それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。
こうして、俺と初春と佐天はJoseph’sを出て、ひとまずバイクのところへと向かう。そこで俺は一つの大きな、致命的な問題に直面する。俺が初めに考えていたデートプランでは、初春をバイクの後ろに乗せてセブンスミストに向かい、そこで服を買い終えたらどこかのレストランに寄って夕食、その後は初春をそのまま学生寮に送り届け帰宅する。というものだった。しかし佐天の乱入によってそのプランは破綻。バイクという移動手段も使えない事態へと陥ってしまった。俺はどうしたものかと腕組みをして考え込む。すると、初春が質問をしてきた。
「芝浦先生、もしかして今日はこのバイクに私を乗せていくつもりだったんですか?」
「ああ、まぁそんなところだ。しかしまいったな。バイクには2人以上は乗れないぞ。」と佐天の方を見る。
すると佐天が「えー、そうなんですか?でも頑張れば乗りますよ、多分!」と適当なことを言う。
俺はどうしたものかと考え、そこで一番無難な方法を取ることにした。
「仕方がない。こうなったらバスで向かうしかないだろう。」
俺がそう言うと初春はちょっと残念そうに、佐天はバイクに乗りたいという欲求を全開にして「そう、ですよね・・・。そうなっちゃいますよね。やっぱり。」、「えー、頑張ればいけますって。だから乗せてくださいよ~。」と言うのだった。
―何とか佐天をなだめ、初春を元気づけた俺はバスに揺られながらつり革につかまっていた。初春と佐天は座席に座り、お互いに何やら話している。
ちなみにヘルメットやジャケットなんかはひとまずJoseph’sへと預けることにした。俺が教師で警備員であることと、今のこの状況を話したら店員は快く預かってくれたので本当に助かった。後で何か飲み物でも持っていこう。
それはさておき、俺は先ほどの男子高校生たちの話を思い返していた。「幻想御手」、「聴くだけでレベルが上がる」、「あまりよく分からないもの」・・・。音楽を聴くだけでレベルが上がる、そんな話が本当にあるのだろうか。仮にそれが本当だったとして、それの開発者は一体だれなのか、それを使ったとして副作用や健康被害などは無いのだろうか。この学園都市のどこまで広がってしまっているのか―。
「・・・センセ―、芝浦センセ―?」
俺は名前を呼ばれ、我に返る。佐天が不思議そうな目でこちらを見ていた。
「どうしたんです?そんなに怖い顔しちゃって。」
「あ、いや、ちょっと考え事をな。」
俺がそう答えると、佐天は「ふーん・・・。って、ちゃんとあたしとのデートに集中してくださいよ!」と何やら誤解を生みそうなことを言ってきた。
それを隣で聞いていた初春も「ちょ、ちょっと佐天さん!?芝浦先生は『私たち』とデートしているんですよ?佐天さんだけなんてズルいですっ。」とこれまた誤解を生みそうな言い方をする。
そのやり取りを聞いていた周りの乗客たちが、何やらヒソヒソと話す気配が伝わってきた。俺はいてもたってもいられず、二人に声をかける。
「あーもう、分かった分かりました。俺が悪かった。だからもう誤解を生むような言い方はやめてくれ・・・!」
それを聞いた二人は周りからの視線に気づき、お互いに顔を赤らめて苦笑いをしていたのだった。
バスに揺られること20分。セブンスミストに到着した俺たちは店内に入る。冷房の効いた快適な店内で汗ばんでいた身体から温度が奪われていくのを感じ、俺は少しホッとする。しかしそれも束の間。俺はいつの間にか二人に両手を取られていた。
「さぁ行きますよっ!本番はここからですっ!」
やけに気合の入った初春と、それに加勢する気満々の佐天に引っ張られ、俺は為す術もなく、周りから好奇な目で見られているのを気にする暇もないまま、連れ回されるであろうこの後の運命に身を委ねるしかなかった。
――案の定、俺は二人に連れ回され、次から次へとかごに放り込まれていく服(一部下着類)を見て絶望に打ちひしがれていた。こいつらは遠慮というものを知らんのか?とも思ったが、「生徒が先生のお財布なんか気にするな」といった手前、強く止めに入ることもできないまま荷物持ちをしていた。
