後悔はしていない。
序章
―西暦2030年。
人類は正に夢とも思える技術を獲得した。
異文明の技術とも呼べるそれは人類の科学に更なる発展をもたらすものと思われていた。
しかし、ある事件によりそれは人類に破滅をもたらす危険な技術であると思い知らされることとなる。
各地の都市は見る間もなく壊滅し、地球上の人口は激減した。
―そして、2045年。
住処や食料をめぐり、第三次世界大戦が勃発。
戦争は凄まじく、終戦後には文明は滅びる寸前まで追い込まれていった。
終戦後の世界を立て直したのは皮肉にも戦争で飛躍していった機械技術であった。
心を持ったロボット『
飛躍した機械技術が生み出したそれ等は、ある時は工事現場で、ある時は工場で、ある時は、カフェで。様々な場所で働いた。
そんな自律人形達の助力もあり、崩壊した世界は復興の兆しを見せ始めた。
そして、人間と自律人形は共にかけがえのないパートナーとして共存していく事となる。
―だが、しかし・・・。
西暦20XX年
突如として、自律人形開発に携わった一人である『Dr.ライト』ことトーマス・ライトが開発した『ガッツマン』、『カットマン』、『エレキマン』、『アイスマン』、『ファイヤーマン』、『ボンバーマン』を筆頭に自律人形達が反乱を起こす。
正規軍はある事件により今現在も出没している怪物『E.L.I.D感染者』の対処に追われており、代わりに民間軍事会社が彼らに応戦したが、戦闘用自律人形『
そんな絶望的な状況に一人の家庭用人形の少年『ロック・ライト』が立ち上がった。
彼は、産みの親であるライトに自分を戦闘用に改造してほしいと頼んだ。
はじめは息子同然に思っている彼を危険な目に合わせたくないと断っていたが、彼の強い正義感に折れ、彼を戦闘用に改造した。
そして生まれたのが『ロックマン』である。
戦闘用に生まれ変わったロックマンは、暴れている兄弟達を止め、黒幕を突き止めた。
その黒幕の名は『Dr.ワイリー』こと、アルバート・W・ワイリー。ライトと同期であり過激な思想故に人形開発業界から追放された男であった。
そして、ロックマンはDr.ワイリーと戦いその野望を食い止めた。
ワイリーは懲りずにある時は、自分で戦術人形を作り、ある時は人形を奪って改造したりしながら世界制服を企むが、ロックマンは悉くその野望を打ち砕き平和を守ってきたのであった。
―20XX年、S09地区。
Dr.ワイリーの11回目の世界征服を打ち砕いて2年が経った。
ロックマンこと、ロックはDr.ライトや自身の兄妹達と共に激戦区とも呼ばれるここ、S09地区のとある司令部に来ていた。
何故ここに来ているのかと言うと、ここで日夜働いているグリフィンの人形達・・・とりわけ負傷した人形の診療をする為である。
―グリフィン。正式名称、『民間軍事企業 GRIFON&KRYUDER』
元軍人であるベレゾヴィッチ・クルーガーが設立した軍事会社である。
当初は人間を主力に置いた部隊で運営していたが、戦術人形の将来性に期待し、「指揮官+戦術人形部隊」の指揮システムへ移行している。
本来ならば、業務提携しているI.O.P社に修復を要請する事で傷ついた人形達を修復出来るのだが生憎、今日は修復を担当するチームが様々な理由で休んでしまったが為に、クルーガーと旧友であったDr.ライトが招かれる事となったのであった。
「よし、これでもう大丈夫だよスコーピオン君」
修復室にて白衣を纏った白髪頭に長く伸ばした白い髭の初老の男性、Dr.ライトが、修理台に横たわる少女に声をかける。
「ありがとう、ライト博士!」
顔をライトに向けながらお礼を言うスコーピオンと呼ばれる金髪のツインテールに眼帯をはめた少女。彼女の正式名称は『Vz61スコーピオン』。同名のSMGを操る『戦術人形』である。
体を起こし手術台から降り右手を握ったり開いたり、肩をグルグル回して確かめる。
「すごい、治療する時よりも反応が遥かにいいよ。これならすぐにでも戦場に行けるねー」
「ははは、でも病み上がりで戦場に出るのは感心しないな。念のために検査を一回しよう。それをパスしたら大丈夫だよ」
「うーん・・・やっぱそうなっちゃうかぁ・・・」
スコーピオンの言葉に苦笑いしながらライトは言う。
すぐには働けない事を知り、スコーピオンは苦虫を噛み潰した表情になった。
「ロールや、スコーピオン君を検査室へ」
「分かりました、スコーピオンさん検査室へ行きましょう」
「はーい、わかったよ~」
ライトの呼び声に金髪にポニーテールをした少女がやってきた。彼女の名前は『ロール・ライト』、ライトが開発した自律人形の一人である。
ロールは、スコーピオンを連れて検査室へと向かっていった。
