FGO二部二章・改「狂焔之巨人王と三人のセイバー」   作:hR2

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第四話 日本で一番強い剣士は誰ですか?

 

 

 何事にも、例外はある。

 

 例えるならば、この異聞帯に乱入してきたカルデアの者達。

 

 女王の統治のもと、着実に育つ空想樹を見守るだけだったこの世界に、大きな変化が訪れようとしている。

 

 見くびってはいけない。

 

 彼女は————彼女達は、人理を滅却から救った者達なのだから。

 

 例え魔術師としての実力はこちらが上だろうとも————

 

 潜り抜けてきた死闘の経験値の方が、恐らく、いやきっと、ずっと上にあるはず。

 

 

「————それで?

 まだ何かあるのかしら?

 貴方が実体化してまで聞きたいことって、何?」

 

 

 戦果物の受領、状況の報告、彼女を傷つけるなという命令を度外視していたことへの叱責。

 

 全て終わったと思っていたが————、

 

 まさかこの剣の騎士が、()()()()()()()()()自分にそばに佇む時が来ようとは、このオフェリア・ファムルソローネ、思ってもみなかった。

 

 恐らくこれも、カルデアの到来が引き起こした例外の一つ。

 

 

 

「…………()()は、何だ?」

 

 

 

 全く何の脈絡のかけらもない言葉でもあるが、無論、誰のことかは分かる。

 

 

宮本(ミヤモト)武蔵(ムサシ)

 日本(ジャパン)という極東の島国において、十六〜十七世紀に活躍した剣士よ。

 二刀流、なんだけど、重要な対決に臨む時は武器は一つだった、という伝承もあるわ。

 男性のはずだけど————、何があったのかしら?」

 

 

「性別などどうでもいい。

 宝具は何だ?」

 

 

「……………………」

 

 

 返答を一拍遅らせる。

 

 赤い瞳は————()()()()()()輝いている。

 

 その内にあるものは正確に推し量れないが————…………

 

 

(やはり…………もう一欠片も残ってない…………。

 だからなのかしら…………。

 これほど探しているのに、()()()()の痕跡が何処にも見当たらないのは、やはりこれが原因…………?)

 

 

 

「分からない」

 

 

「…………おい————」

 

 

 その右手に、魔剣が姿を現す。

 

 しかし、紅蓮に燃えるその眼光を、マスターであるオフェリアは正面から睨み返す。

 

 

 

「少し長くなるけれど————、

 

 いいかしら?」

 

 

 

 

 

[第四話 日本で一番強い剣士は誰ですか?]

 

 

 

 

 

『是非、貴女達の意見を聞かせてもらえないかしら?

 日本という国には、著名な剣士がたくさん存在したと聞くわ。

 その中で————、一番強いのは誰かしら?』

 

 

『…………』

 

 

『…………』

 

 

『何よ、その顔?

 私、何か変なこと言った?』

 

 

『言った』

 

 

『言っちゃったわね』

 

 

『言ったよね、ペペ?』

 

 

『そこんとこを気付いていないのが、どうしようもなくギルティよ、ギルティ。

 ね、ヒナコ』

 

 

『……………………。

 ごめんなさい、理由を教えてもらえるかしら?』

 

 

『その、()()()()()()()()()()()()って、滅茶荒れる話題。

 みんんな自分の好きな剣豪が一番だって押し付けあうだけ。

 結論は出ないし、生産性ゼロね、悪いけど』

 

 

『なら、サーヴァントとして召喚して戦わせれば?

 揃えるのは大変だろうけど、それなら誰が最強か分かるはずでしょう?』

 

 

『あーーーーーん、オフェーーーリアー〜ー。

 どうして貴女はそうオフェリアなのかしら?

 どうしちゃえば、そう連発で! ヒナコの地雷をカチカチっと踏めちゃうのかしらねぇ。

 貴女の眼、もしかしてバッドラックを引き寄せる呪いとかないわよね?』

 

 

『ぺぺの茶々はいつも通り置いといて————、

 それ、意味ないよ。

 サーヴァントとして召喚された時点で、存在が英霊へ昇華されてるから。

 生前なら到底できなかったことが、できてるようになってるはず。

 そうだね…………縮地かな』

 

 

『縮地?』

 

 

『縮地??』

 

 

『中華にも日本にあるけど、()()()()、身体の操作技法の一つ。

 まるで大地を縮めているかのように、動くこと。

 例えば、こう、二歩、左前、左前、ってすすっと歩くとするでしょ?』

 

 

『圧倒的にエレガントさが足りないわね。

 悪いけれど、芸術点はあげられないわよ』

 

 

『はい、外野は黙って。

 で、

 私じゃ上手くできないからそこは勘弁してね。

 

 一歩目を動いたのに、上体を後ろに残しておいて————

 二歩目で、一気に前に持っていく』

 

 

『80点!

 その頑張りに、ペペロンチーノ先生は合格点をあげちゃいます』

 

 

『………………つまり、上半身を注視させて、下半身の足運びから目を逸らすのね。

 上半身から想定する下半身の位置は、相手が思うよりも前にあるのだから、

 二歩目で上半身を正常な位置に戻せば、相手からすれば急に飛んできたように錯覚してしまう。

 その距離の急激な変化が、相手からすると、さっき貴女が言った、空間を縮めて動いたように見える————

 

 で、いいのかしら?

