ワールドトリガー 中短編集   作:丸米

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戦闘シーン初挑戦。
微妙だったらすみません------。


一年前の出来事①

それは、一年前の事であった。

「------いた!」

那須怜は、必死の形相で雨の中を走り回っていた。

警戒区域から程近い、市街地。

何かを探す様に、ビル群を駆け抜けながら。

―――三門市は、まるで内乱でも起こったかの如き惨状であった。

混乱に叫ぶ市民たちに、崩壊していく建築物群。

きっと、誰もがこの状況を一つのワードと連想したに違いない。

――大規模侵攻の再来だ。

 

すすり泣く男の子が、崩壊した建物の陰にふさぎ込んでいた姿を見た。

「大丈夫!?」

たまらず、那須怜はそう声をかけた。

「だ、誰----?」

怯えた声が、聞こえて来た。

「ボーダーの隊員よ。ここは危険だから、早く逃げ――」

その瞬間、那須怜は言葉を失ってしまった。

見えてしまった。

崩壊した建物――その中に、どす黒い血だまりが出来ている事を。

そして、その子供の掌が、擦り傷と切り傷でひどく汚れてしまっている事も。

「-----お、お母さんが」

子供は、涙を流しながら――血だまりを指さした。

胸が、痛い。

きっとこの子は――逃げ出したくて仕方が無かったのだろう。

そして、自分の母親が死んでいる事も、十分に理解していて。

でも、その現実を認めたくなくて。逃げ出す事で母を残していく事が許せなくて。

だから、ここにいたんだ、と。

「----ごめんね。ここから離れたくないだろうけど---必ず、君の事は守り抜くから」

泣きそうな表情で、那須怜はそう言って――手を差し伸べた。

子供は一度下を俯いて――そのまま、その手を握った。

 

 

その日、迅悠一は三門市にいなかった。

アフトクラトルとの交渉の為、遠征に向かったからであった。

 

その為、迅は遠征に向かう前に「ありうる未来」を総括しデータとして纏め、その対策まで網羅し本部に残していった。

 

だが、それでも――悲劇を防ぐことは出来なかった。

近界民による玄界への侵攻は、基本的にトリオンを持つ人間を回収し、兵士に仕立て上げる為のものであった。

 

だが、事態が動き、近界との「交渉」段階へと入ってくると、その瞬間に様々な思惑が入り混じる事となる。

近界もまた一枚岩ではない。和平を望む勢力もあれば、その逆も存在する。

近界最大の軍事国家であるアフトクラトルであっても、それは変わらない。

 

だからだろう。

今回の侵攻にあたって敵勢力が設定した目標は、トリオンを持つ人間の回収ではなかった。

――民間人の虐殺。

それが、目的であった。

 

遠征の為、精鋭が近界へと旅立ったタイミングを見計らい、陽動のトリオン兵を餌にボーダーの注意を逸らし――大量の軍勢を門を通して市街地へと送り込んだ。

対応が遅れたボーダーは市街地への軍勢の侵略を許し、避難が遅れた人々へと襲い掛かった。

 

市街地への襲撃は、大雑把であれど効率的であった。

建造物の集合地区に兵士を密集させ、破壊する。

人口密集区域に爆撃を放つ。

――非戦闘員への襲撃という目的に特化したトリオン兵は、恐ろしく強力であった。

 

「新たな〝門”発生!バムスターとイルガーが多数!そのどれもが市街地へと向かっております!」

「市街地へと入り込んだラッドの大群が市民病院へ殺到しています!」

 

オペレーター室では叫び声のような報告が飛び交っている。

人員が足りない。

陽動で散り散りに動き回っている要員を再編成し市街地へ向かわせるだけの時間も足りない。

 

――迅が想定した未来の中でも、最悪一歩手前の世界が現実として現れていた。

 

「-----ままならないものね」

病衣を纏い、その惨状を目の当たりにした女性は唇を噛みしめた。

次々と現れる門に、吐き出されていくトリオン兵。

市街地へと真っ直ぐに向かって行く人ならざる者共。

「でも、仕方ないわね。――だって」

彼女はシーツを払いのけ、立ち上がりで白む視界の中、何かを取り出す。

「私は、ボーダーだもの」

一つ目を閉じ、彼女は呟いた。

「トリガー、オン」

 

