皆さんこんにちは。前回「ハーレム王と小悪魔彼女」では、涙子に加えて恵も芝浦先生とのデートに乱入し、そして思わせぶりな発言をしていましたが、しかし直後に非常用ベルが鳴ったところでお話が終わりましたね。今回も前回の続き、同じ時間軸のお話となります。どうやらここで、「放課後ハラハラハーレムデート」は終わりを告げてしまうようです。
それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。
まるで耳をつんざくような甲高い音で、非常用ベルが突如として鳴り響いた。俺も新橋も一瞬固まる。
しかし直後、俺は動き出していた。新橋が遅れてそれに気づき、俺の後をついてくる。持っていたセキュリティカードを、安全ピンで左胸に名札のように着けて、特殊警棒を取り出し警戒態勢に入る。遅れて、服の向こうから佐天と、腕章をつけながらやってくる初春の姿が目に入る。新橋はと言うと訳も分からず動揺している。
「芝浦先生!一体何なんですかこの警報!?」
初春が俺のところに来るなり聞いてくる。
「恐らくは防犯アラームだろう。誰かがこの店のセキュリティに引っかかったらしいな。」と冷静に返す。
そして次に、俺は「3股をかけているヘタレ教師」ではなく、一人の「
「初春!直ちに警備員への通報を頼む!佐天、新橋は安全が確保できるまで俺から離れるな!」
新橋と佐天は為す術もないまま、俺の傍で周りに目を泳がせている。それを横目に初春が警備員へと連絡を取る。
「わ、分かりましたっ!・・・もしもし、風紀委員第177支部の初春と言います。たった今、第7学区の洋服店、セブンスミストにて防犯アラームが発令、警備員の応援を要請します!なお、現場には第34出張所の芝浦先生も一緒です!・・・はい、・・・はい、・・・分かりました!」
そして初春は電話を切ると、俺たちの方へと向き直る。
「佐天さん、新橋さん、あなたたち二人は安全の為に店外へと避難してください。芝浦先生、現状ではあなたがこの場にいる治安維持機関の最高指揮官です。私は今から、芝浦先生の指揮下に入り風紀委員として活動します。」
俺は初春の目を見て頷く。佐天と新橋はそれを聞いて行動を開始した。
別れ際、佐天が俺と初春に「じゃあ、気を付けてね初春。芝浦先生も。あたしの親友に傷一つでも付けたら、許さないかんね!」と言ってきた。
俺は笑顔と親指を立ててそれに応える。初春はそれを聞いて涙目になりそうだったが、しかし今では無いと思い直したのか、すぐに風紀委員の顔になる。そして二人を見送った俺と初春は、それぞれ治安維持機関の隊員として行動を開始する。まだアラームは鳴り続けていた。
「初春、ひとまず現場の特定を急ごう。こんなに広い店内ではどこが現場なのか見当もつかないからな。それに、客は逃げているがまともな避難誘導すら行われていないのを見るに、これはただ事ではなさそうだ。」
それを聞いた初春は更に真剣な表情になる。
「分かりました。では警備室に向かってみましょう。そこなら何かわかるかもしれません。」
それを聞き、俺はその提案に賛成する。そして行動を起こそうとした、その時だった。
「キャアアァアアアアーーーーーーー!!!!?!?!」
遠くの方から――佐天と新橋が向かっていった方向から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「今度はなんだ!?」
俺は一瞬、あの二人の姿が脳裏によぎる。しかしそれをすぐに振り払い、冷静に思考する。
「初春!お前は直ちに警備室へ行き、現場の特定を頼む!それから、現場を特定出来たらこの店のガードマンを連れて避難誘導を!俺もすぐに行く!」
それを聞き、初春は向かおうとした。だがそれを呼び止める。
「これも持ってけ!」
