いつも通りの日常に夕焼けを   作:キズカナ

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Nobody's perfect

 

「……ただいま。」

 

 雨に濡れたまま遼は帰宅した。

 

「お帰り~…ってちょっと!びしょ濡れじゃない!とにかく早く入って!お風呂早く入りなさい!」

 

 目の前の突然変わり果てたかのような弟を前にして、何があったのか聞き出したいところではあったがまずは体調を崩さないようにとタオルを持ってきて、持っていた鞄を遼の手から取った。そしてそのまま遼を風呂場に向かわせた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

「はい、これ。」

 

 お風呂から出た遼にホットミルクを渡し、照もまた向かい側に座った。

 

「………で、何があったの?」

 

 自分のホットミルクを飲みながら問いかける。一方の遼は暫く沈黙していたがゆっくりと口を開けた。

 

「モカが…泣いた…。」

「……は?」

「俺のせいで…。」

「ちゃんと説明して。」

 

 照の言葉により、遼は再び口を開いた。これまでのことを包隠さず全て…。

 

「つまり、あんたはあの子達を守ったつもりが、逆に傷つけたってことでしょ?」

「それは……。」

「遼、あたしは今全力であんたをぶん殴りたい気分なんだけど?」

 

 そう言いながら照は遼を睨み付ける。

 

「そもそも、あんたが下手な嘘なんかつくからこうなるんでしょ。悪いのはその石原ってやつかも知れないけどあんたもあんたで何でそれを正直に言わないのよ!」

「言えるわけ無いだろ!そんなこと言ったら「あの子達が責任を感じる…とでも言いたいの?」──っ!」

「図星みたいね。でもあんたは1つ大きな勘違いをしてるよ。

 あなたはモカちゃん達に余計な不安や心配を募らせないように嘘をついた。でもその嘘は意味が無かった上に最悪な結果を迎えた。それが何でかわかる?」

「それは…。」

 

 言葉に詰まる遼を見て、照は仕方ないと言わんばかりに話を続けた。

 

「あの子達にとってこれは知らない方が幸せなことなのかも知れないけどね、時と場合では辛くても知らなきゃいけない事だってあるのよ。それにその事を隠されて後から事実が発覚した時の方が辛いことは多いの。だから」

「姉ちゃんにはわからないだろ!」

 

 照の言葉を遮り、遼が声をあげた。

 

「アイツらはいつも前を見てるんだよ!Afterglowとしてバンドを始めて…自分たちらしく進んでるんだ!だから…その為には余計な重荷は俺が肩代わりするしか無いんだよ!」

「……自分が犠牲になっておけば平和に解決するとでも言いたいの?」

「それ以外に何が「もういいわ。」」

 

 彼女は冷たい声で遼の言葉を止めた。

 

「あんたがそこまで馬鹿だとは思わなかった。最早殴ろうとすら思わないわ。」

 

 照はそこまで声を張り上げないもののトーンの低さから本気で怒っていた。いや、この場合は怒りというよりも遼に対して失望したと表現した方が正しいのかも知れない。

 

「今のあんたじゃ誰も守れない。いや、寧ろ逆ね。自分1人で背負い込んでのヒーロー気取りもいい加減にしたら?」

「おい…今何て言った!」

「最高にカッコ悪いって言ったのよ!

 勝手背負い込んで!嘘ついて!それがバレて!結果としてあの子達を傷つけて!あんたは結局何がしたかったのよ!願ったこととやってる事が矛盾し過ぎなのよ!」

「姉ちゃんに何がわかる!!?」

「わかるわけ無いでしょ!というかわかりたくもないわよ!周りのことも見ないで自分の基準でしかモノを見てない人の気持ちなんか!」

 

 そのままお互いに数分間睨みあっていたが、数分後なんとかそれ以上の喧嘩にはならずに落ち着く事が出来た。

 

「とにかく…あんたはもっと周り見なさい。本当に1人だけで背負える物なんて数えるしかないのよ。」

 

 そう言うと彼女は自分の部屋に入り込んでしまった。

 

「…………くそっ!じゃあどうすれば良かったんだよ!」

 

 そのままソファーに横になった遼は照が言った言葉の意味を考えていた。しかし、一晩かけてもその答えが出ることはなかった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 それから2日がたった。

 休日の羽沢珈琲店にはたまにAfterglowの面々が集まっていて、何時ものように他愛もない話やライブについて色々と語り合っているのだが、今回の場には遼とモカの姿はなかった。

 

