FGO二部二章・改「狂焔之巨人王と三人のセイバー」   作:hR2

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第八話 血戦×決戦

 

 

 言葉など、もはや何の意味があろうか。

 

 

 この世界の在り方を善しとするもの。

 それに異を唱えるもの、

 この世界そのものを認めることができないもの。

 

 何を語り、何をぶつけ、何を話そうとも、

 分かり合えることは、決してない。

 結局はそう————どちらが強いのか。

 

 武力、戦力、魔力————何よりも、

 自分の信念を押し通す心の強さと、隣に立つ仲間との信頼という絆の強さ。

 

 それが、どちらが強いのかということなのだから。

 

 

 

 玉座に座るのはこの城の女王にして、この異聞帯を統べる神。

 慈愛に満ちた優しい瞳は、その眼前で刃を構える両陣営へ等しく向けられている。

 

 

 張り詰められた空気は、沈黙を硬く守る。

 この静寂が破られれば、二度と後戻りのできない血みどろの殺し合いが始まってしまうと知っているからだ。

 

 

 展開するのは、ワルキューレの大軍勢。

 盾を構え槍を携え、広間の上方を埋め尽くすほどの部隊を展開する。

 

 

 彼女らの正面に立つのは、カルデアの者達。

 戦乙女全騎の殺意を真っ向より受け止め、それ以上の闘志を燃やす。

 大盾を、大砲を、心中の刃を握りしめ————その時を待つ。

 

 

 

 その中を、一人、武蔵は歩く。

 

 

 

 腰に差す四刀を抜かぬまま、一つ、また一つと、歩を進める。

 

 

 人域を突破するその剣の位。

 ただ歩いているだけで、五大明王最強の一尊を背後に従えているかのような剣気を放つ。

 

 

 戦乙女達、これを見逃す。

 これまでのカルデア側との各地の戦闘経験・記録によって、自分達では宮本武蔵には何があっても歯が立たないと判断している。

 もちろんだからといって戦うのを放棄するような戦乙女達ではないが、それが女王の命令とあれば別。

 

 

 この剣士と戦えるのは————この騎士しかいない。

 

 

「…………。

 来たか。

 今回は、()()だ」

 

 

 赤瞳より殺意と戦意の焔を滾らせながら、最強の魔剣の主が最強の双剣使いと対峙する。

 

 

 その後ろに控える魔術師、眼帯を外し————魔眼解放。

 

 

 

 

「————霊基強制再臨・最終限定解除。

 立ちはだかる敵のすべてを討ち滅ぼしなさい、我が騎士」

 

 

 

 

 血戦が、始まった。

 

 

 

 

 

[第八話 血戦×決戦]

 

 

 

 

 

 ワルキューレ達が行軍を開始する。

 

「目標捕捉」「目標捕捉」「目標捕捉」

「全騎、戦闘状態へ移行」「全騎、戦闘状態へ移行」「全騎、戦闘状態へ移行」

「敵戦力、セイバー二騎」「アーチャー、シールダー」「そしてそのマスター」

 

「アーチャー、ナポレオン」「アーチャー、ナポレオン」「アーチャー、ナポレオン」

「砲撃は脅威」「直撃は避けること」「密集を避け散開しながら攻撃」

「単純な直線的射線だけじゃない」「散弾や小型連射弾もある」「注意せよ」

「砲も厄介だけど、」「速い」「機動力は非常に高い」

「脅威度、非常に高」「脅威確認」「脅威確認」

「手強い」「強敵だよ」「けど私達なら勝てる」

「撃破せよ」「撃破せよ」「撃破せよ」

 

「シールダー、マシュ・キリエライト」「シールダー確認」「シールダー確認」

「見事な盾ね」「私達のものには劣るけど」「でも凄いわ」

「豊富な戦闘経験」「修羅場を潜り抜けた数は私達以上かもしれない」「その推論肯定を保留」

「マスターの死守を第一優先目標と推定」「その推定を断定」「その断定を肯定」

「彼女を倒さずして、」「マスターへの攻撃は非常に困難」「ほぼゼロに近い可能性」

「撃破せよ」「撃破せよ」「撃破せよ」

 

「セイバー、千子村正」「セイバー、千子村正」「セイバー、…………村正」

「刀剣を複数所持」「刀を切り替えながら戦闘」「その数は不明、弾切れは無いと推定」

「単体攻撃能力しか保有せず」「上空への有効な攻撃手段を保有せず」「地上での剣による攻撃」

「攻撃範囲内に留まってはダメよ」「高高度からの一撃離脱」「複数機での同時連携必須」

「撃破せよ」「撃破せよ」「撃破せよ…………」

 

「セイバー、宮本武蔵」

「強い」「強すぎる」「私達では歯が立たない」

「お姉様の想い人に任せましょう」「それしかないわ」「ええ」

 

「敵マスター」「敵マスター確認」「敵マスター確認」

「オフェリアに遠く及ばない」「そもそも魔術師なの?」「魔力を全く感知できず」

「ただの人間ね」「貧相な」「ただの人」

「私達が迎える価値もないわ」「その判断を肯定」「判断肯定」

「有効な支援攻撃は皆無と断定」「回復補助も微小と裁定」「令呪だけと推定」

「撃破のためにはシールダーの排除が必須」「しかし撃破せよ」「撃破せよ」

 

「全騎各騎へ通達」「全騎各騎へ通達」「全騎各騎へ通達」

「我らが父のために、」「我らが母のために、」「我らが女王のために、」

「勝利を我らに」「勝利を我らに」「勝利を我らに」

「持ちうる全ての力を使い、」「持ちうる全ての力を使い、」「持ちうる全ての力を使い、」

 

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

 

 

 空を疾走する戦乙女達。

 その光り輝く槍を手に、勝利と栄光を掴み取るため全騎一斉に攻撃を開始!

