あたしの初恋は叶うことなく終わった。
でもこの結果はわかってたんだ。
遼は青葉さんのことが好きだってことはわかっていた。伊達に彼のことを好きになってからずっと見てきたわけじゃない。
それでもあたしは彼に思いを伝える覚悟を決めたんだ。
もしかしたらあたしにも可能性があるかもしれない…なんて思うのは図々しいのかもしれない。
それでも…少しでも可能性があるのならそれにかけてみたかった。それにきっと伝えなかったら後悔するかもしれない。
だからあたしは彼に告白した。どれだけ可能性が低くても…あたしのこの思いだけは嘘にしたくなかった。
そしてあたしは敗れた。
でも不思議と嫌な思いにはならなかった。
彼はきっとこの結末であたしが傷つくことを気にして悩んでくれていたのは言われなくてもすぐにわかった。
だからあたしは溢れそうな涙を堪えて彼の背中を押すことを決めた。
1度でも好きになった人にはやっぱり幸せになって欲しい。だから最後は笑って終わりにしたかった。
「青葉さんのこと、絶対幸せにしてあげてよね。」
あたしの思いは届かなかった。それでもこれだけは胸を張って言える。
『あたしは……あなたを好きになって良かった』って。
帰り道、誰もいない道であたしは1人泣いた。この涙は彼には見せたくなかった。きっとこんな姿を見せたら彼はまた自分を責めてしまうから。
今だけは…誰もいない今だけは…泣いてもいいよね…。
さよなら、あたしの初恋。
◆ ◆ ◆ ◆
ある日の放課後、遼を含むAfterglowのメンバーは『いつも通り』CiRCLEでバンド練習に励んでいた。
この日は皆特に目立つミスをすることなくスムーズに練習が進んだ。それぞれがこれまで頑張ってきた結果だろう。
「うん、じゃあ今日はここまでにしよっか。」
蘭の一声にそれぞれが片付けを始める。これもいつもの光景だ。
「蘭~。例の件なんだけどちょっといい~?」
「いいけど…今?」
「だって~後にするとなんか忘れちゃいそうだも~ん。」
「わかったけど……ちょっとこっち来て。」
そう言うと蘭はモカを連れて外に出た。会話の途中でチラッとこっちを見た気がしたけど気のせいか?と思いながら遼は残された3人の手伝いをしていた。
「遼?どうしたんだ?」
「いや、なんか蘭のやつ俺の方見てから外に出た気がしたけどなんかあんのかなって…」
「あー…まあ気にしなくてもいいんじゃないか?蘭とモカが2人で話すのなんか昔からあっただろ?」
「まあ…な。」
「よし!じゃあ遼はこのドラム運ぶの手伝ってくれ!今のうちに全部片付けて2人が帰ってきたらドヤ顔で迎えてやろうぜ!」
「そーだな。じゃあちゃっちゃとすませるか。」
このあと4人は馴れた動きで全てを片付けて2人が帰ってきたときにはもうすでに終わらせたところだった。
その後、6人はカウンターで鍵を返しそれぞれが帰路についていた。
いつものようにやまぶきベーカリーに寄るため遼とモカは4人とは違う道を帰っていった。
「うーん、やっぱりやまぶきベーカリーのパンは最高ですな~。」
遼の隣で先ほど買ったチョココロネを食べながらモカは歩いていた。ついでに言うと遼も自分で買ったウインナーロールを食べながら歩いていた。
「ホントやまぶきベーカリーをパンって他のパンよりも生地がしっかりしてるし味気も程好いし……何でこんな味が作れるんだろうな。」
「こーなったら…モカりょー捜索隊結成と行っちゃう~?」
「なんだその怪しい捜索隊。」
「モカちゃんと~遼で~モカりょー。漫才コンビっぽくない~?」
「漫才師に怒られるぞ?」
こんな感じで他愛もない話に花を咲かせていたのだが…
「なあモカ…ちょっといいか?」
突然遼が足を止めてモカに問いかけた。
「どーしたの~?そんなに畏まっちゃって~。」
「ちょっと…行きたいところがあるんだ。ついてきてくれるか?」
遼が自ら行きたいところがあると行ったことでモカは内心驚いていた。これまで自らどこかに行きたいと行ったことがない彼がそう言ったのだ。それにこれはモカ自身も遼のことについて知れるかもしれないと思った。
「うん…。」
◆ ◆ ◆ ◆
歩くこと数分。
