いつも通りの日常に夕焼けを   作:キズカナ

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傍にいること

 

 

 遼が美咲と話していた同時刻。モカはフラフラと商店街を歩いていた。そんな中、特に何も考えず何時ものようにやまぶきベーカリーに入る。店内に入ると看板娘の紗綾が笑顔で出迎えてくれた。

 

「やほ~。今日も頑張ってるね~。」

 

 なるべく悟られないようにいつもと変わらぬ態度で接する。お盆とトングを持ち、売り切れてなかったチョココロネをあるだけ買い、他のパンも少しずつ購入した。何時ものように支払いはポイントカードで行う。モカはやまぶきベーカリーの常連客であり、いつもたくさんのパンを買うためポイントカードはすぐに貯まる。

 

「何時も通りポイントカード(これ)でお願いしま~す。」

「あはは…相変わらずだねモカ…。」

 

 いつも通りのモカに苦笑いしながらも「いつもご利用ありがとうございます!」と笑顔で接客をした。いつもは持ち帰ったり、羽沢珈琲店などに行きパンを食べるのだが、今回は食事スペースに持っていき食べることに。

 

「いただきま~す。」

 

 チョココロネを1つ取ると黙々と食べ始めた。毎度のように程よいチョコの甘さが口に広がり、パンのフワフワ感もいい感じに楽しめる一品だった。

 

「ん~。おいし~。」

 

 一気に1つ目を食べ終わり、2つ目に手を伸ばす。そのまま口に運び食べようとした。

 

 しかし…

 

「(遼…。)」

 

 つい昨日までのことを思い出した。自分が遼を苦しめていたこと、自分のせいで遼に苦しい思いをさせていたこと…考えれば考えるほど辛くなり食べる手が止まってしまった。

 

「……モカ?」

「……んん~?ど~したの~?」

「いや、勘違いなら悪いんだけどさ…何か悩み事でもあるの?」

「そんなことないよ~。」

「……そっか。でもさ、もし何かあるなら相談に乗るよ?」

「大丈夫大丈夫~♪紗綾は優しいね~。」

 

 何時ものように軽い口調で笑う。だがどこか無理をしてるような雰囲気だったモカを見過ごせないもののこれ以上踏み込んで良いのかわからなかった紗綾は「そっか…。」と言うことしか出来なかった。

 その後もモカはパンを口にしては遠くを見つめて…の繰り返しで、彼女を知るもの達からすれば明らかに異様な光景だった。普段であればパンの1つや2つなど気づかないうちに食べてる彼女がここまで時間がかかるのだ。そう思われても仕方ないのかもしれない。

 

 そんな時、お店のドアが開き1人の女性が入ってきた。

 

「おっ、いいパンありそうだな~。」

 

 お盆とトングを持ち、カレーパン、カットピザ、ウインナーパンなどのボリュームのあるパンを5つ程選びレジで会計をした女性はモカがいる食事コーナーに向かう。

 

「あれ?モカちゃん?」

「お~?照さんじゃないですか~。」

 

 偶然遭遇し、照はモカが座っていた席に相席することに。

 

「それにしても照さんがここに来るなんて意外ですね~。何かあったんですか~?」

「ちょっと遼と喧嘩しちゃってね~。家に居づらくてここに来たんだ。」

 

 照がそう言うとモカはパンを食べていた手を再び止め、暗い表情をした。それを見た照は「不味い、余計なこと言っちゃった。」と先程の自分の発言を悔いていた。

 

「あの~…照さん、遼大丈夫ですか…?」

「うん、なんとか大丈夫だと思うけど…。」

「……ごめんなさい。」

「えっ!?なんでモカちゃんが謝るの?」

「あたしのせいで…遼があんな酷い目にあってたから…。遼は…。」

 

 目の前で目に涙を浮かべているモカを見ながら照は「あいつ一体何やってんのよ!やっぱ1発殴っておけば良かったー!」と思っていた。

 

「えっとモカちゃん…気にしなくてもいいんだよ?遼の方が悪いんだし…。」

 

 照がそう言った間にモカはお盆のパンをひたすらヤケ食いしていた。必死にその事を忘れようとするかのように1つ、また1つと食べていたものの途中で喉に詰まらせてしまった。

 

「ちょっと大丈夫!?君、ちょっと水貰っていいかな!?」

 

 近くにいた紗綾に声をかけ、水を持ってきてもらうとモカに手渡し飲ませた。

 

「モカ…大丈夫?」

「ふう~なんとか~。お見苦しいものをお見せしましたね~。」

 

 空になったコップを置き、なんとか笑って返答するものの、無理をしていたのはすぐにわかった。

 