 

それから、彼女はまさしく獅子奮迅の働きを見せた。

病院関係者の避難の為に一人複数のトリオン兵と戦い、蹴散らし、また別の区画へ向かう。

「――バイパー!」

不規則に変化していく弾丸を身に纏い、子供を背に戦い続けた。

 

――無駄撃ちはもう出来ないわね。

 

徐々に減っていく自らのトリオンを自覚しながら、――それでも決意を漲らせる。

この子は助ける。

助けなければいけない。

 

「お姉ちゃん----大丈夫?」

「大丈夫よ。安心しなさい。お姉ちゃんは、絶対に約束は守るわ」

ニコリと微笑む。

傷ついた身体から漏れるトリオン。時折挟まれる苦渋の表情。

聡明な子なのだろう。現状を正しく認識している。

 

――那須先輩!

 

トリガーの通信機から、声が聞こえて来た。

 

――三雲です!状況はどうなっていますか!

 

その声は、三雲君からのものだった。

 

「ごめんね三雲君。私は今市街地にいる。一人子供を保護しているわ」

――今の位置状況からすると----警戒区域を抜けて本部まで連れて行った方が近そうですね。

「うん。今の状況だと市街地の方が危ういだろうし-----三雲君は?」

――今市街地へと向かっています!2~3分でそちらに到着できます!

「わかった。位置情報を送って。私も三雲君と合流する。――私のトリオンも限界に近付いている。援護をお願い」

――はい!

 

「待たせちゃってごめんね――さあ、行こう?」

那須怜はそのまま保護した子供の手を取り、背負い、走り出した。

その子はとても申し訳なさそうな表情のまま――涙を流した。

 

 

「那須先輩!大丈夫ですか!」

「ええ。何とか。――他の隊員はどうしてるの?」

「避難施設の防衛と迎撃に向かっている隊と、本部の防衛をしている隊に分かれています」

「-----わかった。なら私達も本部へ向かいましょう。この子を保護して、私も本部の防衛にあたるわ」

「いけません!那須先輩は本来――」

手術を受けているはずの身だ、とそう言おうとして。

そっと人差し指が添えられた。

「ね。三雲君。――私は、この状況で休んでいられるような女じゃないの。例え病気でもね」

「-------」

「大丈夫。三雲君が雨取さんを守った時のような無茶はしない。ちゃんとこの危機を乗り越えたら、手術を受けるから」

そう言うと、これ以上の反論は許さないとばかりに、彼女は走り出した。

三雲修も――これ以上は何も言えず、ただ那須についていった。

 

-----援護しなければ。

那須はもう限界に近い。

当たり前だ。何をしていたのかもう解っている。

病院を守るために戦い続け、避難に遅れた子供の保護を行った。

その過程でどれだけのトリオン兵を相手取って来たのか――想像は難くない。

 

手術前でも迷いなくこの選択をした。

その重みに敬意を払いながら――無駄にする訳にはいかないのだから。

 

――那須さん、三雲君!

オペレーターの勧告とアラートが、通信機に送り込まれる。

 

――門が、開きます!

 

新たな門が、眼前に開かれる。

そこには――。

 

「ラービット!」

三メートルを超える巨躯。

のっぺらとした頭部を横一線に開かれた口から垣間見える眼球。

蜥蜴のフォルムを二足歩行型にした様なそれは――幾度もボーダーを苦しめて来たトリオン兵であった。

 

ラービットはこちらを視認した瞬間――一直線にこちらに向かって来る。

「あれは――改造型かしら?左手の作りが違うわね。------どうするべきかしら、三雲君?」

その左手は、手ではなく砲台が形作られている。

「-----この距離で、交戦の回避は不可能だと思います。でも、片方だけが残って時間を稼ぐ事も出来ない」

補助型の隊員である三雲修と、トリオンが枯渇しかけている那須。片方が残った所で、時間稼ぎは期待できない。片方が子供を本部に送り届ける役を担っても、すぐに追いつかれるであろう。

