第7学区、第34警備員出張所の活動記録   作:あきとし

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 皆さんこんにちは。前回「大切にしたいものと大切にするべきもの」では、恵の尽力によって芝浦先生は命を取り留めましたが、最後は二人がお互いの気持ちを吐き出して、そしてより親密な関係になったところでお話が終わりましたね。今回から二人の関係はどのように変わっていくのか、そして「幻想御手」とは一体何なのか、大きく物語が進展していくことでしょう。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください


第11話「仲間と戦友(なかま)」

 俺と恵は、あの両生類に似た男性医師から今の俺たちの状態と、退院時期についての説明を受けていた。まずは二人とも医学的には健康体であること。しかし俺に関しては痛みが若干残っているため、一週間分の鎮痛剤を処方されること。恵は今日一日は激しい運動を控え、念のために学校を休んで休養すること。かと言って病院側としてもできることは無いため、今日の午後4時に退院予定であることなどを告げられる。俺と恵はそれを聞いて安心するとともに、お互いの顔を見て笑顔を見せた。

 

 「―とまぁ、こんな感じだね?それじゃあ僕は医局に戻るから、何かあったらすぐに呼んでもらえるかな?」

 

 俺はそれを聞き、了解の返事をするとともに感謝の言葉を告げる。しかし男性医師は首をゆっくりと横に振った。

 

 「芝浦くん、僕は医者としては何もしていないよ?君が本当に感謝するべきは、そこの可愛らしいお嬢さんじゃないのかね?」

 

 俺はそれを聞き、恵の方を見る。恵は柔らかく笑い返してきた。それを見て俺もまた、顔が緩んでくる。そんな俺たちの空気を知ってか知らずか、男性医師は特に何かを言うこともなく、病室を後にした。しかし心なしか、彼の顔はどこか笑っているように見えた。

 

 

 そして男性医師が出ていくや否や、恵が俺の背中に抱きついてくる。今日の朝の一件で、俺と恵の仲は大きく変わった。少なくとも、「先生と生徒」という枠では無くなっているように思う。俺は恵の暖かな体温を感じながら、幸せな気持ちに浸っていた。

 しかしそれは、突然鳴った空腹を知らせるサインによって台無しにされてしまう。気付けば時刻はすでに昼過ぎ。病院というところはどうしてこうも時間間隔が無くなるのだろうか。そして俺のお腹が盛大な音を鳴らしたかと思えば、それにつられるようにして、恵のお腹からも可愛らしい音が鳴った。それを聞いてお互いに恥ずかしくなり吹き出してしまう。

 

 「あはははっ、お腹すいたね~芝浦先生っ、ねね、お昼一緒に食べに行こうよ。」

 

 恵が抱きついたまま、ウキウキしながらそう言ってきたので、俺もそれに対して賛成の返事を返す。

 

 「おう、でもどうしようか、病院の敷地からは出られないし、あるとしたら病院にあるグリマか、小さいカフェしかないぞ。」

 

 「ん~、私はどっちでもいいよ?先生と一緒ならどこで食べても楽しいもん。」

 

 俺はそれを聞き、いきなり照れくさくなってくる。さてどうしたものか。

 

 「うーん、それじゃあカフェで何か食べた後に、コンビニに寄って行こうか。何か欲しいものとかある?」

 

 俺がそう聞くと、恵は一瞬目を輝かせたが、直後に気まずそうな顔になる。

 

 「あ~・・・、えっと、私のお財布の中身、昨日のセブンスミストでほとんど使っちゃったんだよねぇ~・・・。」

 

 俺はそれを聞き、あっけにとられてしまった。最初から俺が奢るつもりだったからだ。

 

 「恵はそんなこと気にしなくていいよ。俺が奢るからさ。」

 

 俺がそう言うと、恵は嬉しそうに顔をほころばせる。

 

 「えへへっ、先生ごめんね。でもありがと。お言葉に甘えてご馳走になりますっ。」

 

 「それで欲しいものはあるか?何でもいいぞ。」

 

 恵は少し考えたのちに、俺に答える。

 

 「それはあっちに行ってから考えるね。それよりもお腹すいちゃった。早く行こっ。」

 

 そして俺は財布と携帯を持ち、その途端に恵に手を取られ、引っ張られるままに今日の昼食を食べに行くのだった。

 

 

 病院の総合エントランスに降りてくると、そこは病室とは打って変わって騒々しい雰囲気に包まれていた。医師や看護師が行き来する足音、患者が話す声、開閉する自動ドアの機械音。

