だから安心して、学び!励みたまえ!」」
鮮やかにテーブルを舞台へと変えた双子に、なにがなんだかわからないままの新入生から拍手が起こった。それはわらわらと大広間中に広がり、マクゴガナルからとにかくそこから降りなさい。テーブルは土足で立つ所ではありません。とギリギリ最低限のストップが入るまで、双子は大広間の英雄だった。
それから。どうやらうっかり君たちも英雄の仲間と勘違いされていたようで。
「さっきの流れ星すごかったです!!」
「どういう魔法ですか?」
「教えてください!!」
きらきらと輝く目の新入生に群れたかられることとなった。
更に後々わかったのだが、その誤解は教師陣も同じだったらしく、君たちも双子の共犯扱いで罰則をくらい、翌日放課後の双子への報復は今までで一番の苛烈さを記録した。
「だって最近つまんなかったんだもん」
「変に慣れちゃって外野面覚えちゃってさ」
「水臭いじゃないか」
「俺たち同級生
いけしゃあしゃあと言ってのけた双子に君の拳が飛ぶのも、今は先の話。
「ーーーいや、だからあいつらと一緒にしないで?!
僕はごく普通の一般人だから!」
その夜の君は新入生たちの誤解を解くので手一杯だった。
そんなこんなで、3年目最初の夜は星も騒がしく賑やかなものになった。
「でも、さっきは本当に助かりました。
ありがとうございました。…えっと…、」
「新だ。アラタ・シホ。
まぁ…こんな感じで騒がしいけど飽きないことは約束できるところだよ」
「ありがとう。アラタ。
僕はハリーです。ハリー・ポッター。これからよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ。
ようこそグリフィンドールへ。ハリー・ポッター」
片隅に小さな出会いを抱えながら、ホグワーツの夜は更けていく。
(この騒ぎに巻き込まれてめちゃくちゃになったロンの組み分けですが、ウィーズリー家だからという理由で、グリフィンドールで事なきを得ています。
ウィーズリーのネームバリューさまさまです)