第7学区、第34警備員出張所の活動記録   作:あきとし

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 皆さんこんにちは。今回は前回からの続きです。
 どうやら今回は、芝浦先生の人生を大きく変える転換点になりそうです。果たしてどうなっていくのか。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


第12話「仲間と戦友(なかま)2」

 ―カエル先生は真剣な顔になり、重たい口を開いた。

 

 「では単刀直入に言おう。新橋くんと、坂上先生の婚約に関する話なんだが―。」

 

 俺は再度告げられる真実に、もう一度向き合う覚悟を決めた。

 

 「―それは事実だよ。確かに新橋くんと坂上先生は、将来的に婚約することになっている。」

 

 真実は変わらなかった。俺は落胆する。しかしカエル先生が次に告げてきたのは、意外なことだった。

 

 「だが、『婚約を結ぶ』ことと『お互いに愛し合っている』ことはまた別問題でね、坂上先生は自分よりも若くてきれいな子を嫁にできるのだから文句はないだろうが、新橋くんとしてはどうなんだろうねぇ。」

 

 それはつまり―。

 

 「それって、恵は坂上のことを好きではない、ということですか?」

 

 俺がカエル先生に問いかけると、カエル先生は頷いた。

 

 「そうなるね。でなければあんな反応はしないだろう。しかし坂上先生はそれに気付いていないか、或いはそう言った反応を見て楽しんでいるかのどちらかだろうね。」

 

 俺はそのことを聞き、怒りに駆られる。しかしカエル先生がそれを制し、言葉を繋いでいく。

 

 「実は、坂上先生と新橋くんは意外なつながりを持っていてね、坂上家は代々、優秀な医師の家系で、新橋家はこれまた優秀な、代々続く研究者の家系なんだね。そして昔から新橋家の娘は坂上家に嫁ぐことが、昔からの両家の習わしとしてあったんだがね、しかしある時からしばらく、新橋家に女の子が生まれない時期があったんだよ。それ以来その習わしは行われなかったんだが、16年前にようやく新橋家に女の子が生まれたんだね。」

 

 そこまで聞けば誰だってわかるだろう。つまり、その16年前に生まれた新橋家の娘は、現坂上家の子息と婚約を結ぶことになる・・・。しかし俺はある疑問を口にする。

 

 「でもカエル先生、その坂上家の子息って、本当にあの男なんですか?普通はもっと若いでしょう。」

 

 しかしカエル先生は、その言葉を受けて小さくため息をついた。そして答える。

 

 「芝浦くん、さっきも言ったけど『坂上家は新橋家の娘を嫁がせる』という義務があるんだね。つまりそれは、『新橋家以外の嫁は作れない』ということにもなるんだね。だから坂上先生は今まで独身で、子供もいないだろう。ようやく新橋くんという娘が生まれて、坂上先生はある意味ではそのプレッシャーから逃れられるとも思っているんだろうね。」

 

 俺はそれを聞き、複雑な気持ちになる。しかし恵の気持ちを考えるならば、そんな古めかしい結婚なんて認めてはダメだ。

 

 「・・・カエル先生、俺はそういうの、間違っていると思います。そりゃあ確かにお互いに愛し合って、幸せな結婚をするなら『古き良き伝統』って言えるでしょうけど、今回のこれは、それとはまるっきり違う。一方的な坂上の求愛行動に過ぎないですよ!」

 

 俺は熱くなり、声を荒げる。それを聞いたカエル先生は自信に満ちた笑顔を俺に向けてくる。

 

 「君なら、そう言ってくれると思っていたよ。」

 

 

 その後もカエル先生から教えられた内容は驚くものばかりだった。まず第一に、この婚約にはおそらく、学園都市統括理事会が関わっているだろうということ。そして坂上の個人的嗜好も含まれているだろうが、その本来の目的は恵の「集中治療」を研究、解析して様々な実験を行うことであり、それの隠れ蓑であるということ。更には新橋家と坂上家の利権問題も絡んでおり、政治的な面でも撤廃するのは難しいだろうということ。

 俺は頭を抱える。問題が大規模すぎて、もはや俺の手には負えないだろうと思えた。俺はカエル先生に懇願する。

 

 「カエル先生・・・。俺は確かに警備員で、恵のことを守ってやりたい。だがな、こいつは俺の手には負えない。それに統括理事会が関わっているんなら、警備員としてそもそも動けなくなる可能性だってあるし、最悪の場合は俺と恵の命に関わるかもしれないんだ。だからお願いだ。俺なんかよりももっと力のある、しっかりと恵を守ってやれる人に頼んでくれ。」

 

 それを聞いたカエル先生は果たして、その頼みを聞き入れてはくれなかった。しかしその後に言われたのは意外な言葉だった。

 

 「芝浦くん、君は何か勘違いしていないかね?何もこの問題全てを君に丸投げしようって言ってるわけじゃないんだ。君にはあくまでも、僕の手伝いをしてほしいだけなんだね。」