 それらの音の波を受けて、恵は少し体を強張らせる。昨日の今日というのもあり、やはり怖いのだろう。その様子を受けた俺は、恵の手を自分から握り返す。恵はそれを感じ取り、俺の顔を見ると心の底から安心したような笑顔を見せた。彼女の心に刻まれた傷は深い。俺はこの様子を見てそう思った。そして、その傷を癒していくのは、俺の役目でもあると強く思う。

 

 

 その後は俺が、恵をエスコートしつつカフェへと向かう。今日はラッキーなことにあまり人がおらず、カフェの中は静かで数人の医師や看護士が、コーヒーやサンドイッチなどを口に運んでいた。俺と恵は窓際の席に行き、メニューを開く。

 ここのカフェは主に軽食を取り扱っているらしく、基本的にサンドイッチやサラダ、ピザ、コーヒー類がほとんどだった。俺はメニューを見ながら今日の昼食を何にしようかと考える。すると、恵が声をかけてきた。

 

 「ね、先生は何食べる?」

 

 俺はメニューに目を落としつつ、曖昧な返事を恵に返す。

 

 「うーん・・・、迷うけど、ピザとサラダで、飲み物はアイスカフェラテかな・・・。」

 

 それを聞いていた恵は俺にメニューを見せ、そして一箇所を指さしてこう言った。

 

 「私、先生とこれ飲んでみたいなぁ~なんて思ったり・・・。」

 

 俺は恵の見せてきたメニューに目を向ける。そこには「期間限定!トロピカルな南国フルーツのミックスジュースで、あなたと彼女はもっと甘々な関係に・・・!?手軽に南国気分を味わえる、『スウィートフルーツ&カップリングドリンク』、税込み560円!彼女との甘いひと時をお手伝いします!」と書いてあり、いかにも南国と言ったグラスにマンゴーやピーチ、パイナップルと言ったフルーツが飾り付けられ、更にはあのカップルが飲むような、ハート形に形成された2本のストローがドリンクに入っている商品画像を見るに、恐らくこの飲み物は「そういった意味」のあるものだと俺は認識する。うん、認識するのはいいんだけど、俺とこれを飲みたいとかやっぱりそういう意味なのだろうか。

 そう思って恵の顔を見ると、思いっきり目が合ってしまった。恵は耳まで顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。どうやら本当にそういう意味らしいことを俺は察する。そして俺も内心ドキドキしながら、恵の提案を受け入れる。

 

 「ああ、いいよ。一緒に試してみよう。」

 

 俺がそう言うと、恵は驚きと喜びの感情が入り混じった笑顔を俺に見せてきた。どうやら今日の昼食は、人生で一番心臓に負担がかかる食事になりそうだ。

 

 

 その後はお互いに昼食を注文し、食べ終わったその時、男性店員がまるでタイミングを見計らったかのように例の「スウィートフルーツ&カップリングドリンク」を運んできた。その時に店員が俺に「がんばれよ」と視線でエールを送ってきたような気がする。俺は恵の顔を見るが、恵はドリンクを見つめたまま顔を赤くしている。それは俺も恐らく同じだろう。正直言うとかなり緊張している。しかしこのままというわけにもいかない。俺は腹を括る。

 

 「えっと・・・、じゃあ、飲んでみようか。」

 

 恵は俺の顔を見ると、期待感と緊張感の入り混じった瞳で答える。

 

 「は、はいっ!いた、いただきましょう・・・!」

 

 ここが病院であるということも忘れ、二人だけの空間を作り出す。そしてどちらからともなくストローを咥えて、冷たいドリンクを口にする。眼前数cmという距離にある女の子の顔。俺の舌は味覚を失い、視線は彼女の綺麗な顔に吸い寄せられ、まるで呼吸をするのも忘れるかのように魅入ってしまった。

 ―恵と視線がぶつかる。彼女の顔が一気に赤くなった。俺も顔が熱くなってくるのを感じる。しかし不思議なことに視線を外すことができない。気付けば俺も恵もストローから口を離し、お互いの静かな吐息が触れるくらいの距離で見つめ合っていた。すると彼女の方から唇を近づけて―――。

 

 「おやおやこれはこれは、長点上機学園の新橋恵さんではないですか。」

 

 突如として耳に届いた男の声によって、その時は終わりを告げた。

 

 その声が聞こえた瞬間、俺と恵はまるで、音速を超えていたんじゃないかと言うくらいの勢いで顔を離した。なんとも良いのか悪いのか、よく分からないタイミングで聞こえてきた声の主に俺は目を向ける。そこには白衣に身を包んだ、一人の男が立っていた。

