「あたしね…。遼に告白しようと思う。」
奥沢美咲の口から突然発せられた言葉に青葉モカは言葉を失っていた。
「……えっと~、なんか美咲ちんが遼に恋しているみたいな感じに聞こえるんだけど気のせいかな~?」
「あたしは本気だよ。」
いつもの口調で話すが、美咲は冷静に受け答えた。その事に対してモカは若干怖じ気づいたかのように何も喋れなくなった。
「本当は1人で遼に告白しようと思ってたんだけど…やっぱりこれは青葉さんにも言わなきゃ駄目な気がしたんだ。だから…伝えさせてもらった。」
「…何であたしに?」
「青葉さん、遼のこと好きなんだよね?」
「・・・・・・・・」
美咲の言葉にモカは返答をすることが出来なかった。
「あたしは遼のことが好き。この思いは譲れない。でも先に抜け駆けするのは違う気がしたんだ。
だから青葉さんも、自分の気持ちに素直になってよ。」
「…じゃあさ、美咲ちんは何で遼のこと好きになったの?」
「それはね…」
美咲はその事について語りだした。
◆ ◆ ◆ ◆
「ハロー、ハッピーワールド!の皆さん、ありがとうございました。Afterglowの皆さん準備お願いします。」
『佐倉』と書かれたネームプレートを着けた従業員が声をかけるとAfterglowの面々は楽器を持ち、ステージへと向かった。
「とーっても楽しかったわ!」
「はぐみも!お客さんみーんな笑顔になってくれてたね!」
「ふええ…。私はこころちゃんの突然の行動にびっくりしたよぉ…。」
「こころが大ジャンプしてそれをミッシェルが受け止める…。そうすることでお客さんの興奮を…そして笑顔を引き出すなんて…。儚い…。」
ハロハピのメンバーが控え室に戻ってきてライブの出来事を振り返っていた。そんな中、彼女達から離れたところで熊の着ぐるみを纏い息を切らしていた美咲は着ぐるみを頭を外してグッタリしていた。
(いや、あんなの聞いてないんだけど!?何でしれっと浮かび上がって一気にあたしの元に急降下してきたの!?そう言うことはあらかじめ一言言ってよ…。)
着ぐるみを着てライブをしていた上に、こころの無茶ぶりになんとか対応していた為、彼女の体力は限界まで達していた。
誰か水を持ってきて…と言いたかったが、離れたところでバテていた為周りには誰もいなかった。しかし彼女には動ける体力は無に等しいようなものだった。そろそろ誰かが「ミッシェルがいない」と言っている所だろうか?と思いながらずっと待っていると…。
「ここにいたのか。」
そこに遼が現れた。
「えっと…Afterglowの常乃くんだったっけ?」
「ああ。美咲さん…で良いよな?これ渡しに来た。」
遼が持ってきたビニール袋を受けとるとそこにはポケリスエットとラムネ菓子が入っていた。
「それと、これは俺からの選別だ。」
そう言って飴を3つほど渡された。
「ありがと…。」
「まあ、お前もお疲れみたいだしな。あんまり無理はするなよ。」
「あっ…待って!」
遼がその場から去ろうとしたとき、美咲は思わず止めてしまった。
「あのさ…あたしと常乃くんってそんなに関わったことないよね?」
「まあ、そうだな。」
「じゃあさ…何でこんなに気にかけてくれてるの?」
「…理由なんているか?」
彼の発言に美咲は「えっ?」と思わず驚愕の声を上げた。
「辛い人がいれば助けるのは俺としては当然でな。お前は特に疲れてるように見えたから差し入れに来た。それだけだ。」
遼の発言が美咲にはにわかに信じがたかった。何の理由もなく、何の見返りも期待出来ない中で、誰かに手を伸ばすというのは彼女にとっては少し意外な行動だったのだろう。
「だからお前は後はしっかり休め。いいな?」
そのまま彼は去っていった。
その場に残された美咲は貰った飴を一粒口に入れた。
(常乃…遼…か。)
彼の名前を思い出しながら、彼のことを意識し始めていた。
◆ ◆ ◆ ◆
それから遼と話をしたり、関わったりすることで美咲はどんどん彼に引かれて行った。
遼の優しさ、誠実さ、辛いときに彼女に手を差し伸べてくれた彼に次第に思いを寄せるようになっていたらしい。
「まあ他にもあるけど…ざっくり言うとこんな感じかな。」
語り終えた美咲はモカを見た。モカは普段ののんびりした雰囲気はどこに行ったのか…というかのようななんとも言えない気持ちになっていた。
「青葉さんはさ…遼のどんなところが好きなの?」
「……あたしは…。」