 その、縮地というの?』

 

 

『うん、そ。

 今の私の説明でそこまで分かるなんて、流石オフェリアね。

 考えてみて、この縮地の達人って剣豪がいたとするでしょ?

 そいつはどんなセイバー?』

 

 

『そうか、そうよね…………。

 その伝承が昇華され、空間跳躍を自由自在に扱うセイバーとなる。

 そんなこと、生前はできなかったはずなのに』

 

 

『私達魔術師が一回飛ぶのにどーーれだけの労力とコストを払っているとしても、

 英霊さんはぱぱっとやっちゃうんでしょうね。

 

 だからと言って、ヒナコ、貴女のいうことも大概でしょ?』

 

 

『そうかな?

 本当の一番を決めるなら、それしかないよ』

 

 

『現実性を考えなさいって。

 うーーーんーーーー、なんだったかしら、こういう時の日本のコトワザ?』

 

 

『…………絵に描いた餅?』

 

 

『そう、それよそれ!!

 あーーーーーん、オフェーーーリア、その的確さ、惚れ惚れしちゃう!

 貴女はやっぱりオフェリアなのね』

 

 

『え、ええと…………。

 ヒナコ、貴女の案って?』

 

 

『この子、どうにかして時間旅行しちゃって、全員拉致って残り一人になるまでデスゲームとか言い出すのよ?

 この世界からラーメンが絶滅しちゃうぐらいありえないでしょうに』

 

 

『なるほど…………。

 でも、ヒナコの言う通り本当の一番を決めるなら、そんな手を使うしかないのね。

 

 誰が一番強い剣士だったか、誰が一番強いセイバーになれそうか————。

 

 考えれば考えるほど、深みにはまる。

 まるでダイダロスの作った迷宮のようね。

 礼を言うわ、二人とも』

 

 

『ん』

 

 

『お安い御用よ』

 

 

 

『それはそれとして、それで二人は誰が一番だと思うのかしら?

 間違ってても構わないから、貴女達の意見を聞かせてもらえない?』

 

 

 

『…………戻った』

 

 

『…………戻っちゃったわね』

 

 

『うん、オフェリア』

 

 

『ええ、オフェリアですもの』

 

 

『そのやりとりには賛同できないけど…………。

 ヒナコ、貴女は誰だと思う?

 貴女の意見を、是非聞きたいの、私』

 

 

『私の、か』

 

 

『それはもう、断っ然! 宮本武蔵ちゃんに決まってるじゃない!』

 

 

『うわー、恥ずかしいほどに丸出しちゃん』

 

 

『だまらっしゃい。

 アンタの推しメンの上泉のぶニャンなんて、うちの武蔵ちゃんが二刀流でボコるわよ?』

 

 

『ぺぺは、宮本武蔵?

 五輪書(The Book of Five Rings)の?』

 

 

『読んだことある?』

 

 

『ええ、勿論。

 あの時代の刀剣の決闘を生き抜いた人間が書いたものですもの。

 当時の斬り合いのリアルを知る上で、とても為になったわ。

 日本語は…………かなり手こずったけど』

 

 

『そっか。

 オフェリア、セイバー志望だったね。

 あのレベルの本は————』

 

 

『他にないわ。

 神話伝承の類なら見つけられないこともないけど、

 魔術的要素が全くない、純然たる剣士の本としては、世界最高だと思うわ。

 それが秘蔵されているんじゃなくて、売り物なんてね。

 日本という国に感謝しましょう』

 

 

『もっと褒めて、もっと褒めて! もォォォォォォォォっと褒めちゃっていいのよ!

 その溢れんばかりの武蔵ちゃん愛を発揮しちゃって!!

 

 …………さーーーーーーって、と!

 

 武蔵ちゃんを一位に押す人間を、ニワカ! と痛い暴言吐いちゃうヒナコ大々々先生の講義が始まり始まり〜』

 

 

 

『ま、ありきたりでごめんだけど。

 一位、上泉信綱。

 二位、沖田総司。

 三位、宮本武蔵』

 

 

『ええと…………ヒナコは上泉信綱(カミイズミ・ノブツナ)、が一位なのね』

 

 

『違う。

 一位、上泉信綱。

 二位、沖田総司。

 三位、宮本武蔵。

 この三人が私の思う、日本で一番強い剣豪の、第一位』

 

 

『……………………。

 ……………………ぺ、ぺ?』

 

 

『ほーら、だから言ったでしょ?

 この話題は、パンドラの箱なんて目じゃない()()()()()()なのよ。

 迂闊に触っちゃったら、もう爆死しかないの。

 ギルティなのよ、ギルティ、誰がどうやってもね。

 安心なさい、私も一緒に吹っ飛んであげるから』

 

 

『あ、ありがとう、ぺぺ。

 …………あなたに真剣にお礼を言う日が、まさか来るとはね…………。

 それで…………ヒナコ、解説を、お願い。

 私にも、分かるレベルで、ね』

 

 

『一位、上泉信綱。

 理由は単純。

「剣聖」という肩書にふさわしい剣豪は、上泉信綱以外考えられないから』

 

 

剣聖(ソード・マスター)?』

 

 

『うん。

 強かったエピソード、凄かったエピソードは探せば色々出てくるけど、そういうのは全部カット。

 上泉信綱の真価はそこじゃないから。

 この人はね、弟子がすごいの』

 

 

『え?