そして俺は、初春に通信用のヘッドセットを投げ渡す。初春はそれを受け取り、『任せてください!』という表情を見せて警備室へと向かった。俺は現場が特定できない以上は闇雲に動くわけにもいかないため、声のした方向へと走り出す。
走ること若干3分。その状況は最悪だった。大柄の男がナタのような大きな刃物を片手に、小柄な女の子を人質に取っていた。そしてその傍には恐怖で座り込んで動けないセミロングヘアーの少女。俺はそれを見た瞬間に、さっきの判断を後悔していた。
そう、人質に取られていたのは、新橋恵だったのである。
俺はひとまずその場に駆け寄り、佐天に声をかける。
「佐天!大丈夫か!?」
すると佐天は俺の方を向き、そしてしがみついてきた。
「し、芝浦センセ―!どうしっ・・・、どうしようっ!新橋さんがっ・・・!」
俺は佐天を立たせると、物陰にいるように指示を出す。そして笑顔でこう答える。
「俺に任せろ。大丈夫。お前の親友には傷一つ負わせないさ。」
そして新橋と、大柄な男の方へと向き直る。正面から見据えると、男が声をかけてくる。
「ぁん?なんだぁテメェは?」
それに対し、俺は一喝する。
「警備員だ!大人しくその子を離せ!さもなくば・・・、無事では済まさんぞ・・・!」
しかしそれを聞いた男はと言うと―。
「はっ?警備員?ダッハハハハ!?笑わせんじゃねぇよぉあんちゃん?んな棒っきれで何ができんだ?あ?」
どうやら「棒きれ」とは、特殊警棒のことを言っているらしい。恐らく相手は能力者・・・?俺は生唾を飲み込む。背中を一筋の汗が伝わっていくのを感じる。新橋は恐怖で顔を引きつらせ、声も出ないようだ。何とかしなくては・・・。すると、男がこんなことを言い出した。
「まぁいいや、どうせこんな小娘を人質にしてても面白くないしよォ、あんちゃん『警備員』とか言ったな?てことはアレだろ?強いんだろ?だったらこういうのはどうだ?俺はアンタと『遊ぶ』代わりに、この子は逃がしてやるよ。悪くない条件だろ?」と男はニヤニヤしながら提案する。
俺は逡巡する。新橋が俺にすがるような目を向けてくる。
しかしその時、ヘッドセットから初春の声が聞こえてくる。
「芝浦先生!初春です!どうやら現場は8階の高級服売り場のようです!今からガードマンの方と一緒に現場に向かいます!」
俺はそれを聞き、一瞬揺らぐが迷っている暇はなかった。ヘッドセットの通話ボタンを押し、俺は即答する。
「初春、すまない。そっちは任せた。・・・ああ、分かった。テメェを『満足』させてやるよ。それよりもまずはその子を開放しろ!」
すると男はニタァと笑い、「いいねぇいいねぇ!そう来なくっちゃ面白みがないってもんだ。じゃあま、約束通りこの子は解放してやるよ。」と、新橋を押さえていた腕を緩める。
ヘッドセットから初春の声が聞こえたような気がするが、果たして―。
新橋はこちらへ駆け寄ってきた。俺は少しだが安心する。だが。
「オラァッ!油断してんじゃねぇぞあんちゃん!」
その「安心」が「油断」となり、俺は新橋の後ろからナタを振りかざして迫ってくる男に気づくのが一瞬遅れる。そして、そのナタが捉えた標的は―。
「っっ!!させるかぁっ!!!!」
俺は跳躍し、新橋との間に割って入る。間に合えっ・・・!
『ガキィィイイインッッ!!!!』と激しい金属音がしたかと思うと、俺の右腕に想像を絶する荷重がかかってくる。たまらず両腕で警棒を押さえる。骨がミシミシと音を立てて軋むのが伝わってくる。しかし、何とか新橋にナタが当たるのを防げたことを確認した俺は、新橋が逃げるまで耐える。
「ぐっ・・・・・!」
「ヒャッハア!流石だぜ警備員のあんちゃんよォ!だが本番はここからだぜぇッ!」
男は後ろに大きく―5mほど跳躍すると、今度はナタを腰に据えて、俺の腹をめがけて突進してきた!