「ねえモカ…私が力になれるのかはわからないけどさ…何があったのか教えてくれない?」

「そうね。確かに言いにくいかも知れないけど…ここは力になってもらった方がいいかも。」

「ところで…貴方は一体…」

「あ、ごめんね。あたしは常乃照。遼の姉よ。」

「えっ!?遼のお姉さん!?」

「ここのパンはとっても美味しいって遼が言ってたから来てみたの。ところであなたは遼の知り合い?」

「あっ、山吹紗綾です。遼にはよくパンを買って貰ってます。」

「紗綾ちゃんね。覚えた!」

 

 2人の挨拶が終ったところで、話を戻す。モカは紗綾にこれまでの問題のことについて詳しく話した。

 

「…そっか。遼がモカたちを庇って傷ついてたのか…。」

「・・・・・・・」

 

 話を聞いた紗綾はやはり辛そうな顔をしていた。無理もないだろう、自分の友達が酷い目にあっていたのだから。

 

「あ~やっぱアイツここに連れてきて頭下げさせようかな…。」

「いや、照さん…ちょっと落ち着きましょう?」

 

 イライラしているのか表情が強張っていた照を紗綾は宥めていた。

 

「……やっぱり…あたしのせいですよね…。遼がこうなって…辛い思いしてまで…。」

 

 何度目かはわからないくらいに彼女は暗い顔をした。

 

「…モカちゃん、腹を括って言わせて貰うけど…遼も同じこと考えてるよ。」

「え…?」

「昨日帰ってきたとき言ってたもの。『俺のせいでモカが傷ついた』って。2人とも同じように悩んでたのね。」

「遼も…。」

「そうね。でも、私から言わせて貰うと…モカちゃんも遼もお互いのこと大切にしすぎだと思うのよ。相手を大切にし過ぎて自分の周りのことを見てないと思うの。」

「・・・・・・・」

「そりゃお互いに大切にし合うのは必要なことだと思うよ?でもそれでお互い傷ついたら本末転倒じゃない?それに完全に傷けないっていうのはやっぱり無理があると思うのよ。」

「じゃあ…どうすれば…。」

「モカちゃんには特別に教えてあげるわ。

 あたしは自分も大切な人もちょっとだけなら傷ついてもいいと思ってる。完全に傷つけないことは多分無理。だから傷つけたり、傷ついたりしたならその傷を今度はお互いに癒してあげれば良いの。その人がどれだけを守れるか、どれだけ癒せるかは大小あるかもしれない。でもきっと大切な人が傍で自分の為に何かしてくれるって言うのは本人が思ってるよりも効果があることよ?」

「傍に…?」

「そうね。なんならその人が傍にいてくれるだけでもかなり違ってくるの。これ、結構本当だから。」

 

 優しく微笑みながら語りかける照の言葉はモカの心にある『何か』を強く刺激した。

 

「モカ、私も照さんの言う通りだと思う。私もポピパの皆といると楽しくて時間もすぐに忘れちゃって大はしゃぎしちゃってね。嫌なことがあってもすぐに忘れる事が出来るんだ。だから大切な人が傍にいるってことはとっても大事なんだよ?」

 

 紗綾も優しい声で語る。モカはその言葉を聞いて今まで「こんな自分でも…皆の傍にいていいのかな?」と思っていたものが徐々に薄れていった。いや、それ以上に「こんな自分でも皆と、遼と一緒にいたい。」という思いの方が強くなっていた。

 

「……2人ともありがとうございます~。なんかモカちゃんがやること、わかった気がしま~す。」

「おっ!いい顔になったじゃん。」

「うん。やっぱモカはそうでなくちゃね!」

「えへへ~、モカちゃんふっか~つ!」

 

 いつもの緩い口調が戻ったことにより照と紗綾の顔にも笑みが溢れた。

 

「さて、モカちゃんも復活したことだしパン食べちゃいましょ!」

「そ~ですね~。腹が減っては戦は出来ぬと言いますからね~。」

 

 そのままパンにありついている2人を微笑みながら見つめる紗綾。この後、「お姉さんが奢るから好きなパン食べなさい!」という照の発言によりモカは容赦なくこれでもかという量のパンを食べたらしい。

 

 ついでに照の財布も重さが半分になったとか。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「よし。」

 

 その日の夜、決意を固めた遼はスマホのメッセージアプリに1つのメッセージを入れた。

 そして、それをグループに送信した。

 

 

 

 

『明日、CiRCLEに集まって欲しい。大切な話がある。』

 

 

 

 

 





次回、決着(最終回ではない)。

☆10という高評価をくださった松原悠斗さん、ありがとうございます!
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