FGO二部二章・改「狂焔之巨人王と三人のセイバー」 作:hR2
白一色の銀世界を、幾つもの斬光が切り裂いていく。
幻想的なその光景の内にあるのは、紛れもなく美と称されるべきもの。
加え、激突の度に飛び散る火花と打ち鳴らされる戟音が、見る者の心を鷲掴みにして離さない。
戦うは超常なる二騎のサーヴァント、
世界よりその功績と偉業を認められた存在が、互いを打倒せんと死力を尽くす。
その剣の冴え、視認することなど微塵も許さず、
その盾の構え、泰山よりも確として揺るがず。
しかし————目を奪われることなど決して許されない。
何故ならこれは、
「くぅぅぅ————!?」
————戦いというより、一方的な嬲り殺しなのだから。
[第一話 第一のセイバー、見参!]
雪が、溶けていく。
赤い瞳の仮面の剣士が持つ熱量と刃の激しさが、白を塗り替えていく。
英国が誇る名探偵の右腕をいとも簡単に切り飛ばしたこの剣士こそ、シグルド。
破滅と太陽を併せ持つ頂点たる魔剣を持ち、想い人から伝えられしルーン魔術を操る竜殺しの英雄。
シャドウ・ボーダーをいとも容易く切り裂き、ペーパームーンをカルデアから強奪。
逃すまじと追いすがるマシュ・キリエライトとその主に対し、一方的すぎる戦いを展開している。
「カカカ。
愉悦。
滑稽。
無様。
よく凌いでいると褒めてやらんこともないが、何を求める?
所詮貴様らなぞ、
結末はただ一つしかないというのに————何をもがく?」
シグルドの手に踊る短剣が、その両の腕により、
「————っっっ!!」
マシュの掲げる大盾へ吸い込まれるようにぶつかっていき、
「ぐぅっ!?」
確かに受け止めたはずなのに、内部まで伝わってくる衝撃に片膝をつかざるを得ない。
————すごい、圧力…………! でも、なんで…………!?
「おい。
誰が休んでいいと言った?」
両眼を彩る赤の輝きが、どす黒い悪意に染まる。
「先輩、下がってください!!」
マシュの大盾に撃ち込まれた六本の短剣、それら全てが中空を駆け回り————
この場に存在する最も脆弱な存在、カルデアのマスターを蜂の巣にすべく疾駆する。
マシュの盾は確かに強靭だが、それは
シグルドの投擲した刃達は、全方位より襲いかかる。
矢より速く、弾より激しく、武技練り上げた剣士の業の狙いは、どうしようもなく正確無比。
「先輩!!」
▷ □ 「オッケー!」 □ ◁
□ 「了解!」 □
入れ替わり立ち代わり、背中合わせで立つ二人。
従者はその盾で主に襲いかかる刃群を防ぎ、主人は自分の五感をフル稼働させ従者へと伝える。
まるでそれはダンスを踊っているかのよう。
物言わずとも、相手に全てが伝わっている。
背中越しに感じられる相手の温もりが、更なる力を引き出していく。
二人で掲げるその盾が、全ての刃を撃ち落としていく。
数えきれない修羅場を共にくぐり抜けたこの二人を討ち取るには、
いかな北欧に音聞こえた剣士の投擲といえども————足りない。
「ふむ。
▷ □ 「!?」 □ ◁
シグルドの腰に収められていた何本もの短剣が抜き放たれ、
輪を描きながら回転。
「守れ。
守れ。
お前が守らねば、
カカカ」
再度その両拳が刃の撃鉄となり、剣の切っ先が血肉求める凶暴な猟犬となる。
火花が所狭しと飛び散り、刃を防ぐ盾の音はもはや管弦楽団の大合唱。
「見もの。
見もの。
そこの
「くぅ————!」
ジリ貧。
防御一辺倒で倒せるような敵ではない。
かといってこの状態で攻撃に転じても、一本一本が意思を持つかの如く正確にこちらを狙い続ける短剣達をどうにかしなければならない。
そうでなければ、攻撃の最中にマスターを殺されるという大失態を演じることになる。
————震えが、止まらない…………!