「・・・芝浦、先生?」
一体いつ終わるとも知れないこの荷物持ちタイムをしていると、後ろからどこかで聞いたことのある声が俺の名前を呼んだ。振り返ると、そこには私服姿の一人の女の子が立っていた。
「あれ・・・?新橋・・・さん?」
私服姿だったので一瞬分からなかったが、その整った顔立ちは、俺がいつかひったくり犯からハンドバッグを取り返したあの長点上機の女学生によく似ていた。俺が名前を呼ぶと、その女の子は目を輝かせる。
「はい!新橋です!やっぱり芝浦先生だったんですね!こんなところでまたお会いできるなんて嬉しいです!」
まるで子犬がしっぽを振っているかのような可愛らしさを放ちつつ、新橋は感激する。俺も笑顔でそれに応える。
「久しぶり。新橋さんも何か服を買いに来たの?」
「はい。芝浦先生に助けていただいたあの日に買おうと思っていた服を買いに来ました。」
どうやらあの日以来、なかなかこちらには来られなかったようだ。いや、外に出歩くのが怖かった、と言うべきだろうか。無理もない話だ。
「そうだったのか。それで、どうかな?もう外に出歩いても大丈夫にはなってきた?」
俺は優しい声で新橋に問う。新橋は若干暗い表情になりながらも、口を開く。
「えっと、正直言うとまだ怖いです。でもお洋服は欲しいし、それにまたああいうことがあっても守ってくれる人がいる。だから思い切って今日、こっちに来てみたんです。」
そして新橋は俺に笑顔を向けてきた。俺はそれを見て、何か警備員として対策できることはないかと思案する。そして一つの提案を思いついた。
「新橋さん、またああいったことがあった時のために、防犯グッズとして売られている発信機付きの防犯アラームなんかはどうかな。それならボタンを押した瞬間に警備員本部に通報が行くから、お守りとして。いやまぁ、もう二度とあんなことが無いのが一番なんだけどね。」
俺がそう言うと新橋は嬉しそうに「芝浦先生、ありがとうございますっ!そんなものがあるなんて知らなかったので、今度探してみますね。」と言った。
それに対して俺は「いや、別にそんな高いものでもないし、今度プレゼントするよ。警備員として不安を抱えている学生を見過ごすわけにはいかないからね。」と言うと、新橋は「いえいえっ、さすがにそれは申し訳ないですよっ!」と断りを入れてくる。
そこで俺は、新橋に提案する。
「うーん、じゃあこれは俺の個人的なプレゼントってことで。前に傷を治してくれたお礼も兼ねてね。」
そう言うと新橋は何を思ったのか、顔を赤らめながら反論してくる。
「こ、こ、個人的なプレゼントってそんな・・・!それにあれは私を助けてくれたお礼なので気にしないでくださいっ!」
「いやいや、そういうわけにはいかないよ。それに俺はあくまでも仕事をしただけだから、むしろこっちが助けてもらっちゃったくらいだし。だからお返しさせてよ。ね?」
俺がそう言うと、新橋はまだ赤い顔をしながら「わ、分かりました・・・。」と了承する。
俺は笑顔で「うん、ありがとう。」と答える。
すると何やら、背後から強烈な視線を感じたので振り返ると、そこにはさっきまでお互いに服の物色をしていた初春と佐天が、
「芝浦先生、その子は一体誰なんですか?」と怖い顔をして初春。
「まさか芝浦センセ―・・・、3股かけてたんですか!?」と冗談なのか本気なのか分からないことを言い出す佐天。
俺は呆れた顔をしながら「違う違う。前に警備員の仕事で助けた子だよ。お前たちの先輩だぞ?」と二人に紹介する。
次いで新橋が「初めまして。長点上機学園1年の、新橋恵です。」と二人にあいさつをする。
それを聞いた二人はなぜか安堵し、「なーんだ、先生が助けた子だったのか~。って、先輩!?」と佐天は直後に驚いていた。
それもそうだろう。新橋は二人よりも先輩ではあるが、身長は佐天よりも低く、なおかつスタイルは貧にゅ・・・スレンダーな体型で、初春と変わらないくらいだった。むしろ佐天の方が出るところは出ていて、私服姿で並んだら佐天が一番お姉さんに見えてしまいそうだった。
