アナグラの侵入に関してはエリックが華麗だったって事で深く考えないで下さい(何も思いつかなかったんです)
『・・・ソーマ』
「・・・なんだ」
『無理・・・絶対に無理』
「・・・・・・そうだな」
俺の篭った声にソーマが目を合わせずに反応する。なんか笑ってない?絶対に笑ってるよね?ソーマって慣れると表情が分かり易いよねって事に最近気が付いた。
そんな俺達に前を歩いていたエリックが先を急かす。
「どうしたんだ、二人とも!早く行くよ!」
「・・・行くぞ」
『ソーマ、実はノリノリ?』
なんやかんや言いつつも、これくらいしか方法が浮かばなかったのも事実であり、成功する見込みが無い訳でもない。しかし、流石にそこまで警備がザルだとも思えない俺にとっては不安で仕方無かった。
寧ろ、エリックは何故あれ程までに自信満々なのかが理解出来ない。失敗したら、最悪殺されるかもしれないのに。
「お?見えて来たようだ」
エリックがそう知らせてくる頃には既に俺にも見えていた。地平線の向こうではあるが、それでもしっかりとその城壁が見え、そこからアラガミと似たような嫌な気配を感じる。
『あれが・・・アナグラ』
「・・・そうか、見るのは初めてか」
『狙われてたから・・・それっぽい所には極力近付かないようにしていた』
「・・・そうだったな」
あ、なんかドヨーンとしてる。同じゴッドイーターだから、罪悪感みたいなものでも湧いたのか?対してエリックは先程から何処かウキウキしてる。念の為に上を確認。・・・ふむ、晴れ渡る青空だ。
周囲にアラガミは居ないが、念の為に警戒しつつ入口まで到着。対アラガミ装甲壁から嫌な気がビンビン伝わって居心地悪くしてる俺を他所に、門番が近寄って来て何とも言えない表情をしていた。
「あの・・・そちらの着ぐるみは?」
そう言って俺を指さす門番。もうお分かり頂けたかもしれないが、俺は今エリックが用意した兎のような着ぐるみに身を包んでいる。
そう、ゲームでも登場していたあの正体不明の『キグルミ』だ。
「療養中の妹にちょっとしたサプライズで、とあるゴッドイーターに中に入って貰っている。本人も今の格好をあまり他人に見られたく無いらしいから、出来れば早く入れてくれないか?」
流石に無理が無いか?確かにハリボテではあるけど腕輪はしてるし、付近にトライクを停めて一丁のフロントカウルで神機っぽく演出してはいるけど、絶対に無理だと思う。
ほら、現に門番が訝しげな視線をこちらに向けてくるし、ソーマも戦闘態勢(逃げる為)を整えている。てか、トライク仕舞うとフロントカウルまで強制的に仕舞われるのは不便だな。
「分かりました。どうぞ」
『!!?!?』 「!!?!?」
「ありがと。あぁ、後これは差し入れだよ。お勤めご苦労さま」
「いえいえ。妹さん、早く良くなるといいですね」
「あはは、そうなる事を祈るばかりだ」
そんな世間話をエリックと門番がしつつ、俺達は難無くアナグラの中に入れた。あ、凄い。ソーマが目を点にしてエリックを見てる。
「ふぅ・・・ま、こんなものだよ」
そう言って、爽やかな笑みを向けるエリックは華麗だ。普通に華麗だ。エリックが死に芸以外でここまで華麗さを披露するとは思わなんだ。
「おい、エリック。どういう事だ」
幾ら何でもあの対応はおかしい、と確信を持って言えるソーマ。目を細め、睨んでいるように見える。しかし、実はそういう風に見えるだけであり、本人的にはただ疑問に思ってるだけ。これまでこんな感じの表情をする事が多かったから、自然とこんな表情になってしまうんだとか。
その事を知っている俺とエリックだからこそ、悪い空気にはならなかったし、真正面から受けたエリックも慣れているとばかりに軽く受け流している。
「まぁ、疑問に思うのも無理は無い。実際、ステラちゃんのその格好だけで普通に入ろうとしたら、確実に失敗するだろうからね」
あ、その辺の自覚はあったんだ。よかった、エリックが常識人で。これがコウタとかだと割と本気で成功するとか言いそうな気がする(偏見)
本当、コウタってマジでコウタなんだから。
「そもそもソーマと僕は他のゴッドイーターとは違って普通ではないから、そこを利用したんだけどね」
普通ではない・・・ソーマは分かるけど、エリックも?