突然の問いにモカは何かを言おうとしたが、何故か言葉が出ずに黙り混んでしまった。
「…ごめん。変なこと聞いちゃったかな?」
「…ううん、美咲ちんは悪くないよ…。」
「おまたせ…って、あれ?何かあった?」
飲み物を買って帰ってきた遼は、少し重めの2人の雰囲気に少し驚いていた。
「お~カフェオレだ~。しかもモカちゃんのお気に入りのやつ~。」
「ほらよ。お前いっつもこれ選んでるからな。間違いないだろうと思って。」
「ありがと~。」
「で、美咲は…ポケリで良かったか?」
「うん。ありがと。」
2人はそれぞれ遼からドリンクを受け取った。
「それで何かあったのか?なんか…雰囲気重かったけど。」
「いや~何でもないよ~?ちょっと疲れたな~って感じなだけだから~。」
遼の質問にモカは緩い口調で返答した。
「そうか?ならいいんだけど…。まあ疲れてるんならそろそろ帰るか。」
そう言いながら遼はその場を後にしていた。
「青葉さん…。もう一回言うけどあたしは本気だから。だから…」
「美咲ちん…。」
「どうした?早く行くぞ。」
遼の掛け声によって3人は帰路についた。
しかし、モカの胸の奥には何かが…いや、その正体は既に彼女はわかっていた。それでも、どうしても振りきれないものを吐き出せずにいた。
◆ ◆ ◆ ◆
あたしは…どうすれば良いんだろう?
美咲ちんに言われたことがずっと頭の中で引っ掛かっていた。
彼女はあたしの「遼のどこが好きなのか」という質問に迷うことなく答えていた。でもあたしはどうだ。質問を返されたとき、何も答えることが出来なかった。
確かにあたしは遼のことが好きだ。あたしが抱いているのはたったそれだけの思い。それに具体的どこか好きか…と言われるとどうしてそう思ったのかがわからなかった。
それに美咲ちんは今の関係から進むための一歩を踏み出そうとしている。反対にあたしはずっと「今の関係のままでも良いんじゃないか」と思っていた。だから…あの子みたいに一歩を踏み出す勇気が出せなかった。
あたしには…どうするのが良いのかわからない…。
「おいモカ?モカ?」
「えっ?」
遼に呼ばれてあたしはハッとした。
「どうしたさっきから上の空で。」
「ん~?何でも無いよ~。ちょっとパンパワーが抜けてきたのかな~?」
「そうか?」
そう言いながらあたしのおでこに手を当てて来た。いつもならどうとも感じないこの行動が、今のあたしには気を動揺させるのに十分なくらいだった。
「熱は無いよな?とりあえず体調悪いとかなら早めに言えよ?」
そう言って自分の持ち場に遼は戻る。さっきのおでこへの感触がいつもより残るのが長く感じた。
「・・・・・・・・」
そんなあたしを蘭がずっと見ていたことにあたしは気づかなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
「うう~。」
「モカちゃん…元気出して?」
「そ…そーだよ!失敗は誰にでもあるって!」
「そうだな!ひまりなんかしょっちゅうミスしてるし気にするなって!」
「しれっとひどいこと言わないでよ巴!」
現在あたしは盛大に凹んでる。理由はさっきの休憩の後、何度か音をあわせて練習をしていたのだけど、音が大きくずれたり、歌詞を間違えたり、その上演奏の途中でギターの弦が切れてしまったりと普段はやらないミスを沢山してしまった。
普段こんな簡単なミスをしない為、普段の余裕すら崩されてしまった。
「なあモカ、本当に大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫だよ~?」
「ねえ遼。今日の練習はここまでにしよ。このまま続けても拉致があかないし。」
「おい蘭、そんな言い方は…」
蘭の言い方が気にさわったのかトモちんは抗議の声をあげようとした。
「まあまあ。モカも疲れてるんだろうし今日はここまでだ。蘭もそんなつもりで言ってる訳じゃない。」
遼が間に入ってくれたお陰で喧嘩には至らなかった。
「じゃあ少し早いけどそろそろ片付けるか。」
遼のその一声で皆片付けを始めた。あたしも自分の始末をしないとなと思っていると…
「モカ、このあと少しいい?」
蘭に呼び止めれた。
その理由だけど……うっすらとだけどあたしにはわかっていたような気がした。
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