 

 

「くぅ————っ!?」

 

 

 膨大な数による攻撃の密度と総数は、まるで熱帯雨林に降るスコールのように激しい。

 雪崩となって押し潰すように、乱れ飛び交う光の攻撃線。

 その一つ一つどれを取っても、終末の黄昏を戦い抜くに相応しい威力が込められている。

 

 圧倒的戦力数による圧倒的殲滅力————だが、

 

 

「負けませんっっ!!」

 

 

 彼女がいる。

 

 その大盾で、自分達に襲来するありとあらゆる攻撃を受け止める。

 盾とは本来一方向しか守れないはず、しかし————!

 

 

「先輩はあなた達のいう通り、魔術師でも、剣士でも、医師でも、技師でもありません!

 それでも————!」

 

 

 修羅場と死戦を潜り抜け、絶人の域に達しているのは何も武蔵だけの専売特許ではない。

 マシュの盾さばき、何よりも攻撃の見切りと読み、仲間へ降り注ぐありとあらゆる攻撃全てを自分が受け止めるという決意から導かれるその戦技、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 戦乙女全騎の圧倒的物量による圧撃とて、

 マシュ・キリエライトという盾を貫くことはできない!

 

 

「先輩は————、最高のマスターです!!」

 

 

 この盾こそは、主人を守り、人理を守る守護の盾。

 例え世界を焼き尽くす業火とて、決して滅ぼすことはできない。

 ——————彼女が何度でも立ち上がり、守り切るのだから!

 

 

「いいたんかだ!

 その気勢、指揮官として鼻が高い。

 ならこっちもいいとこ見せて、オフェリアをさらに惚れさせちまうとするかッッ!」

 

 

 砲口から一つの魔力弾が発射されるも、ワルキューレ達の回避行動が成

 

 

「————キャァ!?」「————つぅぅ!?」「なっ————!?」「————キャア!?」

「————わっっ!!」「そ、んな————!」「ガハッっっっ!!」「————く、グゥ!」

 

 

 空中で爆発。

 硬質化した魔力の塊が周囲へ飛び散り、砲撃を回避したはずの戦乙女達を切り裂いた。

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハ!

 魔力がある限り弾切れの心配がねえってのはありがてえが、流石は俺!

 地対空砲をこうも見事に決めちまうとはね!」

 

 

「あんな使い方もあるのね」「初めてみるわ」「可能性の英霊」

 

 

「悪いが、どんどん行くぜえーーーーーっ!!」

 

 

 爆裂する弾、弾、弾弾弾弾!

 衝撃波と破片が、戦乙女達だけのものだった上方という空間を蹂躙する。

 ナポレオンの正確無比な戦術眼により導かれる砲撃のコースとタイミングは、いかな大勢の戦乙女達の統一思考とて読みきれない。

 

 加え!

 

 

「————おおっと!」

 

 

 ()()

 この英霊、()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 砲撃を中断させるべく空駆ける戦乙女達の槍撃を、無傷でとはいえないが、()()()()()()()()()()()

 

 それも戦史を紐解けば納得できようか。

 ナポレオンの軍略で重要な位置を占めたのが、砲兵という兵種。

 相手の急所を見定め、()()()()()()、その砲撃で敵を沈黙させる。

 ()()()()()()()()こそが、ナポレオン・ボナパルトの真骨頂。

 

 

「悪いが、我が軍団(俺達)を相手にするには————ちっと()()()()()んじゃねえか?」

 

 

 

 

 血が乱れ飛ぶ戦場にあって————

 

 ただ一人、戦わない者がいた。

 

 

 

 千子村正、未だ刀を一本も喚ばず握らず。

 自分を貫こうとする戦乙女達の槍を躱し、さばき、前に進む。

 

 しかし、攻撃は確実に当たっているし削っている。

 上半身の赤のシミは時が経つにつれ数を増やして大きく広がり、その足跡を流れ落ちた血が彩る。

 

 

 無言を貫いていたが、ようやく口を開く。

 

 

「よぉ」

 

 

「…………」

 

 

「こんな形で再会しちまうとはなぁ…………。

 因果なもンだ」

 

 

「…………どうして戦わないの?」

 

 

 全身を削られながらも、ただ防御に徹している。

 

 

「その前に、おめぇさんに挨拶しとこうと思ってな」

 

 

 流血や激痛に苛まれているはずだが、眉一つ、顔色一つ変えない。

 ()()()()()()()といわんばかりに、己の意思を貫き通す。

 

 

「私は退かない。

 私達は退かない。

 それが私達という存在。

 だから、」

 

 

 爆風が、二人の間を吹き抜ける

 

 

「戦って、村正。

 私達にはもう、それしかないのだから」

 

 

 その因果に、鍛治匠は強く拳を握るしかない。

 

 

「…………やるしか、ねぇか」

 

 

 邂逅は終わり、逃れられぬ戦いが始まる。

 決意が、己の心鉄に火を灯す。

 

 

「…………悪りぃが、()()()()

 

 

 そして、この男は誰もが信じられないような言葉を口にした。

 

 

 

 

「…………()()()()()()()()()

 

 

 

 

「————ええっ!!?」

 

 

▷ □ 「————日本語!?」 □ ◁ 

  □ 「英語じゃない!?」  □  

 

 

 

()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「恐らくこれは、()()()()()()()()()()()()()()()

 自らがサーヴァントとして持つスキルに、何らかの力を加えて展開しようとしている模様!

 まさか…………村正さんの肉体は、エミヤさんの大魔術の縁者!?

 それとも英霊化する前のエミヤさんそのもの!?」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 前進を開始し、何らかの敵対行動を取ろうとしている村正を止めるべく、ワルキューレ達が殺到。

 しかし、ナポレオンの砲口がそれに待ったをかける!

 

 

「援護は任せろ、切り込み隊長!

 何をしようとしているかは知らんが、一発でかいのをぶちかましてやれ!!」

 

 

 

 戦乙女達に切り刻まれ、全身から血を流しながらも、

 

 ——————詠唱が終了する。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()、『()()()()()()()()()()』」

 

 

 

 

 しかし、外界を分かつ炎は走らず、冬の城を心象風景が塗り潰すこともない。

 あるのはただ、

 

 

 

「かハァッ!?」「————!!??」「ぁ————ハァッ!?」「————ッッ!?」

「————キャッッ!?」「——————ァ………………カ、ゴ、」「ウワ、   ァ」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()に、串刺しにされている戦乙女達の姿。

 

 

 

「スキル陣地作成!