「ソーマは・・・まぁ、簡単に言えば色々な噂があるって事で、僕は貴族出身だ。本来ならこんな命懸けの仕事をする必要も無く、裕福な生活を送れていた。・・・あぁ、その事を知っているのは数少ない。けど、妹の事を知っているのはそれなりに居るものだ」
・・・あ、成る程ね。つまりは信頼、のようなものか。さっきの会話を聞くにエリックは門番とそこそこの仲だと伺える。おまけに支部長の実の息子で実力も確かなソーマ。この二人と一緒に居るなら問題無いと判断したんだろう。
・・・でも、確認も無しに通すか?
「ステラちゃんの方は何となく分かったみたいだね。ま、一言で言うなら、ソーマのお陰さ。ナイス殺気」
あー、そう言う事。つまりは脅しか。
強か。エリックが超強かだ。
「何の事だ」
「あ、やっぱり無自覚なのか」
未だに要領を得ないソーマ。本人的には殺す気なんてサラサラ無かったから、当然と言えば当然かも。
ん?となると、そんな不確定要素もエリックの計画の内?やっぱりかなり危険な橋を渡ってたのか・・・いや、長年付き合って来たエリックならでは、か。
「さて、ここに長居する訳にもいかないし、早くエリナの所に行こうか。今日は病室の方に居るから、案内は任せな」
そう言って、キリッとキメ顔をするエリック。
今更、気が付いたけどエリック超はしゃいでるな。妹と会うのがそんなにも嬉しいのか。相変わらず、妹想いのお兄ちゃんだ。
しかし、味を占めたかのように俺にお兄ちゃん呼びを強請るのはやめろ。
◇
取り敢えず、壁ギリギリに密着して、なんとか範囲内に入ったトライクを回収し、それに伴ってフロントカウルも消える。序に対アラガミ装甲壁の凄さを身をもって体感した。
触れても大した危害を被る訳では無いが、生理的にあまり触りたくない感じがする。あれは確かに他のアラガミも中々近付かねぇわと思いつつ、俺の
・・・あ、いや本当にやらないよ?気になっただけだから。
ソーマはあまり関わりたくないのか、途中で自分から別れて先に何処かへと歩いて行った。エリック曰く、恐らく怖がられるのが目に見えてるからだろう、とのこと。
めっちゃ納得してしまった。
ああ見えて、心の方はかなり繊細だからな。
前に俺が釣り上げたグボロ・グボロをエリックが空中で吹き飛ばすっていう遊びしていた事がある。遊びを交えたエリックの射撃訓練だったんだけど、エリックが大分慣れ始めるまでしてると背後から巨大な岩石が吹っ飛んで来てグボロ・グボロに直撃した。無論、グボロ・グボロは無傷だったが、慣性の法則で遠くに吹き飛んで海に沈んだ。
そんなグボロ・グボロは置いといて、岩石が吹っ飛んで来た方向を見てみると、念の為に周囲の警戒をしていた筈のソーマが神機をバットのように持って、振り抜いた姿勢で立っていた。心做しかドヤ顔になってた気がする。
どうしたのか、と尋ねてみると「なんでもない」と言って背を向け、再び周囲の警戒をしだした。疑問符を浮かべる俺の横でエリックが笑うのを堪えるように顔を背けて肩を震わせていたので、何か事情を知っているのかと聞けば、「嫉妬・・・のようなものだよ」とのこと。
なんだ混ざりたいだけか、とその時になって漸く分かった俺はチラチラとこちらを窺い見るソーマを呼び戻して、エリックと一緒にグボロ・グボロを吹き飛ばしていた。銃であるエリックですら苦戦していたのに、ボールを打つ要領でその辺の瓦礫や岩石を飛ばす手法で百発百中なのは素直に驚いた。
エリックと揃って賞賛すると、顔をプイッと背けて「大した事は無い」って無表情ながらも嬉しそうに言うもんだから、更にエリックと一緒に褒め倒した。結果、限界値を超えたソーマにその辺の瓦礫を今度は俺らに向かって本気で打って来た。
しかも、打ち方で変わるのか、打った衝撃で飛来物がバラバラの散弾みたいになって飛んで来て、あの時は本当に(エリックが)死ぬかと思った。
俺?俺は大丈夫。仮に当たっても傷付かないから(痛くないとは言っていない)