修は単純に実力不足であり、那須は今のトリオン量で交戦維持が不可能。

「うん。――じゃあ、倒すわよ。二人で」

「了解!」

「ごめんね。――もう少しで、終わるから」

そう那須が男の子に話しかけると、彼は怯えたままの表情で、されどコクリと頷いた。

 

 

――僕と那須先輩でラービットを倒せる絵図は、一つしかない。

三雲修は走り出した。

――僕が囮となって、致命的な一撃を那須先輩に叩きつけさせる事だけだ

「アステロイド!」

ちびたトリオンキューブを作り出し、ラービットへ向け放つ。

当然、十分な威力を内包しないまま放たれたアステロイドなど、硬い装甲を持つラービットに届くはずもない。

それでも、意識をこちらに向ける事に成功した。

建造物の陰に隠れながら、幾度もアステロイドを放っていく。

 

その瞬間。

左手の砲台が、うねりを上げていく。

 

「------っ!」

咄嗟に、修はレイガストをスラスターモードに変更し、その場から離れる。

 

瞬間、修が先程まで隠れていた場所は、壁ごと――爆ぜた。

ごぉん、と重苦しい音と炸裂音が激しく響き渡り、辺りに轟音を運んでいく。

巨大なキューブのような弾丸を生成し、砲を放った。

----恐らくは、修にアレを防ぐ手段はない。

 

――焦るな!

 

冷や汗が背筋を凍らせる。

それでも冷静であれと脳に命令を出していく。

――やる事は変わらない。

 

あの左手の砲撃の射線を切る。

その為に市街地の裏道を通っていく。

ラービットは砲撃を繰り返しながら、修に狙いを定め近付いていく。

 

「ぐ-------!」

砲撃の衝撃の余波だけでも、修の足を縺れさせるには十分な威力。

障害物の多い通りは、射線を切りやすい反面――衝撃が逃げず、ダイレクトに伝わる。砲撃で吹き飛ばされた残骸も叩きつけられる。

 

されど修は走り続ける。

狭い路地を抜け、奥の方へと。

ラービットは自らが通れない道を砲撃で切り開き、修に追い縋っていく。

 

そして――。

背後には、行き止まりの壁。

正面にはラービットがそびえ立っている。

 

ラービットは――淡々と、砲撃を修へ向けた。

 

――今だ!

 

心の底で一声上げ、修は――ラービットの懐へと入り、スパイダーを起動させる。

線が絡まり、差し出された砲台付きの左手が固定される。

「ぐは---!」

スパイダーを絡ませた瞬間――修の鳩尾にラービットの右手が突き刺さる。

それでも修は、声を上げる。

 

「那須先輩!今です!」

その声と共に。

砲台に集められたトリオンへ殺到する――バイパーが幾重にも重なり襲いかかっていく。

 

トリオンの砲が、引火する様に――ラービット本体ごと吹き飛んだ。

「――よくやったわ、三雲君」

「あ---ありがとうございます」

そうして――爆撃に巻き込まれながら、修もまたベイルアウトした。

 

 

「こちら那須!民間人の子供を一人保護しました!本部に避難させてください!」

那須怜は最後の力を振り絞る様に、本部の中へと子供を抱え走って行く。

ラービットを倒し、一直線に本部まで走って来た那須は、もう限界が近かった。

「ゲートを開けます!那須さん、急いでください!」

本部ゲートが開き、滑り込むように那須はその中へ入って行った。

「よ----よか-----」

彼女は本部の中に入った瞬間――安心した表情で立ち尽くした。

『戦闘体、活動限界。緊急脱出』

ベイルアウトを行使し、彼女は緩やかに微笑みながら――戦闘体を放棄した。

 

されど。

 

まだまだ――状況は悪化していく。

 

「-----報告!」

オペレーター、三上の声が響く。

「本部内へ侵入したトリオン兵を捕捉しました!」

 

 




中途半端な所で終わってすみません。
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