 村正さんはサーヴァントとして刀剣を作成する工房を持ちます!

 あの詠唱節を加えることで、工房の中から刀剣を保管する『蔵』を展開したんです!

 あの刀は、エミヤさんのように飛ばすことはできないはず。

 ですが()()()()()()()()()()()()()()()、ワルキューレ達へダメージを与えることは可能です!!」

 

 

 それは、お世辞にも無限とはいえない有限の剣製。

 およそ半径七メートルほどの範囲内に、村正が作り呼び寄せた大量の刀剣が刺さっている。

 己でない己が持つ手札を奇手へと変え、戦場へ叩きつける。

 

 

 死亡したワルキューレ達が光に消えていく中、

 村正、一振りの刀を抜き放ち————吼える。

 

 

 

「いいかおめぇら、一度しか言わねぇから全員耳の穴かっぽじって聞きやがれ、

 

 ————テメェら全員そこをどけ、用があるのはテメェらじゃねぇ」

 

 

 

 疾走する————!

 冬の城を、一人の刀鍛冶が修羅となって駆け抜ける!

 

 

「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェッッッ!!」

 

 

 特攻としか形容できないその勢い!

 ただ一人でも前へ前へと突っ走る!

 

 させまいと戦乙女達、迎撃する人数を増やして迎え撃つ。

 

 剣閃が走り、血煙が吹き上がる。

 

 村正の身体を何度も何度も戦乙女達の槍が傷つけるも、信念、ただその信念一つだけで突き進む。

 

 ただ前へ、もっと前へ、さらなる前へ!

 一度火がついてしまったこの男、止めることはもはや何者にもできない。

 己の刃を手に己が進むべき成すべき道を切り開く!

 

 

「ムラァマサ! 突っ込みすぎだ!

 いくら切り込み隊長とはいえ突出しすぎてるぞ!

 無謀な特攻はやめとけとあれほど言っただろう!!」

 

 

「村正さん、心中お察ししますが、今は退いてください!」

 

 

「あぁン? アホ抜かせ。

 退けるわけ————ないだろ」

 

 

 血にまみれながらも剣を振るう勢いは決して衰えることがない。

 いや、一歩また一歩と進む度に己の激情全てを乗せて叩き込まれる一刀は力を増している!

 

 

「女の人に手を上げるのは趣味じゃない、けどさ…………」

 

 

 この血戦が始まる前に、交わされた言葉があった。

 

 

『それがこの厳しき世界で生きるということ。

 汎人類史のお前達に口を出す謂れはない』

 

 

 その言葉に————心が、信念が、爆発。

 

 

 

「てめぇの自分勝手な正義を振りかざして子供達を殺しおきながら、

 それのどこが悪いと平気な顔してる奴を前に、誰が引き下がれるっていうんだ!!」

 

 

 

 犠牲を容認しそれを最小限に抑えることを第一に考える英霊ならば、女王の言葉に異論は挟まず納得しよう。

 しかし、万人を救う何者かになりたいと願う青年にとって、その言葉は到底納得できるものではない。

 

 

「あんた神だろ!? 神サマなんだろ!? 神サマなんだよな!?

 変えちまえよ、こんな世界!

 変えてみろよ、誰もがちゃんと生きていける世界へ!!

 変えられるはずだろ、誰もが最後まで自分の意志で生きていける世界に!!

 神サマだったら、変えなきゃダメだろこんな世界!!

 それが、できないってんなら、あんたは神じゃない。

 そんな偽物、ぶっ飛ばさないわけにはいかないだろうが!!」

 

 

 それは絶対の宣戦布告。

 ワルキューレ達、女王への敵意をむき出し未だ前進を続ける村正を優先撃破目標とする。

 

 

「ふふふ、ここまで跳ねっ返りが強いか。

 愛いやつ、愛いやつ。

 手の掛かる子ほど、可愛さが増す。

 見えておらぬが故に青臭い。

 見た上でそれでも星を掴もうとする。

 よいよい、よいよい。

 どちらへ転ぼうか。

 そんなお前も愛そうか」

 

 

 女王は、動じず。

 

 

 

「マスター、このままじゃ————っ!」

 

 

  □ 村正を援護する             □  

  □ この隙にワルキューレを一人でも多く倒す □  

▷ □ 村正と一緒に突撃する          □ ◁ 

 

 

「先パ、いいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 

 

 止まる、その全力ダッシュに。

 

 

 この場にいる中で、正真正銘ただの一般人。

 それでいてカルデア側全サーヴァントのマスター。

 いうなれば、それは死点。

 突かれれば必ず負けるという決定点。

 

 チェスや将棋でいえば、キング(王将)ナイト(銀将)ビショップ(角将)の守る自陣から抜け出し、最前線のポーン(歩兵)へと走る行為。

 

 

 そんな悪手を見逃してくれるほど、彼女達は甘くない。

 

 

 

「同位体、顕現開始」「同位体、顕現開始」「同位体、顕現開始」

 

 

 

 戦乙女達が空中に輪を描いて集結する。

 大神より授かりし槍が大いなる光に包まれていく。

 

 

 

「同期開始、照準完了」「同期開始、照準完了」「同期開始、照準完了」

 

 

 

 女王への悪意を向けるセイバーと、その元に走るマスター。

 双方共にこの一投にて殺しきらんと戦乙女達が————真名を解放する!!

 

 

 

終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)!!」「終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)!!」「終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)!!」

 

 

 

 一斉に投擲された光の槍。

 それが一本の巨大な槍となって襲いかかる!

 

 

 しかし!

 チェスも将棋も、キング(王将)が動けば————、

 

 

 

「真名、凍結展開————『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』っ!!」

 

 

 

 戦局が動く!

 

 

「ぐぐぅぅぅぅーーーーーーッッ!!」

 

 

 マスターを追い越し村正の前へと躍り出たマシュ、

 己が持つ宝具を展開、投擲された光の槍をその城壁で受け止める!