 本人じゃなくて、弟子?』

 

 

『そ。

 自流を打ち立てた人がわんさか。

 

 柳生新陰流、柳生宗厳。

 疋田陰流、疋田景兼。

 タイ捨流、丸目長恵。

 後に直心影流の系譜となる、神影流、奥山公重。

 この人は元々やってたけれど、宝蔵院流槍術、宝蔵院胤栄。

 駒川改心流、駒川改心。

 

 孫弟子も入れるとなると————

 

 江戸柳生、柳生宗矩。

 示現流、東郷重位。

 

 一応入る、と思う、夢想流、上泉秀信。

 ならこっちも入る、かな? 民弥流居合術、民弥宗重。

 

 日本の戦国と呼ばれる時代に沢山の武術・剣術が勃興したけれど、

 上泉信綱に師事して日本の剣術史の最前線に躍り出た人達が、列をなしている。

 

 はっきり言って、これは異常。

 教え子達の、質と数。

 後にも先にも、こんな人は上泉信綱しかいない』

 

 

『へぇ』

 

 

『剣術も魔術も、次世代に伝えないとダメでしょ、どれだけ自分が進められたかを。

 そうやって、人間は脈々と技術を発達させてきた。

 根源に行けなかったら、自分の足跡を加えて次に託す。

 例え根源に到達できたとしても、到達した証は自分一人で終わっていいものじゃない。

 

 だから、私は、たった一人だけしか剣聖と呼べる人がいないとすれば、

 

 ——————この人、上泉信綱。

 

 アーサー王伝説の魔術師マーリンを、王の導き手(キング・メイカー)だとするならば、

 

 上泉信綱こそは剣の教え手(セイバー・メイカー)、日ノ本におけるただ一人の剣聖(ソード・マスター)

 

 

『そこんとこは、武蔵ちゃんファンの私としても認めてあげなくもないのよね』

 

 

『武蔵流は弟子が寂しい、と言われちゃうとね』

 

 

『だいたい、それが間違っているわけなの。

 武蔵ちゃんを剣士という枠で測ろうとするからおかしいんじゃない。

 武蔵ちゃんは、武蔵ちゃん。

 ナンバーワンでオンリーワンの武蔵ちゃんなの!』

 

 

『全力で同意かな。

 上泉信綱と宮本武蔵を剣士という同じ秤で測るのは、確かに変。

 武蔵は、その枠だと余裕ではみ出てるから。

 だからこそ武蔵論争は、常に大荒れなんだけど。

 

 あと一つ、忘れちゃいけないのが、

 武蔵非名人説、ってのがある』

 

 

『え————?

 武蔵が非名人?

 どうして?

 私の知る限り、日本で最も多く決闘をして勝った人でしょう?』

 

 

『いちゃもん、に近いけど、結構根が深い。

 フィクショナルな逸話が膨らみすぎて、そのエピソードはおかしい、嘘だ嘘だ、雑魚ばかりと戦って勝っただけだ、ってもう大変。

 武蔵は好きな人は好きだけど、有名すぎるからアンチも多い。

 有名人料みたいなものだと思うけどね。

 

 とにかく私は、一位上泉信綱』

 

 

『上泉、信綱————。

 ありがとう、勉強になったわ。

 

 では次は、ええと、なんて、言えば————いいの、かしら…………?』

 

 

『二位、沖田総司。

 理由は超簡単。

 この人、()()()()()()()()と伝承される得意技を持ってるから』

 

 

『必ず、倒した…………?

 ゲイボルグと似たようもの?』

 

 

『大違い。

 ゲイボルグは、魔術要素を含む呪いがベースでしょ?

 沖田総司の得意技、三段突きは、私の調べた限り、純粋な剣の技。

 それなのに、()()()()()って必殺の太鼓判を押されてる。

 日本で剣士・剣豪といわれる人は大勢いるし、剣術流派、武術流派はそれこそ腐る程あるけれど————、

 

 その中で()()を謳われているのは、沖田総司の三段突き()()

 

 ま、抜けがあるかもだけど』

 

 

『剣士としての技量で実現させた必殺の得意技が、セイバーの宝具として昇華するのね。

 ——————、これは、みものね』

 

 

『だって、ぺぺ』

 

 

『ごめんなさい、ヒナコ。

 あなたのほっぺ、グニャングニャンに引っ張っちゃっていいかしら?

 なんだかすっごく、私にいじめられたそうにしてる』

 

 

 

『宮本武蔵は無いの?

 沖田総司の三段突きみたいな伝承を持つ技は?』

 

 

 

『……………………』

 

 

『……………………』

 

 

『だから何かしら、この空気とその顔?』

 

 

『私、予防線張ったつもりだったのに』

 

 

『負けない、負けない、ええ負けないわよ…………!

 武蔵ちゃんへの愛は、こんなところでくじけたりしないもの…………!』

 

 

『ちょい強引に話題戻し。

 私が沖田総司を押すのは、剣士(ソード・ファイター)として一番強いと思うから。

 上泉信綱は先生の立場が強いかな。

 

 とはいえ、沖田総司、この人間違いなく、病弱ってスキルがつくはず』

 

 

『総ちゃんは、結核で早死にしたって言われてるわね。

 仲間と一緒に敵陣へカチコミかましてる最中に大量吐血で気絶した、なんて話もあるのよ』

 

 

『沖田総司=三段突き、じゃなくて、

 沖田総司=結核で病死、だから。

 セイバーとして召喚できても、血を吐きまくって戦いどころじゃない————、

 そうならないとは言い切れない、それが怖い』

 

 

『長期戦は難しくても、短期決戦の宝具の打ち合いならば————活路はありそうね』

 

 

『そしてここでやっと武蔵の登場』

 

 

『ぶーぶーぶーぶーぶー。

 おーそーいーでーすー。

 はーい、オフェリアちゃんも一緒に、』

 

 

『…………………………………………』

 

 

『ごめんなさい、悪いのは私』

 

 

『三位、宮本武蔵。

 これも理由は簡単なんだけど、

 この人、二刀流で間違いなく日本最強だから』

 

 

『?

