幻の原石ガチャを求めて 作:実質無課金
自分の覚えている一番古い記憶は、3才の時の出来事だ。
何かに触れた時、眩しい光と共に色鮮やかで複雑で豪華そうな絵柄が眼に飛び込み、さらに喧しい音が聞こえてきたのを覚えている。
今考えると、その当時ゲームをしていた親か親戚が運試しにガチャを俺に引かせたのだろう。
何のゲームかは覚えていないし、高レアを引けたのかどうかなんて興味も無い。
だが、俺がガチャ狂いになったのは、その記憶がきっかけだと思う。
トータルでどんなに負けてもギャンブルを辞められず、全財産を突っ込む人と同じように、いつからか俺は、全財産を様々なゲームのガチャに突っ込むようになった。
そして、賭博狂の人と同じようにお小遣いだけでなく生活費、この場合は親の金に手を出し始めた。
その時の俺は、ガチャ以外のことを考えていなかったため、親から金をくすねたことがあっさりとバレた。
親は俺に情報端末を用いたゲームの禁止を言い渡し、それを強制させた。
抵抗はしたものの所詮は子供である。
毎日長時間ゲームをしていたせいで、もやしっ子だった俺に親への対抗手段は無かった。
俺はガチャから切り離された生活を余儀無くされた。
だが、ガチャから離れても、いや離れたせいでより一層ガチャへの欲求が高まっていった。
ガチャがしたい、ガチャをするにはどうすればいい?
そんなことで頭がいっぱいになるようになり、幻覚さえ見え始めた。
ここまで来ると流石に親も考え始めた。
初めに地元の病院へ行かされたが、地元の病院では治療できないということが分かった。
そして、もっと設備や専門医の充実した場所として学園都市を紹介された。
その話に俺は飛び付いた。
幼い時から生活リズムがボロボロだった俺は、発育不良であり、その上運動をしないため、自分より年下のそこまで運動が得意でない子にすら負ける有り様だった。
当然のことながら、親に力で勝てず、ゲームをしようとして無理矢理取り上げられるということを繰り返していた。
そのため、親から離れなければガチャを出来ないと思っていた。
この話は使えると思った俺は、精神に異常をきたしているふりをし始めた。
ふりなんて言うが、純粋に演技というわけではない。
ただ、必死に押さえつけていたガチャへの欲求をほんの少し解放するだけで良かった。
幻覚や幻聴も酷くなったが、誰にも邪魔されずにガチャ出来る権利を手に入れるためと思えば、些細な問題だった。
あまりの俺の奇行に世間体というものを気にしたのだろう。
とうとう、俺は学園都市行きを許された。
一度治ったように見えても再発するかもしれない。
だから、再発に備えられるように学園都市内で暮らしたいと力説した。
親は手切れ金だと称して、数年分の学費・生活費に当たる金も用意してくれた。
そして、よく分からない大量の書類にサインした。
転校や転居に必要な書類だけでなく、縁を切るための書類も混じっていた気がする。
その後、親から一度たりとも連絡が来ていない。
こちらから連絡する気も無い。
ガチャに関していないことは曖昧にしか覚えてないが、学園都市には、小学校の2、3年くらいに来たと思う。
この学園都市は、能力開発ということを行っている。
バトル漫画なんかで出てくるような、いわゆる超能力というやつである。
発現する能力は個人によって異なるらしい。
能力の強度によって、レベル0から5に分けられる。
学園都市に来てすぐの俺は、レベル1(低能力者)に分類された。
白衣を着ている人が、俺のことを原石と呼んでいたことが興味を惹いた。
学園都市に来て早々、やりたいことができた。
原石って何だ?
何個集めればガチャを回せるんだ?