 

 

 ここが病院であること、そして白衣を着ているということから、おそらく医師であるということが伺える。しかし疑問なのは、なぜこの医師が恵の名前、そして在籍校を知っているかということだ。先ほどまでの熱はすっかり冷めきってしまった俺は、恵にそのことを聞こうと声をかけようとする。しかし、明らかに様子が変わっている恵を見て、俺は何かあると察する。恵は怯えていた。まるで、会ってはいけないものに会ってしまった、そんな風に。

 そして更に男性医師は言葉をつなげていく。

 

 「いやぁ、こんなところで会うなんて偶然ですねぇ。今日はどうしてこちらに?いつもの研究成果を見せびらかしに来たのでしょうか?それともどこか具合が悪いので?」

 

 まるで彼女を馬鹿にしているかのようなこの男の言葉を聞いていた俺は、たまらず声をかける。

 

 「おいアンタ、さっきから黙って聞いていれば次から次へと・・・。恵に何の用だ?ただ文句を言いに来ただけなら帰ってくれ。」

 

 その言葉を聞いた男は俺に視線を向ける。その視線はどこか、不気味な色を放っていた。

 

 「はい?あなたは一体、彼女とどういうご関係ですかね?私と彼女は『個人的』に親密な関係にあるのですが、その私が彼女と話してはいけない理由があるのですか?」

 

 「個人的に親密」な関係・・・?俺は意味が分からず問い返す。

 

 「それってどういう事だよ。恵は明らかに怖がってんじゃねぇか。親密な関係ならこんな反応はしないと思うが?」

 

 俺がそう言うと、若干40代半ばであろう小太りの男性医師は、不敵な笑みを浮かべて衝撃的な事実を告げてきた。

 

 「私と新橋さんはだね、将来的に婚約することになっているのだよ。」

 

 「―――――!?」

 

 

 俺はその言葉が一瞬理解できなかった。いや、「理解したくなかった」というのが正確かもしれない。この男と恵が、将来的に婚約・・・!?何かの間違いだろう。そうであってほしいと俺は願いつつ、恵に確認を取る。

 

 「め、恵、コイツの言ってることは嘘なんだろ?じゃなきゃ恵がこんなに怯えてるわけ――。」

 

 「・・・・・・・・ごめんなさい。」

 

 俺の願望は、いとも簡単に砕け散ってしまった。どうやら本当のようだ。俺は頭の中が混乱するが、冷静さを保ちつつ状況を整理しようと努める。しかしこの男の声がそれを邪魔してくる。

 

 「はっはっはっはっはぁっ!!!どうですかどうですか!これでご納得いただけましたかねぇ?ご納得いただけたなら早急にお引き取り願いたく―。」

 

 「・・・うるせぇよ。」

 

 「はい?よく聞こえなかったのでもう一度お願いできますかね?」

 

 その言葉で俺は、完全にキレてしまった。

 

 「うるせぇって言ってんだろ!」

 

 そして席を立ちあがり、拳をかざす。

 

 「やめないかね君たち。」

 

 殴りかかったその時、聞き覚えのある声が俺の拳を止めた。

 

 

 俺は動きを止めて、その声のした方を見る。そこには先ほど病室で話していた、両生類に似た顔の医師が立っていた。そして彼が口を開く。

 

 「芝浦くん。まずは座りなさい。そして坂上(さかがみ)先生、君も少しやりすぎではないのかね?彼も彼女も僕の患者だ。仲良く話をするのは結構だが、ちょっかいを出したら承知しないよ?」

 

 俺は椅子に座り、会話を聞くことにした。すると「坂上」と呼ばれた医師はバツが悪そうにしてこう吐き捨てた。

 

 「ちっ・・・、カエル先生、別に私はちょっかいなんてかけていませんとも。ただ単に私の将来の妻と話していただけですよ。何もやましいことなんてありません。では忙しいのでこれで失礼します。」

 

 坂上はそう一気に言うと、そそくさと姿を消した。一瞬だが俺に、明らかに敵意のある視線を向けながら。

 

 それを見送ったカエル先生(暫定的にそう呼ぶことにする。)は、俺と恵を見ると真剣な顔でこう言ってきた。

 

 「二人ともちょっと着いてきてくれるかな。」

 

 

 そして俺と恵はカエル先生の後をついていく。そして通されたのは彼の書斎だった。こんなところに連れてくるということは、恐らく他の人に聞かれたらまずい話なのだろう。カエル先生は静かに口を開く。

 