 

 カエル先生の・・・手伝い?俺はさらなる理解を深めるべく、カエル先生の言葉に耳を傾け続けた―。

 

 

 「―失礼します。」

 

 俺はカエル先生の書斎のドアを閉じ、そして一息つく。今日聞いたことはじっくりと咀嚼していこう。とりあえず今は、一人で俺のことを待っているであろう恵の元へと戻る。

 

 「何か飲み物でも買っていくかな。」

 

 俺は途中にあった自販機で適当に飲み物を買うことにした。 そしてきなこ練乳とザクロコーラを買い、病室へと向かう。かなり話し込んでしまった。退屈してなければいいが・・・。

 

 

 病室のドアを開ける。

 

 「ごめんよ恵、結構話し込んじゃっ――。」

 

 恵は、『俺の寝ていたベッドの上で、乱れた服のまま何故かうつぶせに寝ていた』。

 

 

 刹那、時が止まる。

 

 

 「・・・・・・・・・えっと―。」

 

 その静寂が破れる。

 

 「ひゃあっ!?!?しっ、しっ、しばっ、芝浦先生っっ!!?!?」

 

 恵はガバッと起き上がると、顔を真っ赤にしてわたわたしながら乱れた服を直していき、それと同時に俺に弁解してくる。

 

 「えっ、えっと、ですね!?これはそのっ、決してやましい気持ちとかではなくてですねっ!?あのその、と、とにかくっ!こっちに来ないでくださいぃ!!!」

 

 よくよく見ると、ベッドのシーツはどうやら濡れている・・・?そして薫ってくる女の子特有の甘い匂い。俺はそれらを見て、まぁよくある思春期のアレなんだなと思い、そしてその場面に遭遇してしまったからには恵がこの反応なのも頷ける。だがしかし、俺はそれらを意識しないようにしつつ恵へと歩み寄る。

 

 「し、芝浦せんせいっ!?あの、えっと・・・。」

 

 恵は俺に怒られると思ったのだろう。固く目をつぶり、体を強張らせる。

 

 ポフッ―。

 

 「・・・へ?」

 

 恵は目を丸くし、俺の顔を見上げてくる。俺は恵の頭をなでていた。恵の高まっている体温が、手のひらを通じて伝わって来る。

 

 「えっと・・・、芝浦、先生?」

 

 「ほれ、これでも飲んでとりあえず落ち着け。」

 

 俺はそう言うと、先ほど買ったきなこ練乳を差し出す。

 

 「あ、ありがとう、ございます・・・。」

 

 恵はまだおどおどしつつも、それを受け取る。そして一口。若干落ち着いたようだ。俺もザクロコーラの栓を開けて喉に流し込む。炭酸の刺激が乾いた喉に心地良い。すると恵が口を開いた。

 

 「あの・・・、芝浦先生、その・・・、怒らないんですか・・・?」

 

 俺はその言葉を聞き、恵と同じベッドサイドに座る。湿ったシーツの感触が伝わってくるが、俺は優しく恵に答える。

 

 「俺が怒る?どうして?何に対して怒るんだ?むしろ謝らなくちゃいけないだろ。恵にとても恥ずかしい思いをさせたんだからさ。」

 

 それを聞くと恵は、若干顔を緩める。俺はなおも続ける。

 

 「まぁあれだ。そういうことができるってのも、元気がある証拠だ。むしろ恵はまだ16歳なんだから、そういうのが無い方が珍しいだろ。大丈夫、これは俺と恵だけの秘密だ。」

 

 そう言って俺は、恵に笑顔を向ける。恵は再び顔を赤くしてはいたものの、俺に視線を向けて柔らかく笑いかけてくる。しかし、俺はそこでちょっと恵をからかってみたくなってしまった。

 

 「でも、そうは言っても『俺の好きな人』の可愛らしい姿を見れたのは、ここ最近続いていた不幸の中の幸せってところかな。」

 

 それを聞き、ようやく顔の熱が引いてきた恵は、『ボッ』と音がしそうな勢いでまた顔を赤くする。そして俺に向かって質問をしてくる。

 

 「し、芝浦先生!?あの、今『俺の好きな人』って言ってましたけど・・・、それってもしかして・・・!?」

 

 うん、期待通りの反応だったけどそこだったのね。

 

 「あー、まぁな。昨日今日と、恵と一緒に過ごしてみて気付いたんだけどな、俺はどうやら君のことが好きになっているらしい。」

 

 俺がそう言うと、恵は顔を手で押さえて頭から湯気を出してしまった。俺はその姿を見て本当に、生きていてよかったと感じていた。そして彼女の肩を抱き寄せ、小さい肩に俺の頭を乗せる。恵はそんな俺の行動にどぎまぎしていたが、やがて彼女の小さな手が俺の頭を撫で始めた。