自分が震えてはいけないことなど分かっている、けれど、
魂の底の底まで破壊するような、シグルドの両眼が放つ悪意。
これまで戦ってきた戦闘記憶の蓄積が警鐘を鳴らし続けている。
何かがおかしい、何かが噛み合わない、何かが根本からずれている。
それはバーサーカー召喚による狂化の付与などとは比べ物にならないほどの異物感。
何よりも————
「
ククク、お前ごときに使うはずもない。
なにせ
「っ!?」
これまでに射出した短剣と、シグルドの腰に残っていた短剣。
その全てが剣士の元へと集結し、転輪する。
剣士の霊圧が、天井知らずに一気に膨れ上がり、
冬の大気を散り散りに引き裂いて————
「恐らく敵宝具、来ますっ!!」
世界が…………鞘より抜かれたる魔剣の登場に、恐れ慄き震えながらに刮目する!
「起動」
回り出す刃。
込められる魔力。
定められる狙い。
「お前の矜持、見せてもらおう」
赤眼が見据えるは、血、血、血。
死が見たい、破滅が見たい、お前が慟哭する顔が見てみたい。
下らぬ英霊、塵芥の人間、その全て————オレが欠片残さず
短剣の一本一本、切っ先から柄頭まで、余すところなくその全てに破壊のマナが充填される!
「これなるは破滅の黎明————ッ!!」
それは正に戦場を駆け抜ける破滅の流星群。
マシュの想像を大きく上回る展開・射出速度の流星達は、盾の英霊から宝具を起動する時間を奪い切ることに成功。
射出され続ける殺意の刃、光芒だけを後に残し————我が最も早く標的穿たんと襲い掛かる!
が、その全て、命中し切るよりも早く
「『
これまでの投擲を遥かに超える剣の一射が、彗星となって突き進む!
冬の大地に、
破壊と爆裂が、
嵐となって吹き荒れた。
「せ、先輩…………だいじょ、うぶ、ですか…………?」
▷ □ 「マ、シュこそ、大丈…………夫?」 □ ◁
□ 「正直、ダメ、かも…………?」 □
□ 「マシュがいい子いい子してくれたら、大丈夫かも」 □
「イエス、マスター…………!
ダメージは大きいですが、まだ…………まだ、戦えま…………くぅ!?」
敵の一撃で大きくダメージを貰うも、二人の瞳から闘志は消えていない。
二人とも五体満足、まだ、戦える。
ここまでの損害で抑えられたことを、良しとすべきか、それとも————。
「ククク」
————やっぱり、おかしい…………!
マシュは自分の直感を確信する。
確かにこの一撃、
だが、盾で受けてみて自分が感じたのはまるで違う存在。
————似てる、あの時と…………!
ウルクで対峙したクラスビースト・ティアマット。
冠位時間神殿で相対した魔神王ゲーティア。
そんな、英霊が持ち得るレベルを遥かに超越した
————ブリュンヒルデを巡る悲哀の恋で反転した…………?
————違う、絶対にありえない! その域を凌駕してる!
恐らく、この違和感の原因を知ることが、
このシグルドを倒すのに必要な鍵となるか。
「真似事でこの程度か。
無様。
無様。
多少は使えるかと思ったが、話にならん。
雑魚。
劣等。
駄犬。
雑種。
ゴミは燃やして終わらすべきだが、オレが
英雄の周りに、刃が集結する。
□ 「ふざけろ」 □
□ 「マシュは、」 □
▷ □ 「最高のサーヴァントだ!」 □ ◁
「先輩…………っ!!」
「カカカ。
麗しい主従愛だな。
悩む、悩むぞ」
シグルドが、口を三日月にして嗤う。
「
もどきを殺し、そいつの死に顔を見ながら絶望する
ククク。
実に良い。
実に良いぞ。
ああ、こんな感覚はいつ以来だ?」
膨れ上がる霊圧。
告げるのはそう、決して避けられぬ激突の瞬間。
□ 令呪を使うしかない □
▷ □ マシュを信じる □ ◁
使わない、使って良いはずがない。
このぐらいの窮地、何度も何度も共に乗り越えてきたのだから。
▷ □ 「マシュ、」 □ ◁
□ 「そいつをぶっ飛ばせ!」 □
▷ □ 「そいつをぶっ飛ばそう!」 □ ◁
「————っ!!
イエス、マスター!
その命令、了解しました!!」
その信頼と絆こそが、絶体絶命のピンチに陥っても不可能を可能にする原動力となる!
「ククク。
よく吠えた。
まだ死ぬなよ、ようやく体が暖まってきたところだ。
次は、
高まり極まる戦意と戦意。
最強の矛と呼ぶに値する魔剣の刃と、最貴なる光を担う盾。
己が持ち得る全ての力を、盾に込める。
外界が震え出し、空間に亀裂が走る。
霊圧と霊圧が衝突を繰り返し————
————絶対、負けない……っっ!!