 

 身体の芯まで慄わすその衝撃。

 けれど、彼女の盾は、動くことあらずそのままに立ち続ける!

 

 

 

「同位体顕現数増加を承認」「同位体顕現数増加を承認」「同位体顕現数増加を承認」

 

 

 カルデアが相手にしているのは、ワルキューレではない。

 ()()()ワルキューレ()

 

 この機に死点を破壊しきるために、大量のワルキューレ達が天輪に加わっていく。

 

 

 

「追加同位体との同期開始」「追加同位体との同期開始」「追加同位体との同期開始」

「全照準完了、真名解放せよ!」「全照準完了、真名解放して!」「全照準完了、真名を解放!」

 

 

 

 さらなる大量の光の槍が、夢想の城へと投げつけられる!!

 

 

 

 

「誰か忘れちゃいないか?

 

 ————『凱旋を高らかに告げる虹弓(アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥレトワール)』ッッ!!」

 

 

 

 宝具を放つため()()()()()()()()()ワルキューレ達を、ナポレオンの虹が撃ち抜く!!

 

 

 

「ヒュぅ、宝具合戦に横槍を入れるのは無粋の極みだが、悪いなこれも戦争でね。

 …………流石は統率個体だな、致命傷にはまだ足らないか」

 

 

▷ □ 「ナイス宝具、二人とも!」      □ ◁ 

  □ 「サンキュー、マシュ、ナポレオン!」 □  

  □ 「愛してる、マシュ!」        □  

  □ 「結婚しよう、マシュ!」       □     

 

 

 押し上げた戦線に、四人が集まる。

 

 リスクの高い強引な手ではあったが、押し通すことに成功した。

 

 

「マスターの指揮官突撃か!

 ハハハハハ! こっちまで熱くさせてくれるじゃねえか!

 ここぞって時に指揮官自ら突撃するのは戦の常道だが、いい思い切りだ!!

 勲章ものだぜ、新兵!!」

 

 

「宝具を展開し、敵宝具を受け止めましたが、損傷想定範囲内。

 マシュ・キリエライト、問題ありません」

 

 

「おめぇら…………」

 

 

▷ □ 「勝つ時は、みんな一緒です」             □ ◁ 

  □ 「一人でいいカッコするなんてずるいですよ」      □  

  □ 「ビンタ一発入れたいのは、村正さんだけじゃないです」 □  

 

 

「…………おう、分かった。

 んじゃいっちょ、(オレ)ら四人で派手にかますかッッ!!」

 

 

 戦局が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一つ、戦いが繰り広げられていた。

 

 

 いかな超常の存在たるサーヴァントであろうと、この二人の剣戟空間に入り込むことはできない。

 

 片や、宮本武蔵、日ノ本最強の二刀使い。

 片や、シグルド、頂点たる魔剣を操る竜殺しの大英雄。

 

 

 全ての限定を解除され、霊基最高状態であるシグルド、力・速度・耐久性・魔力、戦闘に必要な各項目が最高の状態。

 

 そして何よりこれは一対一ではない、一対二。

 シグルドの背後には、遷延の魔眼を全開にするオフェリア・ファムルソローネがいる。

 

 

 二人の剣士の再戦にして最終戦、本来ならば魔眼合戦となるはずであった。

 

 

 

 武蔵の魔眼は天眼。

 それは目的達成の手段をただ一つだけに絞る力。

 天眼が見定めれば、無数の可能性の中からたった一つの最適解を選び攻撃することができる。

 武蔵が天眼の魔眼を使うことで、武蔵の攻撃はたった一つしか存在しない、相手を斬るための最適解となり、その他全ての可能性を捨てることができる。

 

 

 オフェリアの魔眼は遷延。

 それは発生する未来を見るだけでなく、その未来が到来するのを留める魔眼。

 発生確率が少ない未来は見出すのが難しいし、留めておくことも難しいが、

 相手が望む、相手に有利な事象を、先延ばしすることができる。

 

 

 天眼と遷延、この二つの魔眼がぶつかればどうなるか?

 

 

 天眼が攻撃点を見定めれば、武蔵の行動はただ一つの最適解となる。

 このため、例え遷延の魔眼でも他の可能性を見出すことができず不発となる。

 

 ところがオフェリアからすれば、『武蔵が天眼を使う』というのは武蔵が取る行動の可能性の一つ。

 故に、天眼を使う可能性はピン留めすることができるのだ。

 天眼の使用を抑制・または延滞できるのであれば、武蔵は天眼が導く最適解の攻撃ができなくなる。

 準最適解の攻撃ができたしても、相手はシグルド、魔剣グラムを持つ大英雄、それが通じる相手なのかという問題が出てくる。

 

 

 つまり、これは早打ち勝負。

 

 武蔵が天眼で見定め最適行動を取るのが早いか、

 オフェリアが遷延で留めて最適動作をさせないか。

 

 

 これは一対一の戦いではない、一対二なのだ。

 マスターが付いているから一対二という単純なものではない。

 オフェリア・ファムルソローネは宮本武蔵を殺し得る存在である————だからこそ、この勝負は一対二となる。

 

 

 

 

 

 そう、魔眼合戦となる

 

 ————————()()()()()()

 

 

 

 

 シグルドの世界が、城の中に出来ていた。

 

 

 霊基最終段階での全方位殲滅投擲(オール・レンジ)攻撃。

 乗る魔力は猛々しく、打ち出される投射速度は視認など欠片も許さない。

 全ての短剣の全動作を見切ることなど、一体誰ができるのだというのか?