『ギャリィィイイインッ!!!!!』
俺は辛くもそれを防ぐ。火花を散らしながら警棒とナタが擦れ合い、耳をつんざくような金属音が鼓膜を叩く。冷や汗がドワッと出てくる感触を感じながら、俺は体勢を立て直そうと必死になる。
「くっ・・・、ハアッ、ハアッ、ハアッ、アイツは一体・・・。」
「オラオラどうしたぁ!?もうへばっちまったのかァ!?」
続く連撃。防戦一方の俺の持つ警棒は、塗装が次々と剥がれていき、次第に黒から銀色へと変色していく。しかし、俺はその連撃を受け流しつつ、ある一つのことに思い至る。
―相手は、能力者ではない。
そう、相手はナタの威力そのものはすごいが、特にこれと言って能力を使っているようには見えなかったのだ。それに気づいた俺は、攻勢に打って出る。
「せあッ!!!!」
『ブォンッ』という風切り音を立てて、警棒は男の右横腹をめがけて打撃を加える。そして、男の横腹に当たった瞬間、『警棒が当たった方向にひしゃげて曲がった』。
「―え?」
「アン?なんだァこの弱っちい攻撃はよォ?」
そして俺の左わき腹に打ち込まれる膝蹴り。防ぐ間もないまま『パキパキッ』という音と共に激痛が走る。そして、俺の体は気付けば、宙を舞っていた。
「ひっ・・・・・!」という新橋の悲鳴が聞こえたような気がする。
永遠に宙を舞っているかと思っていたが、しかし叶わず店内の床に叩きつけられ、二回目の激痛が襲う。
「ぐ・・・・うああぁぁあああああああっっっっ!!!!?!?!??」
痛みでたまらず俺は叫ぶ。そして左の肋骨が折れて
「ハッハー?どうしたあんちゃん?もう終わりかァ?」
ナタを持った男が近づいてくる。俺の手にはひしゃげてしまった警棒はなかった。離れたところに落ちているのを見つけたが、動けそうにない。痛みの中で俺は考える。
「(クッソ・・・、どうすれば・・・!)」
「なんだなんだァ?さっきまでの威勢はどこに行っちまったんだ?もっと俺を楽しませてくれよォ?」
男が俺の頭の上で何やら言っているが、そんなことを聞いている暇はなかった。そして俺は、最後かつ貧弱な手段に思い至る。
「(痛みで左腕は動かせないか・・・。仕方ない。これで駄目だったらせめて佐天たちの盾くらいにはならないと格好がつかねぇな・・・。)」
俺は心の中で自分を嘲笑する。そして、左胸につけていたセキュリティカードを取り出す。気付けばヘッドセットもどこかに吹っ飛んでしまっていた。
「(あとはこれに賭けるしかない・・・!)」
俺は立ち上がる。激痛が走る。再び叫びそうになるが、ぐっと堪えて男の目を見据える。男はニタニタと笑っていた。
「お?なんだあんちゃん?奥の手ってやつがまだあるのかい?」
俺は何も言わずに男へと歩み寄る。男は動じない。そして俺は『右手に持っていたセキュリティカードを横に思い切り振り切った』。
『ジャッ』という音がした。男は何が起こったのかすら一瞬理解できなかった。しかし直後、両目が見えないことに加えて激痛が走る。
「うあっ!?うあぁああっ!?!?なんだこれはァッッッ!?!??」
そう、俺は男の両目をセキュリティカードで裂き切ったのだ。セキュリティカードの端からトロトロとした液体が垂れている。男はナタを捨て、目を押さえてうずくまる。俺はとっさにナタを蹴って男から離すと、男の腕に手錠をかける。そして男に対してこう吐き捨てた。
「な?だから言ったろ?『満足させてやる』ってな。」
男は戦意喪失し、目を抑えたままうずくまってじっとしてしまった。それはそれで逆に不気味ではある。
すると、サイレンの音が近付いてきた。どうやら警備員の応援が来たようだ。ついでに言うと新橋と佐天も駆け寄ってきた。そして新橋はそのまま俺に抱きついてくる。
「いっ―!!!」
俺は
「あっ、ごめんなさいっ!今すぐ治療しますね!」
しかしその時、携帯のバイブレーションが鳴っていることに気付く。治療は正直言って受けたかったが、その電話に出る。
「もしも―。」
「芝浦先生!!もう!いきなり通信が途切れたから心配してたんですよ!?」
電話の向こうから、初春がとても心配している声で俺の身を案じていた。俺はその声を聴き、平常心を取り戻していく。
「あ、ああ、ごめんよ。こっちも手が離せなくってな。心配かけちゃったな。」
「今からそっちに行きます!こっちはもう警備員の応援が来ているので大丈夫です!」
「ああ、よろしく頼む。ついでに言うと救急隊も連れてきてくれると助かる。」
「分かりました!」
初春はそう言うと、電話を切った。そして新橋が待ちかねたと言わんばかりに話しかけてくる。
「芝浦先生、今すぐ治療しないと命に関わります!とりあえずそこのベンチに座ってください!」