 「さて、さっきはすまなかったね?何やら坂上先生が新橋くんと話していたようだが、大丈夫かね。」

 

 俺は恵の方を見る。恵は沈鬱な表情で俯いていた。どうやら先ほどの事実を知られてしまったことを後悔しているようだ。カエル先生はそれを見ながらも話を続けた。

 

 「ところで君たちを連れてきたのはほかでもない。新橋くんの能力についての話をしたくてね?まぁそこに腰掛けてくれるかな。」

 

 俺と恵は促されるままにソファに腰掛けて、カエル先生の話に耳を傾ける。

 

 「新橋くんの能力、『集中治療』は本来、人間の体細胞を修復するための能力で、自身のAIM拡散力場で対象の体細胞に干渉し、自然治癒力を限界まで高めることによって傷を癒す。それは君たちも分かっているね?」

 

 俺と恵は頷く。カエル先生は言葉を繋いでいく。

 

 「だがそれは、あくまでも『表の面』に過ぎないことが今しがた分かったんだけどね、新橋くんの能力、『集中治療』は傷を癒す反面、『人間の体細胞を自壊させる事も可能』だということも明らかになったんだね。」

 

 俺はそれを聞き、ショックを受けた。まさかそんなことが可能なのだろうか?いやしかし、恵がそんな使い方をするわけがないと思い直し、恵を見る。恵もまた俺と同じようにショックを受けていたようだった。しかしカエル先生はそんな事実を告げたにも関わらず、軽い口調でこう告げてきた。

 

 「新橋くん、何もショックを受けることは無いんだよ?単純に『そういう使い方もやろうと思えば出来る』と分かっただけで、この能力の使い手は君自身だし、使い方を決めるのも君自身なんだからね?」

 

 恵はそれを聞き、幾分か安心したようだ。俺も納得する。カエル先生はなおも説明を続ける。

 

 「しかし自身のAIM拡散力場をもって、体細胞の生命活動に干渉できるのだから当然と言えば当然なんだね?今までそれに気づかなかったのは、新橋くん自身がこの能力を『傷を癒すためだけ』に使ってきたからなんだが、ということはつまり、新橋くんはいつも通りの能力の使い方をしてさえいれば、この暗黒面は発動しないと言えるだろうね?」

 

 恵は真剣そのものの表情でカエル先生の話を聞いている。俺はなんとなくそれが頼もしく思えた。

 

 「さて、新橋くんの能力に関してはこれで以上なんだがね、芝浦くんはあと少しだけ付き合ってもらえるかな?」

 

 それを聞いた恵は不安そうな顔で俺の方を見てくる。俺は優しく笑いながら恵に答える。

 

 「大丈夫だよ。すぐに終わらせて病室に行くから、だからちょっとだけ待っててくれ。」

 

 俺がそう言うと恵は少しだけ不安な顔をしていたが、席を立つと病室へと戻っていった。それを見送った俺はカエル先生に向き直り、話の続きを聞こうと促す。

 

 「それじゃあここからは、新橋くんと、さっきの坂上先生に関係する話なんだけどね?彼女の能力にも大きくかかわってくる話だから、警備員の君には是非ともそれを知っておいてもらいたいんだが、覚悟はいいかね。」

 

 俺はカエル先生の目を見据えて頷くと、カエル先生は真剣な顔になり重たい口を開いた。

 

 

 「では単刀直入に言おう。新橋くんと、坂上先生の婚約に関する話なんだが―。」




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回でやっとアニメ版「とある科学の超電磁砲」第2話の美琴と黒子がプール掃除をしているシーンから先に進めました。このままだと時間軸が崩壊するんじゃないかとヒヤヒヤしてたのですが、何とかなったので結果オーライですね。そしてなんと、衝撃の事実が判明しましたね。「集中治療」にしても、恵と坂上の関係にしても、芝浦先生の胃に穴が開かないか心配ではありますが、それでも無慈悲にお話は進んでいくのです。はい。
 それから、今回のお話はちょっと長くなりそうなので、2話に分けてお届けしたいと思います。次回はカエル先生から様々な事実を告げられることでしょう。
 そういえばアニメを見返してて気づいたのですが、飾利と涙子は第2話の冒頭で、美琴とすでにセブンスミストに行ってたんですねぇ・・・。そうなるとこの作品の時間軸上では、同じ日に2回セブンスミストに行ってるということに・・・。まぁ一応この作品は芝浦先生視点から描かれるので、問題ないと言えばないのですが、しかし普通にミスりましたね。
 閑話休題、次回「仲間と戦友(なかま)2」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。
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