閑話休題
そんな、お可愛い所があるソーマ。何が言いたいか端的に言うと、少しズレてる所はあるけど、ソーマもきちんと心ある人間って事だ。エリックの妹を怖がらせたくないって思いもあるんだろうさ。
てな訳でソーマの分まで沢山交流しようと、道行く人々に奇異の視線を向けられつつアナグラに到着。ここからどうするのか、と思っていると普通に中に入って病室の前に着いた。
うん、意味が分からなかった。
すれ違うゴッドイーターにはエリックが
呑気にも程があるぞ。出会えた事による俺の感動を返せ、リンドウ。
そんな色々と台無しな第一部隊隊長との初邂逅の次に受付嬢みたいな事してるヒバリさんに止められた。今度はさっきみたいな誤魔化しでは無く、小声で「中身はソーマ」と言うと、何かを察したヒバリさんは何とも言えない表情をこちらに向けるだけで事無きを得た。何を察したというのだ。
自業自得ではあるが、バレてエリックが殺されないか冗談抜きで心配だ。後、ソーマに対する変な噂が流れないかという事も。
その後は慕われているリンドウが受け入れたのを大多数が見ており、加えてそもそも身の安全はゴッドイーターである時点で心配する必要も無いし、深入りする程興味がある訳でも無いという者ばかりで、特に関わってこられずにここまで来た訳だ。
ここの警備がザルなんてものじゃなかった事に不安を覚えて仕方ない。そんなだから殆どの大事件の原因がここなんだよ。もっとアラガミだけじゃなくて人に対しても守りを固めろよ・・・・・・俺、アラガミだったわ。ごめん、こんな入り方して。
因みにここに来る前にエリックの部屋へ寄ったんだが、普通に綺麗だった。貴族のボンボンでその辺は使用人とかに任せていそうなイメージがあったけど、そんな事も無いのか、普通に整理整頓がされている整った部屋だった。
・・・というか、物が無かったんだよな。いや、あるにはあるんだが、ぬいぐるみとか女の子が喜びそうな物ばっかだった。つまり、これは彼氏部屋ならぬ妹部屋という事か?・・・今度、何かプレゼントしよう。日頃のちょっとした感謝も込めて。
「準備は出来たかい?」
俺が緊張していたのが伝わったのか、ノックをする前に言葉を掛けてくるエリック。誤魔化す為の長考を止め、頷いて問題無い事を知らせる。
「それじゃ・・・エリナ、僕だ。エリナのお兄ちゃんのエリックだ。入っていいかい?」
『お、お兄ちゃん!?・・・うん!いいよ!』
中から元気そうな女の子の声がした。それはゲームで聞いた事があるエリナの声に何処か似ているが幼さが残っている気がした。
「先に入って事情を説明して来るから、少し待っててくれ」
そう言って、千羽鶴を片手に先に入室して行くエリック。中から少しの間、話し声が聞こえるが何て言ってるかは篭っててよく聞き取れなかった。盗み聞きする気も無いので最初にどんな挨拶をしようか考えていると、聞き取れる声量でエリックが入室するように言って来た。
扉を開いて中へ入ってみると、幾つか並んでいるベッドの一つに身体を起こした少女と傍らに座るエリックが居た。千羽鶴は既に飾られてぶら下がっている。少女の方が恐らくエリナ(ロリ)だろうけど、表情が驚愕から恐怖に変わってるような気がする。
あ、エリックの背に隠れた。
「そんな所で突っ立ってないで、こっちに来たらどうだ?」
怖がられてどうしようか、と立ち竦んでいた俺にエリックが促してくれた。取り敢えず、エリックの言う通りここで立っていても仕方無いので扉を閉めて二人の下まで歩いて行く。近付けば近付く程に背中越しに覗き見てるエリナがビクビクしているのが分かる。
いつかの幼女を思い出す反応だ。恐怖の対象は俺だけど・・・。
「・・・もう大丈夫だから、
結果的に棒立ちのままエリナを凝視する事になった俺に呆れた風に苦笑いしながら、エリックはそう言う。身長差的にキグルミで見下され続けるのは確かに恐怖するわな、と反省しながらカポッと頭の部分を外す。
