いつも通りの日常に夕焼けを   作:キズカナ

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亀裂

 

 あの後、なるべく早くCiRCLEにつくように向かって行った。扉を開こうとしたとき左腕の傷が傷んだ。だがその痛みを耐えてドアノブに手をかけ、そのまま開けた。

 

「あ、遼くん!」

「遅いぞ遼!」

 

 Afterglowの面々が俺を見て声をかけてきた。

 

「遼~モカちゃん疲れたよ~。」

 

 何時ものようにモカが遼の背中に乗っかかる。その時、モカの左手が遼の左腕に当たった為、左腕に蝕むような痛みが走り思わず顔を強張らせてしまった。

 

「…遼?どうしたの?」

「あ、いや何でもない。とりあえず練習はどうなんだ?」

「一応そろそろ後1回合わせて終わる予定だけど…。」

「そっか。じゃあ準備が出来たら待っててくれ。俺はトイレに言ってくる。」

 

 みんなが「なるべく早くね!」と言っている中でただ1人、蘭は府に落ちなさそうな表情をしていた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「痛っ…とりあえずこれをどうにか隠さないと…。」

 

 トイレに向かった俺は先程の傷に水をかけ痛みを和らげようとしていた。だが血が出ていた訳ではないので対した効果はないだろう。

 

「もしこの事をあいつらが知ったらどうなるか…」

 

 どうなるかは言うまでもない。彼女らは優しい。だから自分たち…特にモカは自分にに対して責任を感じてしまうことは目に見えていた。

 

「知られる訳にはいかないよなぁ…。」

 

 痣を濡らした水を吹き、彼女らのもとに戻った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 スタジオに戻り、残りの時間で数曲練習した後、機材を片付けて帰るだけとなった。

 

「このマイクスタンドって何処だったか?」

「あ、それはこっちだよ。」

 

 マイクスタンドを運ぶために持ち上げようと両手で持った時、また左手に痛みが走った。

 

「……ねえ遼。ちょっといい?」

「なんだ?マイクスタンドはちゃんと運んでるぞ?」

「左腕。何で今日使わなかったの?」

「!?」

 

 蘭の言葉に思わず動揺してしまった。確かに今日俺は左腕に負荷をかけないためになるべく右腕だけを使ってきた、いや、でも蘭にこの事が知られてる筈は…。

 

「……蘭も気づいてたの~?」

「うん。モカが遼に乗ったとき一瞬顔を強ばらせてたからね。それにここでノートをとるときも全然左手を使ってなかった。だから何かあるんじゃないかと思って。」

 

 蘭だけではなくモカもその事が引っ掛かっていたみたいだ。

 

「…遼?あたしたちに何か隠してる?」

「いや…そんなことは…。」

「じゃあ今日の練習、何でこんなに遅れたの?」

「だから日直の仕事があったから…」

「それでも30分は時間がかかりすぎだと思うけど?……その間に何かあったの?」

「・・・・・・」

 

 駄目だ。この事は言っちゃいけない。言ってしまうときっと…彼女達を傷つけてしまう。だから…。

 

「大丈夫だ。ちょっと自転車にぶつかってここ打っただけだからさ。そのうち治るって!」

 

 こう言うしかなかった。

 

「・・・・・・・」

 

 そしてその時の彼女たちは腑に落ちない表情をしていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 あの練習の日から数日がたった。羽沢つぐみはモカがやまぶきベーカリーにパンを買いにいくのについて行っていた。

 

「いや~。やっぱりやまぶきベーカリーのパンは美味しいですな~。」

「相変わらずよく食べるね…。」

「モカちゃんとパンは運命の赤い糸で結ばれてるからね~。」

 

 何時もは遼や蘭が一緒についていくのだが今日は2人とも放課後は予定があると言っていた。それでモカに誘われてつぐみがついてきた。

 商店街の道を歩いていたとき、1人の見覚えのある人を見かけた。

 

「……あれ?」

 

 そこにいたのは遼だった。そこには彼女らも知らない人達も一緒だった。

 

「つぐ~どうしたの~?」

「さっき遼くんが知らない人たちと一緒にあっちに行ったのが見えたんだけど…。」

「………ついて行ってみよ。」

「…うん。」

 

 つぐみの言葉を聞いたモカは何時もとは違い、真面目な顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 それから暫く歩き、つぐみとモカは遼たちの後を着けていった。

 

「お前らな…。今度は何のようだ。」

「別に~?ただこの間のお仕置きがまだ足りてないように見えたからね~♪」

 

「(遼くんの知り合い?でもあんな人、見たこともない…。)」

 

「オラッ!」

 

 謎の男は遼に向かって突然木の棒で殴りかかってきた。それを難なく受け止めて力づくで木の棒を奪い取ると膝を使ってへし折った。

 

「だからなんでもかんでも暴力で解決しようとするんじゃないよ。俺、結構平和主義者なんだけどな。」

「それは失礼。つい手が滑ってしまってな。」

「というかお前この間から何なんだ?俺はモカと付き合ってないしお前の怒りは完全にお門違いなんだが?」

「知らないな。そもそもお門違いでも何でもない。お前は……俺のプライドを傷つけたからな!」

 

 再び男は殴りかかるが格闘技の経験がある遼はそれを交わし、その男を突き飛ばした。

 

