派遣死神のせいで死んだ俺が、メダロットの世界に転生したらしい 作:コーヒー@
「…知らない天井だ」
ウソです。言ってみたかっただけです。いや知らないというのは語弊があり、既視感があるというほうが正しいのかもしれない。
眼が覚めた瞬間に意識が覚醒した。
俺からすると一瞬のことだが、あの馬鹿みさまと対峙したあの空間での出来事のあと。
永い眠りから覚めたかと思うと、眼が覚めたら体が縮んてしまっていた。黒の組織の怪しげな取引現場を目撃もしていないし、謎の薬物を飲まされてもいない。
今日は俺ことランマルの十歳の誕生日。ランマル少年の記憶はそのままに、俺の意識が覚醒したというのが正しいのだろうか。ランマル少年のこれまで生きてきた10年の記憶が俺の頭の中にあり、何とも不思議な感覚である。
「あの馬鹿、もしももう一度会うことがあるのなら、絶対に文句を言ってやる。話と全然違うじゃないか」
いや、記憶があるだけもしかしたら提示された条件よりもいいのかもしれないが、俺はそれを望んではいなかった。この条件の相違が神の言った幸福な人生につながらなければ意味がないのである。
「いや、もうこうなった以上仕方ないか。眼の前にいない馬鹿の文句を言うよりも、せっかく生まれ変わったんだから新しい人生を楽しもう」
この時点ではとある物語に放り込まれていることには気づいていない。
いつまでもベットで寝ていても仕方ない、行動を起こすために身体を起こそうとしたところで自身の身体に何かが抱きついていることに気づく。
「う~ん、ランマル。もう朝なの~」
俺の身体に回していた右手で目をこすりながら、寝ぼけまなこで身体を起こし寄りかかってくる少女がいた。
ランマルの記憶を即座に呼び覚ます。まさか小学生にして一夜を共にする幼馴染の存在かとランマルに戦慄しかけたが、少女の存在が判明し安堵する。ランマルには10年の時を共に過ごした己の半身、双子の妹がいる。
「キクちゃん、おはよう。俺はもう起きるから。まだ寝てる?」
「起きる」
そう言うものの、俺の背中にしがみつき動かないキクちゃん。ランマルの記憶ではこの行動は毎朝の恒例行事のようで、俺が洗面所までおぶって連れていく必要があるみたいだ。
よいしょとキクちゃんを落とさぬよう体制を整え、部屋を出て洗面台に向かう。
「あれ、でもランマルの記憶だと10歳の誕生日を迎えるので、添い寝はもうやめようと約束してるはずだけど」
あくまで俺ではなくランマルとキクちゃんの約束なのだが。記憶の中でのランマルとキクちゃんはシスコン・ブラ…失礼、大変仲睦まじい兄妹のようである。
◆◇◆◇◆◇◆
「おはよー」
キクちゃんを洗面所に放り出し、先にリビングでひと心地ついていた両親に朝の挨拶をして朝食が用意されたテーブルにつく。
「おはようランちゃん。お誕生日おめでとう」
「ランマル、おめでとう。キクちゃんが戻ってきたら2人が楽しみにしていた誕生日プレゼントを渡そう」
両親に挨拶と誕生日の祝福を受ける、ランマル本人には申し訳ないが、今は意識が融合しているので自分もランマルである。この祝福は俺に対して言ってくれているのだと思おう。何より人の良さそうな2人にわざわざ真実を話して悲しませる必要はない。
「パパ、ママおはよー」
まだ眠いのかあくびをしながらリビングに戻ってきたキクちゃんに両親達も微笑みを浮かべて返事を返す。
家族揃ったところでランマル・キクちゃんのお母さんが食卓に朝食を並べて席に着き、家族団欒の時間が始まる。食卓はキクちゃんが主に俺かお母さんに話しかけ、どちらかがそれに応え、お父さんはそれをみて笑っている。
笑みが絶えない朝食の時間は15分ほどで終わり、お母さんは洗い物を済ませるためにダイニングキッチンで作業に向かう。
「ランマル、キクちゃん、改めてお誕生日おめでとう。2人にプレゼントを用意してるから、今からそれを渡そう。2人の大切なパートナーになることを願っているから、大切にしてあげなさい」
そう告げると、お父さんは一度席を立ち部屋に戻る。数分もしないうちに大きな荷物を抱えて再びリビングへと戻ってくる。
「キクちゃんは先に希望を聞いていたからこの箱を取りなさい」
「わーパパありがとう。先に開けてもいい」
キクちゃんは待ちきれないといった表情で嬉しそうに箱を抱きしめている。お父さんはちらりと俺に目線を送る。俺も合わせるように答える。
「キクちゃん、俺は気にせず先に開けていいよ。俺にも何がもらえたか見せてもらえる?」
「うん!」
嬉しそうに笑みを浮かべて、丁寧にプレゼントの包装紙を剥がしていく。