 どういうこと?』

 

 

『私、刀一本と刀二本は、()()()()()()()()()()()()()

 どっちが強い、じゃなくて、そもそも比べられない。

 

 短距離速い人は、短距離で足速い人、

 長距離速い人は、長距離で足速い人。

 どちらも同じ足速い人で、短距離の方が偉いとかないでしょ?

 

 ()()()()()()()()のが、()()()()』。

 ()()()()()()()()()()()()使()()()のが、()()()()

 ()()()()()()()()のが、()()()()

 

 だからこの三人が、日本で一番強い剣豪は誰か、というオフェリアの問いへの私の答え、

 

 ————かな。

 

 私も五輪書大好きだから武蔵プッシュしたいけど、それはぺぺにお任せ』

 

 

『それで、ヒナコは三人なのね。

 ……………………貴女、喋る、のね?

 貴女がここまで長いこと喋るの、私、初めて聞いた』

 

 

『ん?

 必要になったら、そりゃ喋るよ。

 口はあるし、発声機能もあるから。

 無駄なことを喋るのが、嫌なだけ。

 静かな方が好きだし』

 

 

『普段は本ばっか読んでるフリしてお高くとまってるのよね、ヒナコは。

 私達のカルデアAチーム女子会にも、毎っ回っ、誘ってるのに来てくれやしない。

 アンタの化けの皮、私が絶対剥いでやるから覚悟しときなさい』

 

 

『フリじゃなく、読んでます。

 ご飯は一人で静かに食べたいだけ。

 隙あらば私を邪魔しようとする、フェノスカンディア・カルボナーラさんが一緒なのはちょっと』

 

 

『…………屋上?』

 

 

『寒いからパス』

 

 

 

『でも、やーっぱりね、私どうにも納得できないのよ、前にも言ったけど。

 アナタの論法で行くなら、剣一本で一番強いのは総ちゃんじゃないの?』

 

 

『それは前にも答えたけど、ヨーダとメンスどっちが強いって言われたら、

 そりゃヨーダ。

 ジェダイ最強のセイバーは、私はヨーダ。

 だってヨーダだから』

 

 

『だ、か、ら! そ、の、論、法、な、ら! あのイケメンの方が上じゃない!

 私の知る限り、そういう設定でしょ! そ、う、い、う、設、定!!』

 

 

『…………つまりヨーダ?』

 

 

『違うわよ!!

 サミュエル・L・ジャクソンにそっくりなイケメンの方よ、イケメン!!』

 

 

『それはヨーダだよ、ヨーダ』

 

 

『髪あるでしょ、髪!!!

 メンスはない人! ヨーダお爺ちゃんはある人!!

 いい加減ヨーダから離れないと、アナタの髪型ヨーダにするわよ!?』

 

 

 

『そのヨーダって、セイバーのクラススキルか何か?』

 

 

 

 

 

 

 

『……………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

『……………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

『だから、何?

 私、何かまずいこと言ったかしら?』

 

 

 

『………………ペペ、』

 

 

『………………聞くしか、ないわよね、こうなったら』

 

 

『………………嫌な予感しか、しないけど?』

 

 

『………………でも、これを知らずして人理の何が分かってるのか、そういうことでしょ?』

 

 

 

『ねえ、オフェリア、』

 

 

『いいかしら、オフェリア、』

 

 

『だ、だから、何??』

 

 

 

『いくね?』

 

 

『いくわよ?』

 

 

『え、ええ、ど、どうぞ…………?』

 

 

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

 

 

『——————は?

 ウォーズ? トレック?

 ごめんなさい、さっきから貴女達が何を言っているのか、私にはさっぱ、』

 

 

『ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!

 ファックファックファックファックファックファックファックファックファックファックファック、ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

 ああ! もう! 驚きのあまり一秒間に十一回もファック言っちゃったじゃないのよ!!』

 

 

『これはまずい。

 マシュはしょうがないけど、違う方向でまずい。

 オフェリアは、やっぱりオフェリアだったか』

 

 

『…………ごめんなさい、

 せっかく私の頼みを聞いてもらっているのに、失礼なこと聞くかもしれないけど、

 もしかして貴女達、私のこと、馬鹿してる?』

 

 

『謝らなきゃいけないのは私達の方。

 その答えは、イエスなんだもの————、

 

 だって、

 

 そーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーでしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーうが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 スタートレックを知らないで、貴女は人理の何を分かった気になっているのよ!!!

 

 人類のこれまでの発展と歴史っていうのは、それこそスタートレックシリーズの発展のことじゃない!!!!!!

 

 人理=スタートレック、

 スタートレック=人理!!!!!!

 

 脈々と続く人理の流れを、ぎゅぎゅっと凝縮してエンタメへと昇華しているのが、すたーーーーーーートレック!!!

 

 ウォーズでは、ありません!!!!

 繰り返しまぁぁす!!

 ウォーズでは、ありまーーーーーーーーーーーーーーーっせん!!

