幻の原石ガチャを求めて 作:実質無課金
あ、これ三沢塾でやったところだ!
ってなる場面あるかなぁ。
無いよなぁ。
学校行くつもりないし。
勉強辛い。
もうちょっと下の学力を対象にした塾に行くべきだった。
こんな事を考えているのも、小卒とか低学歴過ぎると言われて塾に通うように指示した学園都市と、選んだ塾に居た自称錬金術師のせいだ。
塾とかどこでもいいだろうと、パッと目のついたこの塾を選んだのだけどもっと慎重に選ぶべきだった。
後から調べると学力的に入塾の基準を満たしていなかったようだが、まさか錬金術師を名乗る人に目をつけられて強引に入塾させられるとは……
俺は今、ファストフード店にいる。
服装はスーツにサングラスと上げ底しまくった革靴、そして重ね着することで恰幅を良くしている。
ほかの護衛の人と比べて顔が小さすぎて足が長すぎるので、自分でも気持ち悪いと思う外見になっている。
そんな奴が車椅子に座ってゲームをしているので目立つ。
周りの人にじろじろと見られているが、他人の視線などどうでもいい。
俺に注目が集まることでお姫様への注目が減るなら任務の難易度が下がるから万々歳だ。
錬金術師にお姫様の護衛を依頼されたから、お姫様と付かず離れずの位置で待機している。
能力を暴走させるなと錬金術師に言われたので、端末をいつも触っておかないといけない。
仕事中にするゲームは楽しいです。
錬金術で能力の暴走も無効化しようとしたが、黄金という概念を砕いてガチャを回し始めたので諦めたらしい。
その時は、何が起きているのか分からなかったが、錬金術師の呆然とした表情は覚えている。
慌てて自分に鍼を打ち込んでたのも含めて面白かった。
しばらくして錬金術師が懲りずに俺を洗脳したが、とんでもないことになったらしい。
今みたいに倫理観は無くても理性のある方が遥かにマシだと言われた。
俺が全力でガチャ欲を押さえ込んでいるのは自覚している。
だから、その箍が外れるとガチャ以外何も考えなくなるだろうと予想はしているが、何が起きたのだろう。
お姫様が席を立ったので移動する。
何もトラブル無く三沢塾に辿り着いた。
指示があるまで勉強の時間だ。
右手にペンを持ち、左手でガチャを回すのが俺の最近の勉強スタイルだ。
勉強中も端末を触るなんて、SNSから離れられない人みたいだな。
学園都市がたまに指示してくる仕事も、塾の時間なので抜けますと言って定時に帰っている。
そのせいで仕事を達成出来ない時もあるが、塾の時間なので仕方ない。
イラついた同業者や依頼主が刺客を差し向けてくることもあるが、塾に逃げ込めばすべて錬金術師が何とかしてくれるのでとても楽だ。
俺を倒したければ、まず錬金術師を倒すことだな。
そんな風に余裕をかましながら外を見ていると以前に連行しようとした自称14歳と見たことのないツンツン頭の男が見えた。
どういうことだ。
今日は大事な日だから結界を張っているという錬金術師の言葉は嘘だったのか。
まあ、いいか。
指示が来ないから待機する。
ゲームのランキングの方が大事だし。
よし、このボーダーならいけるな。
風呂入ってパインサラダ食ってバイト行ってくるか。
ふと顔を上げると目の前に塾生が居た。
周回に熱中し過ぎていたか。
とても平坦な声でついてこいと言われたのでついていく。
塾生は人間らしく無い動きをしながら下へ下へと向かっていた。
この建物に地下なんてあったのか。
付いていった先には車椅子があった。
上にとても大きなドリルのついている、奇妙な見た目の車椅子だった。
普通の車椅子に乗ったまま、その奇妙な車椅子に乗り込んでシートベルトをつけてみると違和感がある。
あ、タイヤが無い。
どうやって動かすのだろうか。
レバーの1つを倒すと車椅子が浮いた。
多分錬金術だ。
錬金術ってスゴい。
おや、こんなところにボタンがある。
気になったからボタンを押した。
その瞬間、ドリルが回転し、車椅子が上昇した。
振動が激しくて吐きそうだ。
設計の問題なのかパインサラダ味の潤滑油がダラダラと流れてくる。
欠陥品じゃないか。
錬金術って糞だな。
俺の掌も回転した。
天井とドリルが互いに砕けていく。
最終的にドリルは折れ、天井に穴が開き、俺は車椅子ごと上の階に投げ出された。
シートベルトしてて良かった。
周りを見渡すと錬金術師とツンツン頭が対峙していた。
天井には人体模型が吊り下げられている。
錬金術師の感性を疑う。
悪趣味なインテリアだ。
お姫様が血を流しているが、護衛契約は切れているのでどうでもいい。
もう一人誰か寝ているが、誰だろう?