「!?」
キグルミが
「ふわぁぁ!」
身軽になって肩を
「?・・・??」
突然の対応の変化に付いていけない俺を他所に、興奮状態のエリナは本当に病人なのか疑いたくなる程に軽やかな動きでベッドを降りて、俺の下に駆け寄って来た。
「凄い!凄い!今のどうやったの?もしかして魔法ってヤツ?!」
「え・・・あ、えっと・・・」
どうやら、先程の換装がお気に召したらしい。しかし、困った事にどうやったかを聞かれてもなんとなく、とかそんな曖昧な事しか言えない。
「エリナ、気持ちは分からなくも無いけど、あまりはしゃぎ過ぎると身体に障るし、彼女も困ってる」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」
エリックに咎められ、顔を赤くして俯くエリナ。恥ずかしそうにベッドへ戻る彼女を見守っていると、手が引っ張られ不意打ちなだけにそのままそちらへ歩いてしまった。手を見てみると、手の裾をちょこんと摘ままれていた。
ホッコリとしながらベッドまで付いて行き、エリナがベッドに腰掛けてエリックが椅子をもう一つ出してくれたのでそこに俺も座る。
「え・・・えっと、私はエリナ。エリック・デア・フォーゲルヴァイデの妹のエリナ・デア・フォーゲルヴァイデ・・・です」
あまり慣れてないのか、少し辿々しいがきちんと出来た自己紹介。何かを期待するかのような眼差しを向けられたので普通にこちらも挨拶する事にした。
「ステラ。エリックとは・・・友達・・・かな?よろしくね」
そう言って、左手を差し出してついくせで握手をしようとした。そう、握手だ。本当、自身の学習能力の低さが嫌になる。
ヤバい、とエリック共々思った時には既にエリナと手が触れており、完全に手遅れ。このタイミングで下手に慌てて引っこ抜けば、子供であるエリナに怪我をさせてしまうかもしれない。故に大人しく握手するしか無かったのだが。
「よ、よろしくお願いします!」
特に痛がる様子が見られなかった。
「「??」」
エリックが面白い顔をしながら首を傾げている。俺も首を傾げている。そんな俺達を見てエリナも首を傾げている。
「「「・・・・・・?」」」
なんだこの時間。
「エ、エリナ・・・手は大丈夫か?」
我に返ったエリックが動揺しながらそう尋ねる。当の本人は質問の意味がよく分かってないのか、答えに迷っている。目をキョロキョロさせながら何を言うか考える彼女は何でもないかのようにアッサリと口を紡いだ。
「うん、別に何ともないよ?・・・あ、でもちょっと
あ、そんな感触はするんだな。しかし、ピリピリか。ソーマとエリックさえも手を引っこ抜く程の痛みがこの子には無い?考えてみれば、エリックも最初は痛がったがそれ以来、触れても痛がる事は無かった。
もしかして、フォーゲルヴァイデ兄妹ってその辺の才能があるのか?痛みによる耐性的な・・・。
「そ、そうか・・・」
エリックが納得してるようなしていないような、そんな返事をしているが、そんな訳の分からない兄(エリナ視点)よりも今は俺の方に興味があるらしい。
「え、えっと・・・その、貴女の事は・・・お兄ちゃんから色々と・・・それでいつか会ってお話したいなぁ・・・って」
モジモジしつつ、手をにぎにぎしながら緊張気味に言う彼女に初対面ではあるもののゲームでのイメージが強くて少しギャップを感じる。正直、エリックが妹大好きになるのも少し分かる気がする。
にしても、エリック話してたのか。言っちゃなんだが、俺に関する事は現状ではかなり危険な話題だと思うんだがなぁ・・・ま、バレなきゃ問題無いか。エリックに視線を向けてみれば、グッドってジェスチャーしてくるし、その辺の気配りはきちんとしてるんだろう。仮にバレたとしても、基本的に誰も信じないだろうし。
それはそうと、いつまで手を握っているのだろうか?