その決意を示す時は、今をおいて他にあらず!
「起動」
「真名、凍結展開————!」
そして謳われる伝説の一撃、至高なる輝き。
例え全知全能の唯一神であろうとも、この激突を止められることはもう不可能。
「お前の矜持、見せてもらおう」
「これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城!」
天輪する刃は円を描き、
高々と掲げられる大盾は貴き幻想を歌う。
「これなるは破滅の黎明————ッ!!」
「呼応せよ————っ!!」
魔剣はただひたすらに狂奔し、
大盾は遥かなる夢想の城を呼び寄せ————
「
「
刃の流星群を従える魔剣の彗星が、
打ち建てられた城門へ、
その全てを噛み砕かんばかりに穿ち抜かんとする!
「ぐぅぅぅぅ————っっっ!!」
其は速く、烈しく、猛々しく。
狂えんばかりの悪意を滾らせながら、その力を一点に集約させ、
「フン」
瞬転したシグルド、城門と魔剣が互いを削り合う決戦場へと到来。
「なっっ!?」
吹き荒れる魔力流を全身で感じながら、その右拳に万力を込めて引き絞り、
「言ったはずだ————
一直線に振り抜かれた右腕が、城門を貫かんとしている魔剣の柄頭と接触。
刹那、
焔が、爆裂。
全てを、駆逐した。
▷ □ 「マシューーーーーーーーーー!!」 □ ◁
未だ爆煙収まらぬ中へ呼び掛けても、ただ無音だけが答える。
「真似事の八割程度でこのざまか。
英霊もどきの宝具もどき。
そう考えればよくやった方か。
カカカ。
おい、どこか最高のサーヴァントだ?
▷ □ 「お前…………!!」 □ ◁
□ 「テメェ…………!!」 □
□ 「あんた…………!!」 □
「まだ…………私は、戦えます、マスター…………!!」
▷ □ 「マシ、」 □ ◁
「————ガハッ!!」
銀世界が、血に染まる。
▷ □ 「……………………え?」 □ ◁
吐き出した血を拭うこともままならない、紛れもない重傷。
盾に寄りかかり立っていることは立っているが、鮮血に塗りたくられた腹部と滴り落ちる血だまりが示すように、限界はとうに通り越してしまっている。
いかな悠久久遠の城といえども、マシュが宝具として展開するその形、未だままならない。
まるでそれは、朧なる蜃気楼のように不確か。
宝具ではない、投擲剣技としてのシグルドの魔剣を受け止めると考えれば————分が悪いはずがない、が、
カルデアの者達は現時点で気付くよしもないが…………それは、
魔剣グラムは太陽の力を持つ。
本来の
そう、
「よく立った。
————では二回目だ」
「負けま…………せん……………………!!
あなたには………………負けちゃ————、
ガハッ————ゴホッゴホッッッ、ぐぅぅぅぅ…………!!」
世界が歪み、震え出す。
それは恐怖。
まるでこれから打ち出される宝具の一撃に、滅ぼされてしまうと恐慌していく。
▷ □ 令呪を使う! □ ◁
□ 令呪を使うしかない □
□ …………それでも、 □
□ 霊基の完全回復 □
□ 宝具の強化発動 □
□ 戦闘からの撤退 □
□ 他の使い道を考える □
□ 二画を同時に使う □
円転する刃が、生物に必ず訪れる終焉を描き出し
「————ヌ?
……………………何奴?」
「…………あ…………?」
突如あらぬ方向からシグルドの後頭部へと投げつけられた刃。
当然のように防がれるも、勝負を決する剣技と令呪の行使に待ったをかけた。
衆目の視線が集まる中…………
「一つ、ひと夜に悪を斬り、」
▷ □ 「あ————!」 □ ◁
「二つ、不埒な悪者退治、」
「…………この、声は…………」
「三つ、みんな大好き可愛い娘をいじめる奴は、」
「…………ま、さ、か…………!」
「お姉ーさんが許しません」
▷ □ 「武蔵ちゃん!」 □ ◁
「新免武蔵守藤原玄信!
義によってカルデアに助太刀いたす!!」
日ノ本古今無双の双剣使いにして第一のセイバー、ここに見参。
天元の花が、北欧の雪に咲き乱れる。
(第二話へ続く)