一瞬だけ二人ともこちらを見たが、俺が動かないのを見ると錬金術師は余裕のある表情、他方は険しい表情をして、戦い始めた。
いや、車椅子が横転しているんだから助けろよ。
錬金術師がツンツン頭を追い詰めていき、ついに右手を切断した。
だが、錬金術師の顔が青ざめていく。
鍼も落としてしまったようだ。
メンタル弱いなぁと思っていると錬金術師が叫んだ。
「助けろ!エラァー!」
突然バイトのシフトを入れられた気分だ。
俺は薬を舐めた後、レバーを倒し、ボタンを押した。
車椅子はものスゴい勢いで横転したまま前進し、錬金術師にぶつかって錬金術師を吹き飛ばした。
錬金術は、勝てるわけないなどと呟きながら気絶した。
シートベルトが壊れて、俺も車椅子から投げ出されてしまう。
無免許運転はダメだな。
そして、俺と錬金術師目掛けて何かが向かって来るのが分かった。
何かは分からないが、非常に危険な予感がする。
うまく言葉で伝えられないが、空想上の生物であるドラゴンが目の前にいたらこんな感じになるかもしれない。
俺はせめてもの抵抗として、ガチャを引くための端末が壊れないように離れた場所に投げて危険から遠ざけ、残っているお薬をすべて飲み込んだ。
ガチャはすべてに優先される。
そしてガチャのための道具は命より重い。
大量の薬を飲み込んだ影響で、俺の能力がかつてないほど暴走する。
一番近くにいた錬金術師の黄金が砕かれていき、何かのガチャが回されるのが感覚で分かる。
ついでに少し離れた場所にいるお姫様の何かも砕けていってガチャが回る。
ガチャの効果が、失われた能力ガチャの効果と似ていることも分かる。
当たりが出なかったことも分かる。
黄金錬成はただの錬成になり、原石は砕かれた。
能力が暴走しすぎたため、俺の全身の骨も砕かれていく。
ついでに、ガチャ結果によるものなのか、俺の両手に穴が開いて出血し始めた。
ほかの人も辛そうな表情をしている。
天井からは自称14歳が落ちてきた。
今までどこに隠れていたんだよ。
忍者かよ。
右目の視界がおかしくなった。
幾何学的な模様がランダムに変化する様子しか見えなくて気持ち悪い。
目の前まで迫っていた何かが俺を通り抜けて崩れさった。
骨や牙の抜けたような柔らかい感触がした。
先程まで感じていた危機感は既に無くなっていた。
落ちている右手の方が不快だと感覚が訴えている。
何かが触れると同時に俺の能力の暴走も一瞬だけ消えたが、すぐに暴走を再開した。
右目の視界も一瞬だけ真っ暗になったが、すぐに気持ち悪い状態に戻った。
建物の床や壁がひび割れていく。
錬金術師の目が覚めた。
辺りを見渡して、俺の端末が遠くに投げだされていることを確認すると慌てて何かをしようとした。
何も起こらない。
すると、自分の端末を操作して、俺の手を掴み、無理矢理ガチャさせた。
チュートリアルで引くガチャだった。
もしかしてこんなことに備えて自分の端末にゲームアプリをインストールしていたのかよ。
ガチャを引けないことへの禁断症状による能力暴走が止まったことを感じながら、俺は失血により意識を失った。
目を覚ますといつもの病室だった。
俺の両手の穴は塞がっていた。
病院ってスゴい。
右目は義眼になっていたが、相変わらず変化していく幾何学的な模様が見えている。
義眼に変な機能付けるなよ。
試しに能力ガチャをしようとしたが、やはり出来なかった。
あの能力が復活したわけではないのか。
蛙顔の医者が現れた。
「体の調子はどうかね」
「問題ない」
「それは良かったよ。それで、その右目だけど、何故か周囲の細胞を壊死させていっていたから、摘出させてもらった。僕の腕が足りなくて、ほかに方法が無かったんだ。すまない」
「謝らなくていい。自業自得だから」
「もしかして原因が分かるのかい」
「多分……ガチャの結果」
「はぁ……またガチャかね、君は一体どんなガチャを引いているのか。辞めろと言いたいのだけど、辞めることは出来ないのだろうね」
「うん。ガチャがあったら何を犠牲にしてでも引くでしょ?」
「普通はそこまでして引かないよ。まったく、思想といい義眼に起きている奇妙な現象といい、君には突っ込みが追い付かないよ」
医者はリハビリのスケジュールを説明した後、眼帯を置いて病室から出ていった。
ふと、鏡を見ると右目(義眼)が、物理的に様々な波長の光を反射して淡く光って見えた。
目立つなあ、眼帯つけよう。
眼帯を着けても着けなくても14歳の病気が発症したように見える。
あの病気って感染するのかなあ。
それより大事なことを確認しないといけない。
俺は昨日周回していたゲームのランキングを確認する。
ランキング外で報酬が貰えていない。
予想よりボーダーが上がっていた。
バイトをしていたせいだ。
チクショウ!