 

 これが真理、永久不変の絶対変わらないただ一つの真理!!!

 私達魔術を志す者が目指さなければいけない到達点こそ、

 

 そうよ、そうなのよ!!!!

 

 スタートレックに、きちんと表現されているんですから!!!!

 

 私達カルデア、何をする人?

 

 人理を守る人、すなわちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 スタートレックのシリーズを永遠に続けさせる人たち!!!

 

 2009年から始まったケルヴィンタイムラインを、ダークネスで終わらせない人たち!!

 

 2016年に、ビヨンドを!! 絶対!! 何が何でも!! 完成させて!!!

 アメリカ初日に!! 最前線で見る人!!!!!!!

 

 行くのよ、私達は——————!!!

 

 そう!! 宇宙という、最後のフロンティアへ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

『…………今の話、もしかしなくても————、

 真面目に聞かなくて、よかった?』

 

 

『それを、聞いてしまう?

 そこのペペさん、トレッキーさん。

 見てよ、オフェリア、超ドン引き。

 恥ずかしー』

 

 

『そんなこと言ってる場合っっっっっっっっっっっっっっっ!?

 私には、信じられないのよ!!

 この地球に住む五十五億の全人類!!

 生まれて一週間も経てば、ウォーズ・オア・トレック? イエス、トレックって! みんなちゃんと喋るでしょうぅぅぅッッっ!!

 なのに、どうしてぇぇぇぇぇぇ、未だにトレックを知らない人がいるのよォォォォォォォォォォ!!!!????」

 

 

『………………。

 ごめんなさい、確かに知らなかったのは私の過失みたいね。

 貴女のいう、とれっく? が何なのか未だに見当もつかないけど————、

 今夜中に全ての調査を終わらせると、ファムルソローネの名にかけて約束するわ』

 

 

『もはやどこをどう突っ込めばいいのやら。

 

 あ————。

 

 おーい、マーーーシュ、マシューーーーー。

 

 こっちこっち』

 

 

『皆さん、お揃いで。

 どうされたのですか?』

 

 

『…………』

 

 

『きゃー、マシュちゃー〜ん。

 今日も素敵な髪がお綺麗よ、とっても』

 

 

『はい、どうも』

 

 

 

『いく?』

 

 

『じゃあ、いくわよ』

 

 

『…………?』

 

 

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

 

 

『————?

 ウォーズです』

 

 

『やりー』

 

 

『ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ!?!?

 なんで、なんで何で何でなんでなんで、ねぇなんでどうしてなのかしらッッッッ!!??

 

 はっ————!!!

 

 分かった、マシュちゃん人質を取られているのね!

 

 汚い! さすが忍者の末裔日本人っぽい名前!! 汚すぎるわっ!!

 

 あんなにふわふわもこもこキュウキュウのフォウちゃんを誘拐するなんて————!!

 

 私が一番したいのに、それっっっ!!!』

 

 

『日本人を見たら、全員忍者か侍か芸者的発想は流石に?

 人口比率を考えたら、農民がだんとつ一番』

 

 

『そのですね、

 先日、ヒナコさんのお部屋にお泊りさせていただいた時、スターウォーズを観せていただきました』

 

 

『え……………………………………っっっ!?』

 

 

『あら、ヒナコさぁぁん?

 私に抜け駆けして布教活動とか、いい度胸しちゃってるじゃない。

 明日の太陽が上がる様、もう絶対に拝めないわよ?』

 

 

『人聞き悪いなぁ、ぺぺ。

 人の歴史の勉強がしたい、って言われたから、人理の中で最も輝かしいエンタメ作品を紹介しただけ。

 解説あった方がわかりやすいから、部屋に呼んだだけ。

 全部見てたら朝になっちゃったから、お泊りになっちゃった、それだけだけど?』

 

 

『だったら何で、クルクル剣術なんか見てるのかしらねぇ?』

 

 

『もちろん、

 小難しい物理の話されるより、ジェダイかダークサイドかって方が分かりやすい(面白い)から』

 

 

 

『………………泊まったの、ヒナコの部屋に………………?』

 

 

『?

 はい』

 

 

『………………あら、そう、そうなんだ………………』

 

 

『?』

 

 

『マシュちゃん!

 トレックは!? トレックは一体どうしたの!?!?

 トレックは、ノーチャンスでフィニッシュなの!?!?!?』

 

 

『いえ、シリーズが沢山あることは知っていますが、

 なにぶん数が多すぎて、全て見るには、膨大な時間がかかってしまいます』

 

 

『あーら、大丈夫。

 そんなマシュちゃんのために、スタートレックの新シリーズ!

 これは映画二本しか出てなくて、五時間もあれば全部見れるわ!!』

 

 

『それは、』

 

 

『マシュ、クローンウォーズ見る?』

 

 

『え? それは、なんでしょうか?』

 

 

『エピソード2と3の間の出来事のCGアニメ。

 メンス、超かっこいいよ』

 

 

『————!

 是非』

 

 

『ストォォォーーーーーップ。

 今の紳士淑女協定違反は何かしら、芥ヒナコ?