「……なあ、遼とモカはどうしたんだ?」

 

 その場に到着した巴は蘭たちに聞いた。

 

「モカは今日はちょっと休むって。遼の方は音沙汰無しだった。」

「う~ん…遼が何の連絡も無く休むってどういう事だ?」

「確かに。もし何か用事があるなら連絡の1つくらいありそうだよね。」

 

 蘭に続き、巴やひまりも話続ける。そう、遼はかなりの生真面目で何もなく練習などに遅れたり休んだりすることはない。少なからずその事に関する連絡の1つは必ず入れる。そんな男だ。それが突然連絡も無しに休むとなるとちょっと不思議に思うだろう。

 

「この間も練習遅れてきてたし…それが関係あるのかな?」

「・・・・・・・・」

 

 ひまりの発言の中で、その理由を知るつぐみはただ黙っていた。

 

「……つぐみ、何か変だよ?」

 

 その雰囲気を見逃さなかった蘭はつぐみに問いかける。

 

「もしかして何か知ってるの?」

「えっと…それは…。」

「もし知ってるなら教えてほしい。あたしたちに関係してることなら尚更。」

 

 暫く沈黙した結果、つぐみは3人に事の流れを話すことを決意した。そしてその話を聞いた彼女らはとても複雑な表情をしていた。

 

「それって…。」

「・・・・・」

 

 ひまりは悲しそうに呟き、巴は黙り混んでしまった。無理もないだろう。事態の原因がAfterglow関連で、しかもモカはそのことで塞ぎ込んでしまっていると言うのだから。

 

「…遼のところに行ってくる。」

「蘭ちゃん!?」

 

 つぐみは店から出ようとする蘭を制止する。

 

「待ってよ!遼くんだって被害者なんだよ!?」

「だとしても何で言ってくれなかったの!?何で黙ってたの!?それでモカも苦しい思いしてるんでしょ!?ちゃんと言ってくれたらどうにかなったかも知れないのに!」

「それは─!」

「落ち着けよ二人とも!」

 

 巴は言い合いになりそうな蘭とつぐみを止め、1度4人はその場に座った。

 

「ここは無闇に突撃しても意味が無い。アイツらが自分で出てこなきゃ何の意味も無いと思う。」

「そうかも知れないけど─!」

 

 蘭は強い口調で反論しようとしたが、巴の言葉もありそれ以上の言葉が出なかった。

 

「蘭…。」

「今は…アイツらを信じるしかない。」

 

 その時の羽沢珈琲店内は他のお客さんがいなかったからとはいえ、とても暗くいい雰囲気とは言い難いものとなった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

「はあ…。」

 

 同時刻、目的もなく道をただ歩いていた遼は周りから見てもとても重い雰囲気をしていた。

 

(結局…姉ちゃんの言う通りだった訳か…。

 こんなことになるなら…ただアイツらを苦しめてしまうだけなら…俺はあそこにいない方が良かったのかも知れない。そうしたらこんなことにはならなかったのかもな…。)

 

 照と口論になって以来、ずっと考えていたが考えれば考えるほど自分のやったことは全て空回り、そして逆効果だったことを思い知らさせていた。

 

 そんなとき肩にボールのようなものが当たった感じがした。横を見ると近くの川原でテニスをしていた子たちのボールが飛んできたみたいだ。「すみません!」と謝罪する少女たちに対して遼はなるべく笑顔で「気にするな。」と言う感じでボールを投げ返した。

 その直後、背中にまたボールが当たるような感じがした。今度は近くでキャッチボールをしていた親子が謝罪してきた。さっき同様に親子にボールを投げ返した直後、今度はサッカーボールが後頭部に飛んできた。謝罪してきた少年たちに「気にするな…。」と言ったものの流石に打ち所が悪かったのかフラフラしていたら近くに落ちていたバナナの皮を踏み、そのまま倒れて川原に転げ落ちた。

 

(最悪だ…。)

 

 そのまま横になり空を見上げた。空は曇りなき青空。今の自分とは真反対の状況だった。このままここで眠りについてしまった方が楽かな…と思いながら目を閉じようとしたとき、横から「大丈夫?」と声をかけられた。

 

「……美咲?どうしたこんなところで。」

「それはこっちの台詞でしょ。こんなところで横になって何してんの。」

「……ちょっと昼寝でもしようと思ってな。重い荷物を枕にしてこういう晴れた日に外で寝たら気持ち良いって聞いてな。」

「…相変わらず嘘下手だね。そもそも重い荷物何て無いじゃん。」

 

