いつも通りの日常に夕焼けを   作:キズカナ

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6人でAfterglow

 

 

「ふう…。」

 

 遼は今、CiRCLEの予約していたスタジオの扉の前にいた。ここにいる理由は彼がAfterglowのメンバーに話したい事があると言って昨夜、LI○Eに連絡を入れた。そして現時刻は予定の5分前。ところで皆さんも疑問に思っただろうが、彼はなぜ中々部屋に入らないのかというと、当の本人は『LI○E越しで言っても大丈夫だったのか?』とか『本当に来てくれるのか?』といった不安からなかなか入ることが出来なかった。

 

「……ふう…。よし。」

 

 男は度胸!といった感じに扉を開けるとそこには既にAfterglowの面々が揃っていた。

 

「遅い。」

 

 入ってきた遼に対して蘭が冷たく言い放つ。まあ、呼び出した張本人が1番最後に来たのだから文句を言われても無理は無いのだが。

 

「遅くなってごめん…。あのさ…、皆に言わなきゃいけない事があるんだけど…。」

 

 そして遼はこれまでの経緯を1つずつ話始めた。石原という男に逆恨みから暴行を受けていたこと、そして逆恨みされるようになった経緯を。

 話を終えるとAfterglowの面々は重い表情をしていた。

 

「……知ってたよ。」

「え…?」

 

 暫くの沈黙の後、蘭が口を開いた。

 

「つぐみから全部聞いたよ。」

「遼くん…ごめんなさい…。」

 

 蘭の言葉の後でつぐみが話してしまったことに対して謝罪した。

 

「遼、なんであの時本当のこと言ってくれなかったの?」

「それは…。」

 

 言えなかった。皆を傷つけたくなかったから。

 

 そんなものはただの言い訳だ。そんなことはわかっている。本当のことを隠してしまったから今こうなっている。そう思った遼は蘭の問いに対して何も返せなかった。

 

「遼がどう思って隠していたのかはあたし達はわからない。でも言ってくれたらなんとかなったかも知れない。それに…メンバーが傷ついてるのを黙ってられる訳無いでしょ!?」

 

 そこにいた誰もが次第と蘭の口調が強くなるのを感じた。蘭がぶつけたのは自分達に大切なことを隠していた遼に対する怒りだけではない。幼なじみが傷ついていたのに何も出来なかった、苦しんでる時に気付いてあげることが出来なかった、そんな自分に対しての不甲斐なさに対する怒りでもあるのだろう。

 

「すまん、でももう大丈夫だ。今はそんなことは全く無いし「大丈夫じゃないでしょ!」」

 

 遼が話していた時、蘭がスタジオに響き渡るような大声を上げた。

 

「どうしてそうやっていつも1人で解決しようとするの!?どうして1人で苦しんで…勝手にそれを完結させようとするの!?

 まさか自分はAfterglowの裏方だから自分だけがつらい目にあえばいいとか?」

 

 彼女は声を荒げながら今にも噛みつきそうな勢いで言った。かつてここまで思いをぶつけた事があるだろうかという程に。蘭は過去に家庭のことで父親と喧嘩したことがあった。その時も思いを抑えきれずに怒りに似た気持ちを爆発させたり、病院であるにも関わらず大きな声で喧嘩をしたことがあった。だが今回のはその時と同様…いや、それ以上かもしれない。

 

「蘭ちゃん…ちょっと落ち着いて」

「黙ってて。」

 

 つぐみの制止すら振り切って言葉を続ける。それほどまでに彼女は自分の思いを溜め込んでいたのだろう。

 

「ねえ、あたし前に言ったよね?『ステージに立つとしても、裏方だとしても誰にも無理はしてほしくない』って。

 それはあたしだけじゃない、みんなも同じ気持ち。確かに表向きはあたし達5人がAfterglowってなってる。でもあたし達にとってはそうじゃない。遼も含めて…6人でAfterglowなの。」

 

 体から溢れ出る何かを堪えるように蘭は言った。

 

「遼~?」

「モカ…。」

 

 次に口を開いたのはモカだった。今の遼が最も謝りたくて、最も言葉を交わすのが怖い人物だ。

 

「あたしもね~凄~く怒ってるんだよ~。」

 

 普段ののんびりとした口調からはわかりにくいが長年付き合い続けてきた彼らからしたら彼女が怒っていることは一発でわかった。

 