 

 

 世界、そう称する他はないか。

 

 嵐と呼ぶには、激しすぎる。

 豪雨雷鳴が奏でていい音量は大きく突破している。

 

 結界と呼ぶには、この絶人の剣士の技量を過小評価してはいないだろうか。

 空間そのもの全体全域を行き交うように短剣の刃の軌跡が埋め尽くしているのだ。

 埋めるだけではない、切断して行く。

 

 

 例え竜種がいたとしても、五秒と持たせず塵とする————それほどの殺意と凄みと技量が疾駆する短剣一本一本に込められている。

 

 それだけに終わらない、オフェリアが武蔵を見るための経路も確保している。

 その視線の経路とタイミングを武蔵に読まれないように、短剣を散らしながら飛ばしているという用意周到っぷり。

 

 

 賞賛するしかないこの投擲術の冴え。

 刃嵐、刃獄————いやそれよりも、シグルドの投擲殲滅世界、刃界とするべきか。

 

 

 焔をはき散らす魔剣の一閃が、世界を()()

 

 

 それはシグルド全力の斬撃でありながら、()()()()()()による真の一撃。

 

 グラムが秘める太陽を、()()()()()()の焔が侵食することで、破壊力が更なる天井まで上昇、世界が悲鳴を上げているのだ。

 この世界を統べる女王の体内ともいえる城内ではある、すぐ修復されるが…………、

 

 

 再度、魔剣が通り過ぎた軌跡にヒビ割れのような赤黒い爪痕が残る。

 

 

 空位に達した剣士が最高の魔剣で放つ絶閃。

 加え、投擲され走り続ける短剣達が織り成す刃界。

 

 

「————————っ……………………!」

 

 

 ()()、血が上った。

 

 

 初めの血はとうの昔に床に流れ落ちている。

 

 吹き上がった血流は三秒と持たず短剣によってかき消される。

 刃は止まらない、敵対者の命を破滅させるまでは決して止まることはない。

 

 

 刃界にあって、剣と剣が鳴り散る音は途切れない。

 加え刃と刃の衝突に際し生じる火花閃光が、瞬間瞬間、まるで太陽の爆発のような眩しさを放つ。

 

 だがそれがあるということは、魔剣の敵対者はまだ死していないということ。

 

 

 振り払われた剣が、肉を裂いた。

 切り返した刃が、さらなる血肉を吸う。

 

 

 激痛、だが痛みに気を取られている暇はどこにもない。

 

 

「——————ッッッ!!」

 

 

 嗚呼、またしても、血が吹き上がった。

 

 

 剣でつけられた恥辱に心煮え繰り返る時間もない。

 

 動き続けなければ振り続けなければ、物言わぬ骸となるのは自分なのだから。

 

 

 この日最高の斬光が、一際強く煌めく。

 

 

 当然続くのは、

 

 

「                 !?」

 

 

 間欠泉のごとく噴出する鮮血と、悲鳴上げることもままならない激痛、そして、

 

 ————崩れた態勢へと繰り出される、勝負決する一撃。

 

 

 武蔵対シグルドとオフェリア、この戦い、

 

 

 

「————————ガハァッッッ!!?」

 

 

「シグルド!?」

 

 

 

 ————武蔵が圧倒していた。

 

 

 

 シグルド、()()()()の状態。

 鎧はズタズタに斬り裂かれ、その五体、無傷な箇所を探す方が難しい。

 優秀な魔術師であるオフェリアからの魔力供給・治癒のサポートがなければ既に地面に横たわっていた。

 

 

 武蔵、()()()()

 かすり傷はそれこそ無数にあるが、しかし、食らったといえる直撃は未だもらっていない。

 

 

(ありえない、ありえない、ありえない、ありえない!

 何よこのセイバー!!

 剣の技量という一点において、軽く神域まで行ってそうじゃない!?)

 

 

『武蔵非名人説、ってのがある』

 

 

(この化け物のどこが非名人なのよ、ヒナコ!?

 こんな化け物より強い剣士なんて、いちゃだめでしょう!? 上泉信綱!? 沖田総司!?

 武蔵一人を止めるために、クリプター(私達)が二人以上でかからなきゃダメじゃない!!)

 

 

 

 この勝負がこうも一方的になってしまったのは、この戦いが()()()()()()()()からだ。

 

 

 

 武蔵が斬った者の中に、

 

 柳生宗矩という剣士がいた。

 

 

 江戸における柳生新陰流、通称江戸柳生の開祖であり、

 武蔵が五輪書を書いたように、宗矩は兵法家伝書を書いた。

 

 日ノ本で一番出世した剣豪としても知られており、

 政治家としての側面を描かれることが多いが、れっきとした剣士である。

 

 

 その柳生新陰流の中に、水月という教えがある。

 

 それは、一つの問いかけから始まる。

 

 

『夜、月を写す水がある。

 その水の心境やいかに?』

 

 

 水は月を写したくて写しているのではない。

 写す意図があって写しているのでもない。

 

 ()()()()のだ。

 水は月を()()()()から、その水面に月が写るのである。

 

 そこに水の意図や意思や願望は全くなく、写すのに必要な時間遅延もないとされる。

 

 

 月が変化すればどうなるだろうか?

 水はただ写すが故に、水面の月は()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 さてこの水とは何か?

 

 明鏡止()の『水』である。

 

 

 自らが心中にはる水面に相手の意図を写し取る。

 水が月を写すように、相手の心を()()()()

 

 月の変化を水がただ写すように、相手の変化を()()()()

 

 さすればその変化に応じ、相手の打とう打とうの「う」を、斬ろう斬ろうの「き」を()()()()ことができる。

 傍目からみれば、信じられないような反応速度で繰り出される的確極まるカウンター、と見えようか。

 

 相手の機先を完璧に制するこの術技、流派によっては先々の先としているし、五輪書では枕をおさえると記している。

 

 

 この水月の教えから導かれる術技を、柳生新陰流では水月移写と呼ぶ。

 

 

 

 武蔵は斬った、

 

 この水月移写を極めた宗矩を。

 

 

 

 武蔵、その時の心境をこう述べている。

 

 

『貴殿の水月を破るには、神域に入る他なく。

 すべての読み合いの先の先————

 たった一つの『当たり』を見いだす。

 ————即ち、決して砕けぬ天元を叩っ斬る』

 

 

 こうして武蔵は、己の太刀の奥義である伊舎那大天象を開眼した。

 

 

 ところが、ここで一つ言及されていないことがある。

 この時、武蔵は()()()()()()、いや()()()()()()()()()()、正しくは()()()()()()()()

 

 

