彼女の追憶 その2『言い訳』   作:胆谷

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5話、6話

=5=

 

廊下の途中から貪る様なキス。

私がそこまで乱れるとは思いもしなかったのだろう、上司は、直立不動で壁に沿い、私のなすがままになった。

 

「みっ…水野……」

 

ベルトを外し、下着ごとズボンを下げ、上司のペニスを口に含む。

すると上司は我に帰り、私を押し倒した。

打って変わって、今度は私が責められる。

荒々しくシャツを脱がされ、ブラの上から揉みしだかれる胸。

すでに硬くしこっていた乳首が擦られ、私はうめき声を上げる。

 

「うっ……!はぁっ、あっ、部長……っ!」

 

上司の愛撫はとても雑で、優しさの欠片もなかったけれれど、それが新鮮だったのか、私は自分でも驚くほど興奮し、触れられてもいないのに、下着は濡れていた。

二人でもつれ合い床を転がり、キスで涎まみれになって、服を脱ぐ。

下半身への愛撫はほとんどなく、クリトリスを数回捏ねるように摘んだだけで、上司は私を四つんばいにし、獣の体位で、私の尻を高く上げた。

 

まるで犯されるような感覚が私の全身を覆い、私は、歓喜に打ち震えた。

期待と恥ずかしさで、陰唇が震え、内部からは、白く濁った液体が糸を引き、垂れ落ちる。

 

そして私は貫かれた。

声も出ないほどの衝撃が、脳天を叩き、子宮が喜びにわななく。

そのまま2、3度動かれただけで、私は叫び、容易く絶頂した。

 

その後、何度も上司のものを吸い、上に乗り、そして組み敷かれた。

はしたなく嬌声を上げ、痙攣する身体で、淫乱な喜びを表現し、何度も、何度も、私は果てた。

 

疲れきって起きた朝、上司は当然のようにいなかった。

乱れた衣服と体液でよごれているはずの床や壁は、何事も無かったかのように綺麗にされ、逃げるように去ったのは、上司なりの優しさだったのかも知れない。

私は、重く動かない手足を引きずり、身体を丸め、泣いた。

 

取り返しの付かない、嫌悪の裏切りを、私はしたのだ。

 

「遠野君……ごめんなさい遠野君……遠野君」

 

彼の優し過ぎる目を思い出し、彼の名を叫び、私は、自分が許せるか、不安に、また泣き、謝る事を繰り返した。

 

 

=6=

 

程なくして私は退社し、かねてから誘われていた、友人の起こした会社に入った。

こんな事で、なかった事には出来ない事くらい、自分でも痛いほど分かる。

それでも、私は変えたかった。

環境も、自分自身も。

 

決心は付いていた。

 

寂しくて、悔しくて、悲しくて、とても割り切れない感情は、勿論未だ尾を引いている。引きずり続けている。

決心したずいぶん後の今でも、心を抉り、突き刺さって抜けない。

私は、遠野君を好きなままだ。

彼を愛したまま、そのままずっと。

多分これからも、長い間、私は苦しむ。悩む。胸を掻き毟るだろう。

 

あの事は、彼には言っていない。

ずるく、汚く、卑しい選択だけれど、私以上に、彼はきっと苦しむ。

それが見たくないだけなのかも知れない。

彼の為と偽って、私自身の為なのかも知れない。いや、多分そうだ。否定出来ない。

 

そして、彼は、きっと私を許す。

それが私には、耐えられないのだ。

 

何度も緊張を飲み下し、決した筈の意を何度も決し、深呼吸し、メールを送信する。

私から彼へ、最後のメール。

 

彼はこのメールを読んで、悲しんでくれるだろうか。

私との距離を、確認してくれるだろうか。

 

1,000回メールをやり取りしても、1センチも縮まらなかった心の距離。

 

私は、何度も挫けつまずき、彼の見るその先を見ようとしたけれど。

とうとう、疲れてしまった。

遠野君、ごめんなさい。

 

彼が必死で追い求めた、遥か彼方の答えに、どうか届きますように――。

 

 

終。


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