「モカちゃんもね~凄く辛かったんだよ~?遼は傷だらけになるし~、そのこと正直に言ってくれないし~。結局みんな辛い思いしちゃうしね~。」

 

 不機嫌そうな表情を崩さず思ったことをそのまま語る。それに遼は返す言葉がなく、その場で申し訳なくなっていた。

 

「でもさ~あたし、照さんに言われたんだよね。傍にいてあげることが何よりも大切なことだって。

 確かにあたしが遼の力になれるかはわからないし、また気づかないうちに傷つけちゃうかもしれないけどさ~……それでも遼や皆と一緒にいたいんだよ。だからさ、辛いことがあったらちゃんと話して欲しいんだ。だからさ…もう1人で何でも抱え込もうとしないでね?」

 

 モカはまっすぐと目をそらさずに自分の思いを伝えた。

 

(姉ちゃんや美咲の言ってたこと、こういうことだったんだ。)

 

『大切な人の力になりたい。その思いは皆同じ。』

 

 簡単なことだけど全然気づかないことだ。彼も、彼女達も気持ちは最初から1つだった。それが当たり前になっていたのか見落としていた。

 

「ごめん。」

 

 遼が口を開くとすぐにその言葉が出た。

 

「俺は…皆のことを考えてたつもりだった。でも、結局は全然見て無かった。

 自分1人が重荷背負えばなんとかなるって…そう思ってた。でも…それは違うんだよな?」

「そうだよ。私達誰も遼だけが辛い思いするのなんて望んでないよ!だって遼も大切な幼なじみなんだよ!?」

「そうだな。あたし達だってそんなに弱い訳じゃないんだ。辛いなら辛いって遠慮なんてせずに言えばいいんだよ。」

「私達がどれだけ力になれるかはわからないけど力になれるならなりたい。それは皆同じ気持ちだよ。」

 

 ひまりが本音を話したと共に巴、つぐみも語り出す。

 

「遼がいたから、あたし達は今まで『いつも通り』でいられた。この思いは誰に言われても変わらない。それに、そんな1つの問題だけで壊れる程あたし達の繋がりは脆いものじゃないでしょ?」

 

 蘭の言葉と共に遼は皆の方を見た。

 そうだ。俺たちが紡いで来たこの十数年間はそんな軽い物じゃない。6人で色んなことをやって、時に笑って、時に楽しんで、時に馬鹿なことをして怒られて、時に喧嘩をした。だけど、どれだけ喧嘩をしても最後には仲直りをすることが出来た。それは今でも変わらない。

 

「皆思いは同じなんだよ。だからさ…。

 

 遼はもっとあたし達を信じてくれてもいいんじゃないかな~?」

 

 ああ、俺は…どこまで馬鹿なんだろう。

 こんなに簡単な…そして何よりも大切な答えをなんで見落としてたんだろう。

 遼の心はこの思いで溢れていた。

 

「皆、ごめん……それと…ありがとう。」

 

 頭を下げながらただ一言、この言葉を伝える。

 ありきたりな台詞ではあるが、今この場で彼女達に伝えなければならないのはこの言葉。『いつもの通り』でなかなか言えなくなるこの一言こそ、遼が言わなければならないものだった。

 

「遼~。」

 

 モカに呼ばれて顔をあげると、そこには少し涙目になっていた者もいたが5人の笑顔があった。

 

「これからもよろしくね~。Afterglowも、いつものあたし達も。」

「……こちらこそ、よろしく。」

 

 人は支え、そして支えられながら前に進む。それは彼らも例外ではない。きっとまた、絆の紐がほどけかける時が来るかもしれない。だとしても、その時は何度でも結び直せばいい。

 

 きっと俺たちなら大丈夫。そう遼は思った。

 

 

 

 

 彼らにとってはこの瞬間が…そして、これからの未来が『絆』だと信じているから。

 

 

 

 

 

 





シリアスくん「ばいばいきーん☆」

 はあ…やっとシリアスくんとばいばいきん出来ました。しばらくシリアスからは離れたい。
「ついてこれる奴だけついてこい」という精神でやって来てなんとか(個人的には)良い形で最終章を迎えることができます。ここまでお付き合いくださった皆さん、ありがとうございました。この物語は次回からクライマックスを迎えますので良ければ是非お付き合いください。

よければコメントや高評価くださると嬉しいです。

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@kanata_kizuna


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