約二ヶ月ぶりの投稿ですか。
ペンタブが欲しいと思う今日この頃。
お待たせしてすみませんでした。
少し短めです。
「君が例のアラガミらしいステラちゃんかい? ソーマから話は聞いているよ。僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデだ。よろしく」
芝居掛かった口調で、爽やかな笑みを浮かべてそう挨拶をするエリック。慣れているのか、自然に膝を少し曲げて威圧感を感じさせない身長に調整してから、右手を差し出して来た。
「聞いてると思うけど改めて。ステラと呼んで。よろしく、エリック・・・あ」
「・・・あ、おいッ!」
返答ついでに握手を返そうとこちらは左手を差し出すが、よくよく考えなくても握手的にそれはおかしい。
それとは別にソーマが何かを思い出したかのように珍しく顔色を変えて俺の動きを止めようとした。しかし、それに対して誰一人反応出来ずにおかしな形で触れ合う俺の手とエリックの手。
瞬間、まるで熱い
「
「エリック!」
神機を落として蹲るエリックに慌てて駆け寄るソーマ。その光景を呆然として見ていた俺は漸く原因に思い至った。
しまった。
触れたらいけないんだった。
「ご、ごめん・・・なさい」
触れようにも触れたらいけないジレンマにどうしたら、と思って漸く発した言葉は、自分でも驚く程に弱々しい声だった。しかし、そんな事が気にならない程に今は罪悪感で胸が満たされていた。
「!・・・ゴホンッ。いや、失礼。先日、右手を怪我しているのを忘れていた。全く、素で忘れていた自分が恥ずかしいよ。もう一度、お願いしてもいいかな?」
「お、おいッ」
途端に立ち上がって、自然な微笑みを浮かべて、今度は左手を差し出すエリック。ソーマが制止の声を掛けるが、エリックはそんな事はお構い無しにこちらへ左手を差し出し続ける。
「え・・・で、でも」
「あぁ、怪我をしたのは内側だから、見た目では分かり難いけどね。それに何もしていなければ、特に問題は無いから、すっかり忘れていたって訳だ。それよりごめんね。右腕が無いのに不躾な真似をしてしまって」
そこまで言うなら、と俺も恐る恐る左手を差し出してみる。すると、エリックが手を伸ばして来てガッシリと掴まれ、握手した。
「これから宜しく。僕の事は兄のように思ってくれて構わない。なんなら、お兄ちゃんと呼んでくれ」
「え・・・え、あ、あぁ、うん・・・あ、いや、エリックでいい」
「そうか・・・」
あれ?さっき痛がってた筈だけど、それどころか何で少し残念そうにしてるんだ?
・・・あれ?
疑問はあるが、取り敢えず今回は簡単な自己紹介と少し話して解散となった。
ゲームだと一言二言しか台詞が無いから分からなかったけど、流石は妹の為に約束された未来と裕福な暮らしを捨ててまで、ゴッドイーターなんて命懸けの職業に身を投じただけの事はある。
ソーマとここ一年くらい関わって来て気付いた事なんだけど、俺はこの世界に来てから喋るなんて事が極端に減った。だからなのか、大体の事は頭の中で完結してどうしても口数が少なくなってしまう。
そんな今の俺でも楽しそうに話し掛けて来るエリックに心を開くのは少しの会話だけで十分だった。流石は初期の主人公が絆す前のあのツンドラ時代のソーマと親しい間柄になるだけの事はある。
近所の気の良いお兄さん感が凄かった。
◇
「エリック、どうしてあんな真似をした」
「・・・あんな真似?」
つい口を滑らせて、エリックに散々問い詰められ、渋々ステラに会わせる事にしたソーマ。
本当はあまり会わせたくは無かった。ステラの存在は必ず厄介事に繋がる。知り合いというだけで、下手をすれば殺される危険性すらある。
闘病中の幼い妹を持つエリックには、唯でさえ危険なゴッドイーターという仕事をしているのに、その上そんな不要な危険まで背負って欲しくは無かった。
だが、予想以上に、と言うよりも分かっていた事だがエリックはかなり根気強く訪ねて来た。こんな自分に今まで嫌な顔せず付き合って来たのだ。エリックの頑固さは身に染みてよく分かっている。
そんなエリックを躱してはいたものの、ある時、ついに耐え切れなくなってぶん殴ってしまった時があった。我に返って慌てて謝ったが、その時のエリックはそれでも尚、折れる事は無く、したり顔でこう言って来た。
『では詫びとして、ソーマがご執心中のお姫様に会わせぶへっ』
顔面にもう一発叩き込んでしまったが、あれはエリックの方が十割ほど悪いと思っているので後ろめたさは無く、いっそ清々しかった。
そんなエリックに根負けしたソーマ。会わせる前に事情を話し、それでも来るかと問うた。
『お前の妹よりも三、四歳程年上の容姿』と言った辺りから、何故かキラキラと目を輝かせ、余計にやる気になったのは未だによく分からない。
因みに、エリックが情報を漏らす様な真似をするという考えをソーマは始めから持ち合わせていない。
ソーマのエリックへの信頼は普段の態度を見るとよく分からないが、実の父親が何らかの事件の黒幕だと証拠も無しに言われても「だろうな」と思うくらいには、厚いものだ。
