彼女の追憶 その2『言い訳』   作:胆谷

1 / 4
注意:
小説やコミックスは未読の頃のSS。
エロが書きたかっただけです。
あと、朔ユキ蔵先生の『ハクバノ王子サマ』を多大にオマージュしてます。


0話、1話

=0=

 

彼が、私からの電話にあまり出なくなってから、もう半年くらいになるだろうか。

特に何度も、すがるように掛けている訳ではないけれど、段々と出てくれるまでの逡巡が長くなり、そして、彼の迷いを我慢出来ないように私の方が電話を切るのだ。

それでもたまに彼の声を聞いた時はとても嬉しくて。

ただそれが、彼と話が出来る事に嬉しい訳ではないと、そんな事に私は、いつの間にか気付いてしまっていた。

 

窓を叩く風が強い。

これから掛ける彼への電話もまた、きっと出てはくれないのだろう。

私は、そう分っていても、それでもやはり彼を確かめたかった。

 

吐く息が白く凍り、空気に触れるだけで肌が萎縮する季節。

彼と出会った頃が、もう懐かしいほどに遠く、眩しいかの様に鈍く、思い出せない。

言葉を交わし、気持ちが通じあえた嬉しさも、体を重ね抱き合って温もりを交換しあった想いも。

3年という長い時間をかけて、じわじわと雪が積もるように、私と彼を隔てる壁も少しずつ高く厚くなっていった。

 

違う。

そうじゃない。

そうではなかった。

 

残酷な告白は、彼の方からではなく、何故、私が突きつけたのか。

彼の触れた場所が熱く、寂しさと愛おしさに涙がとめどなく溢れ、何度も逢いたいと願い、抱きしめて欲しかったのは私の方なのに。

 

私は、いつもの電話の終わりのように、彼を最後まで待つ事は、出来なかったのだ。

 

 

=1=

 

「水野君、ビールが減っとらんぞ」

 

私が座敷の隅で壁の花になっているのを目ざとく見つけた上司が、お酒臭い息で私の横に座る。

普段は、至って真面目な勤務態度で頼りになる上司なだけに、無礼講の時間くらい、腰に手を回されてもセクハラだとは思わない。

それでもお酒や独特の雰囲気、そして泥酔した人は、私は苦手だった。

 

「そうそう、水野先輩。もっと飲んで飲んで、酔っ払ったとこ見せてよ~」

 

更に横から、後輩の中谷くんが、けしかける。

この人は、一番苦手だ。

後輩といっても同年で、その為か私を先輩とは見ていないように振舞う。

顔がいい為、周りからの、特に女性陣からの評判こそ良いものの、仕事や態度は決して良いとは言い難い、プレイボーイの噂も絶えない、私とは縁遠いタイプの人である。

美人でも派手でもない私にも、彼からの誘いは顕著にアピールされ、全て断っているけれど気にしないのか、毎週のようにダイレクトメールがデスクに届く。

ましてや、こんな飲み会の時にこそ彼の態度は露骨になり、私はなるべく早めに逃げるように、会場を後にするパターンを繰り返した。

 

隙を見て、トイレに行く素振りで、席を立つ。

一応、トイレにも入り、そのままこっそりと出口に回るのだ。

 

何をしているんだろう、私は。

楽し気に会話し、美味しくお酒を飲む声が、周りから溢れるように聞こえる。

まるで私とは関係のない世界のように、遠く、ぼんやりと、私は、自分の小ささを感じた。

 

「どーこ行くのっ?水野せんぷぁい!」

 

肩に手を置かれ、はっとして振り返る。

振り向いた右頬に、中谷くんの指が突き刺さる。

 

「ははは!」

 

子供騙しのからかいに、彼の容赦ない笑い声に、私は、悔しさで、無言できびすを返した。

 

「ちょっと待ってよ、ごめんごめん悪かったですって」

 

酔っているのが嘘のように、彼は、正確に私を壁に追い込み、両肩を掴む。

 

「やだ、こんなトコでぇ~」

 

トイレに入ろうとした女性たちが、くすくす笑い、私たちを見た。

キスをしているようにでも見えたのだろうか。

私は、急に恥ずかしさに紅潮し、彼を押しのけようと手に力を込め抗議した。

 

「止めて!冗談が過ぎるよ!」

 

「違うんだっ!!」

 

突然の大声に、ビクリと体が震えた。

何事かと、近くの人も、何人かこちらを伺う。

 

「ご、ごめん、デカい声出して……でもさ、水野先輩も悪いんだぜ?」

 

彼が何を言っているのか、私には分からず、彼を見つめると。

彼は大粒の涙をこぼし泣いていたのだ。

 

「水野先輩、全然返事もくれないから……、俺、チャラついた告白しかできねーし、どうすればいいかって」

 

中谷くんが嗚咽を飲み込むたびに、彼の両腕から私の身体にその緊張が伝わってくる。

よく考えると、確かに、彼に誠実な返事は返してはいない気がする。

まさか、彼がある程度でも本気にアプローチしてるなんて、考えもしなかったから。

私の世界の外にいる人が、遊び半分で、私にちょっかいかけているんだと言う認識しかなかったのだ。

 

彼は、子供のように肩を大きく震わせて泣いていた。

私は余程いたたまれなくなっていたが、その場で彼が落ち着くまで背中を撫でた。

 

そんな事があって、しかし、私は、お酒の席の出来事を普段とリンクさせる事を嫌い、忘れる事にした。

私のお尻を触った上司の事も、泣き上戸を露見した中谷くんの事も。

普段とは違う時間、違う世界。

 

そして、私は、やはり中谷くんの事が苦手だから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。