遼がモカを連れて商店街の離れの河原にやって来た。
「遼が行きたい場所って…ここ?」
「そうだ。
モカ、この場所…覚えてるか?」
「………!そう言えばこの場所って…。」
「ああ、ここは10年前…俺とお前が初めて出会った場所だ。」
それを聞いてモカは思い出した。遼の言う通りこの場所は幼き日の2人が初めて出会った場所。遼が父親と喧嘩してここで石を投げているとモカがやって来た。そしてその時の遼を物珍しそうに思い声をかけたのがモカだった。
「はい。」
遼が鞄からやまぶきベーカリーの紙袋を取り出し、中に入っていたチョココロネをモカに渡した。それを受け取ったモカはチョココロネを半分に分けて片方を遼に渡す。それを受け取り2人は夕焼けを見ながらその味を噛み締めていた。
「……なんか…何時もより甘いね~。」
「そうだな。」
かつて2人が出会った時もこうしてチョココロネを分けあって食べた。その時の記憶に浸りながら2人はチョココロネを完食した。
「ここでお前と出会って、あいつらと出会ったことで俺はかけがえのない友達に出会えた。それだけじゃない。それ以上に大切なものに気付くことも出来た。だからさ…俺はお前に感謝している。」
「…そーだね。」
「それを踏まえて言いたいことがあるんだがいいか?」
遼がそう問いかけるとモカは黙って頷いた。
「モカ。」
「俺はお前のことが好きだ。俺と…付き合ってくれないか?」
遼はただ一言、しかし何よりも大きな言葉を言った。そしてその場には少しの静寂が訪れた。しかし、2人はお互いに目を反らさなかった。
「遼…。あたしも言いたいことがあるんだけど…言っていいかな?」
モカが発したのはその一言だった。それだけでは告白の返事とまでは行かない台詞だが、彼はその言葉を受け入れた。
「あたし、ずっと悩んでたんだけど…やっぱり遼と前に進みたい。幼なじみとしてじゃなくて、1人の女の子して。遼と一緒に…。
だから…あたしと…付き合ってください…。」
彼女からの返事は……彼女自身の告白だった。
「モカ…それって…。」
「うん。」
そのままモカは遼に近づき、彼に抱きついた。
「遼…ありがとうっ!」
これまでに無いような喜びの声を上げる彼女を彼はぎゅっと抱き締めた。
「こっちこそ…ありがとう。」
◆ ◆ ◆ ◆
それからしばらく彼らは河原で横になっていた。その時の2人の手はずっと繋いだままだった。
「ねえ遼~。遼って何時からあたしのこと好きだったの~?」
空を見ながらモカは問いかけた。
「うーん…『好き』って気づいたのはここ最近かな。」
「そっか…。」
「あのさ…実は俺、美咲に告白されてたんだ。」
「・・・・・・・」
「でもそのお陰…って言ったら失礼だろうけど…自分の気持ちを見直すことが出来た。それでお前への思いに気づけたのかもしれない。」
「なるほどね~。」
そう言うとモカは自分のスマホを取り出しメッセージアプリを開く。会話先は『美咲ちん』と書かれていてそこにはこんな文章があった。
『青葉さん、遼との恋あたしも応援してるから。頑張ってね。』
(もしかしてとは思ってたけど…美咲ちん…。)
「なんか…申し訳ないことしちゃったかな…。」
「多分な。でも俺たちは美咲とは親友だ。これからも…。」
「そっか。」
その後、しばらく2人は沈黙していた。
「なあモカ…。」
「ん~。」
「お前は幸せか?」
「もちろんだよ~。遼こそどうなの?」
「それは聞くまでもないってやつだよ。」
空を見上げながら会話する2人。
重ねあったその手はずっと離れないことから互いの思いがひしひしと伝わってくる。
夏が始まる。いつも通りでいつもと違う新しい夏が。
2人が出会った始まりの場所で…常乃遼と青葉モカは新しい始まりを迎えた。
次回、最終回
『俺たちの夕焼け』
さて、ようやく遼とモカが結ばれました!いや~ここまで長かったです。
次回は最終回な訳ですが、完成し次第更新日を告知いたしますので楽しみにしていてください。
そして良ければ最後までお付き合いください。
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