「プライドって…とことんめんどくさい奴だなお前。」

「俺は今まで欲しいものは全て手に入っていた。才能も、金も、何もかも!だがあいつの心は手に入らなかった。その理由はお前やあの幼なじみ共なんだよ!だからお前らが許せなかった。お前らなんかがいなければ……青葉モカは俺のものになってたのに!」

「結局それ逆恨みじゃないか。」

「とにかく…先ずはお前潰さねえ限り俺の腹の虫が収まらねえ!」

 

 すると再び遼に殴りかかるが難なく回避された。

 

「全く…拳でどうにかしようと…」

 

 遼くんがそう言った矢先、別の男が鉄パイプで殴りかかったがそのパイプを受け止めた。

 

「2度も同じ手にかかる訳無いだろ…。」

「良いのか?ここで抵抗してるとお前の大切なバンドメンバーが逆に悲惨なことになるぞ?」

「……っ!」

 

 一瞬動揺してしまった。その一瞬を見て石原ともう1人の仲間と思われる男は落ちていた棒で遼の左腕を殴った。遼の左腕には既に傷があった為痛みがすぐに走った。

 

「ふう…形成逆転だな。この状況をビデオに残して…毎晩笑ってやるよ。」

 

 パイプを引きずりながらジリジリと距離を摘めて行く。仲間の1人は撮影携帯を持って、もう1人は笑いながらそれを見ていた。

 

「相変わらずだな。昔から変わらず弱いままだなお前は。」

「なんだと?」

「こんなことしないとお前は俺に勝てないんだろ?だからわざわざ傭兵雇ってアイツらを人質にして…とことん下らない奴だな。」

「……ぶっ潰してやる。お前なんか!」

 

 遼が挑発すると石原がパイプを振り上げる。遼は左腕を抑えながらなんとか避けようとしているが反応が鈍くなっているため間に合わないと思われた。

 

 

 

 

 

「こっちです!」

 

 1人の少女が2人の警察を連れてきた。

 

「おい!お前達何をしている!」

「ちっ!行くぞ!覚えてろ!」

「あっ!こら待ちなさい!」

 

 警官の1人は石原達を追い、もう1人は遼の元に駆け寄った。

 

「君、大丈夫か?」

「俺は大丈夫です…。とりあえず向こうをお願いします…。」

「本当に大丈夫なのか?無茶はするなよ!?」

 

 遼の頼みを受け、もう1人の警官も石原達を追う。

 

「はあ…痛って。」

 

 服の埃を払いながら、痛む左腕を抑える。

 

「遼くん…大丈夫?」

「つぐみ…?」

 

 彼の元につぐみが駆け寄る。彼女に気づいた遼はいつもと変わらぬ態度で接した。

 

「どうしたのその痣…。」

「あー…これはあれだ。ちょっとこの辺り歩いてたら打っただけだ。」

「……違うよね?」

 

 なんとか痣を隠し、やり過ごそうとしたがつぐみは言葉を遮った。

 

「私見たんだよ?さっきの人達に殴られてるところ。」

「・・・・・・・」

「あれどういう事?もしかして原因って…」

「気にするな。」

 

 つぐみの言葉を最後まで聞かずに言葉を遮った。

 

「これは俺の問題だ。」

「でも…!」

 

 俺とつぐみが話しているとガタン!と奥から音がした。そこにはモカがいて…。

 

「───っ!」

 

 その場から逃げ出した。

 

「モカ!」

 

 遼はそのままモカの後を追った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「(あたしのせいで…。あたしのせいで遼は…。)」

 

 そこからどれだけ走っただろう。持っていたパンすら置き去って走っていた。

 

「(ごめん…!ごめん…!)」

 

 必死に泣きながら走っていた。とにかくあそこには…遼のところにはいられなかった。まさか自分のせいで遼があんな酷い目にあってるとは思わなかったのだから…。

 

「おい待て!」

 

 後ろから追いかけて来た遼に手を捕まれた。モカはなんとか振り払おうとしたが、女子と男子の力の差はあった為、振り払おうことは出来なかった。

 

「遼…。」

「モカ、勘違いするな。何もお前のせいじゃない。これは俺の」

「あたしが…あたしが遼をこんな目に合わせたんでしょ?」

「違っ「違わない!」

 

 モカは何時もは言わないような大声で遼の声を制止した。

 

「ごめん…。あたしそんなことも気付けなくて…。ずっと近くにいたのに…逆に傷つけていたなんて…。」

 

 泣きながら発されたその声は嗚咽混じりに自分への怒り、不甲斐なさ等の想いが混じっていた。

 

「あたし…遼を苦しめてて…。そんなことも知らずに…。」

 

 複雑な想いのまま遼の手を振りほどき、距離をとった。

 

「遼…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。」

 

 その言葉を残したままモカはそこから走り出した。

 

 ポツリ…ポツリ…と雨が降り始めた。

 

 

 大切なものを守ろうとした男は……逆に大切な者を傷つけていた。

 遼は雨が降り続けるその場所にただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 




補足コーナー
石原一誠
過去にモカにフラれたことで遼に強い逆恨みを抱いている。ぶっちゃけるとこの作品の必要悪的な役割。どこにでも見かけるような捨てキャラみたいな感じだがそこは申し訳ないが妥協して頂けたらと思ってます。今回は警察に追われてるところで出番終わりましたが、今後ちゃんと絞りあげるつもりです。


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