だから、包み隠さず知っている事は全て話した。
勿論、触れると危険という事も。しかし、それでもエリックはステラと出会うと自ずから手を差し出して握手を求めた。ステラ自身は忘れていたのか、それに応じるように手を差し出そうとしていた。
その手だと握手出来ないだろと、心の中でツッコミをしていたソーマだがそれどころでは無いと気付き、慌てて止めに入ろうと声を掛けたが時既に遅し。二人の手が触れる瞬間にエリックが痛みで仰け反った。
言った筈だ。
ステラとそれに付随する物を触ると激痛が走る、と。エリックは見た目は巫山戯ているが、聡明な方だ。仮に忘れていたとしてもその後に再び握手を求め、少しの間握り続けたのはソーマにとって理解不能だった。
それでもエリックなりに何か考えがあるのだろうと思い、ステラの前で問い詰める事は止めたが、それでも気になるものは気になる。
ステラに会った帰りがアラガミも周囲に居おらず、絶好の機会だったので問い詰めた。何処か怒気を含んでいたのは自身も少し驚いた。
「何故、アイツに」
「不用意に触れたのか、かい?」
「!?・・・そうだ」
「・・・ククッ」
尋ねようとした事を言い当てられ、面食らうソーマ。それでも何とか肯定の意を伝えると、エリックが唐突に嬉しそうに笑い出した。こちらは心配しているのに、本人はどこ吹く風。それがソーマを余計に苛立たせた。
「・・・何がおかしい」
「いや、何だかんだ言って、優しいんだなと、そう思っただけだよ。僕の身を案じて心配してくれているんだろ?ありがとう」
「なッ・・・巫山戯るな!こっちは真剣に」
「茶化してるつもりじゃないさ。それでも少し前のソーマが今の君を見るとどんな顔をするのか、少し興味が湧いて来た」
「おい、エリック!」
もしかして、話を逸らそうとしているのでは?と、疑ったソーマ。普段なら気付いても元に戻そうとはしないソーマだが、今回は内容が内容なだけに、そうもいかず声を荒らげてしまった。
決して、照れ隠しなどでは無い。
「分かった分かった。ちゃんと説明するよ」
「・・・ちっ」
「あんな事、か。ソーマ、僕に妹が居るのは知っているだろ?」
何を今更、と訝しんだソーマの顔は唯でさえ鋭い目付きが更に酷いものとなったが、それでも慣れていると言わんばかりにエリックは話を続けた。
「単純な話、妹の面影を重ねてしまっただけさ」
「・・・は?」
エリックの妹を見た事は無い。それでも重ねる程に容姿が似ているとは、エリックの容姿から見て到底思えない。二段構えで騙そうとしているのか、と疑ったがどうやらそうでもないらしい。
「別に容姿が似てるとか、そんな理由じゃないよ。容姿は全然似てない。僕が恥ずかしくも最初に痛がっただろ?その時の彼女の顔がどうにも、ね。いつかの妹を思い出したのさ。エリナの奴が一人で入院する事になった時に・・・同じ顔をしてた」
「・・・」
あまり人の心を理解する事が出来ないソーマだが、何となく分かった。
一人心細く、寂しそうな妹と同じ顔をした、してしまったステラを否定してまえば、ソレはエリックにとっては妹を突き放すのと同義なのだろう。
それが例え、妹とも自身とも何の関係も無い赤の他人だとしても。人ですら無かったとしても。エリックは手を伸ばし続けるのだろう。
これが家族か、と何処か自分でも分からない部分で情景の念が灯るソーマ。
「・・・だとしても、あまり無闇矢鱈な接触はよせ。何が原因なのか分からない現状でお前が実験体になる必要性は何処にも無い。お前の身体はお前だけのモノでは無いんだ」
「え・・・あ、あぁ」
「・・・どうした?」
「いや、今日はエラく話すな、と思って・・・そう言えば、偶にこんな時があったな。・・・成る程、その時はステラちゃんに会った帰りだったって事か。クッ、つまりはまだステラちゃんの方がソーマの中では好感度が上って事グァハッ!?」
「無駄口叩いてねぇでさっさと戻るぞ。これ以上は怪しまれる」
「な、何も、神機で殴らなくても・・・」
その後、二人は特に問題も無くアナグラへと帰還を果たした。
◇
たった一言の台詞に対して絶大な人気を誇る上田さんこと、エリックとの初邂逅を果たして数日後。トライクの上で横になり、夜空に浮かぶ月を眺めているとある事を思い出した。
そう言えば、シオって何処に居るんだろうか?
過去に日本列島を一周してみたが、それらしき影が欠片も見付からなかった。もしかして、今はまだ誕生していないのだろうか?それとも内陸部の方に居るのか。
まぁ、 その内出会うだろう。
最終的にはそんな楽観的な結論で落ち着いたが、別に根拠が無い訳では無い。名称は忘れたが、リンドウがディアウス・ピターに襲われるあの廃都のような場所。
何処かは粗方目星が付いているので、ソーマの世間話から時系列を推察してタイミング良くいけばリンドウを助けたシオと出会えるだろう。
・・・ん?リンドウってシオにディアウス・ピターから助けてもらったんだよな?ディアウス・ピターから逃げた先にシオが居たってオチじゃないよな?