と噛み付いたが、軽くあしらわれた。
誤魔化しやがって。
ソシャゲの多くで○○石という表現が使われている。
そして、原石も石って付くんだから、ガチャを回せるはずだ。
きっと独り占めしたいから教えなかったに違いない。
現在に至るまで原石とガチャを繋ぐ証拠が見つけられなかった。
統括理事会とかいうのがとても怪しいが、一個人の力では調べられなかった。
とても巧妙に隠されているようだ。
ごくわずかな人しか回せない、よほど物凄いガチャなんだろう。
俺も早く幻の原石ガチャを回せるようになりたい。
学園都市では、レベルに応じて給付金がもらえる。
つまり、ガチャを回すための資金が貰えるわけだ。
レベル5なんて10連ガチャ何回分貰えるのだろう。
もし、自分が高レベルの能力者になり、ガチャを好きなだけ回せるようになったらと想像すると、そのイメージだけで脳汁が出てくる。
そういうわけで俺は全力で能力開発に取り組んでいる。
そのお陰かちょっと前にレベル2(異能力者)に上がり、そしてつい最近、中学生になったときの試験結果によって、レベル3(強能力者)に認定されたらしい。
らしいというのは俺が意識的に能力を使ったことが無いからだ。
その試験の時も途中から何をしていたか思い出せない。
だから、俺にどんな能力があるのか分からない。
能力ガチャだ。
ワクワクする。
研究者が言うには、俺の幻覚と幻聴が関係している可能性が高いらしい。
周囲に幻覚と幻聴を見せるみたいな能力なのだろうか?
ちなみに俺の能力強度の上昇は、早い方らしい。
何より、成長速度が鈍化する兆しを見せないのが素晴らしいとのことだ。
理由は何となく分かる気がする。
上昇が早いのは、俺が手を抜いていないからだ。
ガチャも周回も同じ単純作業である。
周回と違うのはガチャの方がより高速に回せるし、より早く資金が溶ける。
そして、周回よりも作業の単純さは上だ。
ガチャばかり回している俺は、単純作業に強い。
その強みが能力開発と噛み合っているのだろう。
ずっと探しているが見つからないため、期待ばかりが膨らみ続けている原石ガチャの存在による意欲上昇も大きい。
成長速度が鈍化しないことに関してはもっと簡単だ。
俺のガチャ欲=無限大
人間の欲望は果てしないという言葉の通りである。
今、俺はいつもの研究所に居る。
俺の前には測定用の機材が見える。
相変わらず何を測定しているのか分からないが、何かしらの意味はあるのだろう。
俺の能力を詳しく解析したいから俺に能力を使えと研究者が言っている。
そんなこと言われても、能力も使い方も分からないんだけどどうしよう。
とりあえず来いって言ってみるか。
イメージするのは、常に最高のガチャ(を引く自分)。
「来いっ!」
幻覚と幻聴と頭痛がいつも以上に激しい。
しかし、気合いでなんとか耐えられた。
いや、やっぱり頭が割れそうなほど痛……何か頭に衝撃が……意識が飛……
「私が来たからには、どうか安心なさい
全ての命を救いましょう
全ての命を奪ってでも――私は必ずそうします」
目を覚ますと病室だった。
見知った天井だ。
蛙みたいな顔の医者が何か言っていたが、聞き流した。
そのまま研究所に向かう。
道行く人々が見てくる。
自分の服を確認すると、私服ではなく、入院患者が着るような病衣を着ていた。
これが原因か。
だが、他人の視線など路傍の石ころよりもどうでもいい。
石ころだって石と名前が付いている以上、ガチャを回せる可能性があるからな。
俺の能力は何だ。
あの時の幻覚と幻聴がまるで……ガチャの演出にも見えた。
こんなことは初めてだ。
何が起こったのか問いたださないといけない。
「まだ解析中で何も分かっていないんだ。
ところで君、お小遣いが欲しくないかね」
「欲しい!」
一も二もなく頷いた。
元親から貰った手切れ金は、学園都市に来たその日の内にすべてガチャで溶かした。
給付金が入ると、1日ですべてガチャに溶かしている。
もし、この研究所に拾われなければ、俺は段ボールの家に住み、闇金に追われながら、残飯を漁る生活をしていただろう。
「それなら、こういうバイトはどうかね
少しだけリスクはあるけど、その分お金が……」
「やる!やります!」
仕事の内容すら見ずに飛び付いた。
契約書の細かい文字の中にガチャを妨害するようなことが書かれていないかだけ確認してサインする。
危険性?犯罪性?
どうでもいい。
ガチャを回すためなら、どんな仕事でもする。
ガチャを回す以上に大切なことなんて存在しない。
ガチャを回すために俺は生きている。
幻の原石ガチャを求めて、今日も俺は学園都市を駆け回っている。