 いい加減しないと、仏のペペロンチーノさんもブチ切れて、アンタをばらっばらのミートソースの塊にするわよ?』

 

 

『…………見たいもの、見せてあげればいいんじゃん。

 つまり、

 ノー・トレック、イエス・ウォーズ。

 ノー・トレック、イエス・ウォーズ。

 ノー、トレック、イエス、ウォーズ』

 

 

 

『ヒナコ、

 アンタ、今夜サーヴァント召喚しなさい』

 

 

 

『え、ペペさん?』

 

 

『——————』

 

 

『明日の正午丁度、トレーニングルームでガチるわよ。

 アンタの思う、最強のライダーをちゃんと召喚しとくように。

 

 私のアーチャー、悪いけど、絶対に負けはないと宣言しておくわ。

 

 ああ、所長には私が言っておくから安心して、

 

 芥ヒナコは、トレーニング中の不慮の事故で死亡しました、ってね』

 

 

『なんでもいいけど。

 

 ぺぺには悪いけど、私————、

 

 例え地球上からトレッキーが絶滅しても、流してあげる涙、一滴もないから』

 

 

『フン。

 そのお馬鹿な勘違いをする救えない貴女へ————、

 

 とっておきの、真紅の死葬礼装(レッド・コスチューム)をプレゼントしてあげるわ!!』

 

 

『そんなネタ、トレッキーにしか伝わらないから』

 

『キィィィィィィ! お黙り!!』

 

 

 

『オフェリアさん、どうすれば?』

 

 

『え、何?

 私?

 私に、聞いてるの?』

 

 

『はい。

 このままだとお二人がとんでもないことになってしまいそうです。

 どうすれば、いいんでしょうか?』

 

 

『私、私、私に、聞いてるのね………………私に………………。

 コホン、そうね————。

 

 ここは公平に行きましょう。

 

 今夜はぺぺのところで、すたーとれっく? の新シリーズ映画を。

 明日はヒナコのところで、くろーんうぉーず? のCGアニメを。

 

 明後日以降は、流動的に。

 今から予定を組んでも、とれっく? と、うぉーず? を見てからのほうがいいはず。

 

 ルールは一つだけ。

 うぉーずを見たら、とれっくを見る。

 とれっくを見たら、うぉーずを見る。

 どちらか一方に偏ることはないようにする————

 

 これで如何かしら?』

 

 

『それよ!』

 

 

『それです』

 

 

『ん、オフェリアだ』

 

 

『ありがとうございます、オフェリアさん。

 オフェリアさんのおかげで、ぺぺさんとヒナコさんが戦うのを止めることができました』

 

 

『あ、あらそう…………?

 べ、別に、大したことは、し、してないけど…………』

 

 

『なんだし、もうこうなったら四人一緒に見る以外の選択肢は、ないわね』

 

 

『…………え?』

 

 

『……………………えー?』

 

 

『はい』

 

 

『ヒーナーコー、アンタはとりあえず強制参加。

 なんなら、アンタの部屋、爆破してでも引きずり出すわよ。

 一緒に見るか、お茶会に来るか、さあどっち!?』

 

 

『……………………。

 ならトレック見る方がまだましかな』

 

 

『あーらら、私、気付いちゃった。

 もしやこれ、カルデアAチーム四人娘、初の全員参加イベントになりそうじゃない?』

 

 

『あ————。

 そう、なると思います』

 

 

『そこはかとない不安を感じるのは私だけかしら?』

 

 

『第一回を前に内紛で空中分解しそう』

 

 

『んー、んー、んー、んー…………。

 四人、四人、四人————。

 四大天使、四天王、四聖獣、四将軍————。

 ピンとこない、どれもダメ、んーんーんー…………』

 

 

 

『————三銃士』

 

 

 

『ん?』

 

 

『?』

 

 

『え?』

 

 

『この四人なら、三銃士。

 マシュがダルタニアン。

 私達は残り三人』

 

 

『それ、いただき!』

 

 

『三銃士?

 なら————…………』

 

 

『自分が誰とか考えなくていいよ。

 オフェリアが言った通り、流動的のがいいし』

 

 

『来た来た来た来た!

 んもーーーー、テンション上がってきちゃったわ!

 はーい、円陣ーーーーっっ!!」

 

 

『え? 組むの? 冗談でしょ————って、うわっ!?』

 

 

『やる流れ、なのね、やる流れ。

 あ————っ…………』

 

 

『隣、失礼します、オフェリアさん』

 

 

『え、え、え、ええ………………』

 

 

 

『私達、カルデアAチーム三銃士、絶対に見るわよ』

 

 

 

『何を?』

 

 

『私もそれを問いたいけど…………。

 諦めましょう、ヒナコ。

 私達にはもう、頷くしか道はないわ』

 

 

『民主主義の二十一世紀に、なんという横暴。

 カルデアって、帝愛グループから資金提供受けてたっけ?』

 

 

『2016年! 新シリーズ三作目!!

 ハリウッドの最前列!! 私達四人娘三銃士が! 完全占拠、しちゃいますっっ!!』

 

 

『はい』

 

 

『……………………はい』

 

 

『はぁ、はい』

 

 

『四人全員で行くわよ?

 宇宙という、最後のフロンティアへ!!