「・・・あ、あの〜?」
黙っている俺に何か失礼な事をしてしまったのではないか、と不安そうに覗き込んでくるエリナ。この歳の少女に無視は流石に酷い事したわ・・・個人的にどうしてもあの時の幼女と少し重ねてしまうから、無視と言うよりも癖のようなモノなんだけど。
「ごめんね。少しボーッとしてた。折角だから隣、座っていい?」
「!・・・うん!」
いそいそと横を空けるエリナ。そんな彼女の横に座り、何からどう話そうかと悩んでいると、隣でエリナが緊張しているようだったので、ひょいっと持ち上げて足に乗せた。
おぉ、この小ささに暖かさ、懐かしい。
思わずギュッと抱き締めると、わちゃわちゃと暴れ出したが、その程度で抜け出せると思うな。
「わひゃっ!?ちょ、ちょっと!いきなり、何をッ!」
あの幼女の場合、喜んで抱き着いてくるのでこんな反応は新鮮だ。抱き締めたまま、つい頭を撫でていると次第に大人しくなってきた。
「ん、ピリピリが・・・気持ちいぃ♡」
どんな感じかはよく分からないが、言葉から察するに電気風呂の弱いバージョンみたいな感じか?それにしても抱き心地が良いし、暖かいわ〜。凄いポカポカしてるし、ホント子供っていいよな〜。片腕しか無いのが恨めしいぜ、全く。
◇
抱き締めていて、気付いたらエリナが寝てしまったので今日はお開きとなった。まさか、あんな簡単に寝てしまうとは思わなかった。幼女でももう少しは抵抗・・・出来そうにないなぁ。あの子、寝るの大好きだったし。
そんな事を考えつつ、アラガミ装甲壁から大分離れた所まで歩き、見送りに来たエリックとも今日はお別れだ。
「今日はありがとう、ステラちゃん。また、機会があったら逢いに来てくれるかい?あんな幸せそうなエリナは久しぶりに見た」
「うん・・・私でよければ」
喜んでもらえたようで何よりだ。しかし、何故ここまで好感度が高いのだろうか?原因としてはエリックがした話の内容なんだが・・・。
「エリック」
「ん?」
「あの子に何を話したの?」
「大した事は話してないよ。偶に会った日に何をしたとか、こんな事があったとか、そんな他愛も無い事ばかりだ・・・どうして、エリナがあそこまで懐いていたのか、不思議かい?」
「・・・うん」
「僕もよく分からないけど、ある日突然、『お兄ちゃんが楽しそうに話すから会ってみたい』って、言い出してね。僕が信頼しているから、問題無いって思ったんだろう。とまぁ、それもあるがステラちゃん自身が単に幼子に好かれ易いんじゃないかな?」
「・・・好かれ易い?」
「あぁ、傍から見ても君は子供に好かれ易いだろうし、扱いも何処か慣れてるような気がする。子供、好きなんだね」
「・・・」
扱いに関しては幼女の保護者代わりのような事をしていたからだろう。それにしても子供が好き、か。確かに好きだけど、それは別におかしな事でも無い気がするし、それだけで子供から好かれるもんかな?
「ふふっ、本当に君がアラガミなのか忘れてしまいそうになるよ。・・・いいかい?幼子は兎に角、純粋だ。良くも悪くも、ね。だからこそ、相手が善か悪かを大人以上に見抜く。どれだけ取り繕っても、子供達には筒抜けだ。だから、ソーマにも会って欲しいんだけど・・・どうにも上手くいかないものだ」
・・・ん?いい話っぽいけど、それって要は子供に好かれてるから俺が子供みたいだって事か?もしかして、アホの子だって思われてないよな?
「さ、そろそろ行った方がいい。あまりここに長居するものじゃないだろう」
「ん、それじゃ、また」
「あぁ、またいつか」
トライクを呼び出してさっさと離れる。チラリと後ろを振り向けば、もうエリックの陰は見えない。もう一段階速度を上げて、アラガミが跋扈する荒野を駆け抜けた。
◇
エリックへのプレゼントを何にしようか、と考えながら寝落ちした次の日の朝。寝床にしていたトライクから身体を起こして、朝日に目を細めているとあの声が聞こえた。
「ピギィ・・・」
反射的に声が聞こえた方である、真後ろに腕を振るう。何かを掴み、目の前に持ってくるとそこには本来のアバドンの赤っぽい所の色が蒼で黒っぽい所は漆黒とも言うべき真っ黒になった見た事も無いアバドンが手の中でジタバタしていた。
「いただきまーす・・・あむ」
だからと言って気にする事は無い。色が違ったとしてもアバドンはアバドン。美味しく頂きましょう。
〔痛ッたぁぁ!?おい、噛むな!私は食い物では無いぞ!〕
「!?」
え・・・は?
〔おい!いつまで噛んでる!いい加減に離せ!この食いしん坊が!〕
その優男のようなボイス?で抗議の声を挙げている存在は現在、噛んでいるアバドンから。つまり・・・えっと・・・アバドンが喋ったって事?
〔おい!聞いてるのか!ちょちょ、本当に痛い!兎に角、離せー!〕
えぇ・・・。
次回はアバドン?のお話。
実はリクエストで漫画の『ロン』みたいな相棒キャラの要望があったので急遽出演する事になりました。ロンとはまるで似ても似つきませんけど、相棒&解説役のような立ち位置になります。なので次回辺りから謎を解明していくと思います。
アバドン?のCVは子安武人さん(イメージ)
“ソウルイーター”の“エクスカリバー”や“血界戦線”の“機装医師リ・ガド(ミジンコ)”などを担当している声優さんです(超好き)
次回も気長にお待ちください!