んー、ま、なるようになるか。会えなかったら会えなかったで、別にいいんだけどね。動機は好奇心だし。
さて、そろそろ寝るか。あ、幼女、今は何してるんだろ?方向が頻繁に変わるから、生きてはいるんだろうけど、本当に何してるんだ?
まさか、ゴッドイーターになってたりして。・・・有り得なくも無い、か。
それなりに実力はあるからあまり心配では無いけど、あの歳で早くも戦場か。本当、とんでもない世界だよなー。
◇
「キヒッ・・・ヒヒヒ」
正常では無い。
一目で分かるそんな精神状態の少女が右手に神機と思われる武器を持ち、廃都に居た。周囲には無数の動かなくなったアラガミ・・・がズタズタに引き裂かれ、身体の大部分を失い最早、原型を留めていないナニかと成り果てていた。
目を濁らせ、全身を真っ赤な血に染め、俯いて不気味な笑い声を上げる少女の前には他に比べてまだ綺麗な小型アラガミの死体。神機を捕食形態にすると、身体の大部分ごとコアを抉り取った。
神機が完全に捕食を完了した直後、少女が唐突にその場に蹲った。
「ギッ・・・!ぁ、ぁ゙ぁ・・・アアぁぁぁああ゛ア゛!! アアぁぁぁあああアァァぁあ゛あ゛ア゛!!」
痛みからか、抑えが利かない程のまるで人ならざる者の絶叫を上げるそのおぞましい声は、次第に笑い声へと変わっていった。
「ぁぁあ゛ア゛ぁぁ・・・くくっ・・・くはっ・・・はは、キャハハハハハ!!」
その声に導かれたのか、朽ちた建造物の隙間から新しいオウガテイル達が顔を出す。それでもお構い無しに笑い続ける少女に四方から次々に飛び掛かるオウガテイル達。
しかし、迫り来る牙は針は少女に当たる事無く空を切り、血飛沫を上げたのは襲い掛かったオウガテイル達の方だった。
山積みにされたオウガテイルを捕食形態で一気に喰らい、再び蹲る少女。先程とは比べ物にならないのか、神機を手放し、蹲った状態から飛び跳ねるように海老反りとなって声にならない絶叫を上げていた。
しかし、必然的に空を見上げる形となったその顔には狂気的ではあるものの、確かに笑顔が浮かんでいた。
「キヒッ、ヒヒ・・・キヒヒッ・・・」
次第に治まっていく激痛から開放されると、再び不気味な笑い声を上げる少女。
「・・・もっと・・・」
両手をその豊満な胸に当て、
「もっと・・・アラガミ・・・」
誰の魂動なのかは分からない。知っている筈だが思い出せない。それでもソレを聞いているだけで心は温まり、自身に立ち上がる力をくれる。弱く脆く臆病な自分の精神を守ってくれる、大切なナニか。
「もっと・・・もっと・・・まだ・・・足りない・・・」
それをいつまでも聞いていたい。その為なら、痛みなんか何も怖くない。戦う事なんて喜んでやろう。
自分は一人じゃないと、分かってるから。
「キヒッ・・・ヒヒヒ・・・ヒヒッ・・・いただき・・・ます・・・♡」
だから今日もアラガミを喰らう。
遅れた理由として、別の書いていたり、イラストの練習してたり、ゲームしてたりと色々理由があるんですけど、主な理由はネタ切れです。
大まかな道筋とか展開とかは出来てるんですけど、そこに辿り着くまでのネタが枯渇してました。
そんな訳で、これからも陥りそうな案件という事もあり、活動報告にてネタの募集をしたいと思います。
詳しくは活動報告の方に書いておきます。
苦肉の策ではあるんですけど、投稿が停滞するよりマシかなと思ってこうしました。
あと、最後の少女はアリサです。
因みにまだロシアに居ます。
原作と違い、もう実戦経験済みです。
・・・原作の方ってロシアでは訓練だけでしたよね?
あれ、でもオレーシャは作戦中に死んだから・・・ん?この辺はどうなんでしょう?
間違ってたらすみません。
ゲームの方では実戦は初めてみたいな会話を聞いた覚えがあったので、もしかしたら勘違いかもしれません。
今更なんですけど、エリックの口調変じゃないですかね?ここはこっちの方がよくね?みたいな意見があったらドンドンお願いします。
正直、たったのワンシーンだけで性格の大部分を理解出来る程、作者は精神分析には長けてませんので。
副題はエリナの『お兄ちゃん』であるエリックとステラと『姉妹のような関係』であるアリサ、という意味です。
次回も気長にお待ち下さい!
(2019/06/17)
右腕が無いのに右手で握手してました。
その辺りを辻褄が合うように変更しました。
ここがおかしい、なんて部分があればご報告下さい。
ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。