 私達人類の最後の希望、U.S.S.エンタープライズNCC-1701=カルデア号に乗って!!!』

 

 

『はい』

 

 

『……………………はい』

 

 

 

『はぁぁぁぁ、はい。

 

 ————うん。

 最後ぐらい、ちゃんとしよっか。

 

 私達の進む未来に、』

 

 

 

『————未来に!』

 

 

『未来に』

 

 

『……………………未来に』

 

 

 

 

 

『フォースが、共にあらんことを』

 

 

 

 

 

『ヒナコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——————と、いうわけなのよ。

 分かったかしら?」

 

 

「まるで要領を得ん。

 つまり何だ?」

 

 

「宮本武蔵の伝承を紐解けば、宝具となりそうなのは三つ。

 一つ、宿敵佐々木小次郎を倒した時の、一撃。

 ただしこの決闘、不明な点が多すぎる」

 

 

「違うな。

 ()()()()()()()()をあの双剣使いが己の切り札とするはずがない。

 次」

 

 

「二つ、一寸の見切り。

 武蔵の記した五輪書で言及されているもの。

 敵の間合いを正確に把握し、最小動作で躱す————そのギリギリが一寸、およそ三センチ。

 急所となるポイントを数センチ外してのカウンターね」

 

 

「………………違う。

 それは宝具でも、サーヴァントとしてのスキルでもない。

 奴は、ただ自然にできていた、そのギリギリの見切りを。

 三センチだと? コンマ三ミリの間違いだろう、それでも大きすぎるぐらいだ。

 呼吸と同じように、できていたとも。

 ()()()()()()()()()()を、誰がありがたがる?」

 

 

「なら、最後かしら。

 三つ、空。

 これが、一番厄介」

 

 

「聞かせろ」

 

 

「そうね、まず空っていうのが、」

 

 

「座りすぎて拗らせた屁理屈男のたわごとだろう?

 無、空、それぐらい知っている」

 

 

「意外、ね」

 

 

「だろうな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「——————っ」

 

 

「だってそうだろう?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 フン、知らぬわけがなかろう————、この、オレが。

 オレが入る空はそれだが、奴の空は、何と謳う?

 あの境域をどう表現しているのか、気になる」

 

 

「それが、厄介な点。

 

 五輪書とは、十七世紀に宮本武蔵自身によって書かれた文章をまとめた五巻の書物。

 色々な方面へこの五巻の写本が伝わっていたのだけれど、写本の伝搬系統によって差異が多い。

 誤字脱字は当たり前。

 写本同士を比べたら、まるで違うことが書いてるあるものまであったわ。

 時代を考えれば、しょうがないわね。

 

 まるで、魔術師同士(私達)()()()()()()()の証拠提示合戦を見ているようで微笑ましかったわ。

 だって()()()()()()()()()()()()

 

 

「無駄な感想など不要。

 結論だ」

 

 

「では、私の結論だけ。

 五輪書は未完成品。

 最後の空之巻を書き上げる前に、宮本武蔵は病死した」

 

 

「待て。

 お前はその空が宝具の可能性があると言わなかったか?」

 

 

「ええ、言ったわ、それが?

 …………いいかしら、結論以外を言っても?」

 

 

「フン」

 

 

「その中のある一派、気になる伝承方法をしていたの。

 その他大勢と比べるとここだけだから、異端といえば異端ね。

 

 その派ではこうしている————、

 

 空之巻の序論を書いたところで、宮本武蔵は力尽きた。

 

 そしてこの派の継承者は、自分が考える空について、その後に付け加えた」

 

 

 

「付け、加える、だと?」

 

 

 

「未完だからこそ、自分達で————そんな心持ちでしょうね。

 ずいぶん大きく出てるでしょう?

 

 そうして出来上がったのが、宮本武蔵の空論に始まって、

 二代後継者の空論、三代目、四代目とずっと続く、

 宮本武蔵の剣を使う者達が考えた、空についての一大論文集。

 

 自分の剣境が高いか低いかが、一目瞭然。

 だって比べられるのは、宮本武蔵の空だから。

 末代までの恥だし、自分の次が下手なこと書いてたら————

 どんな指導をしていたんだと、やっぱり恥。

 

 貴方と戦った女性が、私が調べた五輪書を書いた人物なのかどうかは分からないけど…………

 

 もし、本当の作者が、あの五輪書達の惨状を全部見たとして————、

 唯一不許可を出さないものがあるすれば、間違いなく、これだけよ。

 

 武蔵が辿り着いた空という境地————

 それは、武蔵の剣士達によって書き続けられ、積み重ねられ続けていく、

 その在り方が、宝具になるかもしれない、そう思うの」

 

 

「はまった。

 全て、合点がいった」

 

 

「………………えっ?

 分かったって、どこまで?」

 

 

「議論は好かん。

 結論だけ言う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「——————え……………………?」

 

 

 

「まず宮本武蔵。

 恐らく世界はそのあり方をこう定義しているはずだ、

 

()()()()()()()()()()()()()()』————とな。

 

 他にもいくつか言葉が続くが、基本はこれだ」

 

 

 

「…………何を、言っているのか?

 あの宮本武蔵は魔術なんて、」

 

 

「使わない?

 フン。

 オレに言わせれば、剣も魔術も何もかも、突き詰めるところまで行ききってしまえば、全て()()に行き着いてしまう。

 お前ら魔術師達が何故か有り難がる、根源というやつに」

 

 

「……………………」

 

 

「奴の剣へ、オレは、()()()()()()()()()魔剣(グラム)を叩き込んだ。

 限定解除はされていなかったがな、三つ、あの時点での()()()()()だ。

 だがその三つ全て、奴の右の一刀に弾き飛ばされた。

 その威力に、オレは、後ろに、下がらされた。

 あの痺れ…………決して忘れられん」

 

 

「————!?

 待ちなさい、空といえば日本剣術の中で最高位とされる剣境よ?