 的確な指摘を受け、返す言葉もなかった遼は黙り混んでしまった。一方美咲は横に座り、持っていた袋の中から一本のペットボトルを取り出し遼に渡した。

 

「あげる。」

「…良いのか?」

「うん。ジュース無くなりそうだから買いに行ったんだけど流石に買いすぎたからね。」

 

 遼はジュースを受け取ってそのまま飲む。朝から何も口にしていなかった為か、ジュースのオレンジの甘味が何時もより濃く感じた。

 

「…なあ美咲。1つ聞いてもいいか?」

「何?」

「例えばの話なんだけどさ。1つの問題が起きたときにその原因が自分の友達にも繋がるものだとして…それを言ったら相手を傷つけるかもしれない時、傷つける覚悟でその事を友達に打ち明けるべきなのか?」

 

 それを聞いた美咲は少し黙り混んだ。

 

「それはきっと言わなきゃいけないのかもね。」

「…もし、そいつらがそれで立ち直れなくなったりとか気にしないのか?」

「そういう訳じゃないよ。でも遼はそれを気にして抱え込んでた訳でしょ?」

「どーだろうな。結局ただの自己満足なのかも知れない。自分が犠牲になればそのうち解決するって思ったら…迎えたのはバッドエンドだよ。」

「やっぱり優しいんだね、遼は。」 

「え?」

「でもさ、もしあたしが遼に何か背負わせていたら力になりたいって思うよ?大切な人が自分の知らないところで傷つくくらいならその痛みをなるべく軽くしてあげたいし。

 遼は優しいから…他の人が傷つくのに耐えられなかったんだよね。でもその気持ちは遼だけが思ってる訳じゃ無いんじゃないかな?」

「じゃあどうすれば良かったんだよ…。」

「信じてあげたらいいんじゃない?」

 

 遼の問いに美咲はそっと呟いた。

 

「あたしもこころにいつも巻き込まれて、気づけば大変なことになってるけどさ、意外と悪い気はしないんだよ。まあ、それに慣れきっちゃったからかも知れないけど。だから思いきってみてもいいんじゃない?」

「…そんなものなのか?」

「さあね。あたしが言ってることと遼が悩んでることは重さが違うかも知れないけどさ…。どんなことであれ、大事な人の力になれるっていう思いは変わらないと思うよ?」

「でも俺は…結局無力だった。あいつらの力にはなれなかった…。」

「はあ…。無力とかそんなの関係ないんだって。あたしだってハロハピのことを1人でやってる訳じゃないの。こころが無茶な提案して、はぐみや薫さんが話広げて、花音さんに支えられながらなんとかやってるくらいだし。あたし1人だったら大がかりな計画を立てることもそれを盛り上げることも無理があるの。

 ここまで言ったけどあたしが言いたいことわかる?」

「……支えあってるってことか?」

「そうだね。多分1人で出来ることってそれぞれ違ってくるんだよ。だから出来ないところを誰かが補って…そんな感じでいいんじゃないかな?」

「……そっか。」

 

 美咲の話を聞いて遼は1つの言葉を思い出した。

『Nobody's perfect』

その意味は『誰も完璧ではない』。人は誰しもが弱さを、欠点を抱えている。他から見れば天才と言われるような人であってもどこかに他人にはわからない欠点を抱いていることがある。

だがそれは決して恥じるべきことではない。その弱さはきちんと理解して、受け入れる事が出来れば人は強くなれる。

 

(俺に足りなかったもの…。)

 

『勝手背負い込んで!嘘ついて!それがバレて!結果としてあの子達を傷つけて!あんたは結局何がしたかったのよ!願ったこととやってる事が矛盾し過ぎなのよ!』

『わかりたくもないわよ!周りのことも見ないで自分の基準でしかモノを見てない人の気持ちなんか!』

 

(今なら…わかるかも知れない。俺がアイツらを本当に苦しめていた理由。それが俺の弱さだとしたら…。そして…。)

 

「美咲、ありがと。」

「ううん。やっぱり遼には落ち込んでる姿は似合わないからね。」

「そうだな。」

 

 そう言うと遼は起き上がる。

 

「じゃあそろそろ行ってくるな。」

「うん。」

 

 そのまま川原を登り足を進める。これからどうするべきかはわかっていた。後は…この一歩を踏み出す勇気を出すだけだ。

 

 空を見上げながら、彼は自分のやるべきことを再確認した。

 

 

 

 

 

 

 




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