 そして俺は、彼女の暖かな体温と香りに包まれながら、カエル先生に聞いたことを思い返していた。

 

 

 ――「君には警備員として、新橋くんのボディーガードになってほしいと思っているんだよ。」

 

 カエル先生は俺の目を見てそう言ってきた。なるほど、手伝いってのはこのことらしい。

 

 「ボディーガード、ですか・・・。」

 

 しかし俺は、少なくとも2つの大きな問題を思い出す。一つは彼女の学校が第18学区にある長点上機学園であり、学生寮もそこにあるということ。二つ目はそのおかげで、ボディーガードをするにはとてもではないが警備員の仕事と両立はできないこと、そして彼女の傍にいてやれないことである。

 俺が考え込んでいると、カエル先生はまるでそのことを見越したような感じで俺に話しかけてきた。

 

 「距離的な問題ならこちらで何とかできるんだがね、僕としては一緒に暮らすのが一番だと思うんだが、君としてはどうかね?」

 

 俺は驚いてカエル先生の顔を見る。俺と恵が・・・同居!?いや待て待て、いくらなんでもそれはまずいだろう。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよカエル先生!いくらなんでもそれはまずいです。女学生と男性教師が同じ屋根の下で暮らすだなんて・・・。」

 

 しかしカエル先生はなおも続ける。

 

 「ん?君は警備員なんだし、まさか彼女に手を出すなんて真似はしないだろう?それに、このことを知っている新橋くんの頼れる相手と言ったら、君以外にいないからね。それに君は、誰よりも彼女から信頼されている。だからこそお願いしたいんだが、それでも駄目かね?―それからもし、同居する理由が欲しいなら、いっそ彼女と恋人関係にでもなってしまえば良いと思うがね?どうせ坂上先生から彼女を護るつもりなんだろう?」

 

 最後の方の提案には驚いたが、しかし俺はカエル先生の説得を受け、そして覚悟を決める。

 

 「・・・分かりました。彼女を護って見せます。」

 

 カエル先生はそれを聞き頷くと、席を立った。

 

 「それじゃあ僕は諸々の『手続き』をするから、君たちは直接新しい家に向かってくれるかな。今日の退院予定時刻は16時だから、それまでに帰り支度は済ませておくようにね?」

 

 そして一枚のメモと、切り取られた小さな地図を俺に渡すと書斎の机に向かい、PCをいじり始めた。

 

 

 ―俺は恵に優しく頭を撫でられながら、今日のこの後の予定を考えていた。とりあえず引っ越すことを恵に言わなくてはならないと思い、眼をあける。しかし眼下に広がるは、薄いピンク色と肌色の見え隠れしている病院着だった。どうやら前を閉じておくための紐が、まだ縛られてなかったようだ。俺は恵に声をかける。

 

 「なぁ、恵?」

 

 恵は俺の頭を撫でながら、優しく聞き返してくる。

 

 「ん~?どうしたの芝浦先生?」

 

 「これは教師としてアドバイスするんだが、服はきちんと着た方がいいぞ?」

 

 それを聞いた恵は、自身の体に視線を送る。そして顔を赤くし―。俺の顔は恵の肩に乗ったままで、逃げ場はなかった。彼女の撫でていた手が平手に変わり、目を覚ますような刺激を送ってくる。

 

 「っいってぇ!!!」

 

 「も、もうっ!!芝浦先生の変態っ!!エッチ!!!」

 

 いやエッチなのはお互いさまでは・・・。男というものはつくづく不憫だと、改めて思い知ったのであった。

 

 

 そして退院予定時刻になり、私服に着替えた俺と恵は、お互いに手を繋いで総合エントランスまで下りていく。そして受付で手続きを済ませ、出入口の自動ドアまで向かうとそこには、カエル先生が立っていた。

 

 「やぁ二人とも。退院おめでとう。もっとも、今回は私は何もしていないがね?」

 

 俺と恵はカエル先生に頭を下げる。すると、カエル先生が俺に一台の端末を渡してきた。どうやら携帯電話のようだ。

 

 「その端末には僕の連絡先が入っている。もちろん暗号回線だから盗聴の心配もないはずだ。何かあったらいつでもその番号に掛けてきてくれ。」

 

 俺はカエル先生から受け取った端末をポケットに入れ、そして病院の自動ドアから歩き出した。

 自分にできることを精一杯やろうと、そう心に決めて―。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回はアニメ第2話~第3話にかけての時間軸になりますが、やはり坂上と恵の婚約は様々な思惑が絡んでいるみたいですね。そしてなんと、芝浦先生と恵は同居することに・・・!?これはナニかありますよナニかが。
 さらにはあの男が例の事件にも深く関わってくるかもしれません。果たして芝浦先生はいろんな意味で、無事に恵のボディーガードを務めることができるのでしょうか。ご期待ください。
 次回、第13話「始まることと始まってしまったこと」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.12.07追記
細かい部分の修正を行いました。
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