 貴方が隠していたのは不問に付すわ。

 限定状態の貴方では、太刀打ちできないということね」

 

 

「違う。

 例えあの時、最終解除までされていたとしても、()()()()()()()()()()()()

 限定解除を最終段まで進め、霊基状態を最終段階まで進化させる、確かにそれはサーヴァントとしての戦闘力を飛躍的に向上する。

 だが、()()()が、都合よく上がってくれるわけなかろう?

 あの宮本武蔵は、俺の上の上まで行っている、それだけだ」

 

 

「————えっ…………!!??

 本当、なの……?」

 

 

「オレは空から先に行く必要がない、燃やしてしまえれば、良いのだからな。

 宮本武蔵の剣こそは、()()()()()()()()()()

 だから分からなかった」

 

 

「…………………………」

 

 

「全ての無駄を削ぎ落とし、ありとあらゆるものまで限界を超えて削り落とす。

 それが奴の剣の基本骨子。

 ある意味、一芸だけを極め続けている。

 

 なるほど。

 それでもなお残るものがあるのなら————、

 

 極限以上に研ぎ澄まされたその剣は、二つと無い、唯一無二の一なる処、つまり根源へと至るに足りる————可能性を有す。

 

 だが、()()()()()()()()

 

 削って終わって、()()()()()()()()()ら、どうする?

 俗な言だが、回り道をした方が、という奴だ。

 

 あるのは、頑張りましたけど駄目でした、という惨めな己だけ。

 カカカ」

 

 

「…………………………」

 

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()()、確実に至るとは言えんはずだ。

 宮本武蔵のそばで、技か、アイディア、何でもいい、

 

 ()()()()()()()()()()()がなければ、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()がなければ、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がなければ、

 

 奴は、至れない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 要らぬのなら、奴が削る。

 

 ()()()()()()()()は、奴が元々持っててもいい。

 それか、()()()()()()()()()はずだ。

 

 例えそれを奴が削り落としまっても、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな剣の()()()がいるのであれば————、

 あの双剣は、根源すらも通り越し()()()()まで、行ってしまうかもしれんぞ?

 

 カカカ、それは到底無理だな。

 あのカルデアの塵蟲どもなら、百度生まれ変わっても無理だろう。

 

 例えフレイとテュールが雁首付き合わせたとて、

 あの宮本武蔵の剣を前に、所詮奴らにできるのは無様極まる敗北宣言だけだ。

 せいぜい、『嗚呼、キミという剣の華は実に美しい』、とぬかすぐらいだろう。

 カカカ」

 

 

「その、何か、が空之巻の追加記述だっていうの?」

 

 

「然り。

 どうせその書の著者は宮本武蔵となるのであろう?

 別に大したことが書かれてなくて良い。

 赤子の手が、新たなる剣界を開くものだ。

 足し続けるものがあること、それが奴にとって肝要」

 

 

「でも…………そんなの、私は認めない…………!

 認められるわけ、ないわ………………!!

 確かにあのセイバーは強かった、強すぎると言ってもいいくらい!

 でも、でも————!

 私が思う根源という場所は、そう簡単に行けるような処じゃない…………!!」

 

 

「だろうな。

 オレの言ったのは、ただの妄想。

 あて推量。

 やまかん。

 根拠などない。

 ただ()()()()()()()()という話のだたの垂れ流し」

 

 

「……………………ッッッ!!」

 

 

「カカカ。

 睨む代わりに一つ答えろ。

 お前達クリプターとやらの企みが、全て成功したと仮定しろ。

 最終局面の際まで、一つ残らず成功したとな」

 

 

「……………………私、さっきみたいな冗談は、嫌いよ?」

 

 

「カカカ。

 

 いいか、

 そうなれば、間違いなく宮本武蔵は逆側に立つ。

 

 そこで尋ねる、

 

 ()()()()()()()に————、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は————()()()?」

 

 

 

「        」

 

 

 

 

 

 

 

「クククククククク!!

 

 ああそうだ、オマエはまだこんな手を使うのか!!

 

 抑止の輪だの綺麗事をほざきよるが、その実ただの奴隷の捨て駒!!

 

 死にたくない、死にたくないと、糞尿撒き散らしながらに泣きわめく!!

 

 星の運命すらも弄ぶ傲慢!! そうであって当然と何ら省みることのないあり方!!

 

 その通りだ!! オマエは何も間違っていない!!

 

 オマエがいなければ、何もないのだから!!

 

 全てのモノは、オマエを活かす為に存在していなければならない!!

 

 良いぞ良いぞ、実に良い。

 

 その甘えきった態度、実に、良い!!

 

 見ろ…………皮を被り縛られているはずが、オレの焔が出てきているぞ!!

 

 ああ、まずいなぁ…………オマエを思えば! オレの焔! オレですら止めらん!!

 

 今度の()()は、いつもながら、実に手が込んでいる!!

 

 怖いのだろう、恐ろしいのだろう、震えているのだろう!!

 

 ああそうとも、オレだけではないのだからな!!

 

 オマエを殺し、蹂躙し、犯し尽くせるモノは、オレだけに、あらず!!!

 

 兵器が何を思い、剣を磨き、技を高め、誰かの力を借りながら、遂に達し————

 

 オマエが描いた通りに、一回限りの捨て駒として、オマエのために、死んでくれる。

 

 ああ、そうだとも————オマエは何も、間違ってはいない。

 

 

 

 だからこそ、オレは、世界(オマエ)殺し(燃やし)たくてたまらないのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終焉が、

 

 焔となって燃え上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第五話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 


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