「いやぁ、お見事な腕前ですライト博士」
別の方から声がしたので振り向く。そこには軍服姿のまだ、少年さが残る青年が此方に来ていた。
「それほどでもないさ、リツカ君。君の方こそ、前線に立って人形達を的確に指揮しているじゃないか」
「いえ、自分なんか指揮官としてまだまだ未熟です」
「そうは言っても、君の指揮能力は素晴らしいとクルーガーが言っておったぞ」
男性の言葉に笑いながらライトは答える。そんなライトに照れくさそうに男性、リツカはそうライトに答えた。
彼のフルネームは『リツカ・フジマル』。ここの司令部の指揮官である。
新任ではあるものの類稀なる観察眼と指揮能力で数々の武勲を打ち立てており、上層部などから注目されている。
ちなみにロックマンのファンでもあり、初めてロックを見たときは握手とサインを求めたほどである。
「あはは、ありがとうございます。・・・でも、正直厳しいんですよね。ここ最近、奴等・・・鉄血の動きが活発になってきているから」
「うむ・・・、幸いここでの人形達は軽い怪我ですんではいるが、ほかの司令部では重傷者は勿論、犠牲になった子までいるらしいからのぅ」
照れくさそうに笑いながら、途中で苦虫を噛み潰した表情で言うリツカにライトは顔を曇らせる。
―鉄血。正式名称は『鉄血工造株式会社』
かつて、自律人形を製造する会社の一つであり、特に戦術人形の製作技術に特化した企業である。
ある研究者の協力の下、鉄血製の自律人形を統括するAIを開発しており、これが完成した暁には既存の戦術人形を上回る戦闘力を発揮できる期待されていた。
・・・しかし、ある事件によりそのAIは人類の敵となってしまう。
ロックマンがワイリーの11回目の世界征服を阻止して1年後の事である。
鉄血の製造工場に押し入ったテロリストに対し、工場の防衛プログラムが作動した結果、鉄血製の全戦術人形のAIに何らかの致命的なエラーが発生、その結果鉄血製の人形達は反乱を起こし鉄血のスタッフ、テロリストもろとも皆殺しにしてしまう。
そして、全人類に対し宣戦布告したのである。
冒頭でも言ったとおり、正規軍は各地に出没しているE.L.I.D発症者との相手で手一杯である為、鉄血の相手を引き受けたのがグリフィンである。
そして、今日までグリフィンと鉄血は一進一退の攻防を繰り広げているのである。
「鉄血は日に日に勢力を拡大しつつある。その魔の手は世界全土に広がるやもしれぬ・・・そうなった時は・・・」
そうなれば、どうなるか?
それはライトもリツカも分かっていた。
再びロックマンが戦いに行かねばならない。―それだけは避けたい。
ロックマンは今まで十分平和の為に戦ったのだ。もう何時までも、ロックマンに重い荷物を持たせるわけにはいかない。
「ええ、分かってます。そうならない為に俺達は全力を尽くしていますから」
「うむ、私も分かっているよ」
リツカの言葉に、ライトは頷きながら窓へと向かい窓の外を見る。
重苦しい空気が辺りに立ち込める。こんな状況を打破しようとリツカは気になっていたことを聞いた。
「そう言えばロックマンさんは何処に?」
「む?ロックか?ロックは君の部隊と共に物資調達に行っておるよ。もうそろそろ帰ってくる頃じゃが・・・」
「博士!」
そう、リツカへと返すライトを遮って修復室に入ってくる一人の少女を抱きかかえた少年と赤いアーマーを纏った犬がいた。
くせっ毛の強い特徴的なヘアスタイルの黒い髪に青いTシャツとジーンズパンツを着た少年、ロックマンことロックである。
一方の赤いアーマーを纏った犬は『ラッシュ』、ロックをサポートするために作られた犬型ロボットだ。
「おお、ロックお帰り。・・・おや、その子は?」
「帰りにラッシュが見つけたんです。体中傷だらけで・・・」
ロックの言うとおり、少女を見てみると体の所々に傷があり意識は無くぐったりとしていた。傷口から見える金属部品を見るにどうやら戦術人形らしい。
「やや、これは酷い傷じゃ!急いで手術をするぞ!ロック、彼女を手術台へ!」
「はい!」
少女を手術台に乗せ、修復手術の準備を始めるロックとライト。
その一方で・・・、
「あの子は、もしや・・・」
リツカは、少女の顔を見てそう呟いていた。
―彼らは知らない。
少女との出会いが、ロックマンの新たなる戦いの幕開けになる事を・・・。
今はまだ、誰も・・・。
原作:ロックマンシリーズ×ドールズフロントライン
ROCKMAN CROSSLINE
ちなみにこの作品で登場しているリツカ指揮官ですが、某カルデアのマスターとは何の関係もございません(モデルにはしていますが)
本当です、信じてください!(HKT兄貴)