しかし次に、新橋が俺に質問をしてくる。
「あの、芝浦先生。この二人と先生はどういったご関係で・・・?」
いい加減にそういう聞き方はやめてくれと内心思いつつ、俺は説明をする。
「そういえば俺のいる学校をまだ言ってなかったね。俺は柵川中学の教師で、初春と佐天は俺の学校の生徒なんだよ。今日は約束してた買い物に来てたんだ。」
それを聞いた新橋は納得する。そして初春と佐天が自己紹介をしてきた。
「初めまして。柵川中学1年の初春飾利です。一応、風紀委員をしてます。よろしくお願いします。」
「あたしも初春と同じ柵川中学1年の佐天涙子です。特にこれと言えるものはないけど、よろしくお願いします。」
二人の自己紹介を聞き、新橋は笑顔で「はい。初春さんに佐天さんね。可愛い後輩ちゃんで嬉しくなっちゃった。よろしくね。」と先輩風を吹かせていた。
「さて、それじゃあお互いに自己紹介も済んだし、初春、佐天、そろそろ会計に行っても大丈夫か?」と俺は両手のかご一杯に入った服の重みを感じつつ、二人に質問する。
「あー、ちょっと待ってください!あと1着、いや2着だけ選んできますから!」と佐天。
「ごめんなさい芝浦先生、私もまだ欲しい服があって・・・。」と初春。
俺はもう二人がそれでいいなら好きにしてくれと思い、「分かった分かった、じゃあそれを持ってきたら会計しちゃうからな。時間もないし。」と二人に言う。
そして二人はお礼を言いつつ再び服の向こうへと消えていった。
それを見ていた新橋は何やら笑っており、俺はそれを見てやれやれといった感じで苦笑する。すると、新橋が話しかけてきた。
「あの、芝浦先生、ちょっと聞きたいんですけど。」
「ん?どうした?俺に答えられるものだったら何でもいいぞ。」
俺は何気なく返答する。
「先生って、私やあの二人のこと、名字で呼んでますよね?」
「うん、それがどうかした?」
「いえ・・・、下の名前では呼ばないのかなって、ちょっと気になって。」
「うーん、まぁ生徒だしなぁ。特に呼ぶことはないかな。」と俺は普通に答える。
しかし新橋は、何やら意を決したようにこちらを見据えて、こんなことを言ってきたのである。
「・・・芝浦先生、私のことだけは、『恵』って下の名前で呼んでくれませんか?」
俺は驚いて新橋の顔を見る。ついでに言うとかごを落としてしまった。彼女のほんのりと赤くなった頬を見るに、そういった意味合いで言っているらしい。俺は返答に窮する。
「えっ、いやっ、でもそれはさすがに・・・。」
「お願いです。私のことは下の名前で呼んでください。」
新橋は今度はよりはっきりとした口調で、こちらに迫りつつ言ってくる。俺はどぎまぎしながらなんと言ったものかと思考を巡らせるが、回路はフリーズ直前でうまく機能しない。さらに新橋は身を寄せ、顔を見上げてくる。
「ちょ、ちょっと待って、待ってくれ。」
俺はそう言い、新橋の肩を掴んで距離を取る。
すると新橋はむすっとした表情になり「芝浦先生って、実はヘタレだったんですね。」と冷たい視線を向けてくる。
「なっ・・・、俺はそういう意味で言ったんじゃ―!」
―言い返そうとしたその時、店内に非常用ベルが鳴り響いた。
まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
さて、今回もアニメ版「とある科学の超電磁砲」第2話冒頭~美琴と黒子が掃除をしているシーンまでのお話となりますが、まだまだ続きます。楽しくて2話じゃ収まりませんでした。ごめんなさい。やはり二人に振り回される芝浦先生・・・!いやぁ、本当に中学生ってパワフルですよねぇ(白目)。更にそこに割って入るようにして現れた恵ちゃんですが、中々に大人をからかうのが上手なようで。そして突如として鳴り響いた非常用ベル。これは大きな事件を知らせているのか、果たして・・・!?次回に続きます。
次回、第9話「優先順位と自分の想い」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。
2018.12.01追記
細かい部分の修正を行いました。