新橋はそう言うと、俺をベンチまで連れていく。歩くだけでもその振動で激痛が走るが、冷や汗があふれ出てくるのを感じつつも何とか堪える。佐天が心配そうな顔をして俺と新橋についてくる。
そして、新橋は俺に診察と治療を行おうとしたが、しかし俺はあるものを見つけ、新橋を止める。
「ちょっと待て、あそこに見えてるのってなんだ?」
俺はそれがある方向を指さして教える。新橋と佐天がその方向を見るや否や、佐天がそこに駆け寄る。そして―。
「しっ・・・、芝浦先生!!!男の子が・・・、男の子が倒れてますっ!!」
佐天は悲痛な叫びをあげた。新橋がすぐさま駆け寄る。俺は痛みで動けなかった。そして新橋が、深刻な表情でこう伝えてくる。
「芝浦先生・・・、恐らくこの子は今、心肺停止状態です。今すぐに蘇生処置を行わなくては、まず助からないでしょう。」
俺はそれを聞き、恐らく先ほどの男にやられたんだろうと推察する。そして俺は迷うことなく新橋にこう伝える。
「だったらすぐにその子を治療してやれ!俺は後で良い!」
しかし新橋は、依然として暗い表情のまま更に残酷な現実を告げてきた。
「この子の・・・、この子の左腕が
新橋の目には涙が浮かんでいた。それを聞いた佐天は新橋に問い詰める。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ新橋さん!この子を・・・、この子を見殺しになんてできません!お願いです。この子を助けてください!」
まっすぐに見据え、佐天は新橋を説得する。俺も佐天に加勢する。
「新橋、頼む。その子を今、この場で救えるのはお前しかいない!」
「でも・・・!それだと芝浦先生が手遅れになっちゃいます!」
「ふざけるな!!!」
一瞬の静寂――。
――「新橋、お前は、お前はなんの為に今まで医療の研究をしてきたんだ!?お前の能力を使わなくても、絶対的な死に瀕している人を救うためだろうが!だったら今、治療するべきは俺じゃない!新橋恵!お前が今治療するべきは、そしてその能力を使うべきなのは、目の前にいるその男の子だ!」
新橋は驚きと絶望が入り混じったような表情で、涙を目にいっぱい溜めてそれを聞いていた。俺は構わず続ける。
「その子を救え!新橋恵!その子の未来を自分の手で守るんだ!救ってみせろっっッ!!!!」
―新橋恵は弾かれたように男の子の治療を開始した。別に芝浦先生に言われて使命感に燃えたとか、義務感があってやっているというわけではない。頭ではわかっている。芝浦先生を先に治療しなきゃいけないことも、この男の子の命は既に消えかけていることも。しかし
まずはこれ以上の出血を止めるために、左腕に緊縛止血を行っていく。それと並行して、佐天に声をかける。
「佐天ちゃん!心臓マッサージお願いできる!?」
それを聞いた佐天は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに覚悟を決めると新橋の言うとおりに心臓マッサージを始める。
―学校の救命講習でやったとおりにやれば、大丈夫!佐天は自分にそう言い聞かせ、震える手で男の子の小さな胸を押し始める。男の子の体はすでに冷たかった。
そして、新橋が左腕の止血を終え、「集中治療」を発動させて男の子の冷たくなった左腕と、断裂部とを繋いでいく。
すると、初春が警備員と救急隊を連れて俺のもとへとやってきた。俺はそれを認めると、救急隊を新橋たちの方へと向かわせる。そして初春が心配そうに声をかけてくる。
「芝浦先生!大丈夫ですか!?」
俺は力なく笑うと、初春に声をかける。
「ああ・・・、俺は平気―。」
声をかけた、はずだった。視界が闇に包まれ、体に入っていた力が抜けていくのを感じていく。
それからすぐに救急隊の尽力もあってか、奇跡的に男の子は現場にて心拍を再開した。佐天と新橋は緊張がほぐれていくのを感じ、救急隊も安堵の表情を見せる。そして新橋は芝浦に声をかける。
「芝浦先生!私たちやりましたよ―。」
―新橋恵はこの時、自身の判断を後悔していた―。
まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
さて、今回もアニメ版「とある科学の超電磁砲」での時間軸は前回と同じですが、打って変わって非常にシリアスなシーンがたくさん出てきました。平穏な日常は、ある時にいきなり崩れ去るものです。そして負傷してしまった芝浦先生。果たして彼の運命やいかに。そして恵が次回、どのようにして物語に関わってくるのか。ご期待ください。
次回、第10話「大切にしたいものと大切にするべきもの」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。
2018.12.03追記
細かい部分の修正を行いました。