10歳の女の子がこんなにも喜ぶプレゼントか。俺には女兄弟がいなかったのでわからないが、この年の女の子は何をもらったら喜ぶのだろう。
包装紙を剥がし終え、その中から現れたのは赤いネコ型ロボットであった。
「わーホントにペッパーキャットだ。パパありがとう」
「どういたしまして、ほらこれがキクちゃんのメダロッチだよ」
箱を抱えてお父さんに抱きつくキクちゃんに、そっと小さい箱を手渡す、その中には腕時計の形をした機械、メダロッチが入っていた。
キクちゃんは左手にメダロッチを装着すると、箱の中から赤い猫型ロボットを取り出して背中の部分にコインのようなものをセットして蓋を閉める。
腕のメダロッチを操作すると、数秒もたたないうちにネコ型ロボット、ペッパーキャットは起動してキクちゃんの前に立つ。
キクちゃんとペッパーキャットが言葉を交わす中、その存在に驚きを隠せない俺は心の中で叫ぶ。
「(ペッパーキャットの姿を見てまさかと思ってだけど、これメダロットの世界じゃん!それに妹として認識してたから気づかなかったけど、キクちゃんってキクヒメのことか⁉︎)」
キクヒメとペッパーキャット。
それは俺が子供の頃に遊んだゲームやそれがアニメ化された作品の中に登場するキャラクターと彼女が使用するメダロットの名前である。
キクヒメは天領イッキが主人公のメダロットに出てくるキャラクターで簡単に言うと主人公の学校にいる悪ガキ集団スクリューズの姉御的存在である。物語の序盤から登場し、時に主人公のライバルとして、時に主人公に手を貸す仲間として作品の中でも登場回数の多い女の子。悪役的な一面が強いためヒロインとしての役割は持たないが、子分のイワノイやカガミヤマのことは見捨てない義理人情に厚い、当時の俺は好感を持っていたキャラクターである。
ペッパーキャットは彼女の相棒で、女性型メダロットの一体で低い装甲値を補って余りある機動力と当たれば敵の動きを一時的に停止させるサンダー攻撃で相手を翻弄するメダロットである。キクヒメとの中も非常に良好で作品が変わるたびに装備を更新しながらも、彼女のメダロットとしてともに戦い続けた戦友であり、親友である。
ここで少しだけメダロットについての説明をさせて欲しい。
メダロットとは、素体となるティンペットの背中にメダルをはめ込み、ティンペットの上にパーツを装着する事により完成する。ティンペットは雄型雌型の区別があり、それによって装着出来るパーツの種類が異なる。メダルには雄雌の区別はなく、両方のティンペットに装着できる。ティンペットは骨格及び神経、メダルは頭脳、パーツは筋肉の役割を果たす。
メダルはメダロットの頭脳にあたる部分であり、遺跡より発掘されるオリジナルとメダロット社の人工メダルがある。
また、メダルにはリミッターがついており、
メダロット三原則
第一条 わざと人間を傷つけてはならない
第二条 人間に危険が降りかかるのを見過ごしてはならない
第三条 第一条と第二条を破らない範囲で他のメダロットに致命傷を与えない
以上の三原則はすべてのメダロットとメダロッターに遵守されている。
つまりは姿形は変わろうとも、メダルという頭脳、この際魂と言い換えてもいいだろう。ともに戦い成長するメダルが変わらなければ、人とメダロットはたとえ姿を変えたとしても、ともに生きていられるのである。
メダロット同士を戦わせるロボトルという競技がこの世界では流行している。
ロボトルは戦略上、純正パーツだけで戦うこともあれば、パーツを付け替えて戦うことは決して珍しいことではない。メダルとパーツの相性も勿論あるが、相手のメダロットの装備に対して有利に戦うにはどちらも相手に有効なパーツに変更する必要があるからである。
公式のロボトルでは3vs3のチーム戦になるので、それぞれのメダロットに攻撃・支援・防御・回復・妨害といった役割を持たせて戦わせることが多い。
アニメ版の設定だと、キクヒメは日本ロボトルランキング100位以内に食い込んでいる優秀なメダロッターであり、物語の重要な登場人物である。
ランマルとは聞いたことがないキャラクターの名前であるので、おそらく俺がこの世界に入ることで生まれたオリジナルのキャラクターなのだろう。
まさか俺の妹がスクリューズのキクヒメだったとは。俺の妹はおそらく世界で一番かわいいが、事実は小説よりも奇なりとはこのことである。
今日のメダロット
「ペッパーキャット」(女)
でんきこうげきがとくいな
ネコがたメダロット。
あいてのうごきをうばう、
きょうりょくなサンダー
こうげきをしかけてくる。
メダロットDSより