 宗矩を斬るため、武蔵は一つ上の位へ行かなければならなかった。

 しかし、例えそこに行ったとしても、見よう見よう、斬ろう斬ろうとして攻撃していたのでは、宗矩に斬られていた。

 

 宗矩の剣域の高さは武蔵も認めるところ。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 例えその位に到達していても、見よう見よう、斬ろう斬ろうとしていたのでは、追って達した宗矩に写し取られて、見ようの「み」、斬ろうの「き」で両拳を斬り飛ばされ、首を刎ねられていた。

 

 

 天眼でそこを見よう見よう、そしてそこを斬ろう斬ろうとしていたのでは、

 

 ————斬られていたのは、武蔵であったのかもしれない。

 

 

 武蔵は宗矩を斬った時、天眼を捨てていた。

 捨てたというより、自分にはもう無駄なものだと自然に削り落としていたのだ。

 

 ()()()使()()()とも、()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 天眼が導くのは、最適解。

 相手を殺す、相手を斬るという無駄が絶無の正解動作。

 

 だがそれは、未熟者だから正解が分からないといえる。

 

 

 だから()()()()()()()()()

 全て極まった究極の剣士であれば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 天眼で見ずとも、自然に「そこ」を斬っている。

 ただ斬るという何気ない動作が、天眼が導き出す最適動作と全く同じになる。

 

 そう、水が月を()()()()ように、武蔵が()()()()()そこ(天元)は斬れている。

 戦った宗矩から言葉なく刀で教えられた、()()()()()()

 

 

 武蔵の動作は既に、()()()()()()になってしまっているのだ。

 

 

 

 その武蔵を、遷延の魔眼で見た時のオフィリア・ファムルソローネの驚愕を何とすれば表せるのだろうか?

 

 

 

 この戦い、初手から異次元だった。

 

 

 武蔵、抜き打ちの一刀でオフェリアの魔眼の()()を斬った。

 

 英霊や神域の存在に日頃接しているとはいえ、刀剣の一閃で魔眼の視線が斬られるとは理解に苦しむ事態。

 

 

 その勝負、最初は拮抗していた。

 武蔵がオフェリアの魔眼の視線を斬りながら戦っていたからだ。

 

 そして気付く、シグルドが窮屈そうに戦っていると。

 オフェリアの魔眼と自分の剣を共生させながら戦っていたのだが、武蔵の剣にはそれが歪みとなって写った。

 

 相手を見ただけで石にしてしまえば、それだけで勝負は決する、()()()()()()()()()剣を振るうはず。

 ところがシグルドの剣はそうは語っていなかった、武蔵には普通に戦っているよう写った。

 そしてシグルドが魔眼を考慮して戦っているとは、シグルドから見てもオフェリアの魔眼は有効なもののはず。

 

 なればと洞察。

 魔眼は勝負が決するほどではないが有利を取れる。

 相手の行動を低下させるか抑制させられ、有利状態をとれるもの————だろうか、と。

 

 

 魔眼についてあたりをつけた武蔵、何とオフェリアの魔眼に全身を晒した。

 

 どうだ見てごらんなさいよと言わんばかりに、ずいとその視線を全身に浴びた。

 

 

 武蔵を見たオフェリア、全身の血液が音を立てて凍りついた。

 

 天眼を削り落とした武蔵、()()()()()()()()()であるが故に、()()()()()()()()()()

 

 その遷延の魔眼を持ってしても、()()()()()()()()()、写らなかったのだ。

 

 

 異常すぎる現実。

 武蔵を万華鏡で見てみれば、鏡には何も写らず、ただ武蔵一人だけがいるというありえない事態。

 

 

 だが————、

 

 それは、()()()

 敵のあらゆる動作が最適解であるならば、こちらの攻撃にどう反撃するかは読めるはず。

 敵の反撃は最適であるから隙をつくのは難しいだろうが、その一手を読めれば————!

 

 

「————————がァァッッツ!?」

 

 

 その結果が、()()

 

 シグルドと武蔵、()()()()()()()

 シグルドが想定する最適動作と、武蔵が実際に取る最適解にズレがある。

 

 

 だが、

 オフェリアの魔眼とは一種の未来視である。

 

 武蔵の可能性が全く一つだけしかないが故に、()()()のだ、武蔵の()()が。

 時間にしておよそ一秒、二秒には程遠い一秒であるが、()()()()()()()、違えることはない。

 

 ならば! シグルドとのパスを強化し、自分が見せる一秒後の武蔵を遅延ロスなく伝えれば———、

 シグルドほどの剣士であれば、武蔵が取る動作だけでなく、二刀の軌道・速度・機・その重さ、およそ斬り合いに必要な全ての項目が分かる。

 そこをつけば————!

 

 

「——————ヅァァァァァァアアアアアッッ!!」

 

 

 それで、()()()()

 

 分かっているはずなのに、知っているはずなのに、()()()()()()()()()

 

 それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 相手に自分の全てを晒しても、何もさせずに斬り倒す————それが、武蔵が今いる位。

 

 

 

 シグルドの刃界にいながらも、天元の華は、美しく咲く。

 

 

 

 唯一、威力。

 

 破壊力という点ではシグルドの魔剣が上をいっている。

 だが、衝突点をつくるのではなく軌道を逸らす、運足の妙でかわす————武蔵の剣が上をいってしまうのだ。

 

 宝具に逆転の可能性をかけてみても、両者互いの刃の届く範囲内にいる。

 起動できる隙がないし、距離を取ろうにもぴったりついてくる。

 

 

 シグルドとオフェリアには何の瑕疵もない。

 シグルドほどの強さを誇るセイバーは数えるほどしかなく、支援するマスターとしてもオフェリアは唯一無二の魔眼を持つ高水準の魔術師。

 

 

 ()()()()()()が異常すぎた。

 

 

 英雄がその花嫁と睦みあっている間、

 武蔵は戦っていた、自分より強い相手と戦っていた、そしてその強敵達を自分で剣で叩き斬っていた。

 その戦闘の生を振り返れば、弱い相手など一人もいなかった、いや、自分より強い相手ばかりだった。

 

 戦闘経験の量だけでなく()————()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これは()()()()()()()()()()()()()()()()、この宮本武蔵の()()()()()()

 

 

 

(負けない…………負けられない…………負けることは許されない…………!!)

 

 

 全てが限界を超えてフル回転している。

 自分もシグルドも、最善を超える最善の戦いをしている。

 それなのに、嗚呼、それなのに————!

 

 

(私は、()()()()()()()()()()()()()()()()のっっ!!)

 

 

 

「ガァァァァァァハァァァァッッッ……………………ッッッ!!?」

 

 

 特大の血柱が天へと伸びる。

 致命傷、心臓の霊核に決して無視できるわけもない大きさの斬線が走った。

 

 武蔵の二刀が首と心臓を破壊すべく————!

 

 

(その未来、私が絶対に来させない!!)

 

 

「令呪を以て命ずる、()()()()!」

 

 

「!?」

 

 

 霊基の完全修復!

 それだけではない! 武蔵は止めを刺すつもりだった、つまり武蔵はシグルドの魔剣の間合いの内にいる!!

 

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェ

 

 

 全ての短剣と焔纏う魔剣の一刀が、武蔵の命を破壊すべく一点へ

 

 

 

「                 、ウゴブハァァァァァァッッッッッ!?」

 

                  「疾!!」

 

                  「えっ!?」

 

 

 特大の血柱、しかも二つ。

 

 武蔵の二刀、まるで荒れ狂う竜の尾のように踊り舞ったそれはシグルドの刃界を斬り破り、

 完全修復したばかりのその身体に、秒持たずしてより深くより強い致命傷を二条、刻み込んだ。

 

 

 

「————先輩!!」

 

 

 ナポレオンの指揮・作戦の通り、カルデア側の第一目標はオフェリア確保のために絶対必要となるシグルドの撃破。

 

 あらゆる世界で幾度もの修羅場と死線を潜り抜けた二人ならば、この絶好のチャンスを見逃さない!

 

 

▷ □ 令呪を使って一気に押し切る! □ ◁ 

  □ 武蔵ちゃんを信じる      □  

  □ 敵マスターを確保する     □  

 

 

▷ □ マシュの城壁なら————!  □ ◁ 

  □ ナポレオンの砲なら————! □  

  □ 村正さんの刀なら————!  □  

 

 

「イエス、マスター!!」

 

 

 使用される一画目の令呪。

 主人の命を受け盾のサーヴァントが、その宝具を打ち立てる!

 

 

 

「変異展開————『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』!」

 

 

 

「な——————に……………………?」

 

 

 壁が、()()()()()()()()()()

 

 マシュが展開した城壁が円形状にぐるりとシグルドの周りに展開。

 未だモザイクがかかったように確たる姿を掴められないマシュの宝具であるが、その朧げであるからこそ令呪による強化があればこのような展開も可能!

 

 壁に囲まれたシグルド、逃げる場もかわす場もない。

 

 

(まずい、()()()()()()()()()()()()()!)

 

 

 城壁の上には無論のこと、

 

 

「やるぅ〜」

 

 

 剣の死神。

 勝負の決着をつけるべく一直線に走り下りる!

 

 

 

「令呪に以て命ずる、禍を引き起こせッ!

 武蔵を撃破しなさい、シグルドォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

 

「絶技用意ッ! 太陽の魔剣よッ! その身で破壊を巻き起こせェェェェェェェェ!!」

 

 

 

 令呪により強化された破滅の流星群が、天の頂きをも穿ち抜かんと武蔵へ打ち込まれる!

 

 

 シグルドにかわす場がないのは事実だが、それは武蔵も同じ!!

 

 

「悪いんだけどさぁ、」

 

 

 

 

「破滅の黎明ッッ!! 『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』ッッッ!!」

 

 

 

 

「バレバレなのよ、あんたのその投擲術(宝具)!」

 

 

 

 刃と刃が、一瞬に交差する。

 

 勝負の天秤が冷徹なまでに告げるのは、強いものが勝つという非常なる現実。

 

 

 

「な………………に————————?」

 

 

 シグルドも、シグルドからの視界情報をもらったオフェリアも、何が起きたのか理解できなかった。

 

 

 ()()()()()()で駆け下りていた武蔵、

 

 ()()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「——————貴様貴様貴様貴様貴様ァァァァァァァァ!!??」

 

 

 無刀であろうとも斬る体捌きで手刀を振れば、本来刀に乗るはずの斬撃力は手刀に乗り敵を倒すことができる。

 武蔵の左手、肉が大きく削り取られ滝のような血が尾を引いているが、手としての機能は以前保っている。

 

 だが、こんなことは認めてはいけないはずではないか?

 たとえ致命傷を食らっているとはいえ、解放した宝具には令呪による強化が入っている。

 西欧における剣の英霊の中で間違いなく五本の指に入る、最高の魔剣を持つ大英雄の全身全霊の宝具が、手刀一つで完全にさばかれたなど、一体何の悪夢か!?

 

 しかし! これは偶然ではない、必然の結果!

 

 武蔵はこれまで()()()()()()()()()勝ってきた。

 源頼光の童子切安綱。

 柳生宗矩の水月。

 佐々木小次郎の燕返し。

 敵の奥義を破るただ一つの未来を掴み取り、強敵達を斬ってきた。

 そして、敵の奥義を破ってきたという経験において武蔵と並ぶものがいる。

 

 そう、何を隠そうそれはマシュ・キリエライト、カルデアの盾である。

 敵の宝具を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という盾の英霊(シールダー)としての方法で、敵の奥義(宝具)を破ってきたのだ。

 

 シグルドは下手を打っていた、本人はそれと気付かずに、しかも致命的なまでに。

 マシュに『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』と同じやり方で、短剣と魔剣を投擲していたのだ。

 ()()()()()()

 

 マシュ、シグルドの宝具投擲の()()、宝具の拍子(リズム)()()()()()()()()()

 もちろんそれと悟られないようにシグルドは散らしていたが、短期間に二度も防いだため、朧げながら()()を掴めた。

 

 当然、シグルドを仕留める立場の武蔵にそれを伝えている。

 象徴的な説明でしかなかった。

 くるるるるーからのどどどんどん、その時に呼吸がぐぉーんと高まっていき、マナがどどどどどんどどどんどん…………、これで分かれというのは難しい。

 

 が、教えられた武蔵、()()()

 共に数多の奥義(宝具)を乗り越えてきた者同士、通じ合えた。

 抽象的で感覚的な擬音の連続も、武蔵には痛いほどよく分かったのだ。

 この時点で武蔵は()()()をつけることに成功。

 

 実際に全開状態のシグルドと戦い、()()()は確信と変わる。

 マシュから伝えられ()()()()()()のだ、その呼吸、その拍子! シグルドの宝具『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』とは()()()()()()()()()()

 

 分かっているのならば!

 武蔵は、敵宝具を破る道筋となる()()()()()()()()を自然に身体がとっていく。

 それは短剣という流星群と魔剣という彗星の、軌道を見切り、逸らし、ずらしながら、逆に突っ込んで間合いを詰め、硬直を斬るというカウンター。

 ()()()()()()()()()()()()()()()、武蔵に全部さばかれる可能性があることをシグルドも認識していたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 とどのつまりこの勝負、()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ!!

 盾の少女が体得していた敵宝具への分析力が、尋常ならざる宝具破りを成功に導いた!

 

 

 魔剣、破れたり————ッ!!

 

 

「ムサシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

 

 ————()ってるわよ、()()()

 

 

 

 その名が何を意味するのか分からないが、そこにいるのを()っている。

 

 シグルドでなく()()()こそが、己が斬らなければならない相手であると。

 

 

 ならば————斬るのみ!!

 

 

 

 

「南無天満大自在天神、仁王倶利伽羅衝天象————っ」

 

 

 

 

 それは一人で戦っている間は決して味わえなかった不思議な感覚。

 

 

 キミの、ためなら、

 キミが、いてくれるなら、

 キミが、いてくれるから、

 私の剣はどこまでも果てなく行くことができる。

 きっと天元すらも突破して、どこまでも、どこまでも————!

 

 

 

 

「剣轟・四連抜刀ッ!! ————伊舎那大天象・大咲乱ッッ!!!」

 

 

 

 

 抜即斬!!

 

 両腰より放たれる四連の居合抜刀連斬、それでいてただ一つの太刀、即ちこれぞ伊舎那大天象。

 地水炎風を象る降魔の利剣すらも超える刃は、己が斬るべき相手の天元を確実に捉えている!

 

 最後の一刀こそは空の太刀。

 ここまでの剣境にいながらもさらなる上を目指すが故に永遠の未完成となる一撃。

 もはや刀を握っているかなど武蔵には関係ない、私という剣、キミのための剣、宮本武蔵という存在こそが空の太刀となる剣なのだから。

 

 

 例え未完成であっても、キミが足してくれる。

 例え届かなくても、キミが背中を押してくれる。

 私がずっと剣を修行していたのは、きっと、キミと出会いキミの剣になるため。

 私を照らしてくれる、キミの貴い勇気こそが、私に足りなかったもの。

 だから、私という画竜はキミという点睛を得て完璧になる。

 キミと一緒なら、無二なる一の更に先、零すらも通りこしてちゃうって、確信してる。

 キミが一緒なら、私にはもうできないことは何もない。

 そう、だから————、

 

 

 

 

 ————例えその身(スルト)が神仏天魔であろうとも、我が刃にて(私とキミが)一刀に両断せんッ!!

 

 

 

 

「                   !!!」

 

 

 

 

 

 叩き込まれた空の太刀。

 

 

 シグルドの中にいるものは、

 

 

 その一刀に、

 

 

 ——————確かに、神を見た。

 

 

 

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 衝撃で城壁が搔き消える。

 

 

 煙幕と魔力嵐がゆっくりとはれていく。

 その場所には————、

 

 

「…………いな、い…………?」

 

 

 いるべき勝者の姿はなかった。

 首から下全てを斬滅させられた敗者の頭が転がっているだけだった。

 

 

  □ 「まだきっと終わりじゃない、」  □   

  □ 「別の世界に行っただけだって、」 □  

▷ □ 「————そう信じる!」     □ ◁ 

 

 

「————はいっ!」

 

 

「倒された?」「倒された?」「倒された?」

「お姉様の想い人が?」「お姉様の想い人が?」「お姉様の想い人が?」

「首だけ残ってるわ」「消滅は時間の問題ね」「シグルドの脱落を確認」

「敵セイバーの所在不明」「敵セイバー、感知できず」「索敵範囲内に反応なし」

「相打ちと推定」「結論保留、戦闘続行を優先」「思考ではなく行動を優先」

「攻撃せよ」「殲滅せよ」「撃滅せよ」

「破壊せよ」「勝利せよ」「打倒せよ」

「敵全戦力を攻撃破壊せよ!」「敵全戦力を殲滅勝利せよ!」「敵全戦力を撃滅打倒せよ!」

 

 

(————まずい、まずいまずいまずいまずいまずい!!)

 

 

 シグルドが、負けた。

 シグルドが、死滅した。

 つまり、それは…………

 

 

「ハハハハハ! まさか()()()()まで傷つけるとはな!! しかも、()()()()!!

 オマエという剣士は! オレが燃やす価値がある!!

 認めよう! その熱を!! 讃えてやろうとも! その熱を!!

 オマエの剣と! オレの剣!! どっちが上か確かめねばならんなぁ!!?

 だが、何処へ行った!?

 やっと()()()()だというのに、何処へずれた!?

 まあいい、全ての世界を燃やしていけば、いずれオマエがずれた世界へ辿りつこう」

 

 

 狂声が、戦場に木霊する。

 

 

(…………ああ、…………スルトが…………!!)

 

 

 

 その声が告げるのは、

 

 血戦の終わりと————決戦の始まり。

 

 

 

 

 

「俺が死んだぞ、オフェリア?

 

 さあ、オレと共に、

 

 真の神々の黄昏(ゲッテルデメルング)を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 終焉が、

 

 始まりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最終話